独白|
2月5日(水) 宅急便が三つ届く。一つは長谷川幸治さんの戯曲集。辞書みたいに 分厚くて立派だ。副題は「弘前劇場の二つの場所」。「家には高い木 があった」ほか四本の戯曲が収めてあるが、すごいのはそのすべて の英訳も載っていること。二つ目の一番大きな宅急便は、永井愛さん からのもの。以前、筑摩書房のPR誌『ちくま』で秋元松代さんについて 対談したのだが、その下準備のためにお貸しした本を返却してくださった のだ。ポンカンとざくろジュースが一緒に入っている(あとでメールを開け たら永井さんからのお礼のメッセージも来ていて、ポンカンは愛媛産だそうだ。 すごくおいしい。なんて律儀な永井さん)。三つ目は筑摩書房からで、『ペリク リーズ』の見本版が10冊。わーい、嬉しい。いつもながら安野光雅さんの表紙 絵が素敵だ。船上でのペリクリーズとマリーナの再会の場が描かれている。 ペリクリーズの髪の毛と髭が茶色なのを見て、思わずニヤリ。実は安野さん、 勘違いなさったらしく、最初の原画のペリクリーズは白髪白髭だったのだそうだ。 担当編集者からの電話でそれを知り、「マリーナと再会する時点のペリクリーズ の年齢は、多く見積もっても五十歳だから、白髪はまずい」と伝えたところ、彼女 はすぐさま画伯のもとへ飛んでゆき、ペリクリーズを若返らせていただいたのだ。 2月6日(木) 朝日カルチャーセンター。昼間はその準備。『ハムレット』第五幕第一場、墓掘り の場を読む。『ペリクリーズ』の文庫版を披露する。 2月7日(金) 車でさいたま芸術劇場へ。我が家のカリーナEDは車検中なので代車のホンダシ ヴィックで。『ペリクリーズ』の稽古は、1月30日に一応第五幕の終わりまで行った ので、ここ一週間ばかり私はお休みしていたが、すでに2日に劇場稽古に入って いる(それまでは大稽古場で)。シェイクスピア作品のなかでも『ペリクリーズ』は イギリス人にもあまり馴染みのない戯曲なので、ロンドン公演では字幕をつける かもしれない。それのために、そして、プロデューサーのセルマ・ホルトさんのために、 アーデン版のコピーにカットやちょっとした加筆やコメントなどを入れた台本を作って きたのだが、稽古を見ながらそれの最終チェック。ラッキーなことに、今日は第一部 (一幕から三幕まで)の通し。アタマで、体に障害のある旅役者に扮した全俳優が登場 する場面が美しい。音楽の笠松さん、朴さん、照明の原田さん、音響の井上さんら、 すべてが揃って作ってゆく贅沢な現場。楽屋で梅津栄さんが「もう、あした初日でもいい くらいだね」と言うと、「やだよ」と蜷川さん。帰りに加代子さんを与野本町の駅まで送って から帰宅。 2月8日(土) 今日も車でさいたま芸術劇場へ。渋滞のため一時ちょっと過ぎに到着。ちょうど第二 部が始まったばかり。暗い客席を手探り状態で、昨日と同じ席に坐る。小さなライトの ついた所見台に台本を広げ、カットのチェックをしながら見る。女郎屋の場面は活気 があり、ペリクリーズとマリーナ再会の場の感動的なことといったらない。シアターコ クーンの渡辺さんも見にいらして、終ってから笠松さん、渡辺さんと「すごいねー」と 言い合う。5時終了。黙劇の稽古のみ続行。楽屋に戻り、英語台本に新たなカットを加え、 ホリプロの児玉さんに渡す。明日はOFF。実家に寄って母に『ペリクリーズ』をプレゼント、 永井さんからのポンカンのお福分け。そのあと、東京女子大時代のフランス語の恩師・ 二宮フサ先生のお宅に寄り、やはり『ペリクリーズ』を献呈する。うな重をご馳走になり ながらおしゃべり。 香川照之さんの『中国魅録――「鬼が来た!」撮影日記』読了(先月30日に、稽古場に 来ていた宮脇卓也くんが貸してくれた)。すごい本だ。よく生きて帰ってきたと思うほど 苛酷な撮影現場。香川さんの文章がまた素晴らしい。『鬼が来た!』はもうヴィデオに なってるとのこと(この本も、映画も蜷川さんのオススメ)。見よう。 2月9日(日) ぽかぽか暖かい。春だ、春だ。庭の梅はもう八部咲き。でも『ペリクリーズ』の稽古が 休みなので、一日中原稿書き。すでに締め切りを過ぎている『フォーティンブラス』の パンフレット用、パルコ劇場三十周年記念の原稿。締め切り間近な『日経マスターズ』 連載第二回目の原稿については担当の高山さんに連絡しなくちゃ。12日に予定されて いる『ミマン』の対談のために、竹田真砂子さんの本を読まなくちゃ。新潮社のCD−R OM『シェイクスピア大全』に載せてもらう『ハムレット』など8作品の赤字をもう一度チェック しなくちゃ。ああ、くちゃくちゃだあ。 |
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今回は単なる「ひと月のあいだ何やってたか報告」になってます。お許しください。 9月24日(火) 7時半から飯田橋のホテル・エドモント内の中華料理店で『東京人』書評同人の会。 9月26日(木) ホテル・オークラ別館にて文化庁文化審議会の委員会。いったん帰宅して根津へ。「根 津の甚八」でわしらの会。二次会はその並びの居酒屋。夫は向かいにある銭湯でひと 風呂浴びる。彼の昔のくせが久々に出た。 9月27日(金) 文化庁国語分科会。昼食は失礼して、帰りに実家に寄る。 『ペリクリーズ』第四幕訳了。 9月28日(土) ダイジョースタジオで『マクベス』の稽古を見る。しのぶちゃん、今日から参加。昨 日まで『ふくろう』の撮影があったというのだからすごい。 9月29日(日) ベニサンピットで『bash』の千秋楽を見る。大学時代からの親友、大宇根成子さんと 一緒に。終演後二人でタクシーで日本橋三越へ。益子の陶芸家、高内秀剛さん、版画 家の中林忠良さんの作品展。あとから妹も来て、高内家の三姉妹も加わって近くの居 酒屋へ。女ばかりでにぎやかに。 9月30日(月) メセナ協議会。 10月1日(火) メジャーリーグ『ハムレット』顔寄せ、稽古初日。パンフレット用に笹部さんのイン タヴューを受ける。 10月2日(水) 俳優座アトリエにて欧日舞台芸術交流会『マクベット』の公開ゲネ。ライミングの中 島晴美さんを誘う。なかなかいい。『ヴェニスの商人』のときよりみなさんレベルア ップ。和田さんの音楽が斬新。いつもけっこう辛口の晴美さんも「いいもの見せても らった。カラミトルさんと仕事をしたい」と喜んでくれた。是非とも凱旋公演をして もらいたい。 10月3日(木) 朝日カルチャーセンター。『ハムレット』第三幕第二場、劇中劇の終わりの部分から 「寝室の場」に入る直前までを読む。 10月5日(土) シアタートラムで二兎社の『新・明暗』を見る。ニューヨークから来たローレン・エ デルソン(永井さんの『萩家の三姉妹』の英訳をした人)と一緒に。これは傑作。「新・ 明暗」というより「喜劇・明暗」。津田と清子と姿を見せない関(清子の夫)との関 係が『それから』そのものだということにも気づかせてくれた。お延と清子(山本郁 子)、吉岡夫人と天道(津田と清子が温泉で同宿する)の妻と称する女(木野花)、津 田の妹と延子の妹(小山萌子)をダブリングにしてあるのも効果的。とにかく役者が みんなぴたりとした役を得て、血を躍動させている。パチパチ(拍手)。 10月6日(日) AICT臨時総会。東大駒場。世田谷パブリックシアターのセミナールームでAICT賞 と『シアターアーツ』賞の授賞式、シアタークリティック・ナウ2002のシンポジウ ム。授賞式だけ出て実家へ。健(ベルリン留学中の甥)の一時お帰りなさい会。 10月7日(月) 『ハムレット』のリハーサルを見てからシアターコクーンへ。『マクベス』通し稽古。 開始時刻が5時に変更になったのを知らなかったのだが、滑り込みセーフ。蜷川さん は明日から『夏の夜の夢』のカンパニーと一緒にパリへ。帰りにロンドンに寄って NTのオリヴィエ劇場を見てくるのだそうだ。帰りは17日。それまでにゼッタイ『ペ リクリーズ』訳了するぞ。 10月8日(火) 『マクベス』ゲネプロ。実は昨日の出来がイマイチで、正直言って青ざめたが、それ が嘘のような上出来だ。マクベス夫人の夢遊病の場では、「地獄は暗い」と言ったあ との溜め息がすごかった。全身の血からエネルギーまで全てが地に流れ落ちてしまう かのような「ああーー」だった。 10月9日(水) もうアネモネの芽が出てきた。いいのかなあ、早すぎない? これから寒くなるって いうのに。 『マクベス』初日。 10月10日(木) 田原町の円スタジオで『ブラインドタッチ』を見る。いい芝居。坂手さんがこれほど 見事に女性の微妙な心の揺れを書くとは。岸田今日子さんと塩見三省さんの息もぴっ たり。劇中たった一度だけ彼が彼女の名前を呼ぶところでは涙があふれた。この作品 のモデルになった女性(夫君はいまも獄中にあるという)も見にいらしていた。英語 に翻訳して上演したら、どの国でも理解と共感の得られる芝居だと思う。 10月11日(金) 一日在宅。『ペリクリーズ』ほとんど訳了。残りはエピローグの18行だけ。蜷川さん の帰国に間に合うのは間違いない。タコの桜煮を作る。まず大根で生タコをがんがん 叩く(レシピはインターネットで調べた)。なんとも間抜けな調理風景だが、その甲 斐あって出来は上々。そのあとで鶏レバーの山椒煮を作る。 10月12日(土)、13日(日) 小淵沢で馬に乗る。ほとんど半年ぶりなのでなかなか勘が戻らず。土曜日には初めて の落馬を経験。トホホ。 13日は「めいっぱいの日」と名づけよう。午前9時50分から一時間乗馬。清里の妹 の別荘へ。ちょっとだけテニスのラケットを振って、妹が最近購入した素敵な敷物(ギ ャッベ)を見せてもらって帰路につく。実家の母が2日間ひとりきりだったので、顔 を見に寄る。清里みやげをわたす。途中で梟座の管理人さんから携帯に電話が入り、 調布の花火を見に来ないかとのお誘い。一旦帰宅し、昨日作った桜煮とレバーを手土 産に夫と出かける。すごかった。打ち上げ場は二箇所なのだが、それが両方とも広い 窓いっぱいに見える。特等席だ。泉もしばらくしてベニサンからバイクで駆けつける。 大興奮。 10月14日(月) 『ペリクリーズ』遂に訳了! まだまだ不明な点はあるのだけれど、とにかく終わり まで辿り着いた。早速ホリプロの栗田さん、筑摩書房の打越さん、そして河合祥一郎 さんにメールで送信。すぐに脚注作りにかかる。或る程度は翻訳作業と平行して書い てきたが、なるべく細かくそれを補うこと。 10月15日(火) ドイツ文化センターのペトラさん宅でパーティ。ベルリナー・アンサンブル『リチャ ード二世』来日公演関係者のひと月遅れの打ち上げを開いてくださったのだ。 10月16日(水) 昼はザ・スズナリで燐光群『最後の一人までが全体だ』、夜は南青山の草月ホールで 日本総合悲劇協会『業音』を見る。 10月17日(木) 原宿クエストホールでイッセー尾形・桃井かおりの二人芝居を見る。 10月18日(金) 新潮社の葛岡さん来宅。新潮選書(三年にわたって講談社の『本』に連載していた「シ ェイクスピアもの語り」)の打ち合わせ。 5時から渋谷で河合祥一郎さんと対談。さいたま芸術劇場の『ロトンダ』のために『ペ リクリーズ』について。 10月21日(月) 彩の国さいたま芸術劇場のシェイクスピア委員会。フランスから帰国したばかりの蜷 川さん、元気。次回の演目は『タイタス・アンドロニカス』かな? 10月23日(水) 下北沢・本多劇場で加藤健一事務所の『バッファローの月』を見る。大笑い。左時枝 さん素敵。 10月24日(木) 『マクベス』東京千秋楽。 夜は赤坂ACTシアターで『エレファント・マン』を見る。 10月25日(金) グローブ座のスタジオで『ハムレット』の通しを見る。面白い、面白い。歌ありダン スありだが、笹部さんが言うように決して奇をてらったものではない。『ハムレット』 に正面からがっぷり四つに取り組んでいる。安寿ミラさんのハムレットからは、シェ イクスピアの言葉を生きる歓びが伝わってくる。演出・栗田さん、振付け・舘形さん、 音楽・宮川さんのチームワークの良さ! 10月26日(土) 昼は世田谷パブリックシアターでロベール・ルパージュ作・演出の『月の向こう側』 を、夜は新宿シアター・トップスで劇団道学先生の『無頼の女房』を見る。いい役者 ぞろい。大西多摩恵が相変わらず魅力的だ。 10月27日(日) 夫がメンバーになっている歌の会「Nahの会」の第13回おさらい会。霞ヶ関ビルの 最上階、東京會舘が会場だ。私はヴィデオの撮影係。快晴に恵まれたので外の景色も 収めた。お客様も大勢で、なごやかないい会だった。みなさんホントに実力がついた もんだ。86歳の八木さんの美声には、私も含めてファンが多数。 29日から11月5日までフランスのル・アーヴルとドイツのミュンヘンへ行ってきま す。ル・アーヴルは欧日舞台芸術交流会の『マクベット』ツアーの最終公演地。みん な元気でやってるかな。ルーマニアとパリの公演はどんな具合だったんだろう。ミュ ンヘンに寄るのはイッセーさんと桃井さんの二人芝居を見るためです。 |
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9月6日(金) 新国・ペーター・シュタイン演出の『ハムレット』ゲネプロ。12時からの場当たりも 泉と一緒に見る。イヤフォンガイドのチェックも兼ねて。 終演後ロビーの一角で朝日カルチャーの受講生のみなさん(イヤフォンガイドのモニ ターもしていただいた)に30分ほどレクチャー。繊細で稚気のある(フェンシング の試合の場でガートルードに向かって「マーマ!」)魅力的なミローノフのハムレッ トが、いかにハナから死に魅入られているか。それは、最初の亡霊との出会いの場で 白光を浴びてすっぽり亡霊に抱き取られるところ(ドキッとした)から、幕切れでハ ムレットの亡骸に亡霊がまとっていた白布をかけてやるところまで、また、墓場の場 で、まるで頬ずりでもするかのようにヨリックのしゃれこうべを自分の頭に寄せる仕 草などに如実に表されていること。父と息子の絆の強さ。内憂外患の芝居である『ハ ムレット』からノルウェイとデンマークの確執からフォーティンブラスまでをすっか り省くことによって、シュタインは「内憂」のみの芝居に仕立てたこと、などを話す。 9月7日(土) 中学の同期会に30分だけ顔を出して(なつかしい顔々、担任の泉先生にも会えた) 『ハムレット』初日へ。ディスコの場の女性が上半身ハダカになっているのにはびっ くり(もっとあとになって見た人から聞くと、二人が一人になり、しっかりジャケッ トを着てるというふうに再変更したらしい)。終演後、マエストロで打ち上げパーテ ィ。シュタインさんは劇中劇をオペラにしたが(劇中の王妃役は女性ではなくカウン ターテナーであることが判明)、「なぜ?」と尋ねたところ、黙劇と台詞劇の両方をや ると長くなる、両者を一つにまとめるにはオペラしかないでしょう、という返事。な るほど。朝日新聞の山口宏子さん、演劇ライターの谷田尚子さんと近くの居酒屋でち ょっと飲んでちょっと食べて大いにおしゃべり。 9月8日(日) オーチャードホールで『フィガロの結婚』を見る。素晴らしい。リチャード・エアの 演出だけあって、極めて演劇的。 9月9日(月) 文化庁に書類を届けたあと、長官室をのぞいたら河合さんがいらしたので一時間ほど おしゃべりする(読売新聞の「日記から」に書かれちゃった。「駄洒落の応酬」とあ るが、こちらは辛うじて一矢むくいたのみ)。『ミマン』十二月号の鼎談のため渋谷へ。 シアターコクーンの前で蜷川さん、松井今朝子さん、担当編集者の友野さん、カメラ マンの南さんと助手さんらに会い、まずは写真撮影。会議室へ移動して鼎談。盛り上 がる。私は常々、シェイクスピアのアイアンビック・ペンタミターは、歌舞伎の七五 調と同じく台詞を覚えやすくするという目的・効果もあるのではないか、と密かに思 っていた。いい機会なので松井さんにうかがってみたところ、「ああ、そうかもしれ ません、目から鱗」というお答え。いろいろと収穫のあった鼎談だが、これもその一 つ。話は尽きず、カフェ・ドゥ・マゴで食事をするあいだもテープは回る。オフレコ の話が続出。9時半ごろお開き。 9月10日(火) 東急セミナーBEの清水さん来宅。受講者のみなさんのアンケートをコピーして持っ てきてくださる。 9月11日(水) コクーンでベルリナー・アンサンブルの『リチャード二世』を見る。これまで見てき た『リチャード二世』のなかで最高の舞台。白と黒に統一したスタイリッシュな舞台 は、後半にいたり、泥とガラクタまみれになる。舞台に転がる死体が幕開きと幕切れ に繰り返される(最初はおそらくグロスター公爵のそれ、最後はビニールをかぶされ たリチャードの亡骸)。歴史は片付かないもの、歴史上の汚点は消せないものだと痛 感させられる。大胆なテキレジ。一瞬一瞬が鮮烈なイメージとなって脳裏に焼きつく (アイルランドから帰国したリチャードの背後のスクリーンに、戦火の煙が立ち昇っ ているといった小さな一景にいたるまで)。王とその取り巻きが興じるビリヤード、 シャンパンの瓶が並び、退廃的な雰囲気。ジョン・オヴ・ゴーントとのちにヨーク公 爵夫人が坐る車椅子の効果的な使い方。舞台下手の壁に取り付けた水道がなんと様々 な場面で活躍することか(王位に就いたあとのボリングブルックがホースで壁の落書 きを必死で消そうとしたり)! もともと影の薄いキャラクターである王妃イザベラ だが、「影の薄さ」そのものを強烈な存在感をもって描くという逆説を可能にしてい る。すごい。感受性が鋭く、思いやり深い人物という造形。リチャードのホモセクシ ュアリティをほとんど消してあるので王と王妃の愛が際立つ。 Down, down I come.の場、細い頼りない黒い梯子を降りてくるリチャード(14日の ポストトークで聞いたのだが、メルテンスさんは高所恐怖症なんだって!)、鏡を無 造作にポイ、ガチャンとやる絶望。 だが、なんと言っても圧巻だったのは、王座を追われたリチャードがロンドン塔へ向 かう場面(第五幕第一場)。リチャードに向かって上手下手から泥玉と空き缶がバン バン投げつけられる。彼は両腕で頭を覆いながら歩いてくる。壁も彼の背中も泥まみ れになる。かわいそー。イザベラは下手舞台前の片隅で新聞を読みながら彼を待って いる。イザベラの真っ白なドレスも泥まみれ(毎日の衣裳の洗濯が大変なのだそうだ)。 5月にベルリンへ行き、芝居を見て、「ここではトンガッタ舞台じゃなきゃ誰も見向 きもしないらしい」と思ったものだが、このRIIを見て、改めてそう思った。また行 くぞ、ベルリン。それにつけてもベルリナー・アンサンブルの来日はこれっきりにし て欲しくはない。 9月12日(木) 新国立劇場で『椿姫』を見る。ひどい。ダサい。日本人の歌手よ、まず姿勢をよくし ろ。歌手である前に、とは言わないが、役者たれ。『フィガロの結婚』の歌手たちを 見習え。みんな優れた歌手・役者じゃないか。 9月13日(金) ようやく『東京人』のための『似せ者(にせもん)』の書評を書き終える。 9月14日(土) 10時15分から11時15分まで新国立劇場・中劇場のロビーで「ちば演劇を見る会」 の方々を前に『ハムレット』についてレクチャー。1時から2時半まで朝日カルチャ ーで串田和美さんと対談。その足でシアターコクーンへ。『リチャード二世』を見た あと、ポスト・パフォーマンス・トークの司会。演出のパイマンさん、ドラマトゥル グのユタ・フェルベルスさん、リチャード二世役のミヒャエル・メルテンスさん、グ ロスター公爵夫人・ヨーク公爵夫人役のカルメン=マヤ・アントニさん、ボリングブ ルック役のファイト・シューベルトさんらも参加。パイマンさんは雄弁で、話し出し たら止まらない。通訳さんは大変だった。泥玉の土は日本の土で、役者みんなして舞 台裏でおだんごにしてるのだそうだ。ドイツの土より日本の土のほうがまとめやすか ったとか。オーマールが壁に大きく「RII forever Boling」(王冠マークも)と書く シーンは偶然稽古中に生まれたそうだ。白塗りのメイクはサーカスのクラウンのそれ で、リチャードが時間の経過とともに白塗りが剥げて素顔になってゆくのに反比例し て、ボリングブルックはどんどん圧塗りになってゆくということも確認。いろいろと 面白い話が聞けて、司会者としても大満足。大勢残ってくださったお客さんの笑顔か らも満足感がうかがえた。 終ってからゲーテ・インスティチュートのペトラさんのお宅へ。話題の一つ。ペータ ー・シュタインの『ハムレット』ではガートルードとオフィーリアが、クラウス・パ イマンの『リチャード二世』では王妃イザベラが、やたらに気絶する。ヨーロッパ・ アメリカの上流階級の女性がきついコルセットを締めていた時期、彼女たちはしょっ ちゅう気絶していたと聞く。気絶は「女らしさ」のアピールでもあったのだ。 「(シュタインとパイマン)演劇観は違っても女性観は同じなのね」とペトラさんも いたずらっぽく笑う。 津の太田さん来宅。彼は今日『bash』を明日『リチャード二世』、月曜に『ハムレッ ト』を見る予定。 9月15日(日) 豊洲のダイジョースタジオで『マクベス』の稽古を見る。大竹さんは新藤兼人監督の 『ふくろう』の撮影が終ってから参加。28日ごろになるそうだ。再演だけあって、 蜷川さんの演出が精緻になっている。魔女役は松下さんが抜けて梅沢昌代さんが入っ ている。でも、初演で松下さんがやった魔女一は、今回は神保さん。唐沢寿明さんの マクベスは相変わらずほれぼれするほどいい。彼もテレビがあって明日から当分お休 みだそうだ。 9月17日(火) 『マクベス』NY版のためのサブタイトル(字幕)原稿をようやく仕上げる。きのう はもう一度ペーター・シュタインの『ハムレット』を見る予定だったのだが、それも キャンセルして一日中ぶっ通しでコンピュータに向かってた。今日、午前中に第五幕 を終え、へろへろ状態でダイジョースタジオへ行ってみると(これだけ働いたんだか ら少しは自分を甘やかしてもいいだろうと豊洲からタクシー)、もう稽古は終ってた。 ガックリ。唐沢さんもしのぶちゃんもまだ出てこられないので「やることなくなっち ゃった」とは蜷川さんの弁。スタジオではミュージシャンの録音が始まったので、ほ とんどUターン状態で栗田さんの車に乗せてもらって豊洲駅へ。栗田さんはすぐさ まサブタイトル原稿をBAMにメールしてくれるはず。「パンフレットの原稿はいつ いただけますか?」ときた。はいはい、すぐやります。 9月21日(土) 欧日舞台芸術交流会の『マクベット』の稽古を見に行く。カラミトルさんの演出、冴 えている。今回、舞台美術は小竹信節さん。助手さん二人と一緒に登場。10月2日 に俳優座のアトリエで12:00から公開ゲネをやるので、ご覧になりたい方はどうぞ。 蜷川新『マクベス』プログラム用原稿の仕上げは明日にしてもう寝ようという時にな って、村上春樹の新作『海辺のカフカ』上巻を読み始めてしまう。面白くてやめられ ない。こうなったら本気で読もうとベッドから出て、隣りの部屋を覗いたらまだ明か りがついていて、泉もベッドの中で下巻を読んでいる。顔を見合わせてニヤ。泉も起 き出してきて、下の居間で。とうとう朝6時に読了。それから寝る。 9月22日(日) 庭の彼岸花が満開になった。 新国立劇場大ホールでローラン・プティ振付・演出の『こうもり』を見る。 『マクベス』プログラム用原稿を書き終えて、栗田さんにメールで送る。 9月23日(月) キンモクセイの匂いが空気を染めている。スイセンの球根を植える。 俳優座劇場でこんにゃく座のオペラ『十二夜』を見る。オペラにふさわしい芝居だと 改めて思う。カフェに入って『海辺のカフカ』下巻の続きを読む。読了。好きだ。 六本木で真田広之さんのMBE叙勲をお祝いするパーティ。 |
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8月30日(金)―31日(土) 新幹線で名古屋へ、そこから近鉄に乗り換えて三重県の津へ。グローブ座カンパニー 「子供のためのシェイクスピア」『ヴェニスの商人』の大楽を見るのが目的。津の駅 に太田智子さんが出迎えてくれる。タクシーで太田歯科医院へ。太田夫妻は、私が東 京医科歯科大学に着任した年の一年生だった。ついでに歯を診てもらう。このままの 状態を維持すれば、80歳になっても入れ歯はいらないと言われ、ニコニコ。太田く んの運転でフレンチ・レストランへ、それから劇場へ。満席。いい舞台。終演後の打 ち上げには太田夫妻も参加。この上演の大きな力になってくれた地元の女性たちの NPOメンバーも。「子供のためのシェイクスピア」を続けて、という熱いエールをい ただく。私も挨拶。「幕切れで『さあ、出発だ』とみなさんが言ったあと、全員で船 を漕ぐ仕草をしながら舞台を巡りますが、オフィシャル・サポーターである私もその 船に乗せてください!」 ホテルに戻って「部屋飲み」(こういう言い回しがあるのを初めて知った)。山さんの 部屋に集まったのは田中浩司さん、戸谷さん、山さんのマネジャーの内藤さん、グロ ーブ座制作の峰岸さん、樋口さん、私の7名。午前4時まで話し込む。 翌朝10時ちょっと過ぎ発の列車に乗る。ほとんど寝てないので頭がボー。 東京着。一旦帰宅(荷物が結構重かったので)。4時から東京グローブ座のお別れ会。 7時、四谷三丁目の消防署前に扇田門下生の有志集合。『マクベス』のリーディング。 ひと幕ごとにキャストを変えて読む。料理よし、ワインよし、大いに盛り上がる。 9月1日(日) ベニサン・ピットでTPTの『bash』を見る。夫、妹とその娘と一緒。秋山奈津子さ ん、千葉哲也さんが素晴らしい。千葉ちゃんの男っぽい色気に感嘆。終演後、泉も加 わり、森下駅近くの「京金」でおいしーいお蕎麦を食べる。泉のデザインGOOD。 9月2日(月) 銀座みゆき館劇場でライミングの『イースト・イズ・イースト』を見る。 松本佑子さんに会う。 9月3日(火) PARCO劇場で『おかしな二人』女版と男版を見る。あいだに東武ホテルで腹ごしら えをしたのだが、女性用トイレでYOUさん。思わず話し掛けてしまった「YOUさ んですね、このあいだ『アチャラカ再誕生』見ました。」 女版のほうがいい。小林聡美、小泉今日子ほか、息が実によく合っている。フィリッ クスとフローレンスは共に「過剰なまともさ」が問題、という人物なのだが、陣内さ んのフィリックスのほうはハナから奇人・変人になってしまっている。男女どちらの ヴァージョンでも、サイモン劇の例にもれず3分ごとに大笑いしたけれど。 9月4日(水) 我が家のソーラーシステムがいよいよ稼動開始。東電との契約。契約書のうえでは、 我が家は「松岡陽一太陽光発電所」とか言うらしい。 『マクベット』の稽古場へ。カラミトルさんと再会。キャストのほとんどが去年の『ヴ ェニスの商人』と同じ。シャイロックをやった中野誠也さんは、今度はダンカン役。 1998年の暮れ、リウマチ熱でぶっ倒れたときお世話になった銀座内科診療所の九鬼 さんからのメール。患者さんの一人がロンドンのグローブ座で『十二夜』を見たとき、 展示室にいろんな展示物と並んで『絵本シェイクスピア劇場』が飾ってあるのを見つ けたそうだ。『十二夜』のページが開いてあったんですって! 嬉しい。それと同じ くらい嬉しいのは、九鬼さんが『絵本シェイクスピア劇場』を診療所の待合室に置い てくださってること。 9月5日(木) 新国『ハムレット』ドレスリハーサル。二部を見てから英国大使館へ。真田広之さん のMBE叙勲式&パーティ。嬉しや、和田誠さんと再会。平野レミさんとご一緒だっ た。自己紹介して「マシュー」の番組のお料理コーナーを楽しんでること等々を話す。 英国大使の見事な日本語のご挨拶には、蜷川さんの叙勲のときも感嘆の溜め息が出た が今回も。終ってから山口猛さんとダイアモンド・ホテルのラウンジでおしゃべり。 |
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8月15日(木) 新宿梁山泊『吸血姫』を新宿花園神社で見る。久しぶり。唐さん、シモンさん、あん ぽさん(唐芝居の音楽を数多く手がけている)など、ゆかりの人が大勢。舞台も唐組 と梁山泊の合同公演のおもむきあり。 8月16日(金) JIS企画の『今宵かぎりは』を下北沢、本多劇場で見る。岡本健一くん、新国立劇 場での初演よりレベルアップ。 8月19日(月) シアターコクーンで蜷川演出の『夏の夜の夢』を見る。劇場に一歩足を踏み入れ、ま だ無人のまま静かに光を浴びている竜安寺石庭ふうの装置を見たとたん、イケる!と 思う。私は、ベニサン・ピットでの初演以来、この作品を東京グローブ座、イギリス のプリマス、さいたま芸術劇場などで見てきたが、舞台のたっぱ、間口、奥行き、客 席との関係など、どれをとってもコクーンはベストだ。ティターニアがロバ化したボ トムや妖精たちとともに、七色の光に包まれて正面奥へ引いてゆくときの幸福感、あ まりの美しさに涙が出てきた。別種の涙を誘われたのは、四人の恋人たちが、森での てんやわんやの果てに疲れきって眠るところ。蜷川演出では、一人一人がばらばらに 寝かされるのだが、こういうステージングは他に類を見ないと思う。それぞれの孤独 感が痛いほど伝わってくる。この芝居のテーマは「愛の回復」だが、「回復」を描く ためには、まずそれがどれほど「壊れて」しまったかを描かねばならないはず。蜷川 さんはそれをしっかり描いている。東急セミナーでも言っていらしたが、このシーン にはずいぶんこだわったそうだ。 8月20日(火) 新橋演舞場で『アテルイ』を見る。傑作である。戯曲、演出、キャスティング、舞台 美術、禁欲的にレーザー光線を使った照明、そしてヘア・メイク(ドーランの色、目 張りの入れ方などで『アテルイ』世界に共通する「顔」のベースを作り、その上で個々 のキャラクターの個性を表現)から衣裳までが、これほどぴたりと決まった舞台は稀 有だと思う。100%のエンターテイメントであり、カタルシスそのものの劇なのだが、 それを更に超えたもの、突き抜けたものがある。幕切れで「ねぷた」が現れたときに は滂沱の涙。そして厳粛な気持ちになる。古今の、そして東西南北の少数民族はみん なこういう風にヤラレてきたのだ、と思わせられるからだ。全体に漂う品格、洗練。 それにしても市川染五郎と堤真一の素晴らしさ。切れのいい動き、すきっとした立ち 姿、爽快ですらある見事な口跡、かっこよさ、なんとも言えない愛嬌。どれをとって も惚れ惚れさせられる。水野美紀、鈴鹿という役のために現れたような女優。西牟田 恵、これまで見てきた彼女の芝居で最高の出来だ。『アテルイ』は美しく、凛々しい 芝居だ。豪胆にして優雅。中島・いのうえコンビだから、もちろん笑いもある。出て いる役者みんなに見せたい舞台だ。あなたたちはこんな素敵な芝居を創ったのよ、と (終演後、楽屋を回ったとき、植本潤さんには直接そう言ったけど)。 8月22日(木) 原宿クエストホールでイッセー尾形と桃井かおりの二人芝居を見る。イッセーさんと 桃井さんの二人で書いた四つの男女関係が、例によって舞台上で衣裳を替えて描かれ る。お見事。プロレスラーと人妻(これには三人目の人物あり、人妻の夫。客には見 えない。「二人芝居」がふくらむ)、高校生のカップル(学生服とセーラー服の高校生 が、痴話喧嘩をしているうちに、その姿のまま時間の早や回しで中年男女になってゆ くようなおもむきあり)、どこかの海をクルーズしている客船に乗り合わせた芸人 (男)と日系二世みたいな女、それぞれ子連れ離婚した男女(トリュフォー監督の映 画『男と女』を想起させる。そこは男の家。隣室に子供たちを寝かせ、幼稚園だか保 育園だかのお楽しみ会用の寸劇を二人で稽古するという設定。トラとブタのお面を手 にして。すごーくエロティック)。終演後、ロビーで演出の森田雄三さん、制作の森 田清子さん、イッセーさん、桃井さん、ヨネスケさんらと歓談。彼らの二人芝居に大 きな可能性を感じる。いい一晩。 8月23日(金) ヨーガン・レールの風呂敷展に寄せる文章を書き上げて、プレスの高嶺さんにメール で送る。夕方、実家へ。新潟りゅーとぴあの山本さんが枝豆を送ってくださったので、 お裾分けも兼ねて。新潟の枝豆(茶豆)サイコー。 8月24日(土) 東急セミナーBE「シェイクスピアを120%楽しむ」の最終回は、蜷川さんへの公開 インタヴュー。『ペリクリーズ』の第四幕をなんとかして訳了し、その前に蜷川さん に渡したいと、このところ日夜がんばったのだけれど、あと110行を残すところで時 間切れ。でも、A4の紙にプリントアウトして14ページは渡せたから、ま、よしと するか。インタヴューのメモを作り、念のため『夏の夜の夢』のパンフレットもバッ グに入れて、6時少し前にセルリアンタワーへ。 「このあいだお嬢さんに会ったよ」「あ、泉も言ってた、ベニサンの駐車場ででしょ?」 「そう、ヘルメットばっとはずした顔みたら、おおっ!」 そうです、泉はポンコツバイクで酷暑のなか毎日ベニサン通い。 セミナーは、蜷川さんがいつものようにびっくりするくらい率直にいろいろ話してく ださり、聴講生の満足度ががんがん上がっていくのが分かる。終ってから、一階のラ ウンジでコクーンの渡辺さんと三人で一休み。加代ちゃんのときもいらしてた大阪の お嬢さん二人、蜷川さんを「張って」た。感動的と言っていいほどの熱意だ。蜷川さ んももう顔なじみらしい。 8月26日(月) 原宿ラフォーレミュージアムで空飛ぶ雲の上団子郎一座の『アチャラカ再誕生』を見 る。笑った笑った。三谷幸喜さんが終始一貫あのポーカーフェイスで素晴らしい演技 を見せる。これ、是非つづけてほしい。 8月27日(火) やっとのことでハムレットについての原稿を書き上げ、ユニオン・パブリケーション ズの佐藤さんにメールで送る。新国立劇場で9月7日からペーター・シュタイン演出 の『ハムレット』が上演されるが、これはそのパンフレットに載せるもの。ぎりぎり もいいとこだ。新国のパンフ用原稿は一度落としてる(岩松さんの『「三人姉妹」を 追放されし・・・』)。前科一犯だから、今回は死んでも間に合わせなきゃならないのだ が、いつもの例に漏れず手間取った。タイトルは「ハムレットの思考パターン」。こ の人物が驚き呆れるほど様々な場面で様々な「比較をする」ことに気づいたのでそれ について書いたのだ。まず時間がかかったのは、その「現場」を抑えてノートに書き 出すこと。原稿の中で列挙した以外にももっとある。いずれこの原稿をふくらませ、 ハムレットの「比較癖」の意味合いについても更に突っ込んだものを書かねばならな い。 そんなわけで、日本劇団協議会10周年記念のパーティは欠席。開会は4時だから、 無理をすれば途中からでも顔を出すことは出来たのだが、その無理をする気力が出な かった。すみません。 夜は、シアターXで水と油の『SOUP』を見る。ミステリアスでおかしい。そもそも 彼らが神楽坂のセッションハウスでやったこの作品のヴィデオを見て、グローブ座春 フェスに是非参加してもらいたいと思ったのだった。水と油の斬新さは数々あるが、 黒い山高帽の四人のメンバーが黒子の働きをする点もそのひとつだと改めて思った。 泉は今夜TPTに泊まり。『イースト・イズ・イースト』もベニサンのスタジオのひと つで稽古をしているので、『BASH』の仕込みの終ったピットとのあいだを行ったり 来たりしているらしい。 8月28日(水) メジャーリーグから『ハムレット』の上演台本、チラシ、予定表が届く。ハムレット (安寿ミラ)、ホレイショー(旺なつき)以外は全員男性が演じる。ポローニアスも クローディアスも歌う(!)のだ。どんな『ハムレット』になるんだろう。 |
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8月7日(水) 炎天下、赤羽の国立国語研究所へ。「外来語」委員会に出席。この日が第一回。 夜、8時半ごろから夫と明大前駅から下高井戸駅までの線路沿いの道とその近辺を歩 く。モルトとおぼしき猫を見かけたとの情報が泉の携帯に入ったのだ。私が国語研究 所に行ってるあいだに、夫はすでに自転車で見回ってくれた。 8月8日(木) 熱暑の一日。『ペリクリーズ』の訳は第四幕に入る。 9時半ごろ夫と一緒に家を出て、再び明大前から下高井戸へ。「山猫亭」という喫茶 店と「より道」という居酒屋さんににモルト捜索のポスターをはってもらう。山猫亭 のお客さんから、その近所の公園によく猫が集まってると聞いたので、帰りに寄って みたけれど、今夜は猫の気配もなし。おーい、モルト、この辺にいるのかい? ます ます『ノラや』の内田百關謳カの心境になってきた。 8月9日(金) 燐光群の『チャーリー・ヴィクター・ロミオ(CVR)』の追加公演を夫と一緒に見る。 夫は昔YS11の設計をしていたので興味があるんじゃないかと思い、誘ったのだ。 CVRとはCockpit Voice Recorderの頭文字。ザ・スズナリは超満員。スチュワデス に扮した三人の女優が救命胴衣の説明をし、そのなかに劇場では昨今おなじみの「携 帯電話は使わないで」のアナウンスをさりげなく挟み込む(うまい!)。この一種の プロローグはアメリカでのオリジナル公演にはなかったそうだが、これが一気に観客 を乗客の立場と気分に誘い込む。取り上げられているのは6件の事故。いずれも墜落 のその時までCVRに収められた機長らの必死の会話が、途切れないエンジン音とと もにそのまま再現される。音と会話が突如の暗転と同時に途切れることがクラッシュ を表す。迫力そのものの舞台。役者たちがホンモノのフライト・クルーに見えてきて、 カーテンコールのときには拝みたくなったくらい。このところ坂手さんはほんとにい い仕事をしている。 夜は初台のアジアン・パームで暑気払いの会。演劇評論家の扇田昭彦さんは、非常勤 講師として早稲田大学で教えていらしたことがあるが、当時の学生と「友達の輪」の 有志が年に何回かあれこれ口実を設けては集まるのだ。大いに盛り上がる。今回扇田 さんは、高校演劇全国大会の審査のため欠席。 8月10日(土) 午後3時から世田谷パブリックシアターで『間違いの狂言』グローバルヴァージョン を見る。上手下手の電光掲示板に英語の台詞が出る。ロンドンのグローブ座でもこん なふうだったのかと、その様子を髣髴とさせる。初演のときより全体に「締まった」 感じ。込み入った話もより明快になり、笑いのつぼも決まっている。作者の高橋康也 さんのご一家もお揃いで客席に。高橋さん、さぞご覧になりたかっただろうな。能や 狂言の新作は次々に作られているけれど、そのうち残るのはどれくらいあるだろう。 『法螺侍』(やはり高橋さんが『ウィンザーの陽気な女房たち』をもとにお書きにな った)と『間違いの狂言』はきっと残ると思う。 5時から野村萬斎さんの世田谷パブリックシアター芸術監督就任を祝うパーティ。萬 斎さんの挨拶を聞いてからそっと抜け出す。 6時半から渋谷セルリアンタワーで「シェイクスピアを120%楽しむ」の第二回。白 石加代子さんと能舞台で『夏の夜の夢』を中心にトーク。途中でティターニアがオー ベロンと出会うところを演じてくれ、最後には『源氏物語』から「六条御息所」のく だりを読んでくれた。加代子の多面的な魅力に聴講のみなさんがうっとりしているの が舞台から「目に見える」。フロアから沢山質問が出たのもうれしかった。終って楽 屋で休んでいると、「白石さんにご面会」とのこと。若いお嬢さんが二人。二人とも はるばる大阪からいらして、一人はすぐ新幹線で、もう一人は夜行バスで帰るのだそ うだ。感動。こういうお客さんが芝居を支えてくれてるのよね。加代ちゃんの発案で、 高木町の中華料理店・虎萬元へ。夫君・深尾さん、プロデューサーの笹部さん、 Bunkamuraの渡辺さん、私の五人。『リチャード三世』をやってたとき、エリザベ ス役の有馬稲子さんが市村さんと私をここに招んでくださったことがある。インテリ アが渋くおしゃれで料理は抜群。ことに黒酢のたれをからめた独特の酢豚は絶品だっ た。うーん、世の中にはまだまだ食べたことのないおいしいものがあるもんだ。 8月11日(日) 今日も酷暑。いとこ煮(カボチャと小豆の甘辛煮)を作り、それと、浜田山の神戸屋 で買ったバターフランスその他を手土産に実家へ。夕方までいて、母と妹と一緒に食 事。お寿司をごちそうになる。 8月12日(月) 公明新聞への『ガートルードとクローディアス』の書評原稿、たった700字なのにま だ書けない。締め切りはとっくに過ぎている。 8月13日(火) 『ガートルードとクローディアス』の書評、どうにかお昼前に上げてメールで送る。 メール様々だ。 夕方4時半に新宿ワシントンホテルのロビーで安野光雅さんと妹と待ち合わせ、お蕎 麦を食べてからタクシーで練馬文化センターへ。こまつ座の『太鼓たたいて笛ふいて』 をもう一度見る。安野さんは数々のこまつ座のポスターを描いていらっしゃるのに、 舞台をご覧になる時間がなかなかなくて、久しぶりだそうだ(ただし今回のポスター、 チラシ、プログラムの表紙は和田誠さん。林芙美子の自画像をもとにしているが、顔 は大竹しのぶ。安野さん曰く「うまいねえ、なかなかこうは描けないもんだよ」)。サ ザンシアターとは劇場の条件が違うので芝居が変に変わってたらいやだなと思った のだが、そんな心配は無用だった。安野さんも妹も大感激。終演後、楽屋へ。みんな に「また来ちゃった」。安野さんをしのぶちゃんに紹介する。しのぶちゃんのところ では親子そろって安野さんの絵本のファンだそうで、彼女のほうから握手を求めてい た。かわいい。 8月14日(水) ホリプロの栗田さんから電話。蜷川新『マクベス』のチケット、発売当日に完売だそ うだ。すごい。でも電話の主題(?)はそのことじゃなくて、ニューヨーク公演のた めの英語字幕原稿を早く仕上げろというハッパ。これまでの蜷川作品のイギリス公演 では字幕もイヤフォンガイドもなしでやってきたのに。いくら日本語での上演とは言 え『マクベス』に字幕が必要だとは、アメリカ人は怠慢だ。 『英語青年』高橋康也さん追悼号のための原稿書き。昨日入った編集の津田さんから のメールによれば、まだ書いていないのは私ともう一人だけなんだそうだ。トホホ。 その一人が誰だか知らないけど、勝手に熱い熱い親近感を覚える。それにしてもどう して私はいつもお尻に火がつかないと書けないんだっ。我が身がいまいましい。 午後2時、新国立劇場制作の井上さんと朝日解説の幕内さん来宅。ペーター・シュタ イン演出『ハムレット』のイヤフォン・ガイド用テキストの最終的な詰めをする。 午前2時半、ようやく高橋さんへの追悼文を書き終え、メールで送信。 |
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8月1日(木) 朝日カルチャーセンター、「翻訳家と読む『ハムレット』」の8回目。「尼寺の場」を 読む。前回(To be or not to beの独白)はノリすぎて30分も余計にしゃべっちゃっ たので、今回は時間に注意。オフィーリアがハムレットに対して言っていることが、 いかにプロンプター・ポローニアスによって予め入れられた「台詞」であるかという ことを中心に話す。Rich gifts wax poor.でもrichとpoorという反意語を使ってる点 も前もって作られた感じ、ということもしゃべってるうちに気づいた。松たか子の「私、 それ、親に言わされてると思ってやってます」のひと言が何と遠くまで私を運んでく れたことか! 泉は今夜TPTに泊り込み。昨日デヴィッド・ルヴォーがワークショップのために東 京入りして、すごくいいアドヴァイスを山ほどしてくれたらしい。 8月2日(金) 『ミマン』の連載「小屋はワンダーランド・シェイクスピア編」今回はマクベス夫人 のことを書くつもりなんだけど、あれこれ考えてまだ「初めの一歩」が踏み出せない。 8月3日(土) 夫は今日から歌の会の合宿。10月のおさらい会に向けて。 朝9時からソーラーシステムの取り付け工事。午後4時半には完了。 6時半から8時まで、渋谷セルリアンタワーで東急セミナーBE「シェイクスピアを 120%楽しむ」と題した講座で『夏の夜の夢』について話す。第一回は私のヴィデオ つきレクチャー、第二回は白石加代子さんとの対談、第三回は蜷川幸雄さんとの対談。 そのあいだに受講生はシアターコクーンで蜷川演出の『夏の夜の夢』を見る。観劇と 講座がセットになった企画で、わりと早いうちに定員に達したようで嬉しい。みなさ ん、とても熱心に聴いてくださり、またしても危うく時間オーバーになりそうだった。 受講生のなかに医科歯科大学時代の学生さんのお母様がいらした。 8月4日(日) 『ミマン』の原稿まだ書けない。『アテルイ』は諦めざるを得ない。午前中にその旨 新橋演舞場にファックス。うえーん、しくしく。 午後、母と姪がやってくる。実家と離れの妹の家でバルサンを焚くので、一時避難。 納豆そうめんをふるまう。最近めっきり出不精になった母だが、思い切って来てよか ったと言ってくれた。うれしい。 原稿、明け方まで頑張ったが、書き終えられず、担当編集者のTさんに「ちょっと寝 ます」とファックス。 8月5日(月) 夕方4時半ごろ、ようやく原稿書き終えてメールで送信する。難渋したけれど、これ を書いたおかげでマクベスと夫人に関してひとつ発見あり。マクベスが夫人への手紙 のなかで彼女をmy dearest partner of greatness(私の訳では「いとしいお前は大い なる地位を共にすべき伴侶」)と呼びかけているが、partner(s)という語を『シェイク スピア・コンコーダンス』で調べたところ、こう呼ばれる対象はほとんどが男性で、 「相棒、同志、同僚」という意味で使われていることが分かった。マクベスにとって、 妻は男なみの同志だということ。 夫が合宿から戻る。 8月6日(火) 炎天下を清澄公園ちかくのヨーガン・レールのオフィス/ショウルームへ。ほんとは昨 日行くはずだったんだけど、『ミマン』の原稿が書けないので今日に延ばしてもらっ たのだ。レールさんが「風呂敷」をデザインしたので、プレス用の原稿を書くために 見せていただくのが目的。いつものように食堂でお昼をご馳走になる。レールさんや プレス担当の高嶺エヴァさん、デザイナーの松浦さんたちと一緒に。愛犬のリウ(ラ ブラドール・リトリーヴァー)と彼のお嫁さんになるプードルのビワちゃんもテーブ ルのあいだを好きに歩き回っている。ビワに「お前、ほんとに犬かい?」――だって、 どこから見ても真っ黒な子羊なんだもの。この食堂は、雰囲気、料理、食器(レール さんのデザイン)など何を取ってもどこのヴェジタリアン・レストランより素晴らし い。ご飯の赤米はレールさんが沖縄で栽培したもの。食後には冷たく冷やしたレモン グラスのお茶。「おいしい、おいしい」と感激してたら、レールさんが「あげようか」 と言って奥から一束つかんで持ってきてくれた。ぐりぐりっとダイナミックにかっこ よくまとめてくれる。あっと驚く風呂敷の数々を見せていただいてからショウルーム へ。秋冬ものの新作やアクセサリー、陶器などを見て思いっきり遊んでしまう。 夜は青山円形劇場で文学座ファミリーシアター『アラビアンナイト』を見る。 円形空間を生かした舞台装置(島次郎さんのデザイン。白木の板をはぎ合わせた中央 の円盤を、ほぼ360度観客が取り囲む)、白を基調としたシンプルかつ一点豪華主 義の衣裳(出川淳子)、生演奏の音楽、歯切れのいい翻訳(鴇澤麻由子)、アンサンブ ルのよくとれた演技――何もかも文句のつけようがないくらい最上級の出来だ。演出 は高瀬久男さん。エピソード毎にがらりと趣向を変え(いかにもアラビアンナイトら しい仕立てからポップな現代風、人形を使ったり、仮面劇にしたり)子供たちも大人 もぐいぐいと物語のなかに引き込んでゆく。それにしても文学座の役者さんて、なん て芸達者なんだ! ヴァイオリンを弾く、ハモニカを吹く、ギターを奏でる、プロの 歌手も裸足で逃げ出すほどの歌を聞かせる。去年ライミングの『十二夜』でうっとり するようなヴァイオラを見せてくれた山田里奈さんがシャハラザード(目黒未奈、賢 く色っぽく、凛々しく素敵な語り手)の妹ディーナザードその他をやっている。ほく ほく嬉しくなるくらい美しく可憐。「アリババと四十人の盗賊」で女奴隷のモルジア ーナをやった名越志保さんの深みと艶のある声はいまも耳に残る。それから、それか ら、ああ、じれったい、要するに全員いいんだ、すごいんだっ! 台本(イギリスのドミニク・クック)は、物語=芸術が人間の闘争や非道さに勝利し、 生き延びるという祈りにも似た信念に貫かれている。その祈りに打たれ、幕切れには 滂沱の涙。だいたいどのお話も、男より女のほうが賢明だというふうに出来ているの も面白い。「子供のためのシェイクスピア」もそうだけれど、「子供のため」という姿 勢はあなどりがたい結果を生む。 |
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7月17日(木) 蜷川さんに『ペリクリーズ』第四幕を郵送。住所を確かめるために演出助手の井上さ んの携帯に電話した。大阪で『オイディプス』の仕込み中だそうだ。蜷川さんは目下 映画の撮影。 夜は泉と一緒に東京グローブ座で「子供のためのシェイクスピア」の『ヴェニスの商 人』を見る。伊沢磨紀ちゃんのシャイロック、不思議なくらい違和感がない。彼女は ロレンゾーもやっている。ジェシカの父親と恋人を同じ役者でやると、彼女の気持ち の引き裂かれ方がよく分かるという効果あり。第五幕の冒頭のIn such a night…のと ころにこれまでの「子供のためのシェイクスピア」の登場人物をもってきたり、ラス トで「みんなの旅立ち」をさせたり――カンパニー全員の休場するグローブ座への愛 惜の情がこもる。それと同時に、これからも彼らのシェイクスピアの旅は続くという 意志も伝わってきて、感無量。終演後、ロビーで乾杯。 7月18日(木) 朝日カルチャーセンター。『ハムレット』の通算7回目。第三幕第一場、To be or not to be…独白の終わりまでを読む。ヴィデオはBBC(デレク・ジャコビ)、リチャード・ バートン、オリヴィエ、ケネス・ブラナー、真田広之。 7月19日(金) 紀伊国屋ホールで泉と一緒にナイロン100℃の『フローズン・ビーチ』を見る。素晴 らしい。四人の女優さんたちの力量と魅力には、うなる。 7月20日(土) フリーライターの森絹江さんと豪徳寺で会う。彼女は『アエラ』の「現代の肖像」で 永井愛さんについて書くために取材中で、私の話も聞きたいと・・・。ライミングの『十 二夜』(フェステ訳)や『ヴォートリンの犯罪』に出演した森アキちゃん(ハスキー な美声の持ち主)のお母さんであることが分かり、びっくりすると同時に一気に親し みが湧く。後半、ドトール・カフェからピコン・バーに河岸を移す。マスターに「シ ュークリームを食べたいから、それに合うカクテルを」と注文したら、ウォッカ・ベ ースのメロン・ボウルとパッションフルーツ・ボウルを作ってくれた。おいしかった。 無理難題と思っても、言ってみるもんだ。シュークリームだけでなく、ここのケーキ はすべて若いマスターの手作り。以前、豪徳寺駅で平幹二朗さんにばったり会ったと き、このお店を教えてあげたら、すっかりお気に召したらしく、常連になってるみた い。宮沢章夫さんも、うちの近所に住んでたころ、ここで原稿を書くと言っていた。 7月21日(日) 夫と一緒にAM10:03発のひかりで岡山へ。瀬戸内海の小島、犬島で維新派の『カ ンカラ』を見るのが第一目的。第二目的は直島のベネッセ・ハウスに泊まること。泉 に維新派を見せたいと思って計画を立てたのだけれど、TPTのBashとライミングの 『イースト・イズ・イースト』の美術デザインで「それどころじゃない」と、ドタキ ャンされ、急遽、夫に同行してもらうことにしたのだ。 岡山のホテルでメセナ協議会の岩本さん、喜多さんと合流し、新岡山港までタクシー で行き、そこから船で犬島に渡る。維新派公演には屋台村がつきものだけれど、ここ でも大層なにぎわいだ。まず、岩下徹のダンス「耳を澄ます」を見る。赤煉瓦の銅精 錬所が美しい廃墟になっている。高い煙突には蔦がからまっている。それを背景とし た空き地が舞台だ。夏草が生い茂る。客は地面に腰を下ろす。陽射しが強い。スタン ドカラーの白い長袖シャツと黒いズボンの岩下さんは、草の上に寝転んだり、丈高い 潅木の中に入り込んで枯れ枝を掲げ、客に「おいでおいで」をするようにぷるぷる振 ったりする。岩下さんの動きとともに客も移動する。トンボが飛び、小鳥のさえずり が聞こえる。客の中に維新派の松本雄吉さんもいた。 屋台村でちょっと腹ごしらえをしてから、『カンカラ』の客席へ。実際に遠くに立つ 煙突、上手と下手にはそれを模した装置。ビル三階分か四階分くらいのスケルトン状 の骨組みが奥に。『銀河鉄道の夜』を思わせるような筋立てで、昔の銅精錬所の作業 風景なんかも組み込まれている。その場を巡る白塗りの少年たち。幻想的なキャバレ ーの光景や、幾つものブランコが上手下手から振り出されるなど、印象的な場面には 事欠かないが、『少年街』などと比べると「ぬるい」感じがしたのは否めない。新岡 山港までの最終便が出るまで屋台村で遊ぶ。 翌日は直島へ。バスでベネッセ・ハウスまで。海に向かって長く伸びる桟橋の先端に 草間弥生作の大カボチャがどーん。「ここからがBenesse Island直島文化村ですよ」 ということを示すシンボルだ。ここでまずびっくりする。地域全体のプランからホテ ルの設計までを手がけたのは安藤忠雄だ。ホテルがそのまま美術館、美術館がそのま まホテル。広大な敷地から海岸にいたるまで、そこここに野外彫刻。16の客室それ ぞれに異なるアーティストの作品が飾られている。予約した部屋に入ったとたん、全 身が深呼吸するような開放感を味わう。海と空が光と一緒に部屋の中まで入ってきて いる感じ。私たちの部屋は蔡国強(さいこっきょう)のドローイングが四点かかって いる。とぼけた墨絵のようないい作品だ。タイトルは「文化大混浴」。 ここのことは、五年ほど前、BBC東京特派員だったジュリエット・ヒンデルが教え てくれた。彼女の絶賛のことばを聞いて、いつか行きたいと思っていたのだが、犬島 アーツフェスティバルを見るのがいいチャンスとばかり、予約を入れたのだった。 コレクションの充実ぶりに目を見張る。ルイーズ・ネヴェルソン、デヴィッド・ホッ クニー、イヴ・クライン、ドナルド・ジャッドなどなど。 丘の上にある別館までは木立のなかを縫って登るケーブルカーで行く。人工の滝、 満々と水をたたえた池を取り囲むように客室が並ぶ。そこから更に階段を昇ってゆく と、空中庭園。青空を背に、悠然と気流に乗って翼を広げているのはとんびだろうか、 鷹だろうか。 夕食前にジャグージに入る。これがまた美術作品なのだ。ホテルと海岸のあいだに位 置する空き地に、奇妙な石の群れが林立しており、そのなかにジャグージが設置され ている。これが「文化大混浴」。私たちの部屋にかかっているドローイングは、これ の春夏秋冬の光景を描いたものだったのだ。 部屋に戻り、夕日をながめながら、きりりと冷えた白ワインをテラスで。部屋にはテ レビがない。このことがBenesse Islandのすべてを物語っているとも言えそう。 翌日の白眉は「家プロジェクト」だ。ベネッセが本村地区にある古い家を買い上げ、 保存・改修し、一軒ごとにひとりのアーティストを宛ててインスタレーションをほど こしたもの。目下、三軒が完成している。宮島達男のデジタルカウンター作品四点を 組み込んだ「角屋」、ジェイムズ・タレルと安藤忠雄の共同制作の「南寺」(真っ暗闇 の中を手探りでベンチにたどり着き、じーっと目を凝らして10分ほどすると、奥の ほうにボーッとタレルの「バックサイド・オヴ・ザ・ムーン」が浮かび上がる)、内 藤礼の「きんざ」(一人ずつ中に入って15分。ほの暗い空気のなかに収められた小さ なもの、かそけきものたちが徐々に目に入ってくる。たとえば地面に埋め込まれた透 明なビー球とか)。 とにかく直島は瞠目すべき別天地だ。絶対また行くぞ。 ホームページのアドレスを書いておくので見てください! http://www.naoshima-is.co.jp 7月24日(水) 文化庁文化審議会・国語分科会に出席。 7月26日(金) 世田谷パブリックシアターで珍しいキノコ舞踊団の新作『New Album』を見る。特 に後半の虹色の影絵のシークエンスがよかった。ポップな音楽を軽快に裏切りつづけ るムーヴメントがいい。 7月28日(日) 矢川澄子さんを送る会に出る。唐十郎、四谷シモン、白石かずこ、合田佐和子、秋山 祐徳太子など、六〇年代文化を担った人々の顔。 「たま」の音楽を愛した矢川さんへの彼らの演奏と歌に心を揺さぶられた。 7月30日(火) ウジェーヌ・イヨネスコ作『マクベット』訳了。欧日舞台芸術交流会の田村さんにメ ールで送る。去年の『ヴェニスの商人』と同じく、演出はルーマニアのイオン・カラ ミトル。十月にルーマニアやフランス(パリ、ル・アーヴル)で上演される。 7月31日(水) こまつ座『太鼓たたいて笛吹いて』を紀伊国屋サザンシアターで見る。井上ひさし作 の林芙美子の評伝劇。大竹しのぶ、木場勝巳、梅沢昌代、松本きょうじ、阿南健治、 神野三鈴、みーんないい、すごーくいい、慈しみを覚える人間たち。林芙美子は大好 きな作家だ。岩松了さんが『浮雲』を脚色上演したのをきっかけに読み始めた。林と 戦争との関わりの問題を、まったく説教臭さのないかたちできっちり描いている。自 らが犯した間違いを正そうとする彼女の描き方にも過大な美化はない。栗山さんの演 出も冴えている。歌・音楽の入り方も時と所を得ている。いい芝居を見たあとの至福 感あり。麻実れいさん、堤真一くんらと一緒に楽屋を訪ねる。しのぶちゃん、いい顔 してた。 |
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6月26日(水)27日(木) 9時26分発のひかりで名古屋→岐阜へ。地域創造主催のワークショップとセミナー の講師を務める。参加者は地方自治体の公共ホールで仕事をする人たちだ。私が話を したグループのテーマは「自主企画」で、コーディネーターは高萩宏さん。シェイク スピアがいかに企画の宝庫であり、利用価値(?)が高いかということを話す。終っ てから別のグループのワークショップを見学。講師は狂言の茂山千三郎さん。茂山千 作さんの息子さんの一人。さーすが、と言うべきか、ユーモアを込めて分かりやすく 狂言の演技などを解説、参加者も楽しそうに「附子(ぶす)」(だったと思う)の冒頭 をやっていた。夕食後の「自主企画」グループの講師は元・新感線、元・東京グロー ブ座制作、今は自治体ホール(どこのだか忘れた。ごめん)の企画制作をしている大 石さん。一見おとなしげな大石さんの異能ぶりにびっくり。 岐阜はおしゃれな雰囲気で、食べ物もおいしかった。機会があればまた行きたい。 翌日は東京駅から新大久保へ直行。朝日カルチャーのプレパフォーマンス・レクチャ ーをして、受講者のみなさんと一緒にRSC『ヴェニスの商人』を見る。そんなわけ で高橋康也さんのお通夜には行かれなかった。 6月28日(金) 高橋康也先生の告別式。池尻大橋の駅から聖ドミニコ・カトリック渋谷教会までカン カン照りのなかを歩く。 大きくて居心地がよくて素敵な図書館が、丸ごとひとつすっと消えてしまったような 寂しさと悲しさを感じる。弔電のなかには、ロンドンの野田秀樹さんからのもあった。 奥様がご挨拶のなかでおっしゃったこと――「最後の数日は病室に笑いが絶えません でした」「びっくりするような大きな声で主治医の先生に『ありがとう』と申しまし た」。そして、「紙を」とおっしゃって、ダンテの『神曲』の一節をイタリア語と英語 と日本語でお書きになったこと。木は倒れてからその大きさと高さが分かると言うけ れど、倒れる前から大きく高いことがみんなに分かっていた高橋康也さんという木は、 倒れてさらにその先に高い高い梢があったことを知らしめた。 29日(土) ピッコロシアターの『四人姉妹』を俳優座劇場で見る。岩松版の『細雪』。 な、なんと、プラシド・ドミンゴが息子さんと見に来ていた。出演女優さんのひとり がオペラとドミンゴの大ファンで、その縁でNHKでの仕事の前に見ることにしたの だそうだ。終演後ロビーでその姿を見たときは、「あの顔はたしかにドミンゴ。でも そんなはずはない。とんでもなく似ているソックリさんか、さもなきゃ私がマボロシ を見てるのか・・・」と思ったのだが、ご本人でした。劇場の外で岩松さんと立ち話を していたらそばに来たので確認。岩松さんを「この人が作者で演出家です」と紹介(な ぜか通訳やっちゃった)。「言葉は分からなかったけど、演出がダイナミックですごく よかった、云々」。ここぞとばかりミーハー精神を発揮して、握手をしてもらい、岩 松さんとたちと一緒に写真まで撮ってもらった。撮ってくれたのは岩松さんとこの若 い俳優さん。出来上がったら送ってね。 夜は村上淑郎さんの『ハムレットの仲間たち』(研究社)の出版記念会。「村上淑郎の 仲間たち」といった感じのいい集まりだった。私もスピーチの仲間入りをして、大学 院時代以来の私のメンターたる村上さんに感謝。 急いで帰宅してワールドカップ三位決定戦を見る。韓国対トルコ。 30日(日) ワールドカップ決勝戦、ブラジル対ドイツ。カーン様が失点! よよよ。 7月1日(月) 『ペリクリーズ』第三幕訳了。まだまだ先は長い。 7月5日(金) 午後2時、彫刻家・佐藤忠良さんのアトリエへ。妹が編集した佐藤さんと安野光雅さ んの対談集『ねがいは「普通」』の見本刷りをお届けして、90歳のお誕生日(前日の 4日)をお祝いしようという趣旨。妹とレイアウトの方、私、少し遅れて山根基世さ んが参加。ずっと忠良先生の助手も務めている彫刻家・笹戸さんも。安野さんはダブ ルブッキングでいらっしゃれず、残念。それにしてもチュウリョウ先生の若々しさ(ア タマも精神も体も)にはいつもながら驚嘆するほかない。山根さんの「次は百歳のお 誕生日ですね」という言葉に、間髪を入れず「そのときにはあなたたちみんな死んで るだろ、一人じゃさびしいな」ときた。 夜は泉と一緒に山の手事情社の『オイディプス』を見る。 7月6日(土) 泉と一緒に世田谷パブリックシアターで日仏共同制作、ジュネ作の『屏風』を見る。 結城座の人形とフランスの俳優たちとの共演が見事。背景のアルジェリア戦争が、ア フガニスタンのそれに重なって見えてくる。欧米と第三世界との構図はちっとも変わ ってないのだ。ポストパフォーマンス・トークも聞く。人形は全部この公演のために 新しく作ったのだそうだ。 7月13日(土) 午後2時から4時まで世田谷パブリックシアターで日本劇作家協会の戯曲セミナーで シェイクスピアのことを話す。みなさんとても熱心に聴いてくださった。 7月15日(月) 雑誌『東京人』のための『ヒトラーをめぐる女たち』の書評をようやく書き上げる。 ほっ。 7月16日(火) 新宿の中華屋さんで『はじめて話すけど・・・』の打ち上げ。三谷幸喜さん、京都の法 月さん以外は全員出席。私にとっては、インタヴュアーの小森さんのほかはみなさん 初対面なので、ドキドキ。でも、そんな心配と不安は無用でした。皆川博子さんが東 女の先輩だったこともこの本のおかげで判明したし・・・。デザートになったとき、お ずおずと本を取り出して、「みなさんのサインがいただきたいんですけど・・・」。つく づく私はミーハーだ、と思いつつ。でも、和田誠さんが、「あ、それなら僕も持って きたから、してもらおう」とノッてくださったので救われた。サインといえば、石上 三登志さんがおもむろ徳間書店刊の『殺意の盲点』を出現させ、「僕、これ持ってま すよ。サインしてください」とおっしゃったときには冷や汗たらー。「ええー、マボ ロシの名訳って言ったのがあやしいってバレちゃうじゃないですか」とあせる。二次 会は三越裏の「ナジャ」で。唐十郎さんの芝居の音楽をたくさん手がけてきたあんぽ さんが奥さんとやってるお店だ。先客のなかに嵐山光三郎がいらして「ヤアヤア」。 和田さん、石上さん、フリースタイルの吉田さん、小森さん、私の五人でテーブルを 囲む。マルガリータ、ジントニック、マティニー二杯。「はじめて聞く話」満載でや たら楽しかった。石上さん以外はみんな住まいが同じ方向にあるので、四人でタクシ ーに相乗りして帰宅。 |
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6月7日(金) 『ヴォートリン』の初日は昨日だった。いつ見に行こうかな。 KERA・深津対談の原稿チェック終る。メールで送信。ほっとしたと思ったら、シリ ーウォークの土井さんから電話。あれを6500文字まで縮めてほしいとのこと。つま り三分の一に。ええっ、それも私がやるんだったの? アセる。早速とりかかり、半 分まで削ったところで時間切れ。土井さんもカット案を出してとのメッセージをつけ、 そのままメール。 シアターコクーンへ。『オイディプス王』の初日。いろんな人、客席には森前首相の 姿も。坊主頭にした男性コロスに迫力あり。第一声は文学座の熟一久さん(初演の『ロ ーゼンクランツとギルデンスターン』でご一緒した)、朗々たる美声が劇場に満ちた。 萬斎さんのオイディプスは初めのうちは演技が内向して、言葉もなかなか胸の奥まで 届いてこないもどかしさがあったが、どんどんエンジンがかかってきた。こんなに 若々しく、凶暴ですらあるオイディプスは初めて。オイディプスと預言者などとの緊 迫した応襲・舌戦は、裁判劇そのもの。麻実れいさんのイオカステ、これ以上は考え られないくらい素晴らしい。舞台奥の高い階段の上に彼女が現れて第一声を発したと き、全観客がひれ伏したましたね、もう! モノモライがなおった。 本日のアンズの収穫11個(うち傘にシュートは1個、率わるい)。 帰宅してメールを開けたら土井さんがバッサリ切ってくれた原稿。もったいないとは 思うが仕方がない。さらに手を入れて再送信。 6月8日(土) サンシャイン劇場で加代子の『源氏物語』第二夜、「須磨・明石」。ニューヨーク、ジ ャパン・ソサエティのポーラ・ローレンス、同時通訳をするかもしれないハートさん (小布施町在住。イッセー尾形さんがジャパン・ソサエティで公演したときもやった そうだ)も一緒に見る。 6月9日(日) 昨夜は風が強かったせいか、朝60個のアンズを収穫。そのうち傘がキャッチしたの は11個。カンペキにアンズの木にバカにされている。ジャム作り第一回開始。大な べに二杯できた。オソロシイほど砂糖が要る。さめてから瓶詰め。大小とりまぜ14 個になった。東宝のミュージカル『キス・ミー・ケイト』パンフレット用原稿を書き 始める。でも、原稿枚数(文字数)忘れた。谷田さんにメールで問い合わせ。夜は本 多劇場で流山児事務所の『殺人狂時代』を見る。 6月10日(月) 半年に一度の歯のクリーニング。「プラーク・コントロールよくできていますね」と ほめられる。終ってから加代子宅へ。アンズジャムをおみやげに。いろいろおしゃべ り。『源氏物語』の「解説」の部分の演じ方について意見を言う。夜は筑摩書房のシ ェイクスピア全集の担当者、打越さんと長嶋さんと一緒におくればせながら『ヴェニ スの商人』の打ち上げ。新宿西口の「月とすっぽん」というお店で。食器はすべて店 主の手作りという趣のあるいいお店だ。話がはずむ。長嶋さんは、編集者として仕事 をするかたわら、浪曲専門の三味線奏者としてもうプロ。最近では曲も語っていると いう。お二人にもジャム進呈。 6月11日(火) シアタートップスでライミングの『ヴォートリンの犯罪』を見る。若い役者たちには 物足りなさを感じるが、スリリングでいい芝居であることは間違いない。泉も低予算 (と言うより「無予算」?)にもかかわらずよく頑張ったと思う。(後日、演出の中 島晴美さんから電話があり、アンケートでも舞台美術が好評だったとのこと。) 6月12日(水) ポーラと永井愛さんを引き合わせる。表参道、スパイラル・カフェ。ポーラはジャパ ンソ・サエティにニ兎社の『萩家の三姉妹』を招びたがっている。永井さんも乗り気。 問題はスケジュールだ。去年私は英文の劇評を書いたが、編集担当者のローレン・エ デルソンがそれを読んでものすごく興味を持ち、翻訳することに。もう第一稿が上が り、ポーラも読んだという。ジャムの行く先(ポーラ、永井さん、民子、竹内さん)。 『キス・ミー、ケイト』パンフレット用原稿、ようやく書き上げる。 6月13日(木) 世田谷パブリックシアター、シアタートラムで『ピッチフォーク・ディズニー』を泉 と一緒に見る。四人の役者が役にぴたりとはまっている。オブセッションを追求した 徹底的主観演劇。松井るみさんの美術は、そのままインスタレーションとして通用す るような喚起力と美しさをそなえている。楽屋で演出の白井さんと話す。 泉に頼んでアンズジャムのラベルを作ってもらう。「フクロウ印」というロゴ、我が 家のアンズの木に逆さの傘が二本ぶら下がってるイラスト。いかにもホームメイドの ジャムらしい。早速瓶に貼り付ける。 6月14日(金) 新国立劇場、ペーター・シュタイン演出『ハムレット』のイヤホン・ガイド用原稿が 井上桂さん(イラストの名手で、グローブ座カンパニー「子供のためのシェイクスピ ア」『リチャード二世』のパンフレットにも彼の手になる「稽古場風景」のイラスト あり)から送られてくる。早速チェック。ロシア語翻訳からの日本語訳を取り入れて あるので、疑問の箇所もある。付箋を貼って、後日の井上さんとの話し合いにそなえ る。 ジャム持参で実家へ。母と一緒にワールドカップ日本対チュニジア戦を見る。勝利! 「長生きしててよかった!」と母。 6月22日(土) 12時15分に渋谷のNHK放送センターへ。山根基世さんがアンカーを務める「土曜 ほっとタイム」の「素敵なあなた」というコーナーで対談。間にニュースや音楽をは さみながら一時間半ほど、シェイクスピア翻訳のこと、言葉について感じていること などを話す。山根さんの鮮やかなリードのおかげでのびのびとおしゃべりすることが できた。それにしても、打てば響くような山根さん。ユーモアのセンスも抜群な女性。 山根さんご本人が「素敵なあなた」である。わざわざうちまで来てくださり、準備の 打ち合わせに長時間かけてくださったプロデューサーの猪瀬さんにも感謝。 RSCの『ヴェニスの商人』を見るため新大久保の東京グローブ座へ。まずポストパ フォーマンス・トークの打ち合わせ。まるで少女のようなラヴデイ・イングラム、元 気いっぱいのジニー(教育プログラム担当)、通訳を頼んだ酒向尚子さんらと。カー テンコールが終るとすぐに舞台へ。客席はいっぱい。ほとんどのお客が残ってくれた のだ。役者たちが着替えやメイク落しをしているあいだラヴデイに話してもらう。稽 古の二日目に9/11の事件があり、この芝居の今日性を強烈に意識したようだ。次々 と役者登場。予定した以上の人数。アントーニオ、シャイロック、ポーシャ、バサー ニオ、ネリッサ、ランスロット・ゴボー、モロッコ大公。 アントーニオからバサーニオへのプレゼント(バービカンで見たときはケース入りの カフスリンクだったが、東京公演ではネクタイ。客席と舞台の距離が大きくなったの で、プレゼントも見て分かりやすいものに変更したと思われる)はイアン・ゲルダー 自身のアイディアだったそうだ。バサーニオへの抑圧したホモセクシュアル的な愛情 を表現するにはさりげないプレゼントが一番、と思ったとか。ポーシャ役のハーマイ オニとネリッサ役のイライザは、二人の関係を主従よりは女友達のようにしたかった と言う。ポーシャの髪の毛を梳かすといった「古典的な」方法もあるが、やってみた けれどピンとこなくて、「むしろサッカーでもさせたかった」とはラヴデイの弁。ラ ップでやってみたモロッコ大公。クリスがラップ・ヴァージョンを見せてくれて、た ぶんお客さんもすごく得した気分になったと思う。ダレン・タンストール演じるラン スロット・ゴボーは、今回の『ヴェニスの商人』中の白眉だと思うのだが、長い独白 の中の「悪魔」と「良心」との葛藤は、稽古の初期には箒にボロを巻きつけた即製人 形を使っていたのだそうだ。 バービカンでは、私はいつものようにメモをとりながら見ていた。そうしたら、この ランスロット独白の場でボールペンを床に落としてしまった。私の席は一番前の列! ダレンがそれを拾ってくれて咄嗟に「あなた、劇評家?」。冷や汗。トークが終って からそのことを言うと、ダレンは「覚えてる、覚えてる」。みんなで大笑いした。 この日はマチネ/ソワレで疲労困憊だったろうに、みんな積極的に自分の役について話 してくれた。酒向さんの見事な通訳のおかげもあってすごく盛り上がった。 豪徳寺(酒向さんも豪徳寺の住人)のピコン・バーで、酒向さん、泉と内輪の打ち上 げ。 |
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6月1日(土) 矢川澄子さんが亡くなった。5月29日。新聞の報道では自殺らしいという。ショッ ク。2月末、有元利夫さんを忍ぶ会でお目にかかったときはいつもと変わらないご様 子だったのに。妹から電話。彼女もショックを受けている。4月には額田のヤエちゃ ん(『刑事コロンボ』その他、アメリカの人気TVドラマのアテレコの第一人者、額 田ヤエ子さん。血のつながりはないけれど、私には従姉に当たる。私が戯曲の翻訳を するようになったのもヤエちゃんの推薦があったからだ)が亡くなるし、尊敬する先 輩女性が次々と姿を消してしまう。心細い。 11時半に東女の正門で比較文化研究所助手の中村さんに会い、講堂内の控え室へ。 喜志哲雄氏はすでにご到着。まず何より先に喜志さんにはお詫びを申し上げる。『ヴ ェニスの商人』の「訳者あとがき」で参照したテキストを挙げたのだが、そのなかの 一冊『大修館シェイクスピア双書・ヴェニスの商人』の編註者の名前を「喜志哲雄」 ではなく「貴志哲雄」と間違えて書いてしまったからだ。 一息ついて視聴覚研究室へ行き、用意してきたヴィデオを編集してもらう。京劇スタ イルの『リア王』、林兆華演出による北京人民芸術劇院の『ハムレット』、そしてロン ドンのインド人劇団タラ・アーツが東京グローブ座で上演したインド版『ロミオとジ ュリエット』と銘打った『ヒーアとランジャ』をそれぞれ二分ずつ収める。控え室に 戻ってしばらくすると、喜志さんと井出新さん、楠明子さんも戻っていらした。楠さ んは東女・英文科の教授で比較文化研究所の所長、そして私の同級生。お二人は楠さ んの案内でキャンパス内を回っていらしたのだ。東女のキャンパスは、それはそれは きれい。新校舎や新図書館はともかく、昔とちっとも変わらない。なつかしい。うち は母も妹もここの卒業生で、子供の頃から母に連れられて何度も遊びに来たものだ。 昼食を済ませ、一時半からシンポジウム開始。チャペルに隣接した講堂で。私は学生 時代にシェイクスピア研究会の部員(落ちこぼれだった)で、三年のときには『夏の 夜の夢』のボトムとして、四年のときには『ロミオとジュリエット』の序詞役として この舞台に上がったことがある。客席には先輩や恩師の顔もちらほら。「おうちに帰 りたいよぉ」という気分になる。喜志さんは映画やヴィデオなどの普及によって、シ ェイクスピア受容の形態が変化してきたことを、井出さんはシェイクスピア劇におけ る宗教の問題を現代の宗教間の抗争にからめて語った。私は非英語圏におけるシェイ クスピアのローカライゼーション(翻案・現地化)のこと、翻訳のこと、女性の翻訳 者として気づいたことなどを話す。フロアからアンケート形式で質問を受けて、後半 はそれらに答えるかたちで意見をかわす。終了後、近くのお寿司屋さんへ。私は途中 で抜けて梅丘BOXへ。燐光群の『屋根裏』(坂手洋二作・演出)を見る。定員60名 の狭い空間に90名以上の客がぎゅう詰め。その熱気に見合った素晴らしい舞台だっ た。人二人が膝を抱えて坐れば満杯になるような歪んだ台形の箱。装置はそれだけ。 これが「屋根裏」という商品という設定だ。そこで「引きこもり」の諸相が描かれる。 笑いがふんだんにあって、鋭い批評性がみなぎっていて、志が高くて清潔。ちょっと 長すぎだし、エンディングにも注文があるけれど、見たことのない舞台に興奮。西山 水木、木村緑子のお二人も。坂手さんと四人で近くの居酒屋へ。12時すぎまで大い に盛り上がる。歩いて帰らなきゃならないかと思ったら、まだ小田急は走っていた。 シンポでかなりよれよれだったのに、『屋根裏』で元気になった。 6月3日(月) 午後から都内某所で某会議に出たあと、新国立劇場へ。日韓『その河をこえて、五月』 を見る。よくここまで、というのが実感。日韓がお互いにものすごく気を遣って作り 上げたことがひしひしと伝わってくる。ひょっとして、台詞の数も両者同じなんじゃ なかろうか。韓国の家族のオモニを演じた白星姫が素晴らしい。 『シアターガイド』編集の今井さんの仕切りで、『ぴあ』の戸塚さん、三重さん、博 報堂の三崎さんと新宿で飲み会。異能の人々。シアタートップスで『ヴォートリンの 犯罪』(ライミングの公演、7日初日)の仕込みを終えた泉も呼び寄せる。 文化庁の広報雑誌のために河合隼雄さんと対談した原稿に手を入れ、2:30AMにメ ールで送信。 6月2日(土) パルコ劇場で『ダブリンの鐘つきカビ人間』を見る。14時開演だと思っていたら13 時だった。バカ。でも、「早めに(?)」着いたのでロスはあまりなし。面白かった。 カビ人間という役は、大倉孝ニのために当て書きしたかのよう。 6月4日(火) 実家へ。ワールドカップ、日本対ベルギー戦に興奮。 原稿(女性誌『ミマン』の連載。今月のテーマは『夏の夜の夢』の女性たち)が書け ない。笹部さんに電話をし、加代子の『源氏物語』は明日に変更してもらう。 6月6日(水) 原稿まだ。5時起きで書く。朝9時、ジュリエットに電話して、お昼に訪ねる約束を 3時に変えてもらう。広尾ガーテンプレイスへ。三歳になったアレックスがめちゃ可 愛い。将来どんなハンサムボーイになることやら、オソロシイくらいだ。私が知らな いうちに生まれたトマス(三ヶ月)もキュート。頭のてっぺんで渦を巻いている柔ら かい毛がなんとも言えない愛らしさ。ジュリエットは、夫君ピーターの転勤で、もう すぐ香港に引っ越すのだ。さびしいな。でも、毎年二月の香港フェスティバルには行 く気になるかもしれない。「ザ・ワイド」というTV番組から電話でジュリエットに 出演依頼があった。ワールドカップのチケット問題でコメントしてくれと言ってきた そうだ。問題のバイロム社がイギリスの会社だからか。 5時に辞去。サンシャイン劇場で白石加代子の『源氏物語』を見る。素晴らしい。ま ず、暗い背景に徐々にまたたきの数を増す星空に息を呑む。白い和服、黒地に鋭角的 で大胆な模様の帯、優雅な束髪。動きがひとつひとつ、ぴしっと決まり、舞を舞って いるようだ。声の強弱、仕草の緩急、言うことなし。瀬戸内現代語訳に要所要所で原 文が入る。これがいい。まるで、言葉とその流れをしなやかな鋼の糸が貫いているか のようだ。女三宮のくだりでは、あたかも浄瑠璃を聴いているよう。演出の鴨下信一 さんご夫妻、演出助手の松本祐子さん、弥生画廊の小川さんの奥様と妹の由美子さん、 梟座の管理人さん、手塚さん、などいろんな人に会う。楽屋を訪ね、加代ちゃんに感 激を伝え、蘭妖子さんと一緒に帰る。この『源氏』は新潟のりゅーとぴあ公演では能 舞台でやるそうだ。照明も音響(サンシャインでは虫のすだき、砧を打つ音などが効 果的に入る)もなし。おいでおいでと笹部さんや鴨下さんが誘う。見に行きたい。 目の具合がヘン。痛みあり。帰宅して鏡を見ると、左の目頭がはれている。モノモラ イ? 6月7日(木) 5時起き。新聞を取りに出たら、アンズが一個落ちていた。今年の第一号。さあ、い よいよジャム作りの季節に突入だ。7時に泉を起こす。『ヴォートリン』今日がゲネ プロ。なにがなんでも今日こそ『ミマン』の原稿書き上げねば。 お昼前『ミマン』の編集者がシェイクスピア作品の画集を取りにきてくれる。二冊。 連載のイラストに使えそうなところにポストイットをつけて渡す。そのあと、しゃか りきに書いて、午後一時に書き上げ、メールで送信。KERA・深津対談に手を入れ るのも、締め切りは今日のお昼と言われているのだが、無理だァ。でもガンバルぞ。 アンズが気になる。熟した実が自然に落ちるのを待つのだが、下はコンクリなのでヒ ビが入ったり、アリンコがついたり、脇にはずれると泥がついたりする。何とかそれ を避ける方法はないだろうかと言ったら、泉が「開いた傘を逆さにして枝にぶら下げ ればいいじゃない」。グッドアイディア! 早速やってみる。いま色とりどりの傘が5 本、逆さになってぶら下がっている。もーのすごくマヌケ。通りかかる人は笑ってる だろうな。本日の収穫:計11個(うち、傘のなかに落ちたもの1個、手で触ったら ぽろっと枝からはずれたもの4個)。 6時半から8時半まで朝日カルチャーセンターで『ハムレット』を読むクラス。第二 幕第二場、ハムレットとポローニアス、ハムレットとローゼンクランツ&ギルデンス ターンとの腹の探り合いの場を読む。今日は、妙に真面目に原文講読をやってしまっ た。大学の講義じゃないんだから、これじゃだめだ。へとへとに疲れただけに一層メ ゲる。モノモライがやな感じ。 |
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5月20日(月) とってもドメスティックな一日。実家へ行く。自分の母親をこんなふうに言うのもな んだけど、今年で93歳というのに母はすごくきれいだ(美人という意味じゃなくて)。 肌は水密桃のようだし、背筋もしゃんとしているし、いつだって身ぎれいにしている。 自分ではボケた、ボケたと言っているけれど、どうしてどうして、娘たちのほうがた じたじとなること一再ならず。おみやげは、庭になったビワ(市販されてるのより小 粒で形は不細工だけど、酸味があって味が濃い)、昨晩つくったブリ大根。途中、浜 田山の神戸屋に寄ってバター・フランスを三本買う(二本は母と、実家の離れに住ん でいる妹へ。最近ちょっとハマってるパン。同じ神戸屋でも烏山店や世田谷通り沿い の店では焼いてない)。 帰宅後、昔、小田まゆみさん(三島由紀夫の評伝を書いたジョン・ネイサンの元妻。 画家)に教えてもらった鶏のレヴァー・パテを作る。とり皮をいためて油を取り、そ れでタマネギとレヴァーをいためてブレンダーにかけ、みじん切りにしたゆで卵を混 ぜ込むのだ。味見をしてみて、思わず「オイシーイ!」と一人で叫んでしまったくら いの上出来だった。 夫がグァムから帰国。電機大学が「鳥人間コンテスト」グァム島大会に出場したため、 顧問である彼もついて行ったのだ。結果はボチャンだったけど、それでも成績は全出 場団体の真ん中くらいだったとか。今年は琵琶湖大会には出られないのが残念。 こんなふうに一日家にいられる日がせめて週に一度はほしい。『ペリクリーズ』の訳 もちょっとだけ進む。 5月22日(水) 12時から1時ちょっと過ぎまで、渋谷でケラさんと深津絵里さんの 対談の進行役を務める。7月に再演される『フローズン・ビーチ』(初演は98年)の パンフ用だ。ちょい早めに着くと、ケラさんはそのずっと前(だと思う)からプロの メイキャップ・アーティストの手でメイク中。それを横目で見ながら録音の準備をし たり、よもやま話をしたり。そもそもケラさんのメイクを発想したのは犬山犬子さん だそうで、メイクありの日が360日のあいだ200日という一年もあったという。半 端じゃない。オン・タイムで深津さん登場。白いTシャツとジーンズというすがすが しい出で立ち。涼しい目、透きとおるような肌、見とれてしまいそう。センスがよく て賢い女性だ。お二人ともよくしゃべり、よく笑い、実に楽しいひと時だった。この 異色の対談の根っこには、ケラさんが深津さん主演で芝居を作りたいと常々思ってき たことがある。深津さんにも大いにその気ありと見た。近い将来、是非実現してほし い。それにしても、ヴィデオで見ただけでも『フローズン・ビーチ』はおもしろい。 初演時には日本にいなくて見られなかったので、この再演はほんとうに嬉しい。 夜は世田谷パブリックシアターでオペラシアターこんにゃく座の『犬の仇討ち』を見 る。もとが井上ひさし作の芝居だから期待したのだけれど・・・。見ているあいだ中、「芝 居で見たいよぉ」と思わせられた。まずいんじゃない? 5月23日(木)『ペリクリーズ』第二幕訳了。 グローブ座へ。『ヴェニスの商人』の稽古をのぞき、事務所でヴィデオを借り(6月1 日に東京女子大で開かれるシンポジウム用)、劇場へ。『ストーンズ・イン・ヒズ・ポ ケッツ』。面白かった。このあいだの『ロンサム・ウェスト』(寒村にすむ兄弟の喧嘩 から北アイルランドの闘争やパレスチナ対イスラエルの戦争までが透けて見え、牧師 と小島聖扮する女との関係にはキリストとマグダラのマリアの姿が重なる)もそうだ けど、アイルランドの芝居には底力がある。市村正親と勝村政信が二人だけで男女十 五人もの人物を演じるのだ。ハリウッドからやってきた映画撮影に地元の人々がエキ ストラとして出演するなかで、さまざまな矛盾が浮上する。くるっと振り向いただけ とか、一人がもう一人の背後を回っただけとか、目線を変えただけで別の人物になる。 我が落語に通じる面白さ。二人の達者さにはうなってしまう。勝村さんの演技には、 これまで自己陶酔を感じることがあったのだが、今回はそれが全くない。とてもいい。 これは勝村さんの代表作になるだろう。市村さんもそう言っていた。 5月25日(土) 川本三郎さんと一緒に『欲望という名の電車』をもう一度見る。大竹しのぶのブラン チの核には無垢のたましいがある。医者の腕にすがって退場するときの、遠い時間を 見つめるような彼女の目と面差しは童女のそれであって、狂った女のそれではない。 また、ブランチがイヴニング・スターという新聞の集金に来た男の子を誘うシーンは、 彼女と自殺した夫の関係やローレルでつきあった十七歳の少年の姿も重なる。彼女の 過去がスタンリーによって暴かれたあと、ミッチが訪ねてくる場面があるが、戯曲で はこのとき「盲目の物売り女」が「フローレス、フローレス、パラ・ロス・ムエルト ス(死者にたむける花はいかが)」と売り声をあげながら通り過ぎる。だが、蜷川演 出では「声」だけ。これが素晴らしい。ブランチの頭の中に響き渡る「声」に「見え る」からだ。彼女の身近で死んでいった者たちが浮かび上がるからだ。終演後、楽屋 へ、それから近くの居酒屋へ。またまた盛り上がる。 幕間に『ペリクリーズ』第二幕を蜷川さんにわたす。 5月26日(日) 大宮まで行ってシェイクスピア翻訳について話す。母校・東京女子大の同窓会埼玉支 部の年次総会。明け方までかかって編集したヴィデオがうまく映らず(声が出なかっ た)、あせったが、話の方だけでもみなさん面白がってくださったようなので、ほっ。 大宮駅に続く歩道橋でヴォランティアの人たちが捨てられた子猫をケージに入れて 里親を募集していた。4月13日にいなくなったモルトのことが思い出され、可愛い 子猫を一匹でももらおうかと思ったが、そうするとモルトのことを諦めちゃうような 気がしてやめた。ああ、どこに行っちゃったんだろう。いなくなる前日、モルトと瓜 二つの猫が求愛に来て、モルトのほうもぞっこん参っちゃった様子だった。泉と二人 で勝手に「セバスチャン」と名づけ(つまり、モルトがヴァイオラ)、こいつならお 婿さんになってもいいね、なんて言って気をゆるめたのがいけなかったのか。セバス チャンのあとを追って行っちゃったのかなあ。内田百閧フ『ノラや』の気持ち。モル トの写真入りのチラシをたくさん作ってあっちこっちに貼ったり、親しいお店に貼っ てもらったりしたのだが、まだ手掛かりさえない。 5月28日(火) ホリプロ制作の栗田さんと児玉さん来宅。蜷川新『マクベス』のニューヨーク公演に ついて。これまで蜷川さん演出のシェイクスピア劇では『NINAGAWA・マクベ ス』『テンペスト』『夏の夜の夢』『ハムレット』などがイギリスで上演されたが、い ずれも字幕もイヤホンガイドもなし。ところがNYのお客はそれほどシェイクスピア を知っているわけではないから英語の字幕を入れようというのがBAM側の主張。そ れを私が作らなくてはならないという仕儀になった。たいへんだ。 夜、新宿文化センターでピナ・バウシュの『緑の大地』を見る。6時半に新宿駅地下 のPOLUXで泉と待ち合わせ。ところが、「ごめん、まだ森下なの」と泉から携帯 に連絡が入ったのが6時半(彼女は目下ライミングの『ヴォートリンの犯罪』の舞台 美術をやっている)。新宿文化センターまでの道順を口で言うのはムズカシイ。でも、 「靖国通りを来て、云々」と指示。オドロイタことに、開演に間に合ったのだ(10 分押しだったのが幸いした)。バイクは便利だ。 『緑の大地』は素晴らしかった。『欲望』のあとで、川本さんはあんまり良くなかっ たようなことを言ってたけれど、そして、確かに群舞が少なくなっていたけれど。前 半は背後に迫る森(本水がしたたり落ちる!)、後半は盛り上がる緑の大地、という スケールの大きな装置と交歓しつつ人間の、とりわけ男女の、様々な営みやすれ違い などをユーモアを込めて描き出す。手が、まるで体から独立した生きものであるかの ように思える動き、腕の優雅でしなやかな動きなどは相変わらずピナ・バウシュなら ではのものだ。泉も興奮。帰りに新宿駅南口のイタリアン、ペッシェ・ドーロで食事。 今月見た芝居はほかに演劇ユニット・トレランスの『神経衰弱』、文学座に渡辺えり 子が書き下ろした『月夜の道化師』。 |
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5月14日(火) 午前10時ごろ川本三郎さんから電話。ゆうべコクーンで『欲望と いう名の電車』を見て興奮がまださめない、とのこと。そうだろう、そうだろう。日 曜日に青い鳥の『Tokyo Paris London SAKURA』で偶然となりの席になり、是非見 るようにと勧めたのだ(8年ぶりの青い鳥もよかった。不安半分で祈るような気持ち で見たのだが、性同一性不全の問題を正面から扱いながら笑いをふんだんに盛り込み、 かつ、じーんとさせる。葛西佐紀さん、パワー全開。新人たちにもそれぞれ忘れがた い「顔」ができている)。川本さん曰く「戯曲を読んでも、映画を見ても『欲望』の ブランチはよく分からなかったんだけど、大竹しのぶのを見て分かった。これは、ア メリカ文学に共通するイノセンスの喪失の話だったんですね!」 そう、登場早々の大竹さんの目。世界のただなかで迷子になったような。 お昼すぎ、伊沢磨紀ちゃんから電話。彼女は今度の「子供のためのシェイクスピア」 の『ヴェニスの商人』でシャイロックをやる。キャサリン・ハンター、白石加代子は リア王をやり、サラ・ベルナールから麻実れいまでハムレットをやった女優は何人も いる(暮れにサンシャイン劇場で上演される『ハムレット』では安寿ミラ)けれど、 シャイロックをやる女優は彼女が初めてでは? 青い鳥の『Tokyo …』のあと、川本 さん、泉と一緒に楽屋へ行ってみんなに会ったとき、磨紀ちゃんに「マツオカさん、 もう『ヴェニスの商人』は訳されたんですか?」と訊かれ、プレゼントすることにし たので我が家まで来てもらった。三歳になる愛息(「もとてる」くん、どういう漢字 なのか訊きそびれた。愛称モッティ)と一緒。めちゃくちゃ可愛い。磨紀ちゃんにそ っくり。『ヴェニス』は、台本構成の田中浩司さん、演出の山崎清介さんらカンパニ ー・メンバーにも渡してもらうことにする。 ちょうど植木屋さんが入っていたのだが、この植木屋さんは役者でもある。故金杉忠 男さんが主宰していた元・中村座の高橋広吉さん(植木屋さんとしての屋号は「植吉」)。 かつて金杉さんの創り出す「原っぱ芝居」で「突撃板」と称される分厚いベニヤ板に 体当たりしていた高橋さん。数年前には龍昇企画の『甘い傷』(平田俊子作)に出演 し、役者としても健在なところを見せてくれた。植木屋さんとしてもすごくいい仕事 をしてくれるので、実家にも行ってもらっている(そもそもは白石加代子さんの紹介)。 お庭の手入れをご希望の方にはご紹介します。 5月19日(日) 先週から今週にかけては実によく見た。最近の私としては異例。加藤健一事務所の『煙 が目にしみる』、新国立劇場の『ワーニャ叔父さん』、コクーン『欲望という名の電車』、 ピナ・バウシュ『七つの大罪』、青い鳥『Tokyo Paris London SAKURA』、大人計画 『春子ブックセンター』、ひょうご舞台芸術『ロンサム・ウェスト』、ポイント東京『鹿 鳴館』、ホリプロ『居残り左平次』、そして今日はピナ・バウシュ『炎のマズルカ』。 そのあいだにシアターガイドの今井さんからインタヴューを受け、雑誌『大航海』の ために三浦雅士さんと対談、秋に来日するペーター・シュタイン演出の『ハムレット』 用イヤホン・ガイドのための打ち合わせ。でも、松尾スズキさんの超人的なスケジュ ールに比べればたいしたことない。『春子ブックセンター』を見たとき、彼の新著『ギ リギリ・デイズ』を買って、早速読了(このタイトルを言おうとして『キレギレ・ラ イフ』と言ってしまった。うん、これもなかなかだ)。大人計画のHPに彼が書いて いた日記をまとめたものだが、ものすごく面白い。書く、飲む、演出する、役者やる、 旅する、書く、書く! 私も二度登場。劇団員の宮崎吐夢さんの書いた脚注がまた絶 妙なのだが、それの「松岡和子」の註には「白石加代子にチョイ似の翻訳家」と書か れている。チョイ似とはちょこざいな。実は、加代ちゃんに間違えられたことは、ん ーん、いちいち覚えていられないくらい何度もあり、サインや握手を求められたこと もあるのだ。なんて、自慢するようなことじゃないけど。『グリークス』のとき、コ クーンのロビーで握手を求めてきた若い女性に「白石さんとお間違えなんでしょ、ご めんなさい(と、なぜかいつも謝ってしまう。間違えたあなたじゃなく、似ている私 が悪いのよ、という気持ち)、違うんです」と言ったところ、目の前30センチのとこ ろで向かい合ってるのに「ええっ、違うんですかっ?」と言われてしまった。「ええ、 私、あの、翻訳やってる松岡と申します」と言うと、「きゃあ、松岡さんの訳、好き です、やっぱり握手してください」と来たのは嬉しかった。 さあ、その翻訳だけれど、目下『ペリクリーズ』に取り掛かっている。もう仮チラシ もできて、来年のロンドン公演(ナショナル・シアターのオリヴィエ劇場!)のお知 らせも世に広まってるので、急がなきゃ。 怒涛のような忙しさにもかかわらず、松尾さんはHPのために実に律儀に「日記」を 書いている。オノレの怠惰が恥ずかしい。というわけで、管理人さんにはお手数かけ ますが、見習うことにしました。いつまでこの感心な決心がもつか分からないけど。 なんて言ってちゃいけないか。 |
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ベルリンぼけだ。原稿を書く気になれない。それとも、ただの怠慢をベルリンのせ いにしているだけなのか。4月28日に成田を発ち、5月5日に帰国。一夜明けてまず したのは、庭の手入れだ。今回は留守番役にまわった娘が、花の水遣りをちゃんとし てくれたおかげでみんな元気。だが、たった一週間のあいだにすっかり様変わりして いる。野生のポピーやハゴロモジャスミンは満開だし、ツツジやモッコウバラは葉っ ぱだけになっているし、スナックエンドウは細い蔓をのばしているし、イチゴのいく つかは真っ赤に色づいている。 世の中の人々がドッと繰り出すゴールデン・ウィークには家で過ごすことを旨とし てきた私だが、今回ばかりは禁を破った。息子が社会人オーケストラでコントラバス を弾いており、そのオーケストラがベルリンでコンサートを開くというので出かける ことにしたのだ。甥がベルリン大学に留学中なので、何かと都合もいいし、と言うわ けで、一行は私の妹(甥の母)とその娘、私と夫の四人である。いつどこへ行って何 を見るかというプランから、ホテルの予約、芝居やコンサートのチケット購入まで、 甥が痒いところに手が届くようにお膳立てしてくれた。健ちゃんありがとう。 これまで私はドイツを敬遠していた。文学や演劇や音楽も重くて暗くて深刻、と決 めてかかっていたふしがある。ごめんなさい、ドイツさん。偏見でした。認識を改め ます。 まだコートを着なければ寒いくらいだったし、朝方はいつも雨がパラついたけれど、 ベルリンは新緑に覆われ、ツグミやスズメのさえずりが絶えず、いろんなお店やカフ ェはお洒落で(さすがはバウハウスを生んだ国!)、ついついせっせと歩いてしまう。 思えば本当によく歩いた。季節がよかったせいもあるだろうが、ベルリンは「歩きた い」という思いを掻き立てる街だ。まず、道が広い。木が多い。混雑がない。 見た芝居はどれも大当たり。29日の晩はマクシム・ゴーリキー劇場でイプセンの 『幽霊』(演出・美術・衣裳は渡辺和子)、30日にはベルリーナー・アンサンブルで ブレヒトの『アルトロ・ウイ』(演出はハイナー・ミュラー、1995年初演)、5月1 日はドイツ劇場でロバート・ウィルソン構成・演出の『カリガリ博士』。 映画『ベルリン天使の歌』で日本でもお馴染みになった戦勝記念塔にも登った。狭 い螺旋階段の昇り降りでめまいがしそうだったけれど、巨大な天使をスカートの下 (?)から見上げることもできた。広大なティアガルテンは緑の海。ポツダムやデッ サウまで足を伸ばした。ポツダムでは、フリードリッヒ大王の離宮、サン・スーシ宮 殿を、デッサウではバウハウスを見た。バウハウスでの感激はパウル・クレーとカン ディンスキーが仕事をし生活をした家へ行ったこと。びっくりするくらい現代的。ク レーは、中学二年のとき美術の先生に教えられて以来、一番好きな画家だ。思いがけ ない「我が心の旅」。 旅のメインの目的だったコンサートは大成功と見た。会場は、な、なんと、ベルリ ン・フィルのホールだ。パイプオルガンが正面ではなく上手寄りにあるのは初めて見 た。ステージは低い。その背後の客席がものすごく広いので、観客が舞台を360度取 り囲んでいるような錯覚を起こしてしまう。満席ではないものの、日本のアマチュ ア・オーケストラ(とは言っても指揮は大友直人、二曲目のハイドンのトランペット・ コンチェルトのソロを吹いたのはコンラディン・グロート)のコンサートによくもこ れだけ、と思うほどの大聴衆だ(いろんな駅にもポスターが貼ってあった)。一曲目 はブラームスのハイドン変奏曲、三曲目は三枝成章作曲の「カンタータ天涯」。ソニ ーの盛田昭夫さんに捧げられた曲だ。旋律は恥ずかしいくらい通俗的だったけれど、 素晴らしいボーイ・ソプラノには文句無く感動。ドイツ人の美少年だ。私たちの席の すぐ後ろにその友達らしい一団が陣取って、すごい声援を送っていた。終ってから舞 台のすぐそばまで行って、息子に声をかける。ゴキゲンの様子。 |
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今回は「行ってきた」シリーズです。 9月24日(日)大阪へ行ってきた。シアタードラマシティの『セツアンの善人』 を見るために日帰りで。21日だったかな、大阪の串田さんから電話。舞台が とてもよくなったし、いろいろ変わった箇所もあるので出来れば見にきて欲 しい、と。東京の千秋楽(19日)に行けなくてものすごく心残りだったのだ が、チケットは取りにくそうだし、などとうじうじしていたので渡りに船。 結果は、行ってよかった! 全体に芝居の要所要所のボルトとナットがきっ ちり締まったという感じ。いろいろと新しく加わった要素も効果的だった。 たとえば、冒頭でタイトルや説明が投射されるスクリーンがえっちらおっち ら運ばれてきて(運ぶ人の一人は串田さん)、吊り上げられるところとか、 ミィ・ツーさんが出てくるたびに演奏されるテーマ・メロディとか、ヤン・ スンの歌う「決して来ない聖者の日」で、彼が大テーブルから飛び降りた途 端にぱっと鋭角的に変わる照明とか。それに、お客さんの舞台への集中ぶり もすごかった。私が見たときもそうだったが、毎日毎日スタンディング・オ ベイションだったのだそうだ。今回の『セツアン』とTVの「情熱大陸」を 見て、松さんにはヴァイオラをやって欲しいとインスピレーションが湧いた ので、松さんの楽屋を訪ね拙訳の『十二夜』をプレゼントする。串田さんの 坊やの名前が「十二夜」くんということもあるので、是非、近い将来再び串 田・松たか子のコンビで・・・。 10月2日(火)新潟へ行ってきた。ケラリーノ・サンドロヴィッチさんとの 公開トークのために一泊で。これまでケラさんとは劇場のロビーなどで立ち 話をしたことはあるが、ちゃんと話をするのは初めてなのでわくわくする。 新潟市民芸術文化会館・りゅーとぴあ主催の「演劇基礎講座」の第一回目。 12月にナイロン100℃の『ノーアート、ノーライフ』がここの劇場で上演さ れるので、そのPRも兼ねて。ケラさんの名前、劇団の名前の由来から始ま って、彼の戯曲やギャクの特徴、劇団メンバーのこと、愛してやまないモン ティ・パイソンのこと、宮沢章夫さんや松尾スズキさんとの交友のこと、い とうせいこうさんたちと旗揚げ準備をしている「空飛ぶ雲の上団子郎一座」 のこと、そして今度の作品のことまで話は盛り上がった。淡々とした話し振 りの裏に、たくまざるユーモアと豊富な知識、そしてセンスのよさがうかが われる。近くの居酒屋でりゅーとぴあの皆さんに囲まれて打ち上げ。ホテル に着き、エレベーターを降りて「おやすみなさい」を言って別れる。でもケ ラさんは翌日のチェックアウト直前まで徹夜でホンの続きを書くらしい。 10月5日(金)10時55分発のBAで成田を発ち、ロンドン郊外のニューベリー とオランダのロッテルダムへ行ってきた。私の訳を使った『ヴェニスの商人』 の舞台を見るために。ニューベリーのウォーターミル劇場については去年夏の 「独白・イギリス篇」に書いたけれど、晩秋というか初冬のウォーターミルも 趣があって素敵だった。ゴルフ場に隣接したホテルにチェックインしてから タクシーを呼んでもらって劇場へ。劇場を運営しているジルとジェイムズ・ サージャントさん夫妻に再会。早速三階の楽屋へ行ってカンパニーの皆さん に挨拶する。前日が初日。みんな温かいお客さんの反応に感激したそうだ。 バーに行ってみると、舞台監督の堀さん、照明の石島奈津子さんらのスタッ フと一緒に泉もいた。元気そうでほっとする。端で見ていても「兄貴」堀さ んチームの結束のよさが分かる。演出のイオン・カラミトルさん、プロデュ ーサーの田村さんも別のテーブルに。舞台はこの日の2日目と翌日の3日目 を見た。中野誠也さん(シャイロック)、執行佐知子さん(ネリッサ)、小 山力也さん(アントーニオ)、立花一男さん(老ゴボー)がいい。お客さん にとっては、いくら筋を知っているとは言え、おそらくチンプンカンプンの はずの日本語の台詞、それなのに実に熱心に舞台に集中している。そのこと に感激してしまう。 7日の早朝、貸切バスで劇場に寄り、道具や衣装のトランクを積み込む。早 起きしてくれたサージャントさん、人なつこい寄り目のサバ猫フリスコ、数 の増えたアヒルたち、生後5日という6羽のアヒルのヒヨコに「さよなら」 して空港へ。カラミトルさんはすでに昨日ルーマニアに帰っている(私と入 れ替わりにロッテルダム入り)。 ロッテルダムは初めて。ここでの初日は12日で、仕込みは11日、それまでは オフ。私が帰国するのは10日の朝というマヌケなスケジュールになってしま った。だから2日間ロッテルダム観光。でも、RSCに出すファックスの添削 をしたり、カラミトルさんへの手紙に私なりの意見を書いたりしたから、ほ んのちょっとは役に立っただろうと自分を慰める。中高年四人組(中野、執行、 立花、私)で敢行した観光のハイライトはデルフスハーフェンの旧市街と 市場、そしてヒエロニムス・ボッシュの展覧会(これは執行さんと私だけ)。 チャイナタウンの中華料理は美味。四人ともファストフードのスープ屋さん が大いに気に入る。 カンパニーはロッテルダム公演のあと、ルーマニアのブカレストへ向かう。 10日、泉にセントラル・ステーションまで送ってもらい、公演の成功を祈って 帰国。 10月13日(土)高知市へ行ってきた。マイムのグループ「水と油」の公演を 見て、メンバー四人のアフタートークの司会をするために一泊で。まるで夏の ように強い陽射し。ここでは11月になってもまだ半袖で過ごすことがあると タクシーの運転手さんが言っていた。県立美術館のホールはすごい。本格的 な能舞台まであるのだ。「水と油」さんにとっては、春フェスのグローブ座 を除けばこれまでで最大の劇場だそうだ。上演したのは『見えない男』。 ゲネプロも本番もすごくうまくいった。彼らの舞台は何度も見てきたが、今 回初めてルネ・マグリットの絵との類縁性に気づいた。満杯のお客さんも大 満足の様子で、トーク終了後も大勢ロビーに残っていて、名残惜しそうに四人 のメンバーと話をしていた。トークでは、みんながフィリップ・ジャンティが 好きだと聞いてナットク。打ち上げも楽しかった。本場土佐のさわち料理、 スライスしたにんにくがドサっとかかったカツオのたたきに舌鼓を打つ。高 知県文化財団企画課長・県立美術館アートコーディネーターの藤田直義さん はすごいセンスの持ち主で、果敢な。なにしろ1993年に開場して以来、この ホールに呼んだのはダムタイプ、勅使川原三郎、維新派、メレディス・モンク、 ク・ナウカ、ラ・ラ・ラ・ヒューマン・ステップス、イデビアンクルー、 ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブといった錚々たる面々。ジョルジュ・メ リエス映画祭もやっている。どうです、トンガリぶりは。「水と油」は来年 5月のブライトン演劇祭(イギリス)に招待されている。応援に行きたい。 いや、行こう。 さて、23日から11月1日までまたイギリスに行ってきます。『ヴェニスの商人』 のジ・アザー・プレイス公演を見るために。カンパニーは28日に帰国しますが、 私と娘の泉はちょっとだけ居残り。3日にはライミング『十二夜』のキャスト・ スタッフ顔合わせです。 |
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5月、6月、7月のあいだに『マクベス』が終わり、『ウィンザーの陽気な女房たち』が 始まって終わり、『CANDIDE』が始まって終わり、8月1日には『セツアンの善人』の 稽古が始まり、14日からはさいたま芸術劇場の『ハムレット』の稽古が始まる。 なんか過密だなあ。 CANDIDEは、東京の千秋楽も感動的だったけれど、大阪の楽の盛り上がりは 大変なものだったらしい。何しろ三千人のお客さんがウワーと総立ちになり、しまいには オーケストラのメンバーまで舞台に上がっちゃったっていうんだもの。この公演は 私にとっては大きな意味がある。初めてのミュージカル、単なる翻訳ではなく、 訳詞の橋本さんや演出の亜門さんたちと何日もかけて上演台本作りに参加したこと。 何よりも大きいのは、指揮者の佐渡裕さんを知ったことだ。ご挨拶し、初めて話をしたのは 初日の舞台がはねてから。ダイナミックな指揮ぶりは、客席から眺めていて感動したが、 直接お目にかかって、その若々しさとてらいの全くない真っ直ぐな人柄に心を動かされた。 このとき、8月4日に河口湖畔で佐渡さん、河合隼雄さん、ラグビーの平尾誠二さんの トークおよび、佐渡さんと河合さんのフルート二重奏があることを知り、「行きます!」と宣言。 で、一人で車を運転し、行ってきた。佐渡さんのマネジメントをしていらっしゃる佐野光徳さん の企画だ。出かけるまえに佐渡さんの著書『僕はいかにして指揮者になったか』(新潮社、Oh!ブックス) を読んでますます感激。この本はオススメ。 前日の晩の食事会と当日のトークは、お三方とも関西出身なので柔らかでユーモアに満ちた 語り口が楽しく、中味は広く深く、それにフルートの演奏まで聴けたのだからこれを至福の時と 言わずしてなんと言おう。 ******** とここまで書いて、またまた時間があっという間に過ぎ去り、いまはもう9月。そのあいだに 『ヴェニスの商人』(欧日舞台芸術交流協会)の稽古が始まり、『くたばれハムレット』(NLT) の稽古が始まり、『セツアン』は幕を開け、蜷川さんの新『ハムレット』は劇場稽古に入った。 やれやれ・・・。 7月末には琵琶湖で開催された日本テレビ主催の「鳥人間コンテスト」を見に行った(夫が 東京電機大学の鳥人間チームを指導しているので)。電大が参加したのは滑空部門で、 飛んだのは26メートルだが、それでも28団体のうち13位。初参加としては上出来だ。 その帰りに娘が京都の友だちから雌の仔猫をもらう。ほんとに頼りないほど小さかった モルト(ヒヨコみたいななき声なので通称ピー、ピヨコ、ピヨ。ものすごいカジリ屋で、15年来の 我が家の愛猫ギズモを追いまわすのでアクマともデビル・キャットとも呼ばれている)が、 いまでは三倍くらいの大きさに育った。 ところで娘の泉はtptの『ガラスの動物園』では舞台美術助手として仕事をさせてもらい、 すごく勉強になったよう。『ヴェニスの商人』では美術を担当。暮れに予定されているライ ミングの『十二夜』(中島晴美演出)もやることになっているので、一緒の仕事が続く。 『ヴェニス』は上演台本用にまず、演出のイオン・カラミトルさんがカットしたものを訳したが、 現在はちくま文庫のためにそのカット部分を訳している。相変わらず難しいところが山ほど あって溜め息の連続。 |
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一年中で一番好きな季節。庭を占領する花が次々と入れ替わる。花大根、野生のポピー、 いまはムラサキツユクサの親玉みたいなイカリソウだ。庭を眺めていて一、二本の雑草が 気になり、「ちょっと」のつもりでサンダルをつっかけたらもうおしまい。しばらく戻ってこられ なくなる。で、自分にルールを課した。「原稿を書き終えたら庭に出ることを許可する」というもの。 言わばご褒美だ。 昨日もそうだった。先週半ば、ホリプロのKさんから電話があり、『近代能楽集』のロンドン公演用 パンフに原稿をという突然の依頼。『英語青年』の原稿を送ってほっと一息、いよいよ『ヴェニスの 商人』の翻訳に取り掛かるか、と思った矢先だ。おまけに三島由紀夫の芝居についてはこれまで 書いたことがない。イギリスでは、三島というとどうしても政治的に捕らえる傾向があるので、 彼の演劇の特質を軸にした紹介文が欲しい、というのが蜷川さんの希望なのだそうだ。「うーん」 なんて迷っていると、「ここに蜷川さんがいらっしゃいますから、代わります」。巨匠みずからの ご依頼なら畏れ多くて断ることはできない。でも、たった六百字の原稿でも、『近代能楽集』を 全部読み返し、手元にある資料には当たらなきゃならない。締め切りを一日延ばしてもらって、 28日と29日の境目あたりにメールで送る。明けて29日、「わーい、庭に出られる!」というわけで、 蚊の攻撃への対抗策を講じ(厚地のスパッツ、蚊よけの黒いネットのジャケット、蚊取り線香)、 ゴム手袋をはめ、サンバイザーをつけて。 庭と言えば、ついこのあいだ、柘植の木にキツツキがきた。まさか、と思われるかもしれない けれど、見間違いではない。黒い羽にポツポツと白い斑点、長いくちばし、つつーとリズミカルに 垂直に幹を昇る、止まったところでちょんちょんとつつく。ああ、また来てくれないかなあ。 四月、五月はいろいろと出来事満載だった。まず四月。『ウィンザーの陽気な女房たち』の稽古 開始、パンフと『快読シェイクスピア』続編のための河合隼雄さんとの対談で京都へ。中村 歌右衛門みたいなしだれ桜も見た。岸田戯曲賞(三谷幸喜さん)の授賞パーティ、AICT賞 の選考会、白石加代子さんのスポニチ芸術大賞授賞パーティ。 18日に秋元松代さんをお訪ねしたら、その一週間後に亡くなって、呆然。メセナ協議会の 理事長をお辞めになった根本長兵衛さんを囲むパーティ、編集者をしている妹と一緒の 津和野旅行(3月20日にオープンした安野光雅美術館へ。安野さんの案内で津和野を巡る 贅沢。まず、安野画伯による『週刊朝日』表紙の原画展をやっている下関の美術館へ行った のだが、ここで秋元さんが亡くなったことを知った。朝日新聞学芸部の山口宏子さんとの電話と ファックスのやりとりで追悼文を書く)、92歳になった母の誕生会。アタマも体もねじくれそうだった のは、29日から30日にかけて。秋元さんのお通夜には出られないので、午前中に品川のご遺体 安置所へ赴き、「一人お通夜」をしてから、六行会ホールへ行って私の訳によるAUNの『リア王』 を見る。6時からはホテルニューオータニで「白石加代子さんのもろもろを祝う会」(加代ちゃんの 大らかで温かい人柄をそのまま映すような素晴らしいパーティだった)。コクーンの『マクベス』の 打ち上げと重なる。ホリプロの堀会長やプロデューサーの金森さん、NODA・MAPの北村さん たちは両方をハシゴ。私もそうするつもりだったのだけれど、私のスピーチの順番があとの方 だったので、打ち上げ出席は諦める。賑やかなパーティのあと、深夜から明け方にかけて 秋元さんの弔辞の原稿を書いた。 30日、そぼ降る雨の中の秋元さんの告別式。これを「悲喜こもごも」と言わずして何と言おう。 管理人より 先生、ご自慢のお庭は、こちらです。お庭@ お庭A 秋元先生への弔辞は、こちらです。
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