コンスタンティノープルの陥落

刊 行1983年9月25日 新潮社
1991年4月25日 新潮社刊(新潮文庫)
狂信を排する立場からすれば暗澹たる気持にならざるをえないが、理よりも、それを排した狂信のほうが、信仰の強さを保ちつづけるのには有効である例が、あまりにも多いのも事実なのである。

―「第十章 エピローグ」 より
 堅固な城壁を誇る東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルが、オスマン・トルコ皇帝マホメッド二世の猛攻の前に陥落させられるまでを描いた作品。地中海を舞台とした「戦記物三部作」の第一作です。

 さすがに塩野さんの作品だけに、戦闘の様子などはあくまでつぶさに描かれています。私は戦史に関心があるだけに、それなりに興味深く読むことができました。しかし、物語の全体としてはちょっと盛り上がりに欠けるな、というのが正直な感想です。それが何故なのかについて考えると、この作品の主題が攻城戦であるということに尽きるように思われます。攻めるオスマン・トルコ軍、じっと耐える防衛軍という構図は終始変わらず、物語にあまり動きがないように感じられるのです。また、攻守がはっきり分かれているためか、戦術面でもいささか物足りなさを感じました。

 とはいうものの、途中の海戦の場面はなかなかスリリングでしたし、トルコ軍が城壁内になだれ込むクライマックスの場面は興奮して読みました。特筆に値するのが、主人公の一人であるマホメッド二世の描かれ方です。普段は水のように冷静なのに、海戦に負ければ烈火の如く怒る。ここぞというところでは「街は、もはやわれわれのものだ!」と叫んでイエニチェリ軍団を激励する。野心にあふれた、二十歳を越えたばかりの若者の姿は生き生きとしていて魅力的です。

 ところで、私が興味を引かれたもう一人の人物がいます。東西の合同に反対した、修道士ゲオルギオスです。彼の「国が滅んでも、信仰さえ守れればよい」という思想や、「西欧とビザンチン帝国は、全く異質な文明である」とする考えは、私には新鮮に感じられました。

関連リンク


back home next