不定期リアルタイム連載小説 近緒の挑戦。推敲をしない一発勝負、エモーションのままに。
Revengers
■ リベンジャーズ ■ 7. 精神分析医
久しぶりに人間の姿に戻っていたコニーがある日、物憂げに言った。 「私は思うのよね。私は、狼人間じゃなくて、人間になれる狼じゃないかって。」 「僕もそう思うよ。」という言葉を飲み込んで、この日私は、この娘の心の治療に全力を注ぐ決心をした。 ・・判っているんだ。 私は女だった頃、物事に煮詰まってしまうと無性に買い物をする人間だった。今でこそ、買い物への衝動は無くなったけれど、それに代わる代償行為が未だに私には必要なのだ。 この娘の治療に専念する事が「復讐の完成」を目前にしながら無為に過ごすしかない日々への焦りを癒してくれる筈だった。 だけど「本物の狼人間」を見てくれる精神科医なんて、この世に存在するのだろうか、、、。 そんな時だった、、ハマーがおずおずと、、そうおずおずと「彼」を紹介してくれたのだ。 「ゴム仲間なの?」 ハマーは筋金入りのラバーフェチだ。私の戦闘用コスチュームも彼の趣味で作られている。 「、、、いや、、まあ、、つまりなんて言ったらいいのかな、フリークス専門なんだよ。俺も昔、世話になった。」 「あんたが。」 「なんだ、、文句があるのか。」 「文句はないわよ。最近じゃ動物園のゴリラだって人格障害を引き起こすらしいわ。」 勿論、本気じゃない。リベンジャーズに入る人間が鈍感な筈がない、ましてやハマーの身体は普通じゃないのだ。要は、それだけ私たちの関係が強固なものになってきたという事だ。 「、、、すまんな。本業のほうが開店休業じゃな、、。」 「ハマーが気にする事じゃないよ。じゃ行ってくる。コニー。立つんだよ。何時までも寝てるんじゃない。」 銀灰色の巨大な狼は、不思議そうにゆっくりとその頭をもたげた。
私が朝、目を覚ました時、当然のごとく阿部先生の姿は室内には見受けられなかった。代わりにテーブルの上に、几帳面な時で綴られたメモが置かれてあった。 「昨夜は、素敵な時間をありがとう。時間が来たので私は消えます。支払いは勿論済ませてあります。私は永遠に見いだされることのないシンデレラのようなものだと言えばあなたは笑うでしょうか。ですがそれが私にとっての真実です。 PS あなたが眠った後、少しコニーのことを考えていました。精神分析というより共感する部分で、と言ったほうがよいでしょうか。例えば、一人の美しくて魅力的な若い女性が、ある日、そのすべすべした肌に獣毛が生え、自分の愛着のある顔が醜くゆがむ宿命を背負わされたとしたらどうでしょうか?それなら一層のこと、自分自身が美しい人間の娘に変身できる狼なのだと信じる方がずっと救われるのではないかと思うのです。それがコニーの、そして(私たち)の分析結果です。 あなたの精神医より。」 「シンデレラ」だって?私は笑っていいのか、感心していいのかも判らず、そのメモをくずかごの中に捨てた。 でも、一つだけ判ったことがある。阿部先生は自分を冷静に分析出来るだけ、コニーや私よりも幸せだということだった、、。 私はその後、洗面所で顔を洗い、歯を磨いた。 鏡の中には「見知らぬ男」が歯を磨いていた、、。
2001/12/29
MSSで加速された動体視力だからこそ、その一瞬を見過ごさなかったのだろうと思う。そのフィルムにはサディストの手と腕、最大でも彼の足下しか登場しないように念入りの編集が施されてあったのだが、人間のする事には必ず綻びがある。 DDが全身を革でギチギチに拘束され、最後にレザーマスクの開眼部まで閉じられようとするその直前、サディストは彼女の後頭部にあるストラップを掴み、側に立て掛けて合った姿見に向けて、その顔面を強烈にたたきつけたのだ。 カメラは恐怖に見開かれるDDの目をスローで撮影したあと、絶望という名の最後の目隠しをされるシーンに繋がっていくのだが、その一瞬の間の繋ぎ目にDDのレザーマスクに斜めに食い込んだ小さなガラス片に撮影者の顔が映し出されていたのだ。 それは紛れもなくジェィド・ウィルソンだった。 私はそれを確認した後、電源を落とした。今は検死官が私をこのフィルムではめようとしていない事が判るだけで充分だった。 私は疲れ切っていた。ベッドに入ると、夢を見た。 それはハマーと検死官が子どもみたいに手を繋ぎ合って闇の中でスキップをしながらこちらに駆け寄ってくるものだった。ただしそれは寝入りばなに見たものか明け方にみたものかも判然としなかった。それほどに私の眠りは浅かったのだろう。 ウィルソン放送ビルの巨大地下駐車場の一角で、私たちはかれこれ一時間ほどジェィドの登場を待っている。今日の車は勿論、アストンマーチンではない、それに二人とも偽の通行許可書に相応しい風体をしていた。 そう、大ざっぱに言えばウィルソンという巨大マスコミに食べ残しをねだりにきて待ちぼうけを食らわされた「自称マスコミ関係者」という感じだろうか。 ここまでは実に簡単に入り込めていた。それがリベンジャーズの組織力故の事か、ウィルソン側のセキュリティの甘さなのか、私にはよく判らなかった。 第一、毎日何千人という人間が交差するこのような場所で万全のチェックがかけられる筈がない。 それでも検死官はここではジャッドを仕留める事は不可能だと言い切っていた。 『なんなら今ここで確かめてみるか』と検死官に挑発されても私にはそれに乗るだけの材料すらないのだ。 それがハマーと仕事を組んだ時との一番大きな違いだった。検死官は己の持つ情報が人に在る程度の有効性を持つ限り、それを相棒にさえ絶対に教えるつもりはないのだろう。勿論、この私が検死官の相棒で在ろう筈もないのだが、、、。 しかし検死官は、私にとってどうでもよいカードだけは、さりげなく、そう実にさりげなく、うんざりするほど多くを広げて見せてくれるのだ。この点も自分の事を語りたがらないハマーと対照的だった。 「2代目で企業を成功させた奴はあまりいない。2代目は苦労をしらんからな。ジェィドは珍しい例だ。だがそういう2代目は苦労の代わりに別の違うものを使うんだよ。、、それは、、簡単に言えば人間としてのゆがみだな、、、。私にはよく判るが、ああいった育ちをしてしまった人間には永遠に取り戻せない心の部分品があるものなんだよ。つまり人間としては欠損品なんだが、他人にはそれが強さや優秀さに見える場合があるんだ。」 検死官の表情の中に自嘲が浮かんでいる。私はハマーのある日の言葉を思い出した。 『自分自身に復讐をするためにリベンジャーズなった奴もいるんだよ。』勿論それが検死官だとハマーが言ったわけではないのだが、昨日の検死官がジェィドにして見せた分析や、今の言葉が、ハマーの発言をよみがえらせたのだ。 この男、上手く誘導してやれば、自分の過去をさも愛おしそうにベラベラと喋り出すかも知れないなと一瞬思った。だがそんな気にはなれない。げす野郎の悔恨に満ちた半生など聞いてなんの役にたつ。 「来たぞ、あれだ。さすがにお忙しい人は違う。行動はラフに見えるが中身は秒刻みで時間通りって奴だな。よく観察するんだな。私にはここからじゃ細かい部分を見る事は無理だが、君には可能だと聞いている。」 勿論だ。この程度の距離ならMSSで強化改造された私の視力は例え地下駐車場でサングラスをかけている今の状況下でも、相手の唇の動きまで読み取れる。 ジェィド達はB2ブロックの中央にある関係者用エレベーターから吐き出されてきた。ドアが開くと同時に、そこからきらびやかささえ、物体化しながらあふれ出して来たように思えた。 ジェィドは歩きながら若手タレントのヒカルの肩に手をまわすと彼を抱き寄せ、ねっとりとキスを始める。 ヒカルは今をときめく「歌もうたえる野生派若手男性タレントナンバーワン」だ。勿論、こんな時代の野生派だ。野生と言ったって華奢な顔立ちに太い眉毛がのっかっているだけの話である。 ジェィドのキスの仕方は、他の取り巻き連中が見ているという訳でもないのに、相手の口を半開きにさせ舌を絡ませるやり方だ。ヒカルの舌が、貝殻を中途半端に砕かれて中身が露出した貝みたいに見える。 ヒカルの喘ぎ方は女そのものだ。ああなるには相当仕込まれたに違いない。それとも天性のものか、、、。 彼の女性ファンがこの姿をみたら一体なんというだろう。ジェィドは駐車場に規則的に並んでいる柱の陰までくると、そこで立ち止まり他の仲間達を先に行けと指で合図する。 取り巻き連中はニヤニヤしながら二人から離れていく。目立った事と言えば、グループの中の一人が振り返って自分の腕時計をさしてジェィドに軽い暗号を送ったぐらいだ。こんな事はよくあるのだろう。 残ったジェィドは、ヒカルを柱に押しつけるような位置をとってから、お互いの又の間に太股をあて腰をゆっくりくねらせはじめる。ジェィドはヒカルの耳朶を嘗めながらなにか囁いている。 ヒカルの顔だけがこちらからはっきり見えた。泣いているような笑っているような奇妙にゆがんだ顔だった。 どう見てもその唇の動きは「コロシテ」と読める。 私の胸の動機が高鳴った。驚いた事に私はヒカルにシンクロしているのだ。 美衣になる前の私なら、こんな場面を目撃したら間違いなく比喩ではなくゲロを吐いていた筈なのに、、。 ヒカルは自分の顔を押さえつけ始めたジェィドの指を口に含み始める。 指を舌で舐めるだけじゃない。歯茎に押しつけたり頬の裏側に挟んだり、そうとう男の逸物をしゃぶるのが上手なのだろうという事がよくわかる。 若いヒカルはあれだけの摩擦で一回目の精を放ったのかも知れない。先程まで執拗に責め立ててくるジェィドの太股に呼応して動いていた腰の動きが緩やかになっている。だからもう一度、自らの淫乱さを高めて欲望を呼び出そうとしているのだろう。 ジェィドはヒカルの既に溶けてしまった口から自分の指を引き抜くと、次の瞬間軽々と彼の身体をひっくり替えしてしまう。ジェィドの大きな両手がヒカルの華奢な尻タブを揉み上げる。ジェィドの意を一瞬の内に汲んでヒカル腰を後ろに突きだし気味にする。 だがジェィドはその突き出された尻をパンパンを叩いてから大笑いをしながら、何もせずにその場を立ち去ってしまった。 後に残されたヒカルはそのまま泣き崩れてしまう。 確かに酷い野郎だ。もしヒカルが私の友人だったら、私は今直ぐここを飛び出してジェィドの顔のど真ん中にパンチをめり込ませてやるのに、、。 だがヒカルは私の友達ではないし、ジェィドにはパンチをめり込ませる以上の事をこの私がするかも知れないのだ。 「ジェィドを殺すチャンスが広がるのは秘密パーティしかない。」 私の夢想を検死官の言葉が破った。 「今ので判るだろう。奴の肉欲対象は女じゃない、お稚児趣味なんだ。ジョウジ、MSSの変身機能を利用してあと5・6歳若返るんだな。それがジェィドの好みの上限だ。ジェィドのペニスをしゃぶってやったあと奴の首をへし折れ、それで仕事はおわる。」 「、、接近の仕方が判らない。ジェィドは街で若い男の子を買うような事をしない。」 検死官が意外そうな顔で私を見る。私とハマーだって今まで何もしなかった訳ではない。それぐらいの情報は仕入れていた。 「君は精神科医の阿部という男を知っているだろう。阿部はジェィドのパーティのメンバーでもある。彼を利用するんだ。」 驚いた事にこの男、阿部先生の事まで知っていた。もしかするとコニー・マゼランの事さえも既に知っているのかも知れない。 私はこんな男に、例え一時の間でも人間の弱さを見、それを哀れに感じた自分自身を恥じた。しかしこれがリベンジャーズという組織の本質なのかも知れないのだ、、、。 私の復讐が近づいて来る。この青白いデウス・エクス・マキナの登場によって、、、。
2002/03/23