応仁記47

− 洛中大焼けの事・その2 − 

 また、門跡(もんぜき。皇族・貴族などが出家して入室している特定の寺格の寺院をいう)を見てみると、まず仁和寺の四十九院、大覚寺の諸院と三宝院は東寺長者の門家である。「中にも御室御所作り、双びの丘を木密として、池の見越しの比叡山、流れの末の雪山を問わば、木寺の宮の華送る、嵐に雪の瀧波、いやしくも思いいづる経正の、住み飽かざりし宮の中」と詠まれたのもことわりであった。

 山門(延暦寺)の諸院家は梶井の御所、青蓮院、妙法院をはじめとして、安居院、石泉院、毘沙門堂、尊勝院、法輪院、定法院、どれも閣を上げて、中でも梶井の宮造りは船岡山の瀧頭に東尾から行松の雲にそびえ、御池には常に鴛鴦(おしどり)や鴨が群れて、近江の湖水と見まがうばかりであった。場所も名に負う花盛り、雲の林の宮どころ、雲井の春にも劣らない。

 また、三井(園城寺)の御門徒では円満院、聖護院、華頂、若王子、吉田、霊山、近衛坂。中でも華頂山は韓の金花山を移して、峰にも尾根にも雲の端がかかり夕日影、甍には花が照り映えて、風が吹いてもいないのに散る花嵐も花の香にけむるようであった。

 円頓院の眺望は、前は遠い鄙(ひな)の行客が行き交う都路で、知るも知らぬも逢坂や行くも帰るも家束に、花をかざさぬ袖も無い。

 次に諸宗の寺々をあげると、まず、相国寺の広大なのからも推し量ることができよう。近年造営された十三塔頭を一か所に集めても、昔の塔頭ひとつの費用に比べれば百分の一ほどであろう。祇園精舎(須達(すだつ)長者が舎衛国(しゃえこく)の祇陀太子(ぎだたいし)の庭園の中に、釈迦のために建立した寺院)や摩尼宝殿(天上世界の摩尼珠で飾られた宮殿。兜率天、他化自在天などにある宮殿)も、これには及ばないと思われた。

 また、洛中の藍舎では、安居寺に広覚寺、五辻に景愛寺、千本に両歓喜寺。この寺には定家の葛の墓がある。一条大宮に円弘寺、仏心寺。この寺は、賀茂のいつきであった。朝顔の墳がある。堀川に雲の寺、一条の道場、東北院。ここは上東門院のいらっしゃる寺なので、和泉式部の軒端の梅がある。

 河崎、秋野、浄華院、大炊の道場、南御所、等持寺、四条安国寺、通玄寺、安禅寺、入江殿、麓道場八講堂。大宮に三箇寺、悲田院、安楽光院、長講堂、亭子院の河原院。この寺は、昔、融の大臣が血鹿の塩竃を移された旧跡である。

南禅院 東山南禅寺の五十か所の塔頭は、星を並べたかのようであった。亀山法皇の御建立で毘盧頂上の寺なので、肩をならべる宗派も無かった。塔頭の慈氏院(南禅寺の塔頭のひとつ)には十刹でも及ばない。

 写真は、南禅寺の塔頭、南禅院。
 文永元年
(1264)、亀山天皇がこの地に離宮禅林寺殿を営んだ。正応二年(1289)、離宮で出家して法皇となり、正応四年(1291)には離宮を禅寺として大明国師を開山とした。写真手前の庭園は、離宮当時の遺構を用いていると言われる。
 建物も初めは離宮の遺構であったが、明徳四年
(1393)の火災で焼失し、北山御所の寝殿を賜って再興された。しかし、応仁の乱で再び焼失した。現在の建物は、徳川綱吉の母、桂昌院の寄進によって元禄十六年(1703)に再建されたもの。

 東岩倉元応寺。この寺は、後醍醐院の御手になる錦の簀(す。すだれ、たれすのこと)を持っており、土壇を築いて建てられている。

 また、法勝寺は代々皇居の寺であり、普通の伽藍とは違って今も離宮が残っている。

 中山の観音、岡崎の文殊、両岡崎、新黒谷善法寺、鹿ヶ谷禅林寺。粟田口には善勝寺、慈生寺、太子堂、白毫院、常在光院、長楽寺、光堂、朱徳院。雲孤寺は、奈良半仏尊の像雲を穿つ大伽藍。鷲尾ならびに金仙院、観照寺。下川原坂面には北斗堂、七院、六道興善院、玉蟾寺、小松谷殿等光寺。

 今熊野には三所の宮。十二所権現の透廊に神楽若女を並べていた。

 また、泉涌寺は仏殿にも劣らない十六観堂がある。毘沙門谷に梅ノ坊。たくさんの梅を植え、山をつくっていろいろに谷や峰を通していた。

 左女牛の八幡。内野では神祇官、大内を残す官庁。真言院は天下の大事の祈祷所である。

 都の西には谷ノ堂、峯ノ堂、西芳寺、法輪寺。また、嵯峨にある四十八院の寺の中でも天龍寺は五山の棟梁だったため、これが本寺として用いられていた。また、臨川寺の水車は回ることもなくなり果てて、昔の嵯峨の旧跡は草深い野となってしまった。

 万年にわたって栄えると思われた花の都が、図らずも今、狐狼の住む地となってしまった。わずかに残っていた東寺北野さえ灰土となり、昔も治乱興亡の習いがあるとはいえ、応仁の一変に仏法王法がともに破滅し、諸宗がみなことごとく絶え果ててしまったのを嘆いて、飯尾彦六左衛門尉(常房)が一首の歌を読んだ。

(なれ)や知る都は野辺の夕雲雀 あがるを見ても落ちる涙は


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