S62_12 老優二人の逆襲  腐るのではなく枯れることの見事さを改めて思い知らせてくれた舞台、と 言ったらいいだろうか。  別役実が文学座の三津田健と円の中村伸郎のために書き下した『諸国を遍 歴する二人の騎士の物語』(10月8日―18日、於東京・渋谷パルコ Space Part 3)である。TVのバラエティ番組「いただきます」流に言えば、二人の年齢を 足すと一六四歳、共演はほぼ四分の一世紀ぶりのことだ。  舞台は枯れ木が一本立っているだけのいずことも知れない場所の夕暮れ時 で、仮り小屋よろしくしつらえられた「移動式簡易宿泊所」に、患者を求め て歩きまわっている医者と看護婦、死にかけている人間をさがしまわってい る牧師がやってくる。だが、彼らも、そして宿の主人と娘も、やがて現れた 老騎士二人に次々と殺されてしまう(娘は自殺)。  連続殺人の理由は「殺さないと、殺されるからね……」であり、従者も巨 大な風車に向かって突進し、「キャーッ」という悲鳴を残して消えてしまっ たあと、老騎士が漏らす感慨は「馬鹿な奴だ……。」「しかし若い馬鹿が、 その馬鹿で死ぬのはいいもんだ……。年をとって分別のあるものが、その分 別で生き残るのもいいもんだが……。」  ドン・キホーテのなれの果てとして登場したふたりは、幕切れでは老いた ウラジミールとエストラゴンと化し、死が「むこうからやってくる」のをじ っと「待つ」。「今は秋かい……?」「そうだ、秋だよ……。」「だとすれば 私たちは今、ゆっくり冬の方へ動いているんだ……。」  老人による連続殺人というと、ジョセフ・セッセルリングの『毒薬と老嬢』 を思い出すけれど、そこでは二人の気のいいおばあさんが無邪気な善意から 何人もの人間を殺すのにひきかえ(これはこれでコワーイのだが)、『諸国を ……』のおじいさん二人は存分に悪意を持ち合せている。ここで私たちが目 のあたりにするのは、老人たちの逆襲である。この劇の出演自体が、若者ブ ンカ全盛、若者演劇優勢に対する老人の逆襲と言えなくもない。  三津田健、中村伸郎が実にいい。まず、顔がいい。悠揚せまらぬゆったり したしゃベり方がいい。とぼけた残酷さがいい。まさにその「枯れ」ぶりが いい。  とりわけ二人がテーブルについて食事をする場面―ひと皿、またひと皿と 少しずつ注文しながら、結局宿の亭主が翌朝の分まで仕入れてきた食べもの を全部たいらげてしまうのだ、他の面々には、ぶどうのひと粒もチーズのひ とかけらも残されていない。しかも、何が出てきても「まずい、まずい」と 文句たらたら。ふたりとも遍歴の途中で、乗っていた馬まで食べてしまった のだが、それも「まずかったよ……。ひどいもんだっだ……。あんなことな ら、乗ってた方がよっぽどよかった……」とくる。これを人を食った話と言 わずして何と言う!