改正労基法にかかる大臣告示についての意見

2003年9月19日
日本労働弁護団
幹事長  鴨 田 哲 郎

厚生労働大臣  坂口 力  殿
労働政策審議会  労働条件分科会  御 中

 先の国会で成立した労働基準法の改正にかかる大臣告示等の要綱案が労働条件分科会に諮問されたが、これらのうち4点について当弁護団の意見を提出するので審議において十分に検討されたい。なお、解雇に関する判例水準の周知に関しては、別途、意見書を提出する予定である。

1.有期労働契約の締結等に関する「基準」
(1) 先の国会では、「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する指針」(平成12年12月28日)の内容を基礎として定める旨の大臣答弁がなされているが、「常用雇用の代替化を加速させないように配慮するとともに、有期雇用の無限定な拡大につながらないよう十分な配慮を行うこと」との附帯決議もなされているように、本来、有期雇用は合理的な必要性がある場合に限って認められるべきものであり、雇用の安定に資するよう、大臣告示においてはその趣旨が十分に取入れられねばならない。

 非正規労働者のほとんどは有期雇用労働者と思料されるところ、非正規労働者は約1,451万人(雇用者の27.2%。非正規雇用率28.7%との統計もある ─ 15年版労働経済白書・参考資料57頁)にのぼり、パート等労働者の雇用理由は「人件費が割安だから」が急増すると共に「雇用調整が容易だから」も増加しており(前記参考資料61頁。なお、同白書218頁)、労働経済白書(15年版)においても「全体として正社員から非正社員への純流入が増加」(216頁)と指摘したうえで、「働き方の多様化が、我が国経済にとって、中長期的に成長を阻害するおそれもある」(214頁)が、「現状の多様化は、『働き方の多様化のあるべき姿』の状況にあるとは言い難い」(219頁)と厳しく分析している。
 たとえば、一旦全員解雇のうえ、希望者を大幅賃下げのうえ有期雇用として再雇用というようなリストラ手法は度々報道されるところであり、また、新規採用者は全員有期雇用とする事例などもあり、今日、有期雇用問題は、パート問題だけでなく、広範な労働者全般の問題であり、人件費削減のために雇用の安定を阻害することが許されるのかが鋭く問われなければならない問題である。

(2) そこで、有期労働契約の締結等にあたっては、第1に、有期労働契約の締結時において、文書で、(1)有期雇用とする理由、(2)期間の根拠、を示すよう使用者に義務付けるべきである。
 第2に、契約更新時においても第1と同様とすべきであると共に期間については当該労働者と十分に協議し、労働者の希望に沿うよう努めるべきこととすべきである。
 第3に、雇止めをする場合においては、労基法20条に準じた予告及び労基法22条1項に準じた雇止め理由書の交付義務を使用者に課すべきである。
(3) しかるに、告示案要綱案は、有期雇用契約締結時に、@更新の有無及びAその判断の基準を明示するものとし、さらに、@またはAを変更した場合にはその内容を明示するとする。
 しかし、更新の有無の判断基準は有期雇用とする理由に照らしその合理性が判断されるべきものであり、有期雇用とする理由も合わせて明示されなければ、「有期雇用の無限定な拡大」の歯止めとはならない。更新の有無の判断基準は客観的かつ合理的なものでなければならず、ただ単に基準の明示のみ求めるのではなく、客観的かつ合理的な基準を例示するなど雇用の安定に資するものでなければならない。そうでなければ、雇止め法理の適用を免れるべく更新予定なしと明示される事例が増えることも危惧され、雇止め法理自体の崩壊を招きかねない。ましてや、契約締結時に明示した更新の有無やその判断基準についての変更内容の明示を求めることは、使用者の一方的変更を容認することを前提とするもので、不利益変更法理を否定するものであって、雇用の安定にとっては、害あるのみで何らの益がない。告示において契約締結時に明示した内容は、原則として労働者に不利益に変更できないことを明示すべきである。

2.期間の上限5年の専門職に関する「基準」
(1) 先の国会において、「弁護士、公認会計士など専門的な知識、技術及び経験を有しており、自らの労働条件を決めるに当たり、交渉上、劣位に立つことのない労働者」に限定する旨の附帯決議と大臣答弁がなされているが、本規定に該当する専門職は改正法上最長5年にわたって退職の自由が保障されないのであり、高度の専門職と評されるべき大学教員についても退職の自由が保障されていることに鑑み、その範囲は極めて厳格に、かつ、実効あるものとされねばならない。
 また、従前の上限3年の適用については、当該事業場で当該専門職が不足していること及び新規契約に限定されることが要件とされていたが、今次改正によりこれら要件が削除されており、この点からも、専門職の範囲は厳格に規制されるべきで、従前の専門職の範囲をそのまま引継ぐことは許されない。
(2) 具体的には、国家資格に基づき、通常当該資格を以って独立営業ができ、社会的にも高度の専門職と認められるものでなければならない。さらに、これらの有資格者であっても常に「交渉上、劣位に立つこと」がないわけではなく、当該資格において相当程度の具体的経験を有し、客観的に対等の交渉力を有する者に限定されなければならない。
 (3) しかるに、告示案要綱案は、現行の「専門職」の範囲を概ね引継ぐものであって、あまりにも広範である。2項の有資格者に限定されるべきである。但し、当該資格において就業している者のうち、相当数を被雇用者が占める資格については対等の交渉力を有するとは考えられないので、除外すべきである。
 (4) たとえば、「博士の学位を有する者(1項)」であっても、使用者によって指定されたテーマの研究を行うのであり、容易に転職しうるものではなく、かつ、いざ転職にあたっては企業秘密保護義務(不正競争妨止法や労働契約)を課され、これまでの研究実績を生かして、活動しえないことが想定され、契約の締結、更新にあたって「交渉上、劣位に立つこと」が十分予測される。さらに、「発明者等(4項)」にいたっては、上記が全て該当するうえ、1件でも特許発明等を行った者は全て対象となることとなり、あまりにも労働者保護に欠ける。
告示案要綱案は、「専門職」の有期雇用化を強力に促すものと危惧せざるをえず、雇用の安定を蔑ろにするものである。

3.企画型裁量労働における対象事業場に関する「基準」
 本改正の趣旨は、何ら法38条の4の趣旨を変更するものではなく、企業全体の事業運営についての決定権限は有していなくても、特定の事業については本社と同等の権限を分掌している事業場の労働者で、当該事業の運営上の重要な決定に携わる労働者をも企画型裁量労働制の対象としうるというものであるから、特定の事業について、本社から独立し、独自に最高・最終の決定権限を有する事業場でなければならず、当該事業場が直ちに独立した企業体となりうる組織と実態を有する事業場でなければならない。本社が定める事業計画を独自に実施するにすぎない事業場は対象とはならないことを明確にすべきである。
 しかるに、告示案要綱案は、「当該事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす独自の事業戦略を策定している支社等」を新たな対象事業場とする。
 これでは、本社からの独立性も、独自の決定権限も不要となってしまう。本社が定める事業計画を遂行するために独自の事業戦略を策定している支社――支社間で計画の実施について競わせる場合など――が全て含まれることになりかねず、事業場を限定する意義はほとんど全く失われている。また、国会答弁(実質的な分社)を反映した文言ともなりえていない。

4.36協定の限度時間を超える労働時間の延長について
 告示案要綱案は、標記における「特別の事情」は「臨時的なものに限ること」と定めるとする。
 かかる規定は無意味かつ有害であり、労働時間短縮あるいは適正な労働時間管理に全く資さないものである。
 そもそも、厚労省自ら、時間外労働は臨時的・一時的な場合に限って認められるものとつとに明らかにし、そのうえで基準時間を設定したのであり、この基準時間を超える時間外労働を無制限に認める特別条項は本来、廃止されるべきものである。同条項に「臨時的なものに限る」と限定を付してみても何ら限定にならないばかりか、反対解釈として恒常残業を認めるものとなるのは明らかであり、百害あって一利もない(当弁護団02.12.9付「労働政策審議会労働条件分科会における「報告」(案)に対する見解」3頁参照)。本条項を廃止しないとすれば、「特別の事情」は、「災害その他避けることのできない事由がある場合に限る」など、厳格に限定すべきである。

以 上