▼窒化処理▼

1923年にA.FryがAlまたはCrあるいはこの両者をふくんだ窒化鋼をNH_3ガス中で約500℃付近の低温で加熱することにより、その表面に極めて硬い窒化層が得られることを発見したのが窒化法の始まりである。
その後多くの研究により著しい進歩を遂げ、現在窒化法にはガス法・塩浴法・プラズマ(イオン)法に大別される。
各処理法は処理物の加熱方法と窒化に必要な活性窒素の供給法により大きく異なっている。
窒化は浸炭焼入れおよび高周波焼入れとは異なり、NH_3ガス中で約500℃に加熱して鋼の表面に窒素を浸透させて窒化鉄の硬化層を生成させる事が特徴であり、その後焼入れなどの操作を必要としない。
従って窒化の処理温度は他の表面硬化法とは異なり、500〜600℃の低温であって、α-Fe域の処理であるため窒化処理を施しても窒化による直接的な寸法変形の少ないこと、また窒化層の最表面層には安定な圧縮応力が存在するため耐摩耗性と耐疲労性を有し、約600℃近くまで温度が上昇しても軟化が起こらず、熱敵にも安定であり、耐食性も比較的良好であるので工業的に広く応用されている。





■ガス窒化法

窒化法は活性酸素の拡散により、鋼表面の高硬度の拡散層を得ることであるが、その窒化機構は

< 2NH_3 ←→ 2N + 3H_2 >

の反応でNH_3ガスの分解によって生じた発生期のNを鋼に拡散させて窒化層を得る。
鋼は分子状の窒素(N_2)でも極めて微量に吸収するが、その量は0.0005%前後に過ぎない。したがって分子状の窒素では事実上全く窒化しないと考えて良い。
NH_3は窒化の処理温度で容易に分解し、これによって生じたNが鋼に拡散して窒化物を作るが、鉄と窒素の化合物は面心立方格子のFe_4Nと稠密(ちゅうみつ)六方格子のFe_2Nの2種類であり、窒素の最高量は11.1%である。
窒素濃度が11%を超えるとζ相(Fe_2N)はじん性に乏しいので、ζ相の生成を避けなければならない。純鉄・炭素鋼またはNi・Coなどは窒化しても硬化しないが、Al・Cr・Mo・Ti・Vなど安定な硬い窒化物を作る金属元素を含有する合金鋼は著しく硬化作用を受ける。すなわち、Nと化合して高い硬さの窒化物を生成する物は顕著な硬さが認められる。
言い換えると窒化法は組織の変化によって硬化するものではなく、硬さの高い窒化物を作ることによって著しく硬化する現象であるため、窒化処理後も焼入れなどと異なって急冷する必要はない。
しかし窒化による硬化説には従来より種々の説があり、発生期の窒素原子が鋼中のAl・Cr・Mo等と硬さの高い窒化物を作り、その微粒子が鉄格子のすべり干渉を起こし、そこに著しい歪みを与える結果高い硬さを生ずるとする説、また窒化物がα鉄格子中に発生するために生じたα格子の歪みに起因するという説などがある。




■塩浴窒化法

塩浴による窒化法は従来のNH_3ガスの分解法によるガス窒化の短所を補うために開発された方法であって、迅速窒化ならびに窒化処理による優れた特徴を一般用構造鋼にも普及しようとする目的で行われたものである。
すなわち被処理物の作用する活性窒素を豊富にし、窒化作業を短時間で処理できることと、ガス窒化は単に標準窒化鋼(Al-Cr-Mo鋼)のみに可能であった物を、多くの構造用鋼・工具鋼にも同様に窒化処理でき、これによって耐摩耗性・耐疲労性などに貢献させるためである。
塩浴窒化に関してはシアン酸ソーダ(NaCNO)またはシアン酸カリ(KCNO)を20〜70%含む混合塩を用い、500〜620%に溶解した塩浴中に被処理部品を浸漬し処理するものであって、処理時間は10分〜2時間程度が普通である。
1955年頃よりNaCNOを主体とし、この不安定塩を安定化し、なおこれらの分解速度を調整するために中性塩・炭酸塩などを添加した多元系供晶組成塩浴によって迅速窒化を可能にした。
またドイツDegussa社ではタフトライド(Tafftride)と称してNaCNとKCNOの混合塩を採用して同様に迅速窒化を行っており、これを強制分解するために塩浴は常に空気を吹き込む方法である。




■タフトライド法

タフトライドは塩浴軟窒化とも呼ばれ、シアン酸塩を主成分とする塩浴を用い、比較的短時間(30分〜180分)の処理により、窒化と炭素を同時に拡散浸透させる処理である。
タフトライド法は塩浴としてXCNO(XはNaまたはK)を用い、570℃の低温でチタン容器の底から空気を吹き込み、鉄鋼および鋳鉄部品を処理することを特徴とし、従来のNH_3ガスのみによるガス窒化と比較して短時間で処理でき、鋼種による制限がない。
本来は、
< NaCN → O_2 → NaCNO(またはKCNO) >
< NaCNO → 熱分解 → CO(浸炭) + N(窒化) + Na_2CO_3 >

の反応で示されるように処理品の表面は多量の窒素(8〜9%)と少量の炭素を含むε相とν'相の化合物で、内部は窒素が浸透した拡散層である。
この化合物層は主として耐摩耗性・耐かじり性の向上に役立ち、内部の拡散層は窒素をα鉄中に過飽和に固溶させることにより疲労強度の向上に有効であり、処理温度が低いことは変形が極めて少ないことになる。
ところがタフトライド法はシアン酸塩を使用するので環境問題が厳しくなってきた現在では公害防止対策に相当な費用と労力をかけなければならず、これらの排水・排ガスなどの処理コストにも影響を与える。
近年低公害用として新タフトライド法が開発されている。




■ガス軟窒化法

ガス軟窒化はガス窒化とはまったく別の処理である。
ガス窒化は浸炭に代わって、より強度・精度を必要とする部品に対して行われるもので、窒化鋼やダイス鋼などの高級材料に使用される例が多いが、一方ガス軟窒化は炭素鋼などを主体にした低級材料への処理が多い。
以下にガス窒化とガス軟窒化とを比較し、その特徴の違いをまとめた物を示す。
ガス軟窒化は耐摩耗性・耐焼付性・耐疲労性などの向上を目的とした表面硬化法である

窒化法
ガス窒化
軟窒化
材質
高級鋼
SACM・SKH・SKD・SCM・SUP
低級鋼
SPC・炭素鋼・鋳鉄・STKM
目的の組織
拡散層
Al・CrとNとの化合物(Fe-Al-N・Fe-Cr-N)
化合物層
FeとNとの化合物(Fe_3N・Fe_4N)
硬化層深さ
深い
0.1〜0.3[mm]
浅い
8〜15[μm]
表面硬さ
高い
Hv700〜1200
低い
Hv400〜700
処理時間
長い
25〜100時間
短い
90〜150分
用途
単発部品
金型類・ドライブシャフト
イジェクタピン・カム
量産部品
OA部品・自動車部品・ミシン部品

上記の表のように、軟窒化はガス窒化における処理鋼材の制約・長時間処理などの欠点を改良するために開発された処理である。
またシアンなどによる排水公害問題の解決の必要性もあって、必然的に出現してきたのがガス軟窒化である。
タフトライド法は窒素と炭素の拡散を利用した処理であり、ガス軟窒化は主として浸炭性ガスとNH_3ガスの混合雰囲気中で処理することにより窒素と炭素を供給し、原理的には両者は全く類似の物と考えて良いが、ガスのほうが無公害であることが特徴である。
処理方法としては急熱型変性ガス(Endo gas)あるいは有機溶剤の熱分解ガスなどの浸炭性ガスまたは窒素ガス雰囲気中にNH_3ガスを30〜50%添加し、550〜600℃の温度範囲で1〜5時間加熱保存し、窒素と炭素を同時に侵入拡散させ、表面に炭窒化物形成させる方法であり、窒化に際しては炭素の存在が窒素の拡散を促進する役割は大きく、この点がNH_3ガスのみによるがす窒化と異なる点である。
この処理によって生成された炭窒化物は他の軟窒化処理と同様に鉄を主成分とするε(Fe_2-3N)相およびFe_3Cの混合相が表面近傍に、またその内部には拡散層としてν'(Fe_4N)相が認められる。
なお炭窒化物の生成量は処理雰囲気・温度・鋼種などの相違により若干異なる。
また浸炭性ガスの他にN_2・NH_3・COガスの混合雰囲気を使用した方法も開発されている。




■プラズマ窒化法

窒化は窒素の供給媒体により固体窒化・液体窒化・気体窒化に分類でき、これら3種類から離れて第4番目の活性な状態、すなわちプラズマ状態を利用した物がプラズマ窒化であり、別名イオン窒化と呼ばれている。
プラズマには電気にchargeされた粒子・イオンと電子よりなり、言い換えればプラズマ状態ではイオン化されたガスの原子あるいは分子になる。
純粋な熱的な過程ではプラズマ状態で数十万度の温度にガスが加熱することが出来る。
ガス中に存在するcharge carrierの一部は陰極と陽極間の電圧降下により加速される。
粒子の衝突過程で原子および分子はイオン化され、さらに励起されると同様に処理ガスの分子より分離し、新しいcharge carrierが連続的に形成されて電子は陽極側の炉壁に対し、プラズマイオンは陰極側の試料に対して加速される。
炉壁と処理物の間で生じる電圧降下は陰極の先端より2〜3mmのみに起こり、これは陰極降下と呼ばれている。
処理物の表面で衝突およびイオン化の過程は陰極降下の領域内で起こる。
処理ガスの完全なプラズマ状態は処理物の先端で直接生成される。
グロー放電のプラズマ中での表面処理は炉壁との間の距離には特に影響しない。
陰極効果においてプラズマの窒素イオンは衝突過程で形成され、試料表面に対して強く加速される。
使用電圧および利用される粒子の数に依存するが、数eVより数百eVまでの運動エネルギはこの過程で生成され、これらの値は1万℃から数十万℃のプラズマ温度に一致する。
使用電圧がhotすなわち高エネルギに転換されたのち運動エネルギ(E_ion)をもって試料表面に入る。
プラズマ窒化の特徴は以下のようになっている。

1) 窒化速度の迅速化
ガス窒化とプラズマ窒化の両者の窒化速度を比較すると、窒化鋼を550℃で窒化処理したもので、ガス窒化では550℃で0.4mmの窒化層を得るのに20時間を要するが、プラズマ窒化では約8時間である。
またプラズマ窒化では0.1mmを必要とする時間は25分である。
従ってプラズマ窒化ではガス窒化に比べて約2〜2.5倍窒化速度が速くなる。

2) 化合物層組成の調整
プラズマ窒化では雰囲気のガス組成を調整することにより表面に生成する化合物層の組成をコントロールすることができ、これは今までの窒化法になかった大きな特徴である。

3) ステンレス鋼への適用
ステンレス鋼の再表面はCrの酸化物を主体とした不動態化被膜に覆われている。
この被膜は窒素の侵入を阻止するために窒化が困難とされていた。
従来までは窒化前に活性水素ガスにより還元除去させるマルコマイジング法を行うか、濃硝酸で酸洗いにより酸化物を除去してガス窒化物処理を行っていた。
しかしプラズマ窒化の場合はN_2とH_2の混合ガスを使用するためスパッタリング作用により昇温時の処理物の表面を洗浄化し、Hイオンの還元作用により真空炉の雰囲気中の残留酸素が少なくなり、ステンレス鋼の表面において酸化を防止して昇温中に酸化被膜の生成が起こらなく、そのうえステンレス鋼の既存の酸化被膜を除去させるので特別な前処理の必要がなく窒化を行うことができ、処理時間を著しく短縮することも出来る。



・このページのデータは機械設計(2000年3月号)を元に作成してあります。
・このページ内のデータについて、間違い等ございましたら、管理人までご一報を。
・このページ内のデータを使った事により損害を受けても当方は一切関知しません。
・このページへのリンクはお断りします(突発的にファイル名変えるもんで)。



BACK (Heat Treatment Top)

Designed for : Windows98 SVGA 800×600 (True Color) / Internet Explorer 5.xx
Copyright (C) 1999-2001 C's design works All rights reserved.