▼高周波焼入れ▼

高周波熱処理は、数ある表面硬化法の中でも熱処理工程の環境を意識した工夫として関心が持たれている。高機能化のための高周波焼入れ技術は、比較的自動化しやすい電気制御で、部品に見合った硬化特性を制御できるという特徴があり、部品の強度を必要とする部位のみ強化できる技術(局部硬化法)としても、その選択に対して自由度が大きい。
高周波焼入れが機械部品に要求される性能の中でも、他の熱処理(例えば浸炭焼入れ)に比べ「ねじり強度・ねじり疲労強度」の優位性から、軸類部品を中心に適用が拡大されてきた。今日では高強度化が進み、ほぼ限界に近い水準にまで達している。今後は、今まで以上に高周波焼入適用材料の開発と、高周波焼入れと塑性加工、他の熱処理と高周波焼入れのハイブリッド化が重要になるものと考えている。
以下、高周波焼入れ用材料および焼入れした材料の諸特性について、その概要を述べる。

●高周波焼入用材料

鉄は材料としての歴史も古く、成熟材料と言われて久しいが、材料の開発はもちろんのこと、工法開発とセットで考えると、まだ研究の余地を多く残している。
高周波焼入材料の変遷を見ると、まず低合金鋼から炭素鋼への代替で省資源化を図り、続いて製造コスト低減としてクローズアップされたのが前熱処理を省略した鋼いわゆる非調質鋼の開発が挙げられる。一方成型加工では、精密鍛造技術の発達でニアネットシェイプ化が可能となり切削工程の簡略化・生産性の向上が実現した。
高周波焼入れは、炭素鋼を主体に適用されているが、Bを添加して焼入性を改善し、SiMnなどの合金元素を減らして冷間鍛造性を改善した高周波焼入用鋼が開発されている。
非調質鋼が開発されて20年、今では量産型の機械構造用鋼として重要な位置を占めている。

●材料特性

高周波焼入れは、部材の耐摩耗性・耐疲労性の向上のための表面硬化法の一つとして広く行われている。その効果は、急速短時間加熱焼入れによる特有の材質(組織)変化と表面の圧縮残留応力のためとされている。高周波焼入れは、単に表面硬化処理ととらえず材料強化のための熱処理と位置づけることが出来る。
以下に高周波焼入れで発生する残留応力の効果について述べる。

■炭素量の影響
高周波焼入用中炭素鋼には、C量が0.4〜0.55%含まれている。この種の材料を高周波焼入れすると、高い圧縮残留応力が発生して疲労強度が向上する。最大圧縮残留応力に及ぼす炭素量の影響を見ると、C量0.45〜0.55%付近で最大となる。
高周波焼入れによる残留応力の発生で、ロックウェル硬さ値(HRC)が2程度プラスする。

■直径の影響
S45C材の直径12・18・23mmのものを略同一の焼入れ深さに高周波焼入れした場合、その残留応力を見ると軸方向・円周方向のいずれも表層部の最大圧縮残留応力は直径が大きいほど大きくなる。これは加熱・冷却の過程で熱応力および変態応力を発生するに際し、直径が大きいほど内部よりの拘束の影響が大きく現れるためとされている。C量が1%近くなると焼入れ表層に残留オーステナイトが存在し、圧縮残留応力が減少して直径の大小の差による影響は見られなくなる。

■硬化層深さの影響
高周波焼入れによる残留応力の発生過程は、硬化層深さが増すと表層部の圧縮残留応力は一時増加するが、一定の硬化層深さを越すと減少する。急速加熱であるため材料の組成の他に焼入前組織も残留応力に影響する。直径25mmのものを高周波焼入れしたときの残留応力に及ぼす硬化層深さの影響を見ると、表層部の圧縮残留応力は硬化層深さが1mmから4mmになるにつれ急速に減少する。

■焼入方法の影響
高周波焼入れによる表層部の圧縮残留応力は、高周波焼入れ材の高い疲労強度の原因とされており、表層部の圧縮応力が大きいこと、表層下に引張応力がないことは、疲労強度の向上に役立つ理想の応力分布である。
このような見方で、移動焼入れと一発焼入れをくらべると、一発焼入れの方が急冷・熱応力型が広く現れ、表面の圧縮応力が大きく、引張応力の極大の位置が深くなるので有利である。移動焼入れと一発焼入れ材の残留応力と断面硬さ分布を見ると、表層部の圧縮応力は一発焼入れ材の方が大きく、硬さも一発焼入れ材の方が高い値を示す。また、疲労強度も一発焼入れの方が高い値を示す。

■焼戻しの影響
通常高周波焼入れ後に低温焼戻し加工をしているが、疲労強度に及ぼす影響はほとんどないと考えてよい。高周波焼入れしたままの状態での残留応力は、測定にもよるがバラツキが大きく、低温焼戻し(200℃)でそのバラツキが減少する。圧縮残留応力が低下した分(硬さも若干下がる)、疲労強度も低下するものと考えられがちだが、それはむしろ逆で、ミクロ的な残留応力のアンバランスが軽減されて疲労強度が増加する。

■硬化層深さと強度の関係
トルクを伝達する軸類の熱処理は、強度を向上させるために高周波焼入れをするのが一般化されている。軸に対する要求特性は、主にねじり強度いわゆる静的、および動的強度と曲げ強度であるが、いずれも高周波焼入れで硬化層深さを増大させると向上する。
ねじり強度と硬化層深さ比(d/r)との関係を見ると、要求特性を満足させる最適硬化層深さは、硬化層深さ比0.3〜0.45にとどめる必要がある(d:硬化層深さ、r:半径)。

●塑性加工処理

ショットピーニングは冷間加工の一種で、ピーニング加工で表層が塑性変形を起こし、加工面に圧縮残留応力が発生して疲労強度が増大する。
近年浸炭焼入れ工の高強度化手法として、浸炭焼入れした表層近傍に高い圧縮応力の付与、残留オーステナイトのマルテンサイト化などに実用化されている。最近では、さらに高い圧縮応力を付与する目的に投射エネルギーを高めたハードショットピーニングが普及している。
高周波焼入れ材への適用は、高周波輪郭焼入れした歯車にハードショットピーニングを組み合わせることで高い圧縮応力が付与でき、疲労強度の向上が期待できる。

●複合熱処理

熱処理用語に「複合熱処理とは、複数の熱処理など組み合わせによる熱処理」とある。
高周波焼入れとの複合熱処理の対象に、

1) 浸炭 + 高周波焼入れ
2) 窒化 + 高周波焼入れ
3) 軟窒化 + 高周波焼入れ
4) 高周波焼入れ + 低温浸硫

の組み合わせがある。単一の熱処理で目標性能を確保できるが、より高い性能を獲るには、個々の熱処理を組み合わせて各々の特長・利点を兼ね備え、欠点を補いあうことで優れた性能が得られる。高周波焼入れのみでは得られない表面改質層が形成される。複合熱処理材の摩耗推移曲線を見ると、ガス軟窒化後高周波焼入れしたものが単一熱処理に比べ2〜2.5倍の耐摩耗性を発揮する。
問題は単一熱処理に比べてコスト高になることである。
複合熱処理の新分野の拡大には、トータルコストをいかに下げるかが今後の技術的課題である。



・このページのデータは機械設計(2000年3月号)を元に作成してあります。
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