| 勝者の混迷―ローマ人の物語III |
| 刊 行 | 1994年8月7日 新潮社刊 |
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| 2002年8月28日 新潮社刊(新潮文庫) 『ローマ人の物語6 勝者の混迷(上)』 『ローマ人の物語7 勝者の混迷(下)』 |
ルキウス・コルネリウス・スッラは、「元老院体制」としてもよいローマ特有の共和政という「革袋」を、懸命に修繕しようと努めたのである。あちこちのほころびもただ単に古くなったがゆえであり、丈夫な革きれをあてて補強した革袋の中には、新しい葡萄酒を入れれば、まだ充分に使用可能であると信じていたのだった。(中略)この巻では、グラックス兄弟の改革、マリウスとスッラの抗争、同盟者戦役、スパルタクスの乱、ポンペイウスの活躍など、ローマが揺れ動いた「内乱の世紀」の前半部分を描いています。
つまり、当時のローマ人にとっては、彼らの社会の諸問題の解決の必要は認識していたものの、「革袋」はもはや捨てるしかなく、捨てて新しいものを創り出すしかないという考えは、彼らの理解を越えていたのである。ただ一人の、人物を除いて。
―「第二章 マリウスとスッラの時代」 より
この巻の主人公たちの中でももっとも興味深い人物は、スッラでしょう。塩野さんはこのスッラを高く評価していますが、私にはなぜ高く評価しているのか、初めは今一つよくわかりませんでした。スッラは政治的には超保守的でした。彼は元老院議員階級に属する少数の貴族が政治を主導する政体(寡頭政)を維持するため、グラックス兄弟の時代以来対立が続いていた民衆派の人々を徹底的に弾圧・粛清しました。まさにローマ史上における独裁者の代名詞のような人なのです。
しかしこの巻のあとのIV巻、V巻と読み進めるうちに、塩野さんが高く評価している理由がわかってくるような気がしました。スッラは、ローマの混迷の原因が元老院の指導力の低下にあるということに気付いていたという点においては、カエサルと同じだったのです。ただ、やったことは全く正反対でした。スッラは様々な改革を行う一方、反対者を弾圧することによって、元老院の権力を徹底的に強化しようとしました。一方カエサルは、元老院主導の共和政体そのものを破壊し、全く新しい政体を築こうとしたのです。
スッラの死後まもなく、彼が望んでいた元老院主導による寡頭政はあっさりと崩壊し、ポンペイウスのように、軍隊の力を背景にした個人が大きな権力を握る時代がやってきます。共和政から帝政へと向かう歴史の大きな流れは、スッラほどの人物でも止めることはできなかったのです。
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