S61_10 山中のアンドロイドたち  その日の観劇必需品は、薄いビニールのレインコート、傘、民宿で借りた 座ぶとん等。  その日、八月九日の夕方近くに富山県の利賀村入りした私は、民宿に荷物 を置き、早速野外劇場まで行ってみた。'82年の第一回世界演劇祭でオープン した磯崎新氏設計のすりばち型の劇場の底では、すでに劇団第三エロチカの 役者たちが舞台稽古に入っていた。この劇場の大きな特徴のひとつは背景だ。  舞台奥が切れるとそこからは池、その向うに山々が連らなり、そして空。 反対側から見ると、階段状の客席にかかえられた舞台が水に浮んでいるよう な風情である。東京の小劇場で芝居を打ってきた若い劇団が、この借景をど う手なずけ、どう生かすか――。  山の天気は当てにならない。八時の開演を待って半切りの漏斗の形に客席 を埋めた千人を越す観客の上に、雨が降り出す。「必需品」のお出ましだ。  演しものは『ニッポン・ウォーズ』、作・演出は劇団主宰者の川村毅。彼 はいつもケバケバしくも猛々しい三枚目を演じる怪優でもある。今回も異様 な女装で哄笑を誘った。  時は清輝二十年、ニッポン資本主義共和国連邦、略してニチ連は、カルガ リア全面戦争に突入している。ここは、海底のシロナガスクジラの内部、そ こで超能力をそなえた戦争エリートたちが出撃にそなえて訓練を受けている。 彼らは完璧な新しい人間、すなわちアンドロイドだ。二年半の期間に二百の レッスンを修得することになっている。喜怒哀楽もプログラミングされる。 「レッスン5、はじらいの微笑み。レッスン34、苦笑。レッスン35、オルガス ムス。レッスン39、嘆き。レッスン40、号泣。(中略)レッスン61、服従。 一挙に高度な段階で飛びます。レッスン70、死」という号令に合わせて全員 が思い思いに全身でその感情、状態を表現する場面は圧巻だ。  彼らの過去の記憶すら、どこの誰とも知れない死んだ「人間」の記憶がイ ンプットされている。映画『ブレードランナー』からの優れた引用。それを 知ったアンドロイドたちは彼らのブレイン・パワーを結集させて叛乱を起す。 だがそれさえも「レッスン200、“叛乱”という名のプログラミング」であり、 その中で死んでゆくIという名の戦場コンパニオンとO´という名の男の恋 も「レッスン198、“悲恋”という名のプログラミング。」ここに来て、刃は 私たちに突きつけられる。私たち人間の感情や性格や状況への反応は、果し て本当に私のものなのか。すべてDNAにインプットされた連綿たる「レッ スン」の結果にすぎないのではないか、と。  役者たちは、雨ニモマケズ実にいさぎよくザンブ、ザンブと池にとびこん だ。ドラムかんを浮きにした筏が池を横切り、花火が上がり、強烈な照明が 舞台上の役者の巨大な影を背後の山に焼きつける。霧雨もライトを浴びれば 天与のスモーク。暴力的な密室劇が、広大な自然の中で逆説的な効果をあげ た。