H1_11 のびのびした『会社の人事』  サラリーマンのいる風景――満員の通勤電車、始業まえのひととき、「女 の子」の「お茶くみ」を巡る侃々諤々、企画についてのブレイン・ストーミ ング、ロッカー・ルームでの女子社員の着替え、賑やかなおしゃべり、カラ オケ・バー、家庭、転勤を告げる夫、単身赴任を勧める妻、夫婦それぞれの 情事――。  そんな様々な光景を、それにお似合いの音楽とともにコラージュのように 綴り合わせたのが、MODEの『会社の人事―素敵なあなた―』(9月10日―24日、 東京、青山円形劇場)である。  MODEの舞台装置はいつもとてもシンプルだ。今回も、青山円形劇場をその ものズバリ円形に使い、ゆるやかな起伏をつけて白い砂を盛り固めた中心の 円のうえには七つの立方体が散在するだけ。  観客はその周りを同心円状に取り囲む。役者たち(男優七人、女優七人)も、 出を待つときは舞台と客席の間の各々の席にぐるりと控えている。そして入 れ代わり立ち代わり舞台に昇り、まるでダンスのように――時にはデュエッ ト、時には群舞――相手を替えながら次々とひと駒のドラマをつむぎ出す。  円の上はカレイドスコープさながらに千変万化する人間模様。そういえば 男たちはみなサラリーマンのユニフォームたる背広にネクタイという「暗 色」で、女たちは幾度もファッショナブルな衣装に着替える。この「模様」 はピナ・バウシュの舞台に共通するものだ。  ここでの人間関係やその状況は、たくみにパターンやクリシェを下地にし、 今の風俗を取り込みながら繰り広げられる。  幕切れ近く、男たちがひとり、またひとりとくだんの立方体に腰を下ろし て交わし合うのは『ゴドーを待ちながら』のウラジミールとエストラゴンの 台詞。彼らがそれまでに描いてみせたあれやこれやの人間関係、おかしくて ちょっと切ない状況の残像がかぶさるだけに、サラリーマン群衆としてのウ ラジミールエストラゴンたちの姿は新鮮で、衝撃的ですらある。  MODEの芝居を見るたびに「いい!」と思うのは、俳優たちがみんな魅力に あふれていることだ。常連はいるものの、例えば文学座や中村座に所属して いる役者たちが公演ごとに集まってくる。集団としてのこの緩さが彼らを解 放するのだろうか、とにかくのびのびしているのだ。これは、台本の構成と 演出を受け持つ松本修と彼らが目指す「役者が自分自身で生きる場を選択す る」ことと無縁ではあるまい。見終わってずいぶん時間が経ってからも、ひ とりひとりの姿や表情が鮮やかに思い出せる。実に「素敵なあなた」たちな のだ。  オマケ。ブレイン・ストーミングの場面で出た提案のひとつ――「セブ ン・イレブンと紀文を合併させたらどうでしょう。キャッチフレーズは、セ ブン・イレブンいいキブン」大受け、大爆笑。