▼PVD・CVD処理▼
地球環境や新素材開発が話題になっている昨今、これからの表面改質熱処理技術はどのように進歩を遂げるのであろうか。
材料自体の特性を向上させることも重要であるが、これらの材料開発は厳しいニーズに対して、表面改質技術を避けては通れないところまで来ていると思われる。以下に、これからの表面改質技術の方向性について示し、それぞれの課題について対応しなければならない項目の一例を挙げた。
このニーズにこたえるために、既存材料の高性能化・高機能化を図るため、種種の表面改質方の開発に拍車がかかってきた。 従来の表面改質法は固体・液体・気体などを利用した処理法が一般的であったが、自動化が容易に可能で、しかも精度のよい制御が出来る真空・プラズマエネルギを利用した表面改質熱処理法は、開発の進む表面改質法の中でも次世代に大きな飛躍が期待される。 本文ではこの表面改質処理技術の中でも、将来性が特に期待され、注目されている蒸着法、いわゆるPVD(物理的蒸着法)とCVD(化学的蒸着法)の原理・特性および工業的応用について述べる。 ●各種蒸着法の原理・特徴
適用材料を生かしたPVD・CVD処理を行い、それぞれの目的とする効果を得るためには、種々ファクターを総合的に判断して表面改質の使用を決定することが大切である。
下図にはそれぞれに検討しなければならない項目について示した。
次表に、工具・金型および機械部品などを対象とした場合の各種蒸着法の比較を示し、さらに各種蒸着法に適用できる基材を示した。CVD、プラズマCVD、PVDにはそれぞれ損失がありその目的にあった使い分けが必要である。 [ 各種蒸着法の比較 ]
各種鋼材の焼入れおよび焼戻し条件とCVD・PVDを行う処理温度範囲をみると、それぞれの鋼種の焼入れ・焼戻し条件によって、CVD・PVD処理温度を選定する必要がある。この図よりPVDの処理温度は、その鋼種の焼戻し温度以下で処理することが大切で、コーティングの際基材の変態が伴わない方が望ましい。
[ 各種蒸着法に適応可能な基材 ]
■PVD処理
最も多く工業的に応用されている代表的なイオンプレーティング装置には、アークプラズマ方式とHCD方式がある。
■CVD処理
アークプラズマ方式の特徴は、金属を蒸着させる機構にある。蒸発させようとする金属を水冷し、その裏面に磁石を装着し、真空容器を正に、またターゲット材を負に電圧を印加する。円筒状のターゲット材の表面でアーク放電をさせ金属を固体から気体状にし、イオン化させる方法で、比較的低温度の200〜600℃で処理可能である。また、コーティング表面粗度の改良開発に実績が認められるようになってきた。 一方、HCD方式の構造は、円筒状のコーティング処理室の中央下部に成膜用金属を溶かすためのるつぼが設置され、さらにるつぼの上方の上蓋にプラズマ電子銃が取り付けられている。 電子銃から放出された電子は、処理室内の電位を持ったるつぼに飛び込み、成膜用金属を溶解・蒸発させ、さらに蒸発した金属蒸気とガス入口から導入された反応ガスは、上から降り注ぐ電子との衝突で最外軌道の電子がはじき飛ばされ、プラスにイオン化する。ここで、るつぼと電子銃の間の空間は、ガス電子とイオンに解離したプラズマ状態が生じる。 プラズマの近くにワークをマイナスに帯電した状態で配置する。その電位差によって高いエネルギーで金属イオンと反応ガスイオンがワーク表面に衝突・反応し堆積成膜する。 HCD法は通常400〜600℃で処理するのが一般的で、コーティング膜のスムース性が極めて良好であるのが特徴である。 以下にPVD方式による使い分けについて示す。
母材の表面で化学反応を起こさせて、蒸着物質を合成・成膜させるのがCVDである。低温で気化した揮発性の金属化合物塩と、高温に加熱された母材との接触による反応が基礎となって、目的とする金属化合物を母材表面に析出させ、被覆面を得る。
■複合処理
次に熱CVDの代表的な化学反応例とCVD処理で蒸着可能な単層膜及び多層膜の代表的な例を示す。 [ CVD処理の代表的な化学反応例 ]
最近の傾向として、切削工具はもとより金型においても単層膜から多層膜に移行しつつあり、種々の特性を兼ね備えたコーティング膜が注目されている。
[ CVD処理で蒸着可能な皮膜の代表的な例 ]
特に金型へのCVDコーティングは、従来ではTiC単層が一般的であったが、耐熱やその他種々の特性に優れている。 TiC/TiCN/TiNの3層コーティングが主流を占めるようになってきた。
蒸着処理を含む複合処理は、種々の過酷な使用条件に耐えうることが次第に認められ関心が持たれるようになってきた。
この複合表面改質処理を目的別に分類すると、次の3種類に分けることが出来る。
1) 基材の機械的特性を向上させ、皮膜との相乗効果を担ったプロセス
これらの複合表面改質処理は、いろいろな金型や機械部品に対して、ユーザーの厳しいニーズに対応できる極めて有効な手段と思われる。2) 基材と皮膜の密着力を向上または安定化させたプロセス 3) 皮膜自体の物理的特性をさらに向上させたプロセス 次表は目的別分類とプロセスの例である。
●工業的応用蒸着法の工業的応用については、主として耐摩耗性や耐焼付性を必要とする切削工具・金型および機械部品に適用され、それぞれの適用目的は異なるものの、結果的には省資源・省エネルギに寄与してきた。
以上、PVDとCVDの材料を生かす処理方法と特性について述べた。今後、表面改質法によって種々の特性を向上させる要求は、ますます多様化するだろう。オールマイティの処理プロセスはなく、その用途目的によって、適正な処理法の選択をしなくてはならない時代に入ったと言える。処理法の選択を誤ったため、結果的には改善や開発が大幅に遅れ、その商品が競争に負けてしまったことをよく聞く。今こそ、これらの表面改質処理の将来動向を見極め、それぞれの仕様にあった材料-熱処理-表面改質法の選択が重要であると痛感する。
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