第壱話 “ありさ 十七歳”
時は大正8年。まだ春遠い1月下旬のことであった。
1人の美しい娘が、瀬戸内海のある島を出て大阪にやって来た。
5人兄妹の次女で歳は17才、貧しい家庭に生まれ、口減らしのため仕方なく奉公に出された。
初めて暮らす大阪には、もちろん親戚も知人もいない。
奉公先は大阪島之内の霧島屋という呉服問屋であった。
娘は名前をありさと言った。
素直で気のよく利く娘であったことから、番頭や上女中達から大変評判がよかった。
また背丈も五尺四寸(約162cm)とすらりと高く、目鼻立ちのよく整ったとても美しい娘であった。
そのせいか歳以上に大人びて見え、ほんのりと蒼い色香を漂わせていた。
店主は、霧島 染五郎という男で今年55才になる。
年齢的には男盛りを過ぎていたが、女性への意欲はまだまだ旺盛な男であった。
腹が七福神の布袋のように突き出ており、胡坐をかいた大きな鼻と併せ、どこか脂ぎった印象は拭えなかった。
金銭に関しても非常に敏く、とてもがめつく、裏ではこっそりと高利貸まで行なっていた。
ただ、高利貸は金が目的ではなく、目的は別なところにあった。
貧しい男に高利で金を貸し、返済日までに返さなかった場合、利息の代わりにその妻や娘を形(かた)に取る・・・
そんな無節操なことまで平気でやる男であった。
金に明かして芸者遊びに呆ける旦那衆は数多くいたが、これほどあくどい男も珍しかった。
年若でしかも見目麗しいありさは、当然、染五郎の目に止まっていた。
まさに蛇に睨まれた蛙である。
しかし、いくら節操のない染五郎とは言っても、体面もあって、表立っては店の使用人に手を出す訳にはいかなかった。
ありさが何か粗相もした訳でもないし、咎める理由すらない。
染五郎は、過去、女中に手を出したことが数回あった。
いずれも妻に見つかり、嫉妬深い妻と大騒動になった。
さすがの染五郎も妻だけには、どうも頭が上がらなかった。
店内で騒動を起こすことだけは避けなければならない。
しかし日に日にありさへの想いは募っていく。
染五郎は考えた。
どうすれば、あの可憐なありさの柔肌に触れることができるのだろうか・・・
よく働くし、落ち度がない。
それに素直だから、他の使用人からも可愛がられている。
言い換えればありさは最高の奉公人なのだ。
ある日、染五郎に妙案が浮かび手を叩いた。
悪知恵にかけては人一倍頭が廻る男である。
染五郎は早速、ある“罠”を仕掛けることにした。
そんなこととも知らず仕事に精を出すありさ。
今日も拭き掃除や、井戸端での洗濯に余念がない。
ちょうどそこへ1人女中がやって来た。
「ありさちゃん、旦那はんが呼んだはるで。何でも、ありさちゃんに大事な用事をやってもらうんやとか言うたはったけど」
第弐話 “罠”
ありさは奉公を始めてまだ日も経たないのに、店の主人から早くも重要な仕事を託されたと聞きとても嬉しかった。
声もつい明るくなった。
「はい、旦那様、お呼びでしょうか?」
「おお、ありさか。いつもようやってくれとるなあ。ご苦労はん。ところで、お前にひとつ頼み事があるんやけどなあ」
「はい。どのようなご用で?」
「今度な、お得意はんをようけ(ようけ=沢山の意)呼んでお茶会をせなあかんのや。その時使う茶碗が裏の土蔵の中に入ってるんやけどな、それを茶室まで運んどいて欲しいんや」
「はい。分かりました。今すぐやります」
「そうか、すぐやってくれるか?大事な物やさかいに気いつけて運んでや。落としたらあかんでえ」
「はい!十分に気をつけます」
ありさは早速茶碗を運ぶため、染五郎の部屋から出て行った。
ありさが出て行った後、染五郎は1人にやにやと嫌らしい笑みを浮かべた。
(よっしゃ、これで段取りはでけた。あとは筋書きどおり事が運ぶのを待つだけや。それにしても、ありさちゅう子は別嬪やなあ。いいや、それだけやない。まだ幼いけど大人びたええ身体をしとるで。着物着ててもわしには分かるんや。想像するだけでぞくぞくして来たでぇ。へへへ、こらおもろなってきたでぇ)
ありさは土蔵に掛かっている錠を開け、重い扉を開けて蔵の中に入って行った。
窓が高い位置にあるため、陽が届かず中は薄暗い。
しかも滅多に人の出入りが無いからか、湿気ているようだ。
それに蜘蛛の巣がいたる所にあって気持ちが悪く、ありさを顔をしかめた。
手探りをしながら、やっとの思いで一番奥にたどり着いた。
染五郎が言うには、茶碗は長持(衣類・道具を入れておく箱)の中にしまってあるという。
しかし色々な形の箱が並んでいてどこに入っているかよく分からない。
ありさはいくつかの箱を恐る恐る開け、やっと茶碗を見つけ出した。
茶碗は5客(茶碗はそう数える)あった。
茶筅などの茶道具もあったので、ありさは2度に分けて運ぶことにした。おそらく一度で運べただろうが、ありさは安全を期して慎重に熱かった。
彼女のとった行動は実に正しかった。
ところがその正しい判断が皮肉にも無意味なものとなることを、今のありさは知るよしもなかった。
ありさは茶会と言うものがどんなものかを知らない。
聞いたことはあるが茶道のお手前すら見たことがない。
(茶会に使う茶碗ってどんなものだろう?ふつうの茶碗とどう違うのか?)
一度見てみたい。
ありさは茶碗を茶室に運んだあと、木箱をゆっくりと開いた。
5客の茶碗が丁寧に1つづつ包んである。
1つだけ開けて眺めるぐらいはいいだろう。
ありさは包みを解いて茶碗を眺めた。
「へえ・・・これがお茶会に使う茶碗なんだ。家で使っていたお茶碗と全然違うんだ。艶があって、すごくきれいだあ」
ありさは初めて見る茶碗に魅入った。
(あ、いけないわ。旦那様の大事なものなんだ。すぐに直さないと)
ありさは眺めるのも程々にして、直ぐに元に戻すことにした。
第参話 “割れた茶碗”
その時箱の中で妙な音がした。
何だか悪い予感がする。
ありさは包装してある茶碗を1つ毎に恐る恐る解いてみた。
3つ目の包装を解いて、ありさは青ざめてしまった。
あろうことか、茶碗が真っ二つに割れているではないか。
ありさは狼狽した。
(どうしよう・・・大切なお茶碗が割れている。大変だわ。運んでる最中に割ってしまったのかしら・・・。でも、どこにもぶつけてないし、落としてもいないのに・・・。もしかしたら、以前から割れていたのかも知れない。旦那様、すごく怒るだろうなあ・・・。でも、仕方ないわ。正直に話すしかない・・・)
茶碗がどれほど高価なものかを知らないありさは、この時点では、「当分給金無しでもやむを得ない。とにかく謝って弁償しよう」と考えていた。
ありさは早速染五郎に事の次第をありのまま報告した。
染五郎は眉間にしわを寄せ、鬼のような形相で激怒した。
「あほんだらっ!何ちゅうことをしてくれたんや!茶碗がどれだけ大切なものか知らんのか!昔やったら一国と引き換えでけるほどものすご〜高いものなんなんや。ほんでなんやて?先に割れてたかも知れへんて?アホ抜かせ!責任逃れしよ思てそんな話でっち上げたんか〜!?このがしんたれが!(役に立たない能なし野郎とかバカという意味・大阪弁だが今はほとんど死語となっている)」
「旦那様!本当に割ってません!私は絶対に割ってません!私が見た時既に割れていたのです!本当です!信じてください!」
「嘘つき!わしは嘘つきは大嫌いや。正直に割ったと言わんかい!正直に言うたら堪忍したってもええ。せやけど、あの茶碗はほんまにえろう高いもんなんや。わかってるんか?あれひとつで、なんぼすると思てんねん?千円やで!千円!(現在の100万円程度)さあ、直ぐに払てもらおか〜!」
「そ、そんな酷い・・・本当に、本当に割ってません。信じてください!」
「まだしらを切るつもりか?ほたら、しゃあないなあ。正直に言わせたるさかいにこっちぃ来い!たんとお仕置きしたるわ」
染五郎はべそをかいているありさの腕を掴んで引き摺った。
ありさはこけては立ち上がり、必死に抵抗し、涙ながらに訴えた。
「堪忍してください!本当に割ってません!信じてください!本当です!」
ありさの瞳からは涙がぽろぽろと流れ落ちた。
「ふん、割っといてまだ嘘を突き通すとは・・・ほんま、なんと図々しいやっちゃ。とにかく早よこっちに来んかい!」
実のところ、ありさの言うとおり茶碗は既に割れていた。
ただ割れていた茶碗は偽物であり、高価な茶碗は事前に染五郎がこっそりと納屋から持ち出していたのだった。
そうとも知らないありさはまんまと染五郎の罠に填まってしまった。
染五郎は涙ながらに詫びるありさに有無を言わさず土蔵に引き摺って行った。
まさかこんな形で再度土蔵に来ることになるとは、夢にも思わなかったありさであった。
染五郎はありさを土蔵に連れ込んだ後、内側から錠を掛け、土蔵の奥へと入って行った。
どこまで行くんだろうか。
茶碗の置いてあった辺りで立ち止まった染五郎はありさに凄んで見せた。
「この辺でええやろ。さあ、ありさ、お前のその腐った性根ここで徹底的に治したるさかいな」
「旦那様・・・お願いです・・・許してください・・・」
「そら無理な注文やなぁ」
第四話 “緊縛”
ありさの涙ながらに訴えた。
染五郎はありさの腕を引っ張り抱きしめようとしたが、ありさの懸命の抵抗にあった。
はねのけようとして手を振り廻した時、爪が染五郎の頬に当たってしまった。
「いたっ!」
染五郎の頬からうっすらと血が滲んだ。
染五郎は顔をしかめて頬に手を当てている。
見る見るうちに形相が変わっていき、まるで仁王のような険しい表情になった。
「許さへんで・・・嘘ついたうえに、わしの顔にまで手を掛けたなぁ・・・絶対に許さへんで・・・」
「違います!手が当たっただけ・・・」
ありさは必死に弁解をしようとしたが、その言葉が終わる前に、染五郎はありさを突き飛ばした。
倒れたありさのうえに馬乗りになって、頬に平手打ちを2度見舞った。
(パシン!パシン!)
「ひぃ〜〜〜!!」
悲鳴をあげるありさ。
少し怯んだ隙をみて、染五郎は予め用意していた荒縄を取り出して、抵抗するありさを後手に縛り上げてしまった。
「や、やめてください!」
「うるさい!大人しゅうせんかい!」
脚をばたつかせて縄から逃れようとするありさは、太い柱を背に何重にも硬く縛られてしまった。
「お願いです!縄を解いてください!」
「よくもわしの顔に傷をつけてくれたなぁ・・・今に思い知らせたるさかい」
「私の縛ってどうする気ですか!?」
「ふん、わしはここのあるじや。お前をどないしようがわしの勝手や」
「そんな・・・」
「うるさい!わしが大事にしてた茶碗を割っといて、おまけに怪我までさせくさって」
「後生ですから許してください!」
「やかましわい!」
ありさは泣いて切願したが、染五郎には少女の哀訴を聴く耳など持ち合わせていない。
「さあ、お仕置きしたるでぇ。楽しみにしいや〜」
ごつごつとした皺だらけの手がありさの粗末な木綿地の着物に触れた。
「いや!許してください!」
胸元の合わせ目から強引に手をねじ込ませてきた。
「ひい〜、いや〜〜〜〜〜!!」
程よい大きさできれいなお椀型の乳房が強く鷲づかみにされた。
「いたいっ!}
弾力性のある好感触を得て染五郎が好相を崩す。
「さすが若いおなごの乳はちゃうなあ。触り心地最高やわ。まるで若鮎みたいにぷりぷりしとってほんまええ感触やでぇ。がっはっはっはっはっはっは〜!」
第五話 “土蔵から漏れる声”
染五郎は縄の間からはみ出た乳房をしわだらけの手で揉みしだいた。
その動作は“愛撫”などという言葉からはほど遠く、形が変わるぐらいに強く握った。
「いた・・・いたい!旦那様・・・許してください・・・い、痛い・・・痛い・・・あっ・・・痛い・・・!」
着物の襟はなおも広げられ、染みや黒子のない真っ白な美しい肌が現われた。
乳房の頂にちょこんと付いている桜色のぼんぼりが愛らしい。
「それにしても一点の曇りもないきれいな肌しとるやないか。吸い込まれそうやでえ。ほてから、まだ男に触られてないその可愛らしい乳首もえらいそそるなあ〜。がっはっはっはっは〜!」
飢えた狼は舌なめずりをしながら、目前にぶら下がっている餌の品定めをしている。
まもなく狼は美味しい餌についに牙を剥いた。
最初の標的は乳房だった。
べちょべちょと音を立てて舐め、乳房を唾液まみれにした。
不快な感触から逃げ出したくて、ありさは身をよじって少しでも避けようとした。
しかし、しっかりと後手に結わえられた麻縄がそれを拒んだ。
ありさに残された行動はただ叫ぶこと、それしか残されていなかった。
「いやっ・・・いやです!許してください!お願いです!やめて、やめてください!・・・だ、誰か着ますよ!」
ありさは悲壮な形相で声を張り上げた。
もしかしたら声を聞いた誰かが、駆けつけて来るかも知れない。
しかしそれはあまりにも甘い考えであった。
仮に誰かが土蔵の外で女性の声を聞いたとしても、店のあるじのいつも悪い癖が出たのかと、あるじを恐れ決して係わろうとはしなかった。
見て見ぬ振りをするだけであった。
「ふっふっふ、なんぼ喚いてもかめへんで。大声出して喚いたかて誰もけえへん。店のやつらはわしが相当恐いのか、誰一人逆らいよらへん。わしに逆ろうたら損するの知っとるからなあ。わっはっはっはっはっは〜!」
染五郎の言葉はありさを失望させた。
誰も助けに来てくれない・・・
この汚らしい脂ぎった男の餌食になってしまうのか。
ありさは絶望の淵に立たされしくしくとすすり泣いた。
「ありさ、泣かんでええ。今に気持ちようさせたるさかい。どれ・・・」
散々胸を揉みしだき、舐め回した染五郎は次の行動に移った。
「ほんまええおっぱいしとるわ。よっしゃ、ほんなら次は下の方や。下はどないなっとるんか調べたるわ。さあ、見せてみい」
染五郎の厳つい手がありさの着物の裾に触れた。
「ひぃ!!」
裾が捲り上げられた。
桃色の腰巻もいっしょにめくれ上がってしまい、むっちりと白い太股があらわになった。
ありさは必死に脚を合わせようと試みたが、染五郎はそれを許さなかった。
ばたつかせる脚を染五郎は力ずくで割り広げて覗き込んだ。
「えっへっへ〜、こらええ眺めやないかあ。ほんま、ありさは色が白いし肌もきれいし、ぞくぞくしてくるわぁ。でへへへ〜ほてから、触り心地もええしな〜。でへへへ〜」
染五郎は淫靡な笑みを浮かべた。
ありさの太股に染五郎の手が伸びた。
(つづく)
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