中編/NOA 鍵(18+)


第9話(最終回)アップ



本編はフィクションです




第1話

オレ(NOA・30歳)はその夜、ひどく酔っていた。
今月末に会社を退職する先輩の送別会に参加した後、二次会、三次会とハシゴをして酩酊してしまっていたのかも知れない。
それでも最終電車を降りてから、結婚して3年目の妻が待つ自宅のマンションへふらつきながら歩いたことはしっかりと記憶している。
ただ徒歩10分がやけに長く感じたのは、酒のせいだろう。

マンションのエントランスホールから、オレはいつものようにエレベーターに乗った。
ボタンを押す。
14階建ての8階がオレの家だ。
今夜送別会で帰宅が遅くなるかも知れない、と妻には言ってあるから、たぶん先に眠っているだろう。
夫の帰りをいつまでも寝ないで待つ妻も世間にはいるが、オレは「帰宅が遅い時は先に休んでてくれ」と常々言っている。

(ウィ〜ン・・・)

静かな夜更けにエレベーターの作動する音だけが響く。

(ガタン)

着いた。
オレはエレベーターから降りて、北側に面する長い片廊下を歩いた。
手前から3軒目にオレの家がある。

オレはおもむろに鞄から鍵を取り出した。
鞄の中でも判りやすいようにキーホルダーを着けてある。
オレには不似合いなサン○オのキャラクターだ。
少し恥ずかしくもあるが、妻からもらったものだから文句も言わずに使ってる。
鍵穴にキーを差し込んだ。

(カチャ・・・)

鍵が開いた。
オレは妻を起こすまいと思い、静かに玄関ドアを開いた。
中は真っ暗だ。
オレは扉を閉め、そっと足を忍ばせ玄関に入った。
暗くても勝手の分かったオレの家だ。
紐靴だが面倒なので、そのまま紐を解かずに脱ぎ捨てた。
酒が入ると細かな動作がつい億劫になってしまう。

廊下の灯りを点けないでそのまま妻のいる部屋へと足を忍ばせた。
オレの家は2LDKで、妻とオレでそれぞれ1室づつ使っている。
ただダブルベッドだけはオレの部屋に置いてあるので、寝る時はいつも妻がオレのところにやって来る。
灯りも消えているようだし、もうスヤスヤと夢の中なのだろう。
オレはそっとドアを開けて、音を立てないようにしながら部屋に入っていった。


第2話

酔いがかなり廻っていたせいもあって、オレは無意識のうちに衣服を脱ぎ散らかしていた。

(ふう・・・ちょっと飲み過ぎたなあ・・・)

いつもなら、少々飲んだくれてもシャワーだけは浴びてから寝るのだが、その夜はシャワーすら面倒に思えた。
とにかく早く横になりたい。
オレはいつものようにパンツ1枚になると、妻の眠っているベッドの中にもぐり込んだ。

(はぁ・・・やはりチャンポンは良くないみたいだなあ・・・。
ビールと焼酎をたらふく飲んで、その後、二次会でブランデーをかなりやってしまった・・・)

オレは反省をしながら、目を閉じて眠りの途に就こうとした。
すると、妻がごそごそと動き出し、パタンとオレの方に寝返りを打った。
オレがベッドにもぐり込んだために、深い眠りが解けてしまったのかも知れない。
オレは妻を起こしてはならないと思い、再び、目を閉じた。

ところがまたもや妻が蠢き、手がオレの肩に絡まってきた。

(おいおい、オレは今日は飲み過ぎたし、その気はないぞぉ・・・)

と、心の中で呟きはしたものの、まさか妻の手をはねのける訳にも行かず、妻のするがままに任せることにした。

すると妻の手に力がこもり、オレをギュッと抱きしめたと思うと、オレの胸にしがみついて来た。
妻の頭がちょうどオレのあごの下辺りに来ている。

(ん・・・?)

その時オレは妻に、いつもと違う何かを感じた。
それは香りであった。
シャンプーを変えたのかも知れない。
あるいは化粧水を変えたのかも知れない。
と、オレはさほど気にはしなかった。

就寝時その気が無くても、愛する妻にベッドの中で甘えられると、男たるもの、だんだんとその気になって来るものだ。
愛して欲しいのと無言でオレの胸に頬擦りをし、唇を這わせてくる妻を、オレは抱き返し、ふくよかな乳房をまさぐった。

たわわに実った果実のような乳房が心地よい。
ただ、奇妙なことにいつもより大きく感じたが、気のせいだろうと、オレは意に介さなかった。
乳房を愛撫すると、妻の気持ち良さそうな吐息が聞こえてきた。

(あぁ・・・・・・)

(ん・・・・・・?・・・・・・うぬっ!?)


第3話

(あぁ〜・・・・・・)

(えっ!?まさか・・・)

微かに感じた違和感が次第に大きく膨らんでいった。
いつもとは違う妻の感触・・・いや、この感触は妻ではない。
オレは目の玉が飛び出そうなぐらいに驚愕した。

(この女は一体誰なんだぁ・・・)

妻ではないと悟っても、オレは素知らぬ態度でそのまま乳房への愛撫を続けた。
女はオレの指に愛されて、淫らな喘ぎ声を惜しみなく漏らした。

(どうしてオレと妻のベッドにこの女がいるのだ・・・もしかしたら、オレは夢を見ているのかも?)

オレは頬をつねってみた。
痛い。
どうも夢ではなさそうだ。
オレは今、妻ではない見知らぬ女を抱こうとしている。
もしかしてオレは奇妙な世界にでも迷い込んだのか。
いや、それは考えられない。

オレは女の乳房にむしゃぶりついた。
たわわに実った乳房がオレを欲情させていく。
時折漂う女の艶めかしい香りも、妻のそれとはやはり違う。
オレは躊躇することは無かった。
欲望は好奇心に煽られ、さらに拍車が掛かっていく。

オレは乳首を舐め回しながら、空いた手で、ネグリジェの中をまさぐった。
すべすべとした肌がオレの指に反応する。

オレは無性に女のくちびるが吸いたくなった。
女の背中に手を回し、強く抱き寄せくちびるを奪った。

(チュッ・・・)

女はオレを拒むことはなく、むしろ強く吸い返してきた。
女の口唇から伝わってくる熱気がオレの脳髄を痺れさせていく。

(チュッ・・・)
(チュチュッ・・・)

舌を差し込んでみた。
ねっとりとした感触がオレにまといつく。
女は舌を蠢かしながら、オレの舌に応えようとしている。
軟体動物のようなものがオレの口内に入って来た。
かなり積極的な女のようだ。
いつも受身が多い妻の行動とはかなり違う。

オレは女の口唇を合わせたまま、もう一度ネグリジェの中へ手を滑らせ腹部をまさぐった。
へその下方をしばらくの間撫でていた指が、さらに下方へと向かい、パンティの中へと滑り込んでいった。

繁みが指に触れた時、女は微かな声を発した。

「だめぇ・・・」


第4話

女の蜜壷はもうぐっしょり濡れていた。
オレは少し強引に指をこじ入れかき回してみた。
女は即座に反応した。

「あっ・・・あっ・・・あああ〜っ・・・」

それにしても、一体どうなってるんだ。
オレが抱いているこの女は誰なんだ。
そして妻はどこに消えてしまったのだ。
オレは不安に苛まれながらも、愛撫する指を止めはしなかった。

「ああっ、そこいい、そこいい、あぁん、もっと〜もっと〜」

女は蜜壷をかき回されて、もうとろとろになっているようだ。
女はオレにしがみついて来た。
それにしてもこの見知らぬ女はオレのことをNOAと分かっているのだろうか。

女は態勢を変えて、オレのモノにしゃぶりついて来た。
正直いってオレのモノは今そんなに硬くはなっていない。
不安と戸惑いがオレを没頭というシチュエーションから少し遠ざけていたのだ。
しかしそれは女がオレを咥える直前までのことだった。
女の舌技は実に巧妙だった。
ピチャピチャと嫌らしい音が聞こえてくる。

「うっ・・・」

オレのモノはたちまち硬直してしまった。

女はかすれた声で囁いた。

「入れて・・・」

オレは肯いた。

だが暗い部屋だから、オレの仕草はおそらく見えないだろう。
オレは女の身体と重ね合わせた。
女は下半身を覆う布切れを自ら取り去っていた。

(この女は完全にその気になっている・・・)

僅かな良心の呵責。
微かな躊躇い。
それらは燃え上がるような激しい欲情を抑えるには、何の役目も果たさなかった。

オレのいきり立ったモノは女を貫いた。

(グニュ・・・)

「あっ・・・」
「うっ・・・」
(ズズズン、ズズズン、ズズズズズン・・・)
「あああああ〜〜〜・・・ああっ、すごいっ・・・あ・・・あぁぁぁ・・・大きい・・・あああああ〜〜〜・・・」

(ズンズンズンズン、ズンズンズンズン)

「はぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜あああああああ〜〜〜〜〜」

(ズンズンズンズン、ズンズンズンズン)

「いやぁぁぁぁぁ〜〜〜ん・・・ふはぁぁぁぁ〜〜〜〜〜・・・あぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」

怒張したものは亀裂に食い込みリズミカルに律動を始めた。


第5話

蜜壷がしっかりとオレを咥え込み、ギュッギュッと締め付けてくる。
かなり膣圧の強い女だ。
まるで単体の生き物が蠢動しているかのようだ。
オレは絡みつく襞をさらに押し分け、グイグイと捻じ込んでいく。
抱えた女の両脚を、なおも女の顔寄りに持ち上げ海老のように屈曲させた。
そして突きまくる。
反り返った竿で深く抉る。

(ズッコンズッコンズッコンズッコン!)

「ひゃあああああああ〜〜〜・・・ふふぁあああああ〜〜〜〜〜・・・あああああああ〜〜〜〜〜」
「はぁはぁはぁはぁはぁ〜」

狭い隙間からは蜜が洪水のように溢れ出し、十分過ぎるほどの潤滑油の役目を果たしていた。

「ああ、いい、いい〜、すごくいい〜・・・はぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」

今にも泣き出しそうな切ない声がオレを一層奮い立たせる。
女のアノ声というものは、男にとっては最高の媚薬なのだ。
オレのイチブツは女の中でひときわ大きく羽ばたいた。

上から女を押しつぶすような格好で、女を激しく攻め立てる。

(ズッチョンズッチョンズッチョンズッチョン!)

「はああああああ〜〜〜すご〜〜〜〜ぃ〜〜〜〜!ひゃあああああああ〜〜〜〜〜〜!」
「はぁはぁはぁはぁはぁ、はぁはぁはぁはぁはぁ〜」
「もっと〜もっと〜もっとめちゃめちゃにしてぇ〜〜〜」
「はぁはぁはぁはぁはぁ〜」

オレは突きたてたものを旋回させた。

(グリングリングリングリングリン〜)

「ああっ!すご〜〜〜〜〜ぉ〜〜〜!あぁ!いい〜〜〜〜ぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜!」

(グリュングリュングリュングリュン〜)

「ふはぁああああああ〜〜〜、はぁああああああ〜〜〜」

長時間屈曲位で攻め続けると、さすがに女もきついのか、体位を変えて欲しいとオレにせがんできた。
オレは女を裏向きにさせ、バックから攻めることにした。
女は肘をベッドにつけ、尻をオレの方に向けてきた。
オレは数回尻を撫でてやり、おもむろに挿入を再開した。

(ズニュ、ズズズ、ズン・・・)

狭い肉の狭間にいきり立ったモノを沈めた。

「あっ・・・」

(ズン、ズン、ズン、ズン、ズン・・・)

初めは媚肉の感触を愉しむかのように、ゆっくりと腰を動かしてみた。
奥まで挿し込んだ状態でしばらく止めて、旋回させて奥をかき回してみる。
襞がオレに擦られてピクピクしている。


第6話

おそらく子宮口まで達しているのだろう。
突き当たりの箇所を矛先(ほこさき)でグニグニと擦ると、女は堪らなくなって来たのか、泣き出しそうな声で喘ぎだした。

オレは密かに心の中で妻と比較していた。
明らかに違う肉の絡み具合、そして喘ぎ声。
人は十人十色というが、顔や姿が異なるようにアソコの具合もかなり違うものだと実感した。
その時既に酔いから冷めていたから、そんな細部まで観察できたのかも知れない。

オレはリズミカルに腰を動かした。
女の尻とぶつかるたびに、いささか滑稽ともいえる空気の圧縮音が聞こえてきた。
だが笑うわけには行かない。
オレも女も営みに関して真剣なのだから。

オレの額から滲み出した汗が女の背中にポタリと落ちた。
女はそれに気づいていない。
オレは手で背中に落ちた汗を拭ってやった。
その間、腰の律動が少し緩んだが、拭った後、女の腰をもう一度抱え、さらに強く突き込んだ。

「あっ・・・あっ・・・ああっ・・・いいわぁ〜・・・ああっ・・・はぁ〜・・・あああああ〜〜〜・・・」

(ズンズンズンズン、ズンズンズンズン)

艶やかな音色を聞いているうちに、オレの堤防が満水状態になっていた。
決壊近し!
オレは忙しく腰を動かした。
女も感極まってきたのか、髪を振り乱し腰を激しく振る。
嗚咽とも取れるようななまめかしい声がオレの耳をつんざく。

「あああ〜〜いいわぁ〜〜〜、いやぁん、もっと〜もっと〜 もっと激しく突いて〜!もっとめちゃくちゃにしてぇ〜〜〜!」

(ビクンッ!)

魚が跳ね上がるような感覚がオレを襲った。

(うっ!!)

(ピュッ!ズッピュ〜〜〜〜〜ン!ドボドボドボドボ〜)

「ううっ・・・!」
「ああああああ〜〜〜!いやあああああああ〜〜〜ん!はああああああ〜〜〜〜〜」

魚が跳ねるのを合図に、堤防はもろくも崩れていった。


第7話

見知らぬ女の中でオレは果ててしまった。
オレのものが注ぎ込まれても、女はそれを拒むどころか、むしろ満足そうに受け入れてくれた。
さらに、終わった後も甘美な余韻を愉しんでいるかのように思われた。

女はオレに唇を合わせてきた。
オレは応えた。
まだ火照りの冷めない女の身体を抱きしめ、背中や腰をやさしく撫でてやった。
満ち足りた至福のひとときがオレと女を包み込む。
熱い吐息が、オレの胸にかかった。
女は恍惚の丘をゆるやかに下っていく。
男のそれよりもずっとスローに。
女はオレの胸の中で、ポツリとつぶやいた。

「すごくよかった・・・」
「オレもさ・・・」

まるで既知の恋人同士のような会話。
だがそれも、女の漏らした次の一言が、オレを現実の世界へと連れ戻した。

「ところで」
「うん?」
「あなた、誰なの?」
「えっ・・・!?」
「確か玄関の鍵を掛けたはずなのに、あなたは入って来た。一体どうなっているの?」
「そ、そんなっ!だ、だって、ここはオ、オレの家なんだよ〜!オレは鍵を持ってるんだし、そりゃ部屋に入るさ〜!君こそどうしてオレの部屋にいるんだよ!」
「えええ〜〜〜っ!?うそっ!何を言ってるのよ〜!ここは私の家よ〜。先月、賃貸契約を結んでここに入居したのよ〜!」
「ま、まさか・・・」
「あなた一体誰なの?もしかして夜這いの常習犯?うふ、気持ちは良かったけどさ〜」
「夜這いってそんな失礼な!」
「失礼なのはあなたの方よ!」

オレは間違いなく鍵を開けて自分の部屋に入った。
ところが、今ここにいる見知らぬ女は、この部屋が自分の部屋だと主張する。
まるでキツネにつままれたような話ではないか。

次の瞬間、オレはあるひとつの事が閃いた。

(ま、まさか・・・でも、それはないだろう・・・)

オレは少しびくつきながら女に尋ねてみた。

「ここ、803号室だよね?」
「何を言ってるのよ〜。ここは903号室よ」


第8話

「ええ〜っ!?ほんとに!?」
「ということは、もしかしてあなたは803の居住者なの!?」

何ということだろうか。
オレが鍵を開けて入ったのは、オレの部屋ではなく1フロア上の903号室だったのだ。

「でもオレの持ってる鍵で開いたんだよ!」
「そんなこと私に言われても、私は知らないわよ!」

それもそうだ。
この見知らぬ女の責任ではない。
前の居住者が退去した後、家主が鍵を取り替える際に、何らかの手違いが生じて、偶然一致する鍵を取り付けてしまったのだろう。
これは明日家主に厳重に文句を言わなくてはならない。
しかし、ちょっと待てよ。
この件が家主に伝わると、事の一部始終がばれてしまうかも知れない。
不法目的ではないとはいっても、オレが見知らぬ家に【不法侵入】してしまったことには違いない。
しかもそこの住人である1人暮らしの女性を、まるで夜這いをするかのように抱いてしまったのだ。
もしも訴えられでもすれば、大変なことになりそうだ。
【住居侵入罪】に加えて【強姦罪】で訴えられるかも知れない。
しかも妻にも分かってしまうだろうし。
そうなればオレは一巻の終わりだ。

そんなことを考えているうちに、額にじっとりと汗が滲み出してきた。
宵に飲んだ酒もすっかりと冷めてしまって完全に素面を取り戻していた。

とにかくここは謝っておくしかないだろう。

「ごめんなさい。オレ、自分の部屋に入ったつもりだったんです。鍵もピッタリと合ったし。で、妻が寝ていると思ってついやっちゃったんです・・・。本当に許してください」

オレは恥も外聞もなく、正座をして目前の女に頭を下げた。
すると意外なことに、女は笑い出した。

「いいよ、もう。謝らなくても」
「・・・?」
「だって、すごく良かったんだもの」
「え?・・・・・・あはは、そうなの?」

女のその一言にオレは溜飲を下げる思いがした。

「心配しなくても誰にも言わないわよ。でもひとつだけお願いがあるの」
「お願い・・・って?」
「月に一度でいいから、またこうして忍んで来てくださる?」 「ええっ・・・?」
「いいえ、無理にとは言わないわ。あなたにその気があればってことで。もちろんこの事はふたりだけの秘密にしておくから」
「うん、わかった・・・」

オレは後先を考えないで、女の要求をとりあえず飲むことにした。
今は女に対し従順になる方がベターなのだから。

オレはバツの悪さもあったので、直ぐに服を着て、できるだけ早く退散する事にした。
玄関ドアを開けて外に出ると、幸いな事に廊下には人影はなかった。
オレは逃げるようにして、自分の部屋に帰っていった。


第9話(最終回)

オレは妻を起こさないように足音を忍ばせて部屋に入っていった。
幸い妻はぐっすりと深い眠りに就いているようだ。
オレはそっと妻の横に滑り込んだ。

寝床に就いたオレの頭の中を先程のことが駆け巡る。
眠ろうとしてもなかなか寝つけない。
まるでキツネに抓まれたような話だが、まぎれも無い事実だ。
同じマンションで上下階の鍵が一致するなんてあり得ない事だ。
いや、あってはいけないことだ。
どのようないきさつからこんな事になってしまったのだろうか。
やはりマンションの管理人に事情を話してシリンダごと取替えさせるべきではないだろうか。
しかしそうなると妻に先程の事件を勘ぐられる惧れがある。
ここは何も無かったかのように過ごすのが無難かも知れない。

酒の酔いなどすっかり醒めて、素の頭であれこれと考え込み、ついに明け方まで眠ることができなかった。


「昨夜かなり遅かったわね」

(ギクッ)

妻からそんな言葉が飛び出した時、オレは飲みかけのコーヒーをこぼしそうになった。

「うん、送別会の後、数軒ハシゴしてしまってねえ」
「付き合いも大変ねえ」
「うん・・・あぁ、飲み過ぎて・・・頭が痛い・・・」
「あ、だいじょうぶ?何か薬飲む?」

オレは妻から手渡された錠剤が何なのか聞きもしないで口に放り込み、水を1杯グイと飲んだ後、そそくさと家を出て行った。

エレベーターに乗り1階まで降りる。
もしかして昨夜の女と乗合わすのではないか、などと思ったが女の姿は無かった。
エレベーターを降り、共用玄関から道路に出ようとしたその瞬間、女の声が聴こえてきた。

「おはようございます」
「?」

オレは声のする方に目を向けた。
そこに立っていたのはビニール袋を手にした1人の女だった。
おそらくゴミ置き場にゴミを捨てに来たのだろう。
暗がりだったためはっきりと見えなかったが、どうも昨夜の女らしい。
向こうはオレの顔を覚えているようだ。
オレは心の動揺を隠せなかったが、あえて自然な表情をつくろいながら、ごくふつうに挨拶をした。

「おはようございます・・・」

女は微笑を浮かべている。

オレがその場から立ち去ろうとした時、女はもう一声かけて来た。

「行ってらっしゃい・・・」
「・・・・・・」

オレはドキッとしたが、軽く会釈を返し、急ぎ足で駅に向かって行った。


(完)











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