ローマの街角から

刊 行2000年10月30日 新潮社刊(ラッコブックス)

 とは言っても、読み進むうちにあなたは笑うでしょうね。日本に向けての切ない提言をくり返すこの私を。でも、外から見ていると、日本はとてもかわいそうな国に思えてくるのです。もちろん、ヨーロッパの一国ではない。かといって、内実からはアジアの一国でもない。同程度の国力をもち、相互に平等な立場で協力していける国々を近くにもっていない日本。

―「読者に」 より
 阪神大震災、ユーゴ空爆から“中田クン現象”まで、折々の時事・世相を独自の視点でつづるエッセイ集。「フォーサイト」連載コラムの単行本化。

 「フォーサイト」という硬派な雑誌に連載されていただけあって、国際政治や経済などの堅い話題が中心になっています。しかし、こんな内容にも関わらず、私は気楽に読むことができました。一つ一つの項目がとても短いからです。ページ数でいうと、4ページにしかなりません。この程度の長さなら、本来この手の話題が苦手な私でも、心地よく読み進めることができます。

 かといって、簡単に読み流せる内容かというと、そうでもありません。短いからこそ、一つ一つの文章を噛みしめながら読みたい、そんな気にさせる本です。塩野さんは、表面的な現象の背後にある、人間の普遍的な現実を鋭く見抜きます。たとえば、「穏健主義の一面」と題した一項。ここでは現代のイタリア政治を論じつつも、単なる解説には終わってはいません。マキアヴェッリやカエサルを引き合いに出すことで、いつの世も変わらない政治の本質を的確に捉えています。歴史著作の中に見出すことのできる塩野さん独特の鋭い洞察は、現代政治からスポーツの話題まで、様々な分野で縦横に発揮されています。安易に読み流してしまったのでは、本書の本当の面白さには気づかずに終わることでしょう。

 それにしても、塩野さんが日本を憂う気持ちの、なんと深いことでしょう。行間からはしばしば、ため息が聞こえてくるかのようです。今の日本という国が直面している現実の深刻さを痛感させられます。しかし一方で塩野さんは、必要以上に悲観することはない、とも言っています。ありのままの現実を冷静に見つめよ、という塩野さんのメッセージを、私たちはしっかりと受けとめる必要があるのではないでしょうか。

名句集

 しかし、貧困の完全追放は人間が地球上に存在するかぎり不可能であり、またいかに治療をつくしても快癒不可能な病気があると思う私だが、いかなる人にも一人で孤独に死んでいくことから解放される権利はあると思っている。もはや食物も口にできなくなった病人でも、差し出される一杯の白湯が、自分は誰からも見捨てられて孤独に死ぬのだという絶望から解き放ってくれるのである。一人でないと思えば、人間は安らかに死ぬことができる。

―「修道女マザー・テレサ」 より
 本書の中でもっとも感銘を受けた一文です。塩野さんは、マザー・テレサを高く評価する理由の一つとして、「彼女が与えようとした救いは、貧困や病気からの脱出よりも、その中での安らかな死のほうにあったこと」を挙げています。私はここに、薄っぺらなヒューマニズムなどまったく寄せ付けない、力強い思想、真の現実主義をまざまざと見る思いがします。

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