63_5 「小劇場界のドリンク剤」をめざす喇叭屋 「いまどきの若いもんにドラマがいるか! 気のきいたBGMがあればなんでもで きる。ジャズが鳴ってりゃひとぐらい撃てる」  幕切れちかくで、主人公のしがないラーメン屋の出前持ちが口走る台詞だ。 アート・プレーキーとジャズメッセンジャーズの『チュニジアの夜』がボリ ュームいっぱいに鳴り響き、とどめのドラムの激しいビートはそのまま彼が 発射するピストルの効果音になる。一発撃つたびに見せるバネにはじかれた ような全身の動きが、ドラムの音と見事にシンクロしているのだ。  このうがった台詞は、サラリーマン新劇・喇叭屋(らっぱや)のドラマツル ギーでもあると見た。始めにジャズありき。第七回公演の『ジャズと拳銃 (SIDE 2)』(3月13日―21日、東京・新宿シアター・トップス)でも随所にジャ ズが流れる。ジャズメッセンジャーズの『モーニン』、バド・パウエルの 『クレオパトラの涙』、キャノンボール・アダレイの『ワークソング』など など。そこから物語が立ち上がってくる。だからと言うとなんですが、筋は まことに他愛がない。出前持ちのタカシがキャバレーのボスの女と恋仲にな り、駆け落ちすることになる。鞘当てのさなかにタカシはボスの拳銃を奪う。 かつて縄張争いでそのボスに負けた男が今は羽振りをきかせ、彼を追い落と しにかかる。とまあこんな具合で、全てがギャング映画のクリシェ、パター ン、ステレオタイプ。だが、作者・演出家はそんなことは百も承知なのだ。 それを意識していることは、気の利いた台詞や役者たちの演技から窺える。 例えば冒頭。そば屋、ラーメン屋、寿司屋の出前持ち三人が夕暮れの街角に 現れる。三人とも粋がってタバコをふかし、ワルぶってすごむのだが、しゃ べっている内容ときたら「三丁目の山田ってうちの犬、気をつけな」「おう」 「アイツ……かむぜ」とか、「イサム、なんかいいことあったかよ」「どん ぶりとりにいったらよ、ぜんぶ洗ってあったぜ」「ナイス」。  ところで「劇団員の九九%は舞台だけでは食えません」(『週刊朝日』4月1 日号、劇作家・演出家、竹内銃一郎の言葉)という演劇界、特に小劇場の世界 では、大半の者がアルバイトで生活しているのだけれど、喇叭屋の面々は全 てがれっきとした勤め人である。劇団名のあたまに「サラリーマン新劇」と いうカタガキが付く所以。劇作と演出を受け持つ主宰者の鈴木聡は、大手広 告代理店、博報堂のコピーライターである。さすがに公演毎のチラシに書か れたキャッチフレーズや紹介文がふるっている。「サラリーマン演劇人・五 つの大切」には次のようにある。「会社で昼休みに発声練習などしないこと。 商談中は、演技の話題は避けること。同僚には(いやあ、アソビだよ、アソ ビ)とうそぶくこと。公演の際は、上司に必ず招待券を送ること。仕事との 板バサミになったら(好きでやってんじゃん)とひとりでヘラヘラ笑うこと。 」