B級陶芸員の登り窯体験記(窯焚き)


結局39時間と30分、焚き続けました。

はじめは一番下の焚き口に薪その他を放り込み、点火。もちろんその前に御神酒をかけたことは言うまでもありません。焚き口は人ひとりもぐりこめるほどの広さで天井からワイヤーで吊した鉄板をぶら下げた状態で蓋をします。薪をくべるときはその鉄板をどけて放り込みます。下の焚き口には薪と言うより切り株状のものを放り込みました。大きなものの方がじっくり燃えるようです。切り株はそのままでは持ち上げることもままならず、薪割りも開始されました。

登り窯の焚き口 焚き口から点火


さて、初窯焚きとのことなので最初は中の湿気を飛ばす必要があるため徐々に温度を上げていきます。1時間に100度以下を目安にしました。急に温度を上げるとせっかくの作品が割れてしまうからです。

手順としては、1房が900度(これは素焼きくらいの温度)くらいになるまで下の焚き口を使い、その温度に達したら今度は1房目の温度を更に上げるために1房の横にあるレンガ1個分の穴から薪をくべるとのことでした。1260度が目安なので1250度ほどの温度を1時間ほど保つように指示されました。房の中の温度も必ずしも一定ではなく、温度を測るセンサーは各房の上部1ヶ所だけについているからです。1房をこの温度で焼き終えたら2房、3房と移動していきます。

この燃やし方(焼成方法)には二通りあります。物が燃えるためには当然酸素が必要で、その酸素をたくさん与えてやる方法を酸化焼成といい、反対に酸素を極力さえぎって作品の土や釉薬の中の酸素まで引き出してやる方法を還元焼成というそうです。う〜ん、学生の時もっとまじめに化学やっとけば良かったなぁ・・・。

酸素をさえぎれば当然燃えにくくなります。また下世話な話となりますが、それだけ燃料も多く必要になるのです。陶器や釉薬の種類によって酸化焼成するものと還元焼成するものとがありますが還元焼成の方が困難な分、土や釉薬の中の酸素まで燃やし尽くし良い具合に焼けるように思います。

1房の温度が900度に達し、いよいよ1房の脇の、レンガ1個分の穴から薪を投げ込む作業になりました。初めてのことなのでなかなか勝手が分かりません。薪の窯でなくても1200度以上に温度を上げるのは忍耐力が必要なのに、忍耐力の他体力まで使ってもなかなか温度は上がりません。やっと上がったと思っても油断するとすぐに落ちてしまいます。結局還元のかけすぎ(酸素不足)で燃えにくいということになり、少し開口部を増やしてあげることで再び温度が上昇し始めました。今まで下の焚き口だけだったものが2ヶ所から薪をくべるようになったため、加減が難しい。物が燃える時にこんなにも酸素が必要なのだと初めて知りました。1200度を超えると今まで作品は陰が見えていた物が今度は白っぽく光って見えるようになります。

焼成中の窯の中


薪をくべる時モタモタしていると空気が入ってしまうため、ひとりがレンガを抜き、ひとりがその穴から「作品に当たらないように」「手早く」薪をくべると言う二人がかりの体制が必要になります。レンガを抜き、10本もの薪を投げ込むと一瞬何十度も房内の温度が下がってしまいます。今くべた薪が燃えて何とか元の温度に達し、それを超えるまで温度計とニラメツコしたまま気が木ではありません。元の温度より上がらなければ今くべた薪が何の意味もなくなってしまうからです。これもたまに投げ込めばよいと言うものではなく、数分間ごという過酷な作業です。

今度は途中で薪が足りなくなるかもしれないという心配が出てきました。何年分もあろうかと思ったほどの薪がどんどん減ってきます。さぁ大変です。足りなくなってからでは遅いので都合してきた角材を薪にする作業が開始されました。陶芸家の笑い話として途中で足りなくなった薪の代わりに家の柱などを倒れない順から次々に使ってしまったという話もあるほどなのだそうです。日頃薪割りなどしたことのないメンバーは次の食事では箸が持てずスプーンでご飯をたべるはめになりました。お疲れさまです。

私は仮眠する場所が無く、暖かい窯のそばで休むことにしました。ですが地面の上に直に寝るわけにも行かず、束ねた薪の上に横になることを思いつきました。新聞紙1枚敷けば思ったより結構快適。薪がツボにあたって良い具合です。これを臥薪嘗胆と言うのでしょうか。ハハハ

ドーム型の各房のてっぺんには小さな穴が開いています。炎は酸素を欲しがって最初ヘビの舌のようにチロチロと穴から顔を出します。房内の酸素が不足し、還元状態となるとそのチロチロが勢いを増し、ライオンのしっぽのように先っぽに毛の束が付いたように見えます。これを還元の炎と言うらしい。何だかかわいくてきれいです。

B級陶芸員は何と不届きにもこの贅沢な窯焚きで「焼き芋」を作ることにしました。正真正銘の焼き芋です。アルミ箔でくるんだ芋を焚き口に入れておきます。最高の味です。窯の割れ目に置いておくと「ふかし芋」も出来ます。ただし温度が高いので忘れると炭になってしまいます。窯焚きが終わる頃、一番下の焚き口の温度が下がるため、次回はぜひピザも焼いてみたいなどと言い出す始末。

窯焚きは湿度の低い春や秋が良いそうです。今回は3月でしたが夜中の屋外は寒い。明け方には氷が張り、霜が降りていました。特に最初の晩は窯の内部温度がまだ低く、見張り員には熱燗も欠かせないようです。

1房、2房、3房と焼き上げていき、大きな作品を多く詰めた4房をゆっくり時間をかけて温度を上げ、すべてが終わったのは翌々日の午後2時30分。

天気の良い、暖かな午後でした。


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