S63_1 小学生はつらい  今という時代に小学生であること、いや、それこそ今風に言って、「小学 生やってる」ことは、相当にきついことなのだ。  遊◎機械/全自動シアターという若い劇団の第八回公演『僕の時間の深呼 吸―ぼくは夜中に台所でこっそり懐中時計を呑みこんだ―』(11月5日―8日、 於東京、青山円形劇場)の主人公山田ノボルくんも、そんなきつい小学生生活 を健気に、そしてつとめて明るく耐え抜いている少年だ。だが演じるのは高 泉淳子という不思議な女優。な行「なにぬねの」をすべて「ダヂヅデド」と 発音する(蓄膿症という設定かナ?)役づくりが、この男の子に奇妙なリアリテ ィを与えている。  彼の日常も、都市生活者の両親と同様、分刻みだ。学校に遅刻したりサボ ったりするが、それでも授業、掃除当番、視力開発研究所(ノボルくんは大き な眼鏡をかけている)、スイミングスクール通い、と多忙をきわめる。  この日、彼が家に帰ってみると、お母さんは出かけていて、テーブルの上 には「冷蔵庫のグラタンをあたためてお父さんと食べること」という置き手 紙があるばかりで、そのお父さんからも「今夜は会社に泊りだ」という電話 が入る。だがノボルくんは泣かない!でも淋しい! 夕飯のオムライスを家族み んなで食べる友だちがうらやましい。  彼の「突如としてオムライスが出てくるなんていうことはないのでしょう か!」のひと言で、あろうことか冷蔵庫の中から次々とシェフだのコックさん だのが軽快な音楽にのって登場し、オムライスを作りはじめるのだ。これ以 後舞台では、ノボルくんの頭の中にある様々なことがら―学校やスイミング スクールでのできごと、お父さんと一緒に見に行った映画の場面、彼の目に 映った大人の生活などなど―が、にぎやかに展開してゆく。  この作品は'86年夏に初演されたものだが、今回は青山演劇フェスティバル のためにそのVol.2 として、新しい場面を加えたり配役を少し入れ替えたり と手を加えてある。青山円形劇場に、その名のとおり全体がドームのような 円形で、たとえば演技や作劇に素人臭いところがあればそれが拡大され、少 しのほころびも許さないような一種残酷な空間だ。  遊◎機械はその空間に見事に活気をふきこみ、笑いと抒情とさりげない批 評精神によって熱い渦を巻きおこした。天井を見上げれば大きく白い数字が1 から12まで円に並び、すべてを「僕の時間」が覆っているという心憎いたく らみである。  幕切れ近くの一シーンで、高泉淳子は停年退職するサラリーマンに変じ、 心に浸みる退職の挨拶をする。振り返る三十数年の時間。少年少女ばかりで なく、大人もまたきつさ苦さに耐えて今を健気に生きている。  落ちこぼれの同級生杉並タミコさんの篠崎はるく、変幻自在に多様な役を 横断する白井晃、客演の本間仁ら、役者陣の魅力はこたえられない。来年一 月の再演が楽しみである。