S62_10 怪獣ゴジラは結婚詐欺!?  世間知らず清純無垢の美少女と、東宝映画で名をはせたあの怪獣ゴジラが 恋をする。  若手の劇団離風雲船(りぶれせん)の抱腹絶倒ロマン『ゴジラ』(8月19日― 23日 於東京・新宿タイニイ・アリス)は、この荒唐無稽を核として、あたか も六尺玉の花火が夜空を圧するように、笑いと奇想と感興の光を存分に広げ る。  やよいとゴジラが結婚したいとまで言いだすので、彼女の家族もゴジラの 親族―弟のモスラ、その妻ヒグモン―も大あわてだ。やよいの一家は大島元 町に住んでおり、ふたりのデイトの場は三原山の火口。やよいの両親の承諾 を得ようとゴジラが山から降りて来るに及び、元町は対ゴジラの戦闘態勢に 入る。どんな最新兵器にもびくともしなかったゴジラは、だが、やよいの許 婚者の警官が撃った一発の弾丸に倒れる。それはゴジラにとってやよいと同 じ人間になるということだからだ。ところがやよいは、自分が恋をしたのは 身長50m、体重300トンのゴジラであって人間の男などではない、と言い放つ。 その時、三原山の大爆発。避難民たちは次々と巡視船かとりに乗りこむ。せ きたてる家族をやりすごし、人待ち顔に佇むやよい。そこにひとりの若者(ゴ ジラ役と同じ俳優)がやってくる。彼女は「ゴジラ」と彼に呼びかけ、二人は 手に手を取って上船する。  物語の流れに沿ってここまで見てくると、全体が「美女と野獣」の変身・ 恋愛譚の変奏とも読め、またこの幕切れを基点としてハッと振り返れば、大 島元町に住む少女が、昨年十一月の三原山の大噴火に誘われて、自分とボー イフレンド(多分ゴジラという綽名の)との恋を大きくふくらませた夢想とも 読める。心にくい仕立て方だ。  この舞台について特筆すべきは、ゴジラにしろモスラにしろ、怪獣らしい 縫いぐるみを着ているわけではなく、終始Tシャツ・ジーパン風のなりで人 間と区別がつかないということだ。モスラが吐き出す糸に人間たちがからめ とられたり、ゴジラに踏みつぶされそうになる時も、台詞としぐさで表すの み。作・演出の大橋泰彦は、これこそ映画の大がかりな特殊撮影に対抗する 最も効果的な手だということ、つまり、芝居の強味をよく心得ていると言え るだろう。そして、観客の想像力を信じている。  三原山の噴火、ゴジラの到来―巨大、壮大なスケールだ。ところがその一 方で、やよいの両親、祖母たちは、なけなしの家柄にしがみつき、.世間てい を気にする。モスラにしても、出番がなくなった今日このごろ、せっせとマ ユを作って絹糸の家内工業で生計を立て(!)、ゴジラはゴジラで、ミニラとい う子がありながらと、結婚詐欺と言わんばかりの非難を受ける。卑小、倭小。 イメージやエピソードのスケールのこうした伸縮自在がまた大らかな笑いを 生み出しもするのだ。  役者たちが実にいい。達者でありながら悪ずれしていないのが好感がもて る。