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社会人のマジック

 今宵私は、旅に出る。一人の女を波止場に残して…。

 女の名は・・・・・・・・・『Magic』

「Magic…別れよう。
 オレはこれから、旅に出る。辛く、険しい場所にだ。
 そしてそこに、キミを連れて行く事は、出来ないんだ。
 ・・・・・・・・・・・・・・Magic!…お別れだ」

 知る人ぞ知る、かの「伝説コレクション」、その最後の幕間劇。そこで演じられる、「手品だけしていれば満足だった、あの時代」との惜別。奇術学生(手品に身も心も勉強時間もデートの費用も売り渡した学生の事)の誰もが、いずれはやって来るその時の事を想い描くのではないでしょうか?

 そう、プロの手品師になるのでなければ、いずれは手品が生活のメインで無くなるときが来ます。一日10時間も手品の練習に割くなんてことは出来なくなります。

 今までなら、かなりの練習を要する手品も、一週間有れば人前で披露できるレベルまで引き上げる事が出来たかもしれません。授業中、実験中化学反応を待っている空き時間、教授の裁定を待ってる間などなど、練習時間は常に有りました。

 しかし、社会人ではそうはいきません、特に、会社務めをするようになれば。会議中、業務中にカードを弄るなんてもってのほか、社長を御待ちしている間にトランプなんて出していたら、それこそボーナスの額に影響してきます。せいぜい、数枚の名刺でカウントの練習をするとか(それも、自分の名刺でね。取引先の名刺を使ったら仕事切られるよ(^^;)、ポケットの中で500円玉を使ったパームの練習ぐらいしかできないのです。

 周囲にマジック同好の志が居なくなる事もあって、手品を見せ合い、演技チェックをしあったりする事も無くなり、スライハンド系の腕前はどんどん落ちていきます。また、手順を忘れます。実際、僕はパスが出来なくなり、片手三段カットが出来なくなり、「リセット」のやり方を殆ど忘れてしまっています(←去年学祭に行ったときに、後輩の現役生、中村君に教授してもらったほどです)

 そして、手品を見せる機会も急速に失われていきます。機会といったら、

・結婚披露宴の余興
・会社の宴会で余興

 ぐらいなもんです。

 しかし、機会と練習時間が無くなる一方で、社会人は収入が増えます。
 社会人が自由に出来る金額は、学生の細々とした財布の中身の、優に2ケタ上です。
 いきおい、社会人のマジックは
ネタモノに走ることになります。

しかし、それではチと寂しい。

 それに、ネタモノはいかにも怪しい外見のものが多く、突然スーツの内ポケットから取り出すには難があります。いや、カードであってさえ、です。スーツ着たサラリーマンがアタッシュケースからカードのデックを取り出す姿は、かなり奇妙な雰囲気を与えると思いませんか?「御職業は、ギャンブラーですか?トランプのセールスマンですか?」と聞かれますよ。

 そんなわけで、社会人に相応しい手品の条件を、僕なりに考えてみました。その結果が、

 1.怪しい品物を使わず
 2.あまり練習が要らず
 3.セットが要らない

という条件です。
 それについて、ちょっと細かく話しましょう。

1.怪しくない品物

社会人の上着のポケットに入っていて、奇妙じゃない品物。
これは随分と限定された制限事項に思えますが、調べてみると、結構使える品物は揃っているのです。

・財布(コイン、紙幣、名刺)・筆記具(手帳、ペン)・喫煙具(タバコ、ライター、マッチ)・時計・文庫本や新聞、雑誌・また、ちょっとしたものならアクセサリーも(指輪、ネックレス)。

ちょっと手品をかじった事のある人なら、即座に数個のトリックを思い出せませんか?

2.あまり練習しなくて良い

 なんか突然、サーンストンの三原則を破るような条件ですね。しかし、学生時代に比べると、練習時間は1/20くらいになりますからね。
とは言え、やっぱりマジックに練習は必要です。
そんな訳で、社会人のマジックとしては「何時でも何処でもちょっとした時間の隙間で練習が出来る」という条件が必要でしょう。
ここで強調したいのは、「チョットした時間」というのがホントに「僅かな間」であっても、と言う事です。
 例えば、エレベーターで一人になった時、電車を待つホームで、トイレの個室で手持ち無沙汰の時…。
 サラリーマンのおっチャンが、ホームで傘をゴルフクラブに見立ててスイングの練習をしているところを見た事ありマセんか?
 我々も、御手洗いで手を拭いたナプキンを捨てる瞬間、目の前の鏡を見やりながらフェイクパスの練習をしてミませんか?
…と書いていて解かったのは、要するに「テーブルを使わずに、スタンド・アップで行えるマジック」こそ、世知辛いジャパニーズ・ビジネスマンに相応しい練習スタイルでは無いでしょうか?

3.セットが要らない

これが最高に重要です。
 マジックは、観客を不思議がらせる事を目的とした芸ですから、観客に見てもらう事はマジックの大前提です。
 逆に、いくら練習して素晴らしい腕前を身に付けていても、人に見せていない時は、それは単に手さばきが器用というだけに過ぎません。
 一般社会人には、手品を見せる「機会」と言うものが稀ですし、しかもその「機会」は突然やってきます。有る時、突然、こう言われるのです。
「何かやってよ」
 「突然そんな事言われても…」と言いたいのは山々ですが、そう言っていてはせっかくの機会をフイにする事になってしまいます。「しょうがありませんね」とか口では言いながら、心はうきうき何を見せてやろうか…とならなきゃいけません。
 そんな時の為に、セットアップ無しでやれるネタを、1つは持っておくべきでしょう。
 その一つがおおいにウケればこっちのもの、「もっと見せて」と言われてから、トランプなりなんなりをおもむろに出せば、スムーズにお客さんもノッてくれます。

さて、では実際に僕がどんなマジックをネタにしているのか。
それは
「私のペット・トリック(作成中)」をご覧下さい。

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