労働政策審議会労働条件分科会における「報告」(案)に対する見解(労働時間関係)
2002年12月9日
日本労働弁護団
幹事長 鴨田哲郎
厚生労働大臣 坂口 力 殿
労働政策審議会 労働条件分科会 御中厚生労働省は、12月3日、労働政策審議会労働条件分科会に「今後の労働条件に係る制度の在り方について(報告)(案)」(以下「報告案」という)を示した。その労働時間関係における骨子は、(1)企画型裁量労働制の手続要件等を緩和する、(2)イグゼンプションの導入を検討する、(3)36協定の特別条項を「臨時的」な場合に認める、(4)計画的年休付与・取得の普及促進策を実施する、である。
当弁護団では、既に労働契約関係等「素案」に対し、見解を発表したところであるが、報告案の労働時間関係について、以下の通り見解を述べるので、審議において十分に検討されたい。はじめに
ホワイトカラーの労働時間規制のあり方について
適用除外まで視野に入れてホワイトカラーの労働時間規制の緩和を図る理由について、「報告案」は、「働き方の変化」や「多様な働き方の選択肢の拡大」「主体的な働き方の選択」などを挙げる。しかし、より自由な働き方は、みなし時間や適用除外によらずに設計可能である。使用者が厳格な時間管理を行わなければ現行労働時間法の枠内の運用で十分に「主体的な働き方」を実現できるのである。他方、みなし時間制拡大や適用除外が長時間労働をもたらすことは明らかである。36協定がなければ定時に、36協定があっても限度時間に達すれば、仕事が残っていても退社できたホワイトカラー労働者に、仕事が終わらなければ退社できなくなる事態を強いることになる。かかる状態に置いたとしても保護に欠けることがないと評価できるほど自律的に労働時間を調整できるホワイトカラーはほとんどいない。また、「報告案」には「労働者の主体性確保」のための具体的方策は何ら盛られていない。
ホワイトカラーが主体性を持てずに長時間労働を強いられていることは次の事実からも明らかである。昨年の339号通達以来、いわゆるサービス残業に対する是正や指導が従来になく進められているが、是正対象となった事案の大半が、事実上のみなし時間制と評しうるものである。連合調査によれば時間管理がなされていない事業場では不払残業をしている労働者が68%、時間管理がされている事業場でも47.5%にも及ぶのであり、そもそも、36協定未締結事業場が71%にものぼる(平成14年度労働時間等総合実態調査)という実状である。
かかる現状において、「適切な雇用管理」を行うために、今、何よりも求められるのは、労働時間法の周知・徹底であり、断じて緩和ではない。
労働時間規制の緩和は、ますます長時間労働を助長することは火を見るより明らかであり、厚労省自身が進める過労死防止行政(「過重労働による健康障害防止のための総合対策」平14.2.21基発第0212001号)にも背くものである。1 裁量労働制について
裁量労働制における重大な問題の一つに、みなし時間と実労働時間の乖離がある。連合調査によれば、実労働時間9時間以上とするものが8割を占めるにも拘らず、みなし時間は、7〜8時間が23.2%、8〜9時間が29.4%であり、制度導入によって労働時間が増えた者が3分の1を占める。
この事実は、裁量労働制が実労働時間の値切りを公認するものとなっており、また、労働時間について自己裁量権を行使しうる労働者はほとんどいないことを示している。この結果、精神面の健康上障害を来す者も非裁量労働制労働者の1.5倍にのぼる(東邦大学医学部調査)など、健康上の被害、不安も大きく広がっていることが指摘されている。時間決定についての裁量権を現実に行使しえない者に、無限定な裁量労働制を適用すべきではない。
企画型裁量労働制の対象事業場の規制廃止については、現状の本社及びこれに準じる事業場以外の事業場に、調査・分析・企画・立案を一連一体のものとして担当する企画職がどれほど存在するのかを調査検討することが先決である。対象事業場の規制廃止は、法が、本来対象と予定した企画職には該当しない職務を担当する労働者にまで裁量労働制を拡大する運用となる危険が極めて高いといわざるをえない。
また、手続要件の緩和は、単に使用者にとって使い勝手が悪いという理由しかない。ことに、決議要件の緩和と労働者代表委員の信任手続廃止は、大多数を占める過半数組合が存在しない事業場においては、過半数代表者1人の意向で事実上労使委員会決議がなされてしまう危険を強くはらみ、法があえて労使委員会を設け、複数によるチェックと幅広い意見の集約を図ろうとした趣旨を没却するものである。
専門型裁量労働制については、健康福祉確保措置及び苦情処理措置の導入にとどまらず、企画型と同様、労働者の個別具体的な同意も労使協定の必要事項に加えるべきである。2 適用除外(イグセンプション)について
日本の労働時間規制は、法定労働時間の設定と36協定の締結届出及び割増賃金の支払いという「直接規制」である(荒木尚志「労働時間の法的構造」224頁)。これに対し、アメリカのそれは単に週40時間を超える労働に対し50%の割増賃金の支払いを義務づけるにすぎない「間接規制」である。両者は基本的にその法構造、規制についての考え方が異なるのであって、これを同列に論じようとすること自体が根本的に誤りである。3 特別条項について
特別条項は本来、廃止が検討されるべきものであり、「臨時的」という要件だけで認めることは、強く反対である。
そもそも時間外労働は、臨時的・一時的な場合に限って認められるものであることは厚労省自体、つとに明らかにし、指導をなしてきたところである。そして、その上限時間として基準時間が設定されているのである。かかる労働時間短縮推進政策(国際的公約でもある)に照らせば、基準時間を超える時間外労働を、しかも無制限に認める特別条項は本来、あるべからざる条項であり、基準時間制度を骨抜きにするものである。仮に、特別条項を廃止しないとしても、これが認められるのは、緊急でやむをえないような場合に限定されなければならない。4 計画年休促進について
計画年休の普及・促進に特段異議はない。しかし、その方策として、労使協定によらない、使用者の一方的指定による計画年休を認めるものとすれば、年休の時季指定権は本来、労働者にのみあるのであって、たとえ取得推進策とはいえ、これを使用者に与えることは年休権の本質を損なうことになりかねず、賛成し難い。なお、仮に、これを認めるとすれば、労働者に拒否権が認められねばならないと考える。以 上