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1 「やっと海に来れたね。だけどこんな寒くなってからでごめんね。」 「ううん…いいの。晩秋の凛ととした肌を突き刺すような冷たさがむしろ心地いいわ。」 「あれ?春が好きだって言ってなかった?」 「うふ…言ってたわ。以前はそうだった。だけどあなたと会ってから秋が好きになったの。」 「どうして?」 「あなたと初めて会ったのが11月…。だから秋が、晩秋が好きになった…。」 「イヴ…」 「良彦…」 イヴ(25歳)は、やっと念願が叶って、海辺のホテルに来た。 しかも隣には愛する良彦がいる。 バルコニーに吹く風は強くはないが、それでも冷たい。 だれもいない浜辺。 夏はきっと海水浴客で賑わっていたのだろうが、今は誰もいない。 渡り鳥が群れをなして飛んでいる。 その遥か向うに貨物船が行き交う。 海の青さも色濃く冬の訪れを予感させる。 良彦はイヴを抱き寄せて、そっと唇を合わせた。 手が背中を愛撫し、うなじを撫でる。 微妙な感触に、イヴの心に早くも眠っていた何かが芽を吹く。 それは“悦楽草という名の植物か。 良彦の唇からツルリと舌が入り込んだ。 イヴは敏感に反応し、それを受け入れる。 口内を探る舌を迎えに行く、もうひとつの舌。 それは逢う瀬を楽しむ恋人たちのように絡み合った。 舌の抱擁…そんな言葉が似つかわしい。 イヴはバルコニーの手すりに両腕を伸ばして、沈む夕陽を眺めている。 「見て。すごくきれいだわ。」 「うん、とてもきれいね。夕陽をこんなにゆっくりと見るのは滅多にないことだ。それも君といっしょに見れてとても嬉しいよ。」 「良彦…私もよ…。」 イヴは良彦の手を握った。 「冷たい手をしているね。」 「良彦は暖かい手だね。温めて?」 「うん…」 良彦は握られた手を強く握り返した。 すると負けじとイヴも握り返して来る。 「ねえ…好き?」 「うん、好きだよ。」 「私もよ…」 イヴは良彦の肩にもたれ掛かった。 良彦はイヴの少し後ろに立っている。 振り返りながらイヴが囁くたびに、良彦は笑顔で答えた。 もしも浜辺から誰かが見ていたら、潮風で酔いを醒まそうとしているカップルが少しいちゃついているように見えるかも知れない。 バルコニーを見渡したが誰もいない。 この季節にバルコニーで海を眺めているカップルも珍しいだろう。 甘えて良彦の胸に持たれるイヴの細くくびれた腰つきを指でなぞった。 「いやぁ…」
2 腰から腹部を優しく撫でた。 その手はさらに下の方へ降りて行く。 タイトスカートのなだらかな下腹部の曲線を下降する指…。 脚が交差する場所まで這っていった。 「いやだぁ…」 イヴは甘えたような眼差しで良彦の顔を見た。 「いいじゃん。見えないんだし。」 「だってぇ…」 タイトスカートの上からの愛撫…男の想像力はすでにその裏側に到達している。 想像は真相の確認へと移行する。 良彦は短いスカートをまくりあげた。 網タイツのような黒いストッキングと同色のパンティが覗いた。 ストッキングは太股の辺りがレースになっている。 良彦は黒い布の上から舌を這わせた。 「はぁ…」 舌が動くたびに、水分がどこからか湧いてくる。 黒いショーツ越しに、女の輪郭を舌で探る。 やがて黒い布がスルリと剥ぎ取られた。 辛うじて足首に引っ掛かっている。 目前に刺激的な水蜜桃が現れた。 男の下半身に異変を起こさせるには充分過ぎるシチュエーション。 掌は水蜜桃の曲線をいとおしむように這い回る。 適度な弾力性が良彦の脳髄を刺激する。 一言の言葉も交わされないまま、冷気の中で熱い営みは進行している。 時折、イヴの吐息が洩れるだけ。 水蜜桃の中央には亀裂が走っている。 良彦の指が巧みに動いている。 (あぁ……) 切ないメロディがさざなみに打ち消される。 実は浜辺に先ほどから、一組のカップルが散歩している。 そしてこちらの様子を時折伺うように眺め、何やら会話を交わしているようだ。 やはり気になるのだろうか。 イヴは平静を装うために、腰をくねらせないように堪えている。 堪える姿を見て、良彦は意地悪心が浮かんだのか、指の動きが一層淫らになる。 スリットばかりか真珠貝にまで手を廻し、執拗に擦りつける。 「いやぁ〜、そんなに触っちゃ…」 「イヴ、あまり上半身を動かすと彼らにばれてしまう。」 「だってぇ…」 背後でベルトの外れる音がした。 イヴは耳を無意識に澄ます。 ファスナーをおろす音を聞こえて来た。 イヴは想像する。 トランクスはもう脱いだのか?それともまだ? すでにトランクスは床に落ち、薄暮の空にニョキリと大砲が照準を合わせていた。 ある一点の方角に向けて。 良彦はネクタイを少し緩めた。 チェック・インをして部屋に入ってからまだ着替えもしていなかった。
3 バルコニーからの景色を眺めるためにふたりして外に出たのだが、意外な方向に展開していった。 イヴも同様にネックレスすら外していなかった。 そのまま…。 そう、そのまま。 バルコニーに立つふたりを見るものがいたとしても、セーター姿の若い女とカジュアルなシャツを着た三十路の男… ふたりが仲良く寄り添っているだけのように見えるだろう。 バルコニーの手摺に隠れた部分が見えないのだから。 良彦はついに水蜜桃に槍を突き立てた。 イヴはたった一言、「あ…」と声を発した。 良彦は腰を小刻みに動かせた。 イヴもそれに合わせるかのように動かせる。 下にいるカップルはじっと様子を眺めているようだ。 (ねえ、あの人達、エッチしているんじゃない?) あくまで想像だが、隣の女性が彼氏にそう言っているように思える。 良彦たちを見上げて、何やらニヤニヤと笑っている。 決して派手な動きではない。 すごく小刻みなバイブレーション。 それでも女性を酔わせるには、効果はあるだろう。 事実、イヴは先ほど以上に濡れ始め、太股まで蜜が伝ってる。 至極真顔で良彦が語った。 「こちらを見ているあのカップル、もう気づいているかも。」 「やだぁ…恥かしいわ…」 「だけど証拠は無い。こちらの下半身は見えないのだから。」 「露出趣味なんか無いのに…」 イヴは喘ぎの狭間でクスッと笑った。 「僕だって露出趣味はないよ。ただ想像させるのは楽しい。」 「うふっ…、悪趣味だわ…」 「君だってそうじゃないか。だってこうしている限り共犯だ。」 良彦は先程よりも腰を強く律動し始めた。 「あふ〜ん…あんあん…いやぁ…」 「晩秋の海を眺めながら、君と繋がっている…。ふふ、贅沢なご馳走だ。」 「あぁん、私だって…」 「ちょっとでも長く繋がっていたい。でも君の表情や声は僕にとって刺激が強すぎる…。早く言っちゃうかも。」 「いや。まだ行かないで…もう少し、もう少し…」 たまにしか会えないふたりが会えた時の歓び。 それはたとえようも無いほどの感激の中で交わされる愛のセレナーデ。 星の数ほどのキスと愛撫とが、今夜のふたりを包むだろう。 ホテルの5階、バルコニーでのプロローグ。 いや、プロローグと言うには濃厚すぎる。 もしも聞くものがいれば、頬を染めるほどの甘い囁き。 今夜は互いの五感を、互いの性をあらん限りに尽くすだろう。 一夜…そう、それは濃縮された一夜。 他の夜とは違う夜。 夕陽は沈み、いつしか先程のカップルの姿も消えてしまった。 良彦たちの姿を見て、彼らも急遽部屋に戻りたくなったのかも知れない。 訪れた暗闇のを引裂くかのように時折聞こえて来る甘い吐息。 寒さなどどこかに置き忘れたかのようにふたりの営みは続く。 大砲が動くたびにキラキラと光沢のある液体が迸る。 「あぁ、もうだめぇ…良彦…」 夜景の中で蠢く妖しき輝き。 大砲はついに白い砲弾を発射した。 イヴの腰の振りが激しさを増す。 ふたりの押し殺したような声が、暗闇を突き破る。 波がふたりの声を掻き消すかのように、次第に激しくなって来た。 晩秋の海とは対照的な熱い夜がとばりを開けた。 (完)
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