不定期リアルタイム連載小説
 近緒の挑戦。推敲をしない一発勝負、エモーションのままに。

Revengers

■ リベンジャーズ ■

 産業廃棄物置き場に捨てられた人体模型を思わせる赤剥けの裸体。その剥き出しの神経や筋肉組織に雨粒が落ち始める。分厚い雨合羽を着込んだ数人の男達が、瓦礫の山の端に辛うじて飛び出して見える「壊れた腕」を目標に、得体の知れない廃棄物が堆積してできた山を登っていく。

「資料がなくてもある程度なら、君の以前の姿を復元できる。だが最後は君次第だ。君の思っている『君』でなければ意味がないからな。」
「このままでいいわ。」
 元の私に戻るつもりはなかった。たとえ戻ったとしても私の記憶は所々欠落している。特にその欠落は家族関係の親密なものに偏っていた。私が元の鞘に収まるのは不可能だと思えた。それに私には、私の部分的な記憶喪失の原因がおおよそ判っていた。誰が考えたって判る事だ。人は手酷い痛みをカバーするために記憶を自ら失うという。私にはもう戻るべき家はないのだ。

「そいつの基本は、重度火傷用のメディカルスーツだったんだ。うちの開発部が何かの応用にならないかといじりはじめていた矢先だった。サンプルでね。一体しかなかったんだ。それも男性を想定したものだ。そのタイミングでレスキュー部があんたを助け出した。」

 外皮まるまま一枚をごっそり剥ぎ取られた身体に唯一残された皮膚があった。男達の視線は、剥き出しになった諸々のグロテスクな組織よりも、その残された「瞼」に引き寄せられていた。柔らかそうな瞼、そして長くカールした睫毛。誰の目にもその美しさは際だって映っていた。 そしてそれが突如見開かれた。続く絶叫は血飛沫を思わせた。屈強な男達でさえ、その顔を青ざめさせた程だ。


「謝らなくていいわ。感謝してる。死んでいても不思議じゃなかったのに。それにあんな身体でどうして女といえる?」
 こいつらの正体が分かった今でも、「私を助けたのは余計なお世話だった。」とは言うつもりはなかった。とりあえず私は生きているのだ。復讐の為に。
 目の前の「小さな」男は周りからジョー・ハマーと呼ばれており、私の世話係というか組織の窓口にあたる男だった。
「で、どうするね。契約は結ぶのかね。」
「まるで選択権があるみたい、、。こんな形であなた方に拾われて契約を断れる人間がいるの?」
「沢山いた。その断り方だが、、おおむね、彼らは死を選ぶ。しかし勘違いして貰うと困るんだが、、それは組織が彼らに死を与えての事ではない。」
 自死、私にはその意味がよく判った。私だってこの「怒り」がないのなら、私に架せられてしまったすべての記憶から逃れる為に死を選ぶだろう。なによりも、あんな人間の残酷さや悪を見せつけられては、もう平穏な生活や心など、今後一切、自分の人生には望む事が出来ないのだから。

 私は全身に走る「痛み」の幻覚に襲われておのが胸をかきいだいた。私のちいさな誇りだった形のよい乳房は、既に「私の敵」によって奪い取られてしまっていたが、とりあえず今の私には例え人工のものであっても「皮膚」があった。
「、、、で私の名前は何で、美衣不二子なの。私の外見はどこからみても男だわ。それにあそこにはあんなものまでぶら下がっているというのに。」
 股間に醜くぶら下がるもので用を足した時は本当に吃驚したが、反面、便利は便利だと思った。でもあれを摘んだ時に感覚を感じたのだから、この組織が所有する科学力はずば抜けているとも思った。
「開発部に飛び抜けた天才がいるんだが、そいつが、その手のマニアでね。本当は、峰って付けたらしかったがそれじゃあんまりだって事で美衣になった。俺は、美しい衣は、あんたにあてつけじみて、ちょとやばいんじゃないかとは言ったんだがね。」
「でも私の姿は男なのよ、このスーツを作ったのはその人なんでしょ。何で女名なんて付けるのよ。」
「それは、、。そのスーツ、うちの組織が防諜活動時の変装用にというのかな。あるいは要人護衛の為の替え玉用にというか、そんな為に造ったんだよ。基本的な外観というか、身長・骨格の有り様を大幅に変える事はできないが、皮膚細胞の増殖プログラムを弄って、おっぱいをつけてみたり鼻を高くしてみたりが出来るわけだ。だから今は男の姿でも、ゆくゆくはオンナに変えられるというか、そうしたがってるようだな。奴もそうだし、上層部もそうだろう。多くの場合、男とオンナではオンナの方が利用価値が高いものなんだ。」
「女に戻してやるなんて、最初に甘い言葉をかけてくれたのは、それがあるからなのね。」
 ジョー・ハマーは傷ついた顔ようなをした。
「、、ああ説明がたりなかったようだ。プログラムを組む日数を除いたとしても、今言った変身の為には3日かかる。さらにここの設備を使ってそのプログラムを維持しなければ、変身は元の身体のデフォルトに1週間で戻ってしまう。つまり変装用の変身は恒久的じゃないって事だ。俺が最初にあんたに言ったのは、この手順の事じゃないんだ。もっと前の話だよ。あんたのメディカルスーツはここ2・3日の内に、完全にあんたに癒着するらしい。メディカルスーツの基本フォーマットを変えて、女の姿にするんなら今しかないという事だ。ただスーツは一度弄ってしまうと、今言った変身の能力やその他の能力は劣化してしまう。つまり組織としては、あんたの利用価値が半減してしまうという事なんだ。しかし我々リベンジャーズはそれでも構わない。あんたが元通りのオンナの身体になって、以前のような生活に戻りたいと望むならそうするつもりだ。」
 私はこの男に謝るべきなのだろうか。いや、この男の気持ちは信じていいような気がした。、、それは私の未熟な男性経験上でそう直感的に思ったに過ぎないのだが。
 だが問題はリベンジャーズというこの組織そのものだ。なんのかんのと理屈を付けた所で、リベンジャーズは殺人集団に過ぎない。その集団が私に選択肢を与える事で自らにアイデンティティを求めようとする事自体がいかがわしいのだ。
 リベンジャーズのルールは簡単だった。リベンジャーズのメンバーになろうとする人間は、一回だけ自分自身の「復讐」を完遂する為の手助けを組織にしてもらえる。しかしその後は、残りの人生を組織全体の「復讐」活動にささげなければならない。
 そしてこの組織は、個人の「復讐」から、玉突きのように派生する社会的な利害関係で利潤を得るのだ。
 つまり私をこんな目にあわせた組織なり個人を、私が叩きつぶす、その時、その結果によって有利になる別の組織なり個人が、何処かに存在するのだ。その組織が、リベンジャーズの資金援助者となる。そしてたとえそのミッションが失敗しても出資組織が疑われる事はない。
 勿論、全ての個人的な「復讐」が金になる訳ではない。私の「復讐」の場合は偶々、リベンジャーズにとって金に繋がっていたということに過ぎない。
 だから私はあの産業廃棄物置き場から、彼らの手によって回収されたのだ。
 そして自らの復讐を終えた人間はただの「残骸」に過ぎない。そんな人間は、どんなリスクの高い任務でも恐れを抱くことなく赴く事が出来る。それが同じ立場に追い込まれた人間への支援活動なら尚更の事だ。彼らは、己の「復讐」を選択した時点で、既に倫理と道徳を超えた人間になるのだ。だからこそ彼らは、その証の為にリベンジャーズに入るという契約を結ぶばなければならない。

「身体はこのままでいい。何にせよ戦闘能力が落ちるのはいやだ。」
「それが答えなのか?地獄へ堕ちるぞ。」
「あなたも回収されたんでしょう。私の気持ちはわかる筈だわ。」
 ジョー・ハマーは一瞬遠くを見るような目つきをした。
「男の姿だからってがっかりするな。あんたはそれでも充分綺麗でチャーミングだ。ちょっと女装すれば誰にもばれない。ああ変な言い方だな。オンナがオンナの格好をするんだ女装とは言わないな。」
 子宮や卵巣を掻き出された女を女というのならね、、、。私はそう心の中で呟いた。

2001/03/17

1  Qという男

2 コスチューム

3 ジョー・ハマーという男

4 ジャック・ザ・リッパー6世

5 ドッペルゲンガー

6 付きまとう影

7. 精神分析医

8. デウス・エクス・マキナ

9.師範チー

10.悪を育てる男

11.ブラックパール

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