女の子のHトークを盗み聞き







表参道のカフェで奈々子と待合わせをしていた時のこと。
約束の5分前、奈々子はまだ現われていなかった。

僕はコーヒーを飲みながら2本目のタバコを燻らしていた。
隣には20代前半位(たぶん)の女の子がふたり、ヒソヒソと声は抑えてはいるが、何やら熱く語り合っている。
聴くつもりでは無かったが、つい耳をダンボにしてしまった。
壁際の女性が語り役で、通路側の女性が聞き役のようだ。
よく聴くとどうも彼との昨夜のホテルでの出来事のようである。
こんな時は人一倍耳のよい僕は得をした気分だ。
盗み聞きするのはよくないとは思ったが、勝手に耳に飛び込んで来るものは仕方がない。

はっきり聞こえた部分だけを再現してみると・・・

「彼がさあ、ビデオ見ながらそのとおりにやってみようって言ったのよ」
「ふんふん、それで?」
「面白いじゃ〜ん、ってことになって〜結局ビデオどおりやり始めたのよ。最初はさあ、うまく行ってたのよ。ところがさ、そのビデオってちゃんとストーリーのあるやつだったの。でさあ、途中で会話がたくさん入ってたのよ。しかもなんか別れ話でもつれるような暗〜いやつ。お陰で彼は萎えちゃったみたいなの。その後、彼ったら全然役に立たずでえ・・・。全くひどい話だよねえ」
「プブッ〜!バッカじゃない〜。ワハハハハハハハ〜!」
「もう〜笑わないでよ〜。マジでぶち切れたんだからさあ。いいところまで行ってできないなんて、まるでヘビの・・・え〜となんだっけ・・・?」
「生殺し」
「そうそうそれ、ヘビの生殺しみたいじゃ〜ん、全く・・・」

僕はこれを聞いて思わず吹き出しそうになったが、必死で笑いを堪えた。
人の話を盗み聞きして、笑う訳にはいかない。
笑いを堪えるのがとても辛かった。

実はその時に奈々子が現われていたのだが、僕の意識は隣の女の子の方へ向いていたため、奈々子が来たことに全く気がつかなかった。
当然、奈々子はご機嫌ななめ。

「Shy〜。私が来ているのに知らん振りするの?それとも他の女の子にご執心なのかな〜?」

わざと隣の女の子に聞こえよがしに言っている。
目はまるでキツネのように釣り上がっている。

「わっ!ごめんごめん!いやあ、あのね〜、あははは〜、あまりにも静かに入ってきたので気がつかなかったよ」

まさか隣の話を盗み聞きしていたなんて言えるはずもなく、もうシドロモドロ。

意外なことから奈々子を不機嫌にさせてしまったデートのスタートだったが、神宮前に向かう途中、カフェでの経緯を説明して一応一段落した。
いや、奈々子の機嫌が治ったというよりも、むしろ奈々子のテンションを上げる起爆剤となった。

「面白そうじゃん!それじゃ食事の後、ビデオ見ながらやっちゃう?でもビデオつけたらSMものとかレイプものとかだったら最悪ねえ。笑えないし〜」
「まあ、それも面白いかも知れないけどどうなんだろう。AVって男のオナ用に作られたものだから真似をするのはどうかと思うね。だってさ、顔射とか精液を飲ませるなんて男中心のプレイじゃない?AVには女の子が喜ぶプレイって少ないと思うよ」
「うん、そうかも知れないけど、女の子もねえ、たまにはスリリングなエッチもしたいものなのよん」
「奈々子もアレが好きだな〜」
「あ〜ら、Shyは嫌いなの〜?へえ〜。あはははははは〜〜〜」

それからふたりはゆるやかな表参道の坂を下って、奈々子の大好きなパスタの店へと向かった。

あれから幾度秋が巡ったことか。
いつかは遠い昔の語り草になってしまうのだろう。


(終)







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