S63_2 アレッホ・カクテルの酔い心地  ここは白い遊戯空間である。色や形が、光や空気が、音や声が、そして俳優 たちが、言葉が、遊んでいる。  パパ・タラフマラという一風変った名前を持つ集団の舞台を初めて体験した。 『アレッホ―風を讃えるために』(11月27日―12月6日、於東京・吉祥寺、バウ スシアター)である。心躍る初体験だった。  絵具の三原色は赤、青、黄で、それを混ぜると限りなく黒に近づいた色にな る。だが光の三原色は赤、青、緑で、それを混ぜてできあがるのは白い光。  一橋大学の出身者が中心となって活動しているこの若々しいグル―プにとっ ては、音楽、照明と衣裳を含む美術、そして俳優たちがいわば光の三原色であ り、彼らはその三つの要素を混合させてメロディアスでリズミカルなすがすが しい「白」を生み出そうとしているように思われる。  すべてが始まる前、観客の目の前にあるのはホワイト・ボックスとしての空 間で、つややかな巨大なタバコといった趣きの白い円筒がゆっくりと床から上 昇して行くオープニングから、早くも私たちは白とその影を浴びる。  アレッホという名前(タイトル)から連想されるように――キューバ生まれの 作家、アレッホ・カルぺンティエールがこの舞台のコンセプトのどこかにひそ んでいるのだろうか――そこここにラテン・アメリカのイメージが点在してい る。もっとも筋らしい筋はなくて、女性二人、男性六人がたどってみせるのは 人と人の淡い関係や、ものを食べるといった日常のしぐさ。だが大半の時間は、 みんながじゃれ合うような、「意味」を脱色した快活な動きと、コミカルで洗 練された静止のポーズに覆れている。  そして何よりも印象ぶかいのは、次々と舞台に現れてくるオーディオ・ヴィ ジュアルな喚起力に富んだイメージだ。  まず聴覚の方から挙げると……。小鳥がさえずり交すような澄んだ女性の声。 アメリカの優れたパフォーマー、メレディス・モンクにも通じる声だ。また、 優しく揺れるヴィブラフォンの音に乗った「夜、東、summer」のリフレイン。 「アーレッーホー、アーレッーホー……」  視覚的なイメージの例としては……。大きな譜面台のようなぐるぐる回る風 力計。透明なチョウチンアンコウみたいな自動車――これはネイビー・ブルー の照明の沖に沈んで、まるでライトを明滅させて夜空を飛んで行くヒコーキの よう。カニの爪のようでも咲き方の下手なクロッカスのようでもある「花」を つけた植物――これは木で作られていて、その骨格からすると立体化されたサ ボテンのレントゲン写真か。白くてひょうきんなジャコメッティとでも呼びた くなる林立する人体像。およそ考えられる限りの形、大きさ、色、柄を持った 帽子、と挙げて行けばきりがない。  音楽、美術、演劇のこのアレッホ.カクテルは実にいい味、いい酔い心地だ。