『お父さんの少女漫画』 13/ 当惑・森川久美のこと


 前回の森脇真末味に続いて、今回の森川久美もどちらかと言えば少女漫画っぽくない絵柄だと思います。1980年代当時は白泉社系で活躍していました。描く作品も何と言いますか非常に渋くて、従来の少女漫画とはまるで違いました。
代表作は『ヴァレンチーノ・シリーズ』という中世ヴェニスの女性領主を描いた歴史物とか『南京路に花吹雪』という戦争絡みものとか。渋そうでしょ(笑)。

ヴァレンチーノは男装の麗人で、美人の上に太っ腹できっぷが良くて魅力的な主人公でした。甘いラブロマンスには余り縁がなかったですが(笑)、女性が楽しむ漫画としても解りやすい作品です。絵も少女漫画っぽくないとは言いましたが、女性作家らしく華麗でどこか退廃的な美がありました。以前誰かの意見で「彼女の絵は上瞼が特徴」というのがあって、成程、退廃的ムードはそれに由来するのかもと思った事があります。その実、タッチは線が太くて劇画的で、男でも抵抗無く読める絵柄でした。「こんな少女漫画もあるんだなあ。」と妙に戸惑った記憶があります。そして、その戸惑いは更に次の作品でもっと大きくなりました。

『南京路に花吹雪』はまんが情報誌の人気投票などで非常に評価が高く、興味を持って読んだのです。そもそもこれは『蘇州夜曲』というタイトルからして渋い作品の続編として描かれました。大戦前夜の中国を舞台に、一介の新聞記者が戦争を利用した謀略に巻き込まれるというもので、もう一人の主役、日中混血の少年が非常に人気を得ました。内容は要するにハードボイルド風活劇と言えます。
「これは既に少女漫画じゃないなあ。」というのが第一印象。次いで思ったのが「何故、これが女性に人気があるのだろう。」という疑問でした。
混血の負い目などから相当に屈折した性格の美少年系と、極めて好人物の熱血漢系新聞記者の友情が焦点となって、ホモネタなども無く殺伐とした展開に終始しているというのに。そう、だからむしろ男性の私の方が面白く読める程でした。

これは結論から言いますと、少年漫画の軟派化と時を同じくする様に少女漫画にも少年漫画的硬派化の波があったのではないでしょうか。「やおい」とは別の、ボーダーレス化の現象とでも言いましょうか。つまり少年漫画が軟派化したのは少女漫画の持つ男女のドラマ性を追求し始めたからだったし、少女漫画の硬派化はレディスコミックという受け皿の無かった大人の女性読者が、より大人っぽい作品を求めた結果に他なりません。『南京路に花吹雪』や『おんなのこ物語』という、男性が読んでも面白い少女漫画が人気を得たのは、そんな時代の流れがあったからだと思います。そしてこの傾向は確実に男が少女漫画になだれ込む原因の一助になりました。聞くところによりますと、これらの作品は一般的な女性読者にはあまり受け入れられなかった部分もあった様です。レディス誌が全盛となるにつれてやや徒花的になった感がありますが、時代の狭間の先駆的な存在として興味深いと私などは思うのです。

次回「 大物・山岸凉子のこと 」に続く

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