氷のお姫さま ・ 2
〜麗景殿の綏子(やすこ)〜
長いこと正体の分からなかったお姫さまでしたが、時代が分かったので、
その原典も、だいたい見当がつきました。
『大鏡』でした。
・・私は、高校生のとき、古文の副読本として、『大鏡』を読まされていたのです。
あ〜、そういえばそうかもなぁ、などと・・ 記憶って、いい加減なものです。
さて・・
『大鏡』第四巻、一、太政大臣 兼家
というところを探して行くと、そこに・・ありました。
たしかに・・不倫が世にばれて、里にお帰りになった、とあります。
でも、それだけではありませんでした。
綏子には懐妊のうわさがあると聞くが、本当だろうかと、帝が、綏子の兄にあたる
道長公にお尋ねになったので、道長が、様子を見に行くことになった。
尚侍は突然道長が現れたので、変だと思って几帳のかげに隠れようとしたのを、
道長はその几帳をおしのけ、
「これこれとうわさがありましたので、様子を見に参りました。
事実無根のうわさでしょうに、そのままではお気の毒ですから」と、
「御むねをひきあけさせ給て、ちをひねりたまへりければ、御かほにさとはしりかかるものか。」
(『大鏡』 松村博司校注 岩波文庫より)
な、なんじゃこりゃ〜!
・・長年さがしていた氷のお姫さまの、い、イメージが・・
この記述について、保坂弘司氏は、
「どうやら作者は、王朝黄紳の微苦笑を誘う、お品のいいエロチシズムを歴史物語の
世界に構築する特技をもっていたもののようである。」
(『大鏡 全現代語訳』 保坂弘司 講談社学術文庫より)
なぁんて、誉め(?)ているのですが、
びっくりです。
たかが兄(されど兄?)が、突然妹のところへ乗り込んで、
「おい、おまえ、妊娠してるって世間が言ってるぞ。ほんとうか?」と
言うやいなや、胸をひきあけて乳をひねってみる!? なんて。
兄、道長が帰ったあと、綏子はたいそうお泣きになった、とありますが、
そりゃまぁ、そうでしょう〜、と言いたいような、場面でした。
ただ、こうして原典にあたってみて、さらに、気が付いたことがありました。
一番最初に見つけた、杉本苑子さんの描写と、この『大鏡』の描写。
微妙なところで、食い違っているのです。
杉本さんの本では、帝はただ「どのぐらい持っていられるか、試してごらん」と言って
氷を握らせ、そのあと、用を思い出して席を立ち、もどってきてみると、綏子は
まだ氷片を握ったままだった、というのですが、
『大鏡』では、帝は、「私のことを思う気持ちがあるなら、『もうよい』と言うまで
持っていなさい」と言い、そのまま見ていた・・ということになっています。
これは、微妙だけど、違うんですよね。
ただおもしろ半分、持っていろと言われて、席をはずされるのと、
私のことを思うなら・・と言われて、その場で見ていられるのとでは、話が違う・・
変だなぁ。
杉本さんほどの方が、思い違いをされることが、あるのだろうか?
もしかしたら、この話は、何か他の古典にも、出ていたりするのだろうか・・と。
その思って眺めていたら、『大鏡』の注釈の中に、『栄花』という記述がありました。
これはどうやら、『栄花物語』にも、何か関連の記事があるのだな、と思い、
今度は、それを探してみることにしました。