特別寄稿 「シイラの思い出」 by チャーリーK  2000.3
しいら

その昔、シイラを生で食べていた。
もちろん、釣り上げたらちゃんと血抜きをしていたし、当たるようなヘマはしない。
その日も俺たちは釣ったシイラを血抜きしながらハーバーへと向った。

ヨットハーバーに着くと、さっそく刺身の準備。
「皆んなちゃんと血抜きしないから当たるんだよな。」
「そうそう、皆んな食い方知らねえんだ。はっはっは。」
俺たちはハラワタを取り出したシイラを水道水で入念に洗った。

シイラを食って当たるのは、魚の中に居る寄生虫が原因。この寄生虫は海水の中で生きているため、真水に晒されると、その大部分は死ぬ。
また、捌いた魚の約半分は捨てた。場所によって寄生虫の多い部分があるので、寄生虫の居ない部分だけを選んで食べるのだ。
シイラを刺身で食べるときには、このような二重三重の注意が必要となる。

「おまえらシイラを刺身で食うのか? 止めた方がいいぞ。」
「へへーん。俺たちは当たるようなヘマはしねえよ。どうだ? 一緒に食わねえか?」
「やだ! 俺は遠慮しとく。」
ヨットバーバーに居た他の船の連中は誰もが尻込みした。
「じゃあ俺たちだけで頂くぜ。ああ、うめえ!」
最高の味だった。脂の乗ったハマチと同じ白身の魚。おまけにこちらは天然ものだ。養殖ハマチの敵ではない。
「はっはっは! こんな美味いもの食えねえなんて、生きてる価値ねえぜ! はっはっは!」

その夜のことだった。俺たちは深夜までキャビンの中で宴会を続けていた。
突然仲間のYが、「ううう〜っ。」と口を押さえてデッキに上がった。どうやら外で吐いているようだ。
「はっはっは。Yの野郎、飲み過ぎたんだな。学生じゃないんだから、吐くまで飲むなよな。はっはっは。」
皆で笑っていると、今度はSも口を押さえてデッキに上がった。
「えっ! あいつまでどうしたんだ?」
後は時間の問題だった。そこにいた仲間は次々と当たり始めた。
食あたりと言うものが、こんなに突然やって来るものだとは思わなかった。まるで次々と人が殺されて行く「八墓村」みたいな状況だ。
すぐに病院に行きたかったのだが、明日は船を相模湾から東京湾のホームポートに回航しなければならない。
どんな大時化よりも凄惨な回航だった。

それ以来、俺はシーラの刺身を食べていない。今後も絶対食べる気はない。


◆おまけ◆

町で食べるシイラが不味い理由

魚はとにかく鮮度が命。傷んだ鯛よりも新鮮な鰯の方が美味いのは当然のこと。
さて、そこで魚の鮮度を保つためにはどうすれば良いのか?
「釣った直後に絞める。」これですよ。
魚を釣って、その場で食べない場合には、すぐに氷に付けて絞める。そうすれば一番美味く食べられます。
しかし漁業の場合、これは商売ですから、費用対効果の問題があります。安い魚のために高価な氷を大量に使うわけには行きません。
そのため、魚屋で買う安魚は、氷をケチッたために鮮度が落ちてしまい、不味くなってしまうのです。

そして、都会の人は「安い魚は不味い」と思い込んでいるのです。
釣りたてのシイラなんざ、町中の料理屋で食べる関鯖なんぞの比じゃありやせんぜ。 シイラは油が多いので、それが苦手って人も居るけれど、フライにすればシイラ以上の魚はなかなかありやせんぜ。

しかし・・・・・・
綺麗な花には棘がある。
美味い魚にゃ毒がある。


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