不二子24歳 〜蝶の鱗粉〜 |
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第1話 玄関の鍵を開けようとノブに手をかけると、生暖かい風がノースリーブからでた腕を静かに撫ぜていく。 急いで自分のマンションの中に入り鍵をかけた。 誰もいないワンルームの部屋は静まり返っており、鍵の金属音と自分のヒールの音のみが響いている。 私はヒールの靴をはいたまま玄関の壁にもたれかかりそのまま地べたに座り込んだ。 ミニのタイトスカートがまくれあがり床のヒンヤリとした冷たさがパンストを通して一番敏感な部分に伝わってきた。 誰も、今の私を見ていない…私が何をしようと私の自由なんだわ… 朝の9時から夕方の5時30分までの張り詰めたオフィスの中での人形のような拘束時間。 絶えず互いが他人の行動に目を光らせあう息苦しい箱の中の生活… 電気をつけていない部屋に月の光が薄明かりを照らし、ビデオや電話のデジタルディスプレイが黄緑色に光っている。 私は天井を見上げ一日の束縛からの開放感で体が下へ下へと沈んでいく感覚に陥りながら、自分のあそこが熱くなるのを感じた。 その瞬間部屋に駆け上がり受話器をとり自分の心臓の音を聞きながらプッシュホンを押した。 「プルルルルルー…」 「はい…Kエージェンシーです」 感情のない無機質な女性の声が受話器の向こうから聞こえてきた。 「今日、今からお願いします…」私も至って事務的に言った。 「プランは…?」 「SMのMをお願い」 「Mですね、ご指名の方は?」 「ないわ、30代後半の男にして…ソフトよ」 「はい、では少々お待ちください……」 静かにサティのジムノペティが流れている。 このクラブはどんな要望にもこたえる大人の秘密クラブだった。 客の秘密厳守を徹底しており、顧客に財界、芸能人も多い。 私はある知人にひょんなことからこのクラブを紹介された。 オフィスは表向き19世紀末のヨーロッパの芸術家を中心に集められた画廊風のサロンになっている。 「お待たせいたした。では手配いたします。1時間後にうかがわせて頂きます。有り難うございました」 場所は都内でも有数のSM専用のホテルだ。 薄紫の壁紙に黒のレースが惜しみなく使われている淫靡な部屋だ。 私は部屋の電気もつけずパンストを脱ぎすて自分に考える余地を与えずバスルームへと向かった… 第2話 胸の動悸が聞こえてくる。不安?恐怖?期待? どれも違う。自分が自分でない、もう独りの自分を遠くからみている妙な感覚のなかで興奮している自分がいた。 鮮烈な色彩を帯びた蝶の、優雅な羽ばたきを息を凝らしがらみてるようだ。 シャワーを浴び終えた肌にキツメの香水を吹きかけ、わざと清楚なワンピースに袖を通し、急ぎ足で部屋を出て、これから繰り広げられる別世界へ向かった…… 金曜日の夜とあって、山の手線の品川駅はこれから遊びに行く子達と、会社帰りに一杯やって盛りあがっているサラリーマンでごった返していた。 私は駅のホームで電車を待ちながら、ぼんやりと人の群れを見ていた。 行き交う風景はテレビの中の映像のようによそよそしく他人事だった。 南国チックの色鮮やかな服に小麦色の肌が眩しく、アニマル系の帽子をかぶりヒールのサンダルで足元危なげに通り過ぎていく無邪気な女の子たち… ふと、自分を見ると、真白な肌がやけに生なましかった。 鏡にはベージュのサンダルにベージュのワンピース、胸まで伸びたブラウンの髪…普段の化粧とは正反対のナチュラルメイク。 日常からすでに普段の私ではない、無垢で従順そうな表情だった。 酔っ払いの男の視線にあうと何故かうつむき胸の高鳴りを覚え下半身が熱くなっていく… これから私は、自分の意志なんか認められない征服される身になるのだ。 普段の私とは正反対の…従順な下部になって男の足元にひざまづく… そう思うと体の芯から今まで眠っていた自分の性欲がむき出しに沸き上がってくるようだった。 新宿の駅からタクシーで10分ほど行くと、待ち合わせのホテルに到着した。 このホテルは人と絶対に顔を合わせる事のないよう、人がロビーに入ると次ぎの人は入れない仕組みになっている。 玄関を入ると歩くたびにサンダルがふかふかと沈んでいくようなサーモンピンクの絨毯が敷き詰めてある20畳程のロビー。 間接照明の薄ぐらい明かりの下に大理石風のテラステーブルにネコアシの椅子が二脚。 隅の大きな花瓶には20本ほどのカサブランカが活けてあり、真白な花びらは誇らしげに思い思いの方を向きながら、一つの瓶におさめられていた。 顔の見えないフロントの小窓へ部屋番号を言いエレベーターに乗り7階で降りた。 光の入らないホテル独特の空調のきいたむわっとする重厚な空気が漂っている。 第3話 所々の壁にシェルのライトがともされるサーモンピンクの絨毯の廊下の一番つきあたりにその部屋はあった。 別名「水霊の間」と呼ばれている部屋だ。 「713」の点滅するライトを見つめながら一歩一歩進んでいった。 ノブに手をかけ一気に開け伏し目がちに部屋へ入りドアを閉めた。 30畳ほどの部屋は一面うす紫でまとめられており、一方の壁には私の2倍ほどの大きな鏡、その前には皮張りの肘掛けの付いた椅子、奥の方には黒いレースがかかっており、その向こうには病院の診療台のようなベットがあった。 その隣にはガラス張りのバスルーム。 ざっと見たところでも、椅子は5つほどある。 また天井から釣り下げられた細い鎖が鈍く光っている。 ドアの正面のソファーに男がタバコをゆっくりとふかしながら座っていた。 私は恐る恐るその男を見据えると、又男も私の方を見た。 小さ目にショパンの神経質なピアノが流れている。 色の黒めな目鼻立ちのはっきりした体育会系の体つきだ。 パンツに糊のきいたシャツを着ている。 ようやく男が口を開いた。 「そのスカートを腰のところまでめくるのだ…」 低い声で男がゆっくりといった。 私は3人かけのソファーに悠々と腰掛けている男の顔を見つめながら入り口のところで立ちすくんでいた。 小説で読むポルノの中に自分がいきなり入り込んだ様でどうして良いのか?わからない…といった戸惑いの気持ちで一杯だった。 頭の中がしびれている… 自分の目の前にいる男は私にとって、普通の男にすぎなかった。 自分とこの男の関係は、服従でも征服でもなく初めての男との初対面にすぎなかった… 男は「なるほど」と事の理解した顔をし、タバコをもみ消しながら手招きして、自分の座っているソファーの向かいのイスに座るよう手で合図した。 天井から釣り下げられたシャンデリアの明かりは薄く暗く壁の薄紫色が眩しかった。 私は言われたとおり彼の方へ向かって行った。 一歩一歩、まるで夢の中で歩いているようだ。 服を着ているのに、裸でいるような感覚だ。 歩くたびに自分の乳首と下半身がさらけだされているような… シルバー色の大きな独り掛けソファーに腰を深ぶかと下ろした。 男はいつもまるで私と何度もあっているかのように平然とし、テーブルにあったブランデーと自分の持っていたタバコを勧めた。 第4話 私は勧められるままにブランデーを飲み、タバコに火を点けた。 喉もとを熱いアルコールが通り過ぎると、先ほどのこわばった体から、力が抜けていく… 「SMってね、縛ったり叩いたりするだけじゃないんだよ。本当の目的は、君の心の中にある純粋な性欲を引き出すものだよ。つまりは君を解放してあげるということだよ…本当の君をね。君はまだ調教されていないようだから、僕がじっくり調教してやろう…」 男は優しい中にも強い力を感じさせる口調で言った。 私は、アルコールの回り始めた中でその男を眩しく、また、未知の世界の水先案内人のように愛しくみつめていた。 「僕はカズトだ。」 『「カズトさんの言われた通りにいたします。私は貴方の奴隷です。どうか私を可愛がってください」と、いってごらん 』 私は言われた通りにその言葉を繰り返した。 ゆっくりと、男の言葉を繰り返しながら、体の細胞から今まで詰まっていたものが流れ出し太股の付け根が熱く熱く湿っていく… 「さあ、立って、スカートを腰までめくって」 私は操り人形の様にその男に言われた通り立ちあがって、スカートを掴みゆっくりと胸のあたりまで捲り上げた。 男はうっすらと笑いを浮かべどこから持っていたのか、細いロープを右手に持ちながら、立ちあがった… 男は右手に細いロープを持ち、彼の前でスカートを胸まで捲り上げ、言われた通りに立ちつくしている私の方へやってきた。 遠くの方でサティ「3つのジムノペティ」の2番目「ゆっくりと悲しげに」へ移っていった。 3/4拍子で進んでいく中世のエオリア旋法の独特な和音は、ギリシャ壷のデザインにインスピレーションを受けて創られたメロディ… メランコリックな気だるい開放感がこの部屋を取り巻いていた。 彼は私の太股の辺りへ軽く膝をいれ、すばやく左手でパンティの上から私の熱くなった陰部に軽く触れ皮肉ぎみにニヤリと笑い言った。 「シャネルの『COCO』をつけているね。そんな安っぽい小道具は必要ない…感じたふりをして出すおかしな声もだ…そんなものは不要だ。」 男は私の後ろへ手を回しワンピースのファスナーをゆっくりと下げた。 ノースリーブの上部が肩から落ちていき、スカートを持っている手元で止まった。 すると、男は左手でブラジャーのホックを外した。 私が唯一ちゃんと身に着けているものはパンティ1枚だけ。 第5話 「っふ…乳首が立っているじゃあないか?そんなに縛ってほしいのか?ちゃんと言ってみろ…『私をこのロープで縛ってください 』と…」 高貴と神秘、狂気とみだら… この紫色の空間で、自分の空気を求めながら私は言った。 「私を縛ってください…お願いします…」 男は軽蔑の眼差しでほくそ笑みながら、手元で止まっていたワンピースとかろうじて引っかかっているブラを取り去った。 パンティだけになった私に素早く胸の膨らみを避け、上半身をロープでからめ両腕を後ろで固定させた。 「そこに大きな鏡があるだろう?その前まで行くんだ…」 後手に縛られた私は背中を押されてよろめきながら場所を移動した。 「よし、この辺でいい。」 私が立った場所から3メートルほど離れた壁に大きな鏡が備え付けられている。 私の全身がすっぽりと収まっても、まだ余りがあるほどに大きい。 鏡にはパンティ1枚だけを身に着けて、拘束された女が写っている。 男に背中を押されて、よろめきながら2、3歩進んだ。 ふと横を見ると皮のムチが壁に掛かっている。 俗世間から突然異世界に迷い込んでしまったような錯覚。 (今から一体どんなことをされるのかしら…?) 膝がかすかに震えている。 恐怖感と期待感の交錯した妙な気分。 目の前に皮張りの肘掛けの付いた椅子が2脚ある。 「その2つの椅子にまたがって肘掛けに座るんだ。」 「え?どういうこと?」 「左足は左の椅子の肘掛けに乗せ、右足は右の椅子の肘掛けに乗せると言うことだ。椅子は倒れることはないから安心すればいい。」 意図がよく分からなかったが、男の命令に従うしかなかった。 私は両手を拘束されているため、男の手を借り椅子に上った。 もう1つの椅子に足を伸ばす。 椅子と椅子との間隔は30cmほどある。 男の視線が突き刺さってくる。 真下にある肘掛けの位置を覗き込んで確認しながらゆっくりと座った。 太股の裏側が肘掛けに当たりそこが支えになっている。 股間の下には何もなくただ空間があるだけだ。 「よし、それでいい。」 「………」 「君の中にはマゾな心が潜んでいる。それをゆっくりとこれから引き出して上げるからね。」 男は満足そうに口元をほころばせた。 笑みの中に淫靡な影がちらちらと見え隠れしている。 「それにしても君は少しスリム過ぎる感じだけど、バランスの良いいい身体をしているね。」 「……」 男はそういいながら手を伸ばし胸に触れてきた。 「あっ…」 乳房を数回撫で、愛撫は首筋へと移行した。 わずかそれだけのことで、私は早くも身体に火照りを感じ始めていた。 大きな鏡に私が写っている。 男に責められている自分がそこにいる。 男は背中に唇を寄せてきた。 「あぁ…」 私は思わず身体をびくつかせてしまった。 唇が拘束されたロープの隙間を這い回ってくる。 熱いものが身体の奥から湧き出てくるような気がした。 白いパンティにぐっしょりと張付いた股間は頭より先に反応していた。 …つづく… 第6話へ |