S60_2 ミュージカルの成功は稀なこと  動物が植物を食べるのはごく当たり前。動物が動物を食べる――そこには 弱肉強食の血腥さがつきまとうものの、一応自然の摂理として受け容れられ る。ところが、植物が動物を食べるとなると、まして人間を餌食にするとな ると……。B級恐怖映画『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』('60年)が 作られたのは、そんな単純な「どうだ、恐いだろう」的発想からだったに違 いない。  この映画が、同じタイトルでミュージカル化され、まずオフ・オフ・ブロ ードウェイで幕を開けたのは'82年5月、好評のため7月にはオフに移り、現 在もロングラン続行中だ。日本では'84年8月に東京銀座の博品館劇場で初演 され、去る12月(5日―24日)には同劇場に再びお目見得、'85年の上演も予 定されている。再演・再々演としては異例の早さだ。それもこれも、このミ ュージカルが単なる恐さを超えた様々な魅力をそなえており、また、あまた ある輸入ミュージカルの中でも群を抜いて出来が良いからである。  舞台はニューヨークのダウンタウン。アル中の浮浪者や不良少女がたむろ する一角にある花屋だが、一日店を開けていてもシダ一本売れない有様であ る。ところが、気の弱いドジな店員シーモア(真田広之)が、密かに恋する 同じ花屋の売り娘オードリィ(岡崎友紀)にちなんで「オードリィU」と名 づけ、こっそり育てていた奇妙な花をウィンドーに置いた途端、状況はがら りと変る。店は大繁盛、シーモアもオードリィUの栽培者として一躍マスコ ミの寵児となる。  だがこの花がくせ者で、人間の血を吸わなければ育たないのだ。はじめは 自分の指を切って、まさに心血注いで育てていたシーモアだが、いまや店い っぱいに生長し口まできくようになったオードリィUにそそのかされ、つい にオードリィのサディスティックな恋人(陣内孝則)を「餌」にしてしまう。 次には花屋の主人(宝田明)、次には望みどおり自分の恋人となったオード リィ、最後にはシーモア自身も花に食べられてしまう。そして、花の若芽は 全米、全世界に売りさばかれて……。幕切れには、花の無数の触手が客席の 天井から観客の頭すれすれまでバサッと落ちてきて、みなさん「キャッ!」。 いわばたわいないホラ話なのだが、根は善良でつつましく純でさえある主人 公たちの欲望が、それとは裏腹に肥大化するのに比例して、花がどんどん巨 きくなってゆく様には、安易な教訓臭を笑いとばすエネルギーと凄味がある。  輸入ミュージカルというと、うまくいってコピーのうまさにとどまり、そ うでなければ、歌とか演技とか、それ以前のキャスティングとか、必ず何か がずれてギクシャクしてしまうものだが、この舞台にはそんなホコロビは皆 無である。主役たちからコーラスに至るまで、「いつまでも歌ってて」と言 いたくなるほどの歌唱力。適当にオーバーな演技もこの嘘っぽい話に似合っ ている。