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海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 |
| 初 出 | 「海」 |
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| 刊 行 | 1980年10月30日 中央公論社刊 |
| 1989年8月10日 中央公論社刊(中公文庫)『海の都の物語 上』 | |
| 2001年8月30日 新潮社刊(塩野七生ルネサンス著作集4)『海の都の物語 上』 |
「現実主義者が憎まれるのは、彼らが口に出して言わなくても、彼ら自身そのように行動することによって、理想主義が、実際は実にこっけいな存在であり、この人々の考え行うことが、この人々の理想を実現するには、最も不適当であるという事実を白日のもとにさらしてしまうからなのです」交易によって富を成し、全盛期には地中海全域をその支配下に収め“地中海の女王”と謳われたヴェネツィア共和国。『海の都の物語』は、その建国から滅亡までの一千年におよぶ盛衰の歴史を全2巻で描ききっています。本書はその上巻で、主にヴェネツィアの興隆期を描いています。
―「第三話 第四次十字軍」 より
歴史をある程度詳しく学んでいくと、自分の中に漠然とある常識だとか固定観念だとかいったものが揺らいできます。しかしこれこそが、歴史を学ぶ愉しみの中でも最も大きなものの一つではないでしょうか。本書もまた、そういう愉しみを数多く提供してくれます。第三話の「第四次十字軍」は、その最たるものだと思います。この章は、本書中の圧巻といって良いでしょう。
常識では、第四次十字軍の“悪者”はヴェネツィア共和国ということになっています。ヴェネツィアは、十字軍に聖地までの輸送手段を提供する見返りに、同じキリスト教徒の街であるザーラやコンスタンティノープルを十字軍に攻撃させました。このことが、十字軍が失敗に終わる大きな要因になったというのです。塩野さんは、この見方に疑問を投じます。ただし、ヴェネツィアを弁護しているわけではありません。その代わりにまず、第四次十字軍の経過を仔細に描いていきます。これらの描写を通して、十字軍という企てそのものが所詮は馬鹿馬鹿しいものであったことを、読者に自ずと感得させるのです。
本章は、崇高な信仰心のために十字軍に参加したはずのフランスの騎士たちが、実は単なる領土欲の塊でしかなかったことを白日のもとにさらします。ここで描かれているフランスの騎士たちは、全くこっけいな存在としか言いようがありません。崇高な事業を成すという使命感に奮い立つかと思えば、実際にザーラやコンスタンティノープルの威容を目にするや、不安になって怖れおののく。しかしこの都市が陥落されれば、醜い略奪に血道を上げる、といった調子。ヴェネツィア共和国が、十字軍をあくまでビジネスチャンスと捉え、淡々と事を運んでいるのとは対照的です。
ところで、難攻不落といわれるコンスタンティノープルを、ヴェネツィア人はいかなる戦法で陥落させたのでしょうか。彼らはこの戦いのために「動く橋」なる新兵器まで考え出しました。そんなことも本書では詳述されています。この「第四次十字軍」の章をはじめとして、本書には、わくわくするような面白さが満ちています。読み物としてまず読者を十分に愉しませつつ、いろいろなことを考えさせてくれる本なのです。全くもって、歴史のあらゆる愉しみが詰まった作品と言えるでしょう。
| 名句集 |
われわれ二人にとっては、現実主義とは、現実と妥協することではなく、現実と闘うことによってそれを切り開く生き方を意味していたからである。塩野さん自身による「現実主義」の定義づけとして注目すべき一節。塩野さんにとっての現実主義とは、現実を容認することではなく、現実を見据えることによって、理想に少しでも近づく道を探ることなのです。「現実と闘うことによってそれを切り開く」という表現が、凄味を感じさせます。
―「第三話 第四次十字軍」より
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