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■ 激走!!まぼろしトラック ■ 6: 鶴継 そこは浴室というより、手術室か映画で見るような死体処理室みたいな場所だったけれど、お湯に入れるなら地獄の釜でも良かったのだ。 |
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鶴継君の部屋は思った通り清潔でよく整頓されていた。そのあたりのことは、男の人の場合、爪を見れば判る。爪を短くしている男はまず合格だ。
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鶴継君の瞳の色に見せられて、ぼーっとしたまま薄暗い廊下を歩いていたら、突然何かにぶつかって転けそうになった。 アタシはタネさんの代わりにお盆を持って、彼女の小さな背中を見ながら廊下を歩いた。
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2003/10/11
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一日の中に「一日」が二回詰め込まれたような日がある。タネさんが用意してくれた夕食をとった後、アタシの部屋にかかって来た電話がその二回目の始まりだった。 |
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斬馬は煌々と光る満月の下で、酔いどれながら自分が泊まっている安宿に続く民家の土塀脇の道を歩いていた。 後少し行けば土塀は終わり、ウランと別れたあの神社の境内に出る。そうすれば先ほどから我慢していた尿意を解放してやれる。確かあの角を曲がった所に公衆便所が、、。 斬馬がそう思ったときに、彼の頭上に黒い影が振り下ろされた。斬馬が只の初老のトラック運転手なら、その影に頭か肩を強かに打ち据えられていただろう。 だが斬馬はその攻撃をかわし、更にその相手の懐にまで飛び込んでいた。 斬馬は、黒い毛糸の防寒マスクで顔を隠した男が握っていた木刀ごと、その腕をねじり上げる。 容赦はなかった。何も考えずに相手の骨をへし折るつもりだった。そして相手が苦痛に沈んだら更に、脚を使って大きなダメージを与える。 そこまでを一気にやる。それが斬馬が体験の中で学んできた攻撃方法だった。 「痛てぇえ。」マスクの下から予想外の若い悲鳴が上がる。 勿論、だからと言って斬馬に躊躇はない。斬馬は男の背後から腕をねじ切るつもりで一気に力を込めようとした。 その瞬間、「止めて」という声と共に、斬馬の頬を掠めて何かが通過していった。 斬馬はその声の方向を睨んだ。斬馬が今まで歩いてきた土塀横の道に、月光を背にしたジーンズ姿の少女が弓を構えて立っていた。年齢から察すると高校生のように思えた。 その弓には二の矢がつがえられており、それは真っ直ぐに斬馬の額を狙っていた。 少女のひたむきな瞳は自分は本気だと語っていたが、それは同時に駆け引きなど出来ない若さ故の素直さも露呈していた。 「この男を放してやったら、嬢ちゃん、弓を降ろしてくれるかな。」 斬馬のひょうひょうとした声が低く響く。そこにおびえはまったくない。こうして自分が相手をしている人間の中身が判った限り、もう戦闘の必要はない。相手は子どもだった。そして斬馬は人生の手練れだった。 少女はしばらくその黒目がちの目で斬馬を睨んでいたがゆっくりと弓を下げ始めた。 斬馬もそれに合わせて男をねじり上げていた腕の力を緩めてやる。 「理恵ちゃん。」 覆面男は斬馬の戒めから解き放たれると少女の元に駆け出し、再び木刀を中段に構えて、少女を自分の背中に隠した。 「・・ほう。さっきはへなちょこだったんだがな、、変わるもんだ。今のお前さんだと素面の儂でもかなわんかもしれんな、。」 確かに覆面男の構えには全く隙と言うものがなかった。 「祐介君は手加減したのよ。彼は去年、インターハイで優勝してるのよ。」 「、、ふぉう。でもなぁユウスケ君よ、君は一体なんの為にその覆面をしてるんだい。」 「へっ?」
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「ええ貌しとる。君らは鬼門を睨む猿やね。」 斬馬は宿の窓から見える神社の黒い森に視線を流しながら言った。 「、、猿ですかぁ、二人ともあまり猿には似てないと思うんですが。」 「確かに君は猿というより鬼瓦だし、嬢ちゃんの方はテレビで歌でも歌ってそうだ。」 「鬼門って何ですか。風水かなにかと関係してる」 「嬢ちゃんは、どこかの誰かと違って話しやすい。まあ君らの年齢じゃ大概、女の方がしっかりしてるがね。」 桂の顔が又、赤くなる。勿論、桂とて部活動では主将を務めてきた人間だ、それほど単純ではない。ただ先ほど酔った斬馬にあしらわれた事と、理恵の手前、どうしても感情が幼く反応してしまうのだ。 斬馬は自分の言葉に一つ一つ反応する桂の表情を楽しんでいるようだった。 「あまり知られていないが、幾つかの京都の神社の祠には、鬼門の方向を睨んでいる猿の像があるんだよ。そこからもし鬼が出現したらいつでも飛びかかれるようにね。ここの神社にもそれがある。荒れ庭に朽ち果てている小さな石像だ。貌は削り取られているから、ちょっと猿には見えない。」 「、、貌なしだわ。私、お婆ちゃんから聞いた事がある。」 「だったらこの村にとっての鬼門の方向にあるものの名前を知っているかい?」 桂と理恵の二人が同時に顔を見合わせる。 「でも鬼はもう飛び出てるのかも知れない。」 理恵が暗い顔で言う。 「、、まあ、元気を出す事だ。たとえその鬼がこの村を徘徊しているんだとしても、それを知った者は、鬼をもう一度もとの場所に封じ込める責任があるように思うんだがね。」 「それだけじゃ駄目。もし本当に出歩いて酷いことをしたんなら、償わせる。絶対に、、。」 確かに、理恵なら、ためらわずにその鬼に向かって矢を放つだろう。
三平は薄暗い廊下の真ん中で車椅子の背をこちらに向けてアタシを待っていた。手押しハンドルがいかにも押せとばかりに突き出ている。電動式なのに人の気持ちを逆撫でする車椅子だ。 「・・斬馬さん、もしよかったらこれから私の家に来ませんか。」 「じゃ、お婆ちゃん、私はもう寝るから。隣の部屋にお布団引いてあります。あまり飲み過ぎないように、そのお酒飲みやすいけど、後がひどいってみんな言ってますよ。」 |
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2004/03/27
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