不当労働行為審査制度の在り方についての意見書

  2002年9月11日

  厚生労働大臣 坂口 力 殿

                  東京都千代田区神田駿河台3−1−11   
                         総評会館4階        

                    日 本 労 働 弁 護 団        

                    会 長 山本 博    
                    

 厚生労働省は「不当労働行為審査制度の在り方に関する研究会」(座長 諏訪康雄法政大学社会学部教授)を設置し、昨年6月から検討を行っている。
 日本労働弁護団は、これまでにもいくたびか不当労働行為の審査制度の在り方については見解をまとめ、制度改善を含め要望してきた。
 不当労働行為審査制度の在り方については、司法制度改革審議会の意見書(平成13年6月)においても、救済命令に対する司法審査の在り方がとりあげられて、その改善の必要性が指摘され、現在、司法制度改革推進本部の労働検討会において検討されている。一方、労働委員会内部(全労委)においても、平成12年12月から制度の基本的問題についての検討が開始され、本年5月全労委運営会による「制度基本間題ワーキンググループ報告書」がまとめられた。
 現行の労働委員会制度ができて以来50数年を経過し、労働委員会制度が期待される制度機能を十全に果たしているか、改善すべき点はなにか、など改めてその実情と問題点の総点検を求められる状況を迎えている。
 日本労働弁護団は、このような状況において、不当労働行為審査制度の在り方について、以下のとおり、意見を述べる。

1 不当労働行為審査制度についての評価と基本的問題

(1) 労働委員会による不当労働行為審査制度が果たしてきた役割について、次のような点を評価することができる。
    第1に、労働委員会制度は、裁判所と異る公労使三者構成の専門的行政委員会として、団結権保障・団結権侵害救済の役割を果たしてきている。
  第2に、命令や和解を通じて、団結権、団交権等をめぐる多くの労使紛解決に相応の役割を果たしている。
  第3に、命令や和解を通じて、正常な労使関係のルール形成を行い、団結権の定着に一定の寄与をしている。
  以上は、大まかな肯定的評価である。しかし同時に、本来労働委員会制度に期待されたはずの迅速かつ実効的な団結権侵害救済という点から見れば、その現状は、第1に、審査や命令に時間がかかりすぎ、迅速な救済という点から多くの問題があること、第2に、発せられた救済命令は使用者によって履行されないばかりか、再審査・行政訴訟という形で命令の履行が引き延ばされることによって、制度上も実効性を欠くものとなっていること、などの問題があり、この点は久しく以前から指摘されながら、基本的な解決をみることなく現在に至っている。
  労働委員会制度が裁判所と異る団結権保障の重要な制度であることをあらためて確認するとともに、現状と問題点を適確にとらえ、制度本来の機能をよりよく発揮させるために、たえず運用の改善を図る一方、制度上の改革課題にも取り組んでいく必要がある。
(2)  労働委員会による不当労働行為審査制度に求められるのは、不当労働行為事件についての迅速な審査と実効性ある救済である。このような点から検討すれば、現在この両面で本来制度に期待されている機能が十分はたされているとは言い難い。
とくに、長年にわたって指摘され続けてきた審査の遅延問題は、公益委員の審査指揮権の不十分な行使、熟達した事務局職員の不在などの審査体制上の問題もあって解消される状況に至っていない。このことは制度の根幹である迅速な救済という点から重大な問題である。
   司法制度改革審議会意見書(平成13年6月12日)は、労働関係訴訟事件の審理期間を概ね半減することを目標とし、民事裁判の充実・迅速化に関する方策を実施すべきであるとしているが、司法改革のこのような動きに対し、労働委員会側の対応は遅れていると言わざるを得ない。
   不当労働行為が使用者にとってやり得とならないようにするため、計画的審査の実施による迅速な審査の実現、早期の命令作成能力の充実などが強く求められている。
   さらに、救済命令の実効性に関しては、現行制度上命令確定前においては、緊急命令制度以外に履行を強制する方法がないことから、初審−再審査−行政訴訟という手続きに要する長い期間(いわゆる五審制)のもとで、団結権侵害の救済は時宜を失したものとなっている実情(とりわけ、団体交渉拒否事件)にあり、迅速な実効的救済という点から根本的問題を抱えているといえる。
(3)  ADRの特色として指摘される、簡易性、迅速性、廉価性、専門性、柔軟性などの視点から見た場合、現行の制度は簡易性、廉価性、専門性、柔軟性という面においては一定の評価はされるが(もっとも、簡易性の点は、民事訴訟化しすぎている問題点がある)、ADRに要請される紛争解決の迅速性という点では、とうてい評価できないものとなっている。「救済の遅延は救済の拒否に等しい」という視点に立って、運用の改善に自覚的・計画的に取り組むとともに、制度を含めて改める必要がある。
(4)  不当労働行為事件について、労働委員会は判定機能のほか、和解による解決という調整機能を果たしており、この両者の機能は、いずれも重要である。本来的機能というべき判定機能の重要性はいうまでもないが、不当労働行為事件における和解による調整的解決も、労使合意にもとづく解決として、迅速性という要請にも沿うものであり、また合意内容の履行の確実性への担保、将来に向けての団結権尊重と正常な労使関係の形成などという点でも判定機能に劣らないものとして重視すべきである。
   ただし、労働委員会による和解の成否ならびに適切妥当な和解内容の実現は、判定機能がきっちり発揮されることがその大前提であることが留意されなければならない。
   判定機能と調整機能を不当労働行為事案の内容や当事者の意向を的確に把握したうえで、適切に組み合わせることが必要であり、そのためには労働委員会(ことに公益委員)の指導性が求められる。
(5)  労働委員会による行政処分としての救済命令に対し、裁判所へ取消訴訟を提起できる現行法上の仕組みは、裁判所において、専門的行政委員会としての労働委員会による不当労働行為救済制度のもつ意義(行政救済としての性格)を正しく把えることがなければ、労働委員会制度を特別に設けた趣旨を実質的に否定することにっながりかねない問題性を有している。
   裁判所の判断が権利義務の存否や違法性の有無といった法的判断であるのに対し、労働委員会が不当労働行為事件について採る判断は反組合的言動の有無や団結侵害の事実の有無といった労使関係的なものであり、ここにこそ司法とは別に労使関係についての専門的な行政委員会として、労働委員会による不当労働行為救済制度を設けた趣旨がある。
   救済命令を取り消した判決例のなかには、不当労働行為成否判断にあたっての事実認定と評価の手法について疑問を持たざるを得ないものがある。
   労使関係の専門的行政委員会が準司法的手続のもとで認定した事実とその労使関係的評価は原則として尊重するという立場に立っての司法審査が求められるのであって、労働委員会とは異なる独自の立場から白紙で労働委員会の事実認定を見直すということになれば、時間をかけてなされた労働委員会の審査手続は無意味なものとなりかねない。

2 審査手続の問題点と改善すべき点

(1)  審査手続の迅速化は、かねてから指摘されてきた最大の課題であるが、これまでさまざまな改善の具体的方法が提言されてきたにもかかわらず、労働委員会が自覚的、計画的に改善を図る努力を十分に行っているとは言い難い。
   争点整理、計画的審問の実施、審問期日の複数指定、集中審理の実施など、現行規則の活用と審査指揮権を適正に行使すれば、審査の迅速化は実現可能である。
   にもかかわらず、審査委員の指揮権についての不慣れや自覚の欠如、審査委員の能力、使用者側への「遠慮」などから審査の迅速化への努カがみられないのはきわめて遺憾である。
   とくにタイムターゲットを定めた計画的審査の実施は迅速化を実効的なものとするためには、必要不可欠であり、調査終了時においては、原則として審問終結予定日時が示され、審問終了時においては命令交付日が指定されるべきである。(特別の事案でない限り、裁判所においては結審時に判決言渡日が指定されている)。命令交付日を指定することを規則上明確化する必要がある。
(2)  とくに、団体交渉拒否事件については、早期救済の必要性が高いことから、調査および審問について格段の取り組みが図られるべきである。例えば、答弁書の提出を求めるにあたって、団体交渉拒否理由を具体的に記載した書面の提出を義務づけること、第1回調査期日を早めに設定したうえで、調査を充実させ、原則として調査を1回限りで終了すること、審問についても、原則1回、それが困難な場合には、集中的審理を必ず行うことなど、を規則に明記するなど具体策を講ずるべきである。
   事案によっては、審問を要せず、調査のみで命令を発しうることを規則に定めることも検討すべきである。
(3)  審査に長時間を要する原因のひとつに背景事情の立証があるとの指摘、さらには労働委員会の命令についても背景事情の記述が長すぎるとの指摘がある。しかし、背景事情の立証の要否は不当労働行為事件の内容や性格とかかわるものであり、一律にその当否を論ずることは妥当でない。
   背景事情の立証がどこまで必要かは、個別事案毎に調査段階における争点整理と立証計画をきちんと行うことによって解決できる問題である。
(4)  審査遅延を招く大きな原因のひとつとして指摘されなければならないのは、証拠方法の問題である。とくに、審査が長期化している賃金、昇格、昇進差別事件などにおいて顕著にみられることは、使用者側が、その所持する人事考課や昇進試験制度などに関する文書を証拠(書証)として提出しようとせず、証言によって立証しようとする点である。このような証言は、主尋間と反対尋問に多くの時間を要し、審理長期化の原因となっている。
   書証が存在するにもかかわらず、これを提出しようとしない使用者に対する審査指揮権の発動として、証拠提出の勧告、命令を適宜行うとともに、書証が提出されないままでの証人の採用は行わない、などは審査指揮の裁量の範囲内で可能なことである。
   また、使用者がその手持の証拠を提出しない場合に、使用者に不利益な推認をするなど事実認定のルールを確立する必要がある。
   証拠収集の重要な手段であるはずの強制権限の行使(労働組合法22条)が全く活用されていない現状は、きわめて残念である。この点は強制権限の行使を総会付議事項といている規定(労組法23条)にも問題があると考えられるので、これを公益委員会付議事項に法改正することが必要である。
   書証の提出によって、労働委員会はより適正かつ妥当な事実認定をなしうることはもとより、審査の迅速化にも資することとなる。民事訴訟法改正による文書提出命令の拡大(民事訴訟法220条、223条)は、裁判の迅速化を図る重要な証拠手続規定として位置づけられているが、不当労働行為審査においても、証拠収集、証拠方法の問題を、重要な課題として取り組むべきである。
   いずれにせよ、明文があるにもかかわらず、強制権限の行使が全くなされない状況は、異常な事態であり、もし、強制権限を行使しにくい問題点があるとすれば、その行使要件の整備等を早急に行うべきであって、労使関係の自主的、自立的形成からみて、強制権限の行使は慎重にすべきというのは、労働委員会の判定機能を損なうものというべきである。

3 和解について

(1)  不当労働行為事件において、和解による解決も重要な意義があることは前述したとおりである。
   多くの不当労働行為事件は、和解による解決の可能性をもっている事件であるといえ、適切な時期において、職権による和解勧告、当事者の双方または一方からの和解申し出にもとづいて、和解による解決が図られることは望ましいことである。
(2)  和解による解決の利点としては次のようなことが指摘できる。
   第1に、多くの場合命令による解決に比べて早期の解決が実現するという点である。初審・命令、再審査、行政訴訟ということになると、多大の時間と費用を要することになる。この場合の労働側の負担は使用者に比べてきわめて大きい。和解による解決は、このような負担を回避させることになる。もとより、和解のメリットは、労使紛争をいたずらに長期化させず、労使関係を正常化するという点で使用者側にもある。
   第2に、和解による解決の場合は、係争事件、未係争事件を含めて、その時点における労使紛争の全面的解決がはかられ、労使関係の正常化が実現する。
   第3に、和解の場合の解決内容は、今後の労使関係をも視野に入れた合意がなされる場合が少なくなく、このことは団結権侵害事件の再発を予防し、正常な労使関係の形成に寄与するものとなる。
(3) このように、和解は重要な意義をもつものであるが、適正かつ妥当な和解が、適切な時期に実現しうるかは、労使参与委員の努力とともに、公益委員の積極的なリードが必要不可欠である。ただ、徒に和解に時間をかけすぎたり、和解による解決にあまり執着するのは好ましいことではない。一定のタイムリミットをつけて行うことも必要である。和解による解決が困難とみた場合には、和解を打ち切り、審問、命令の手続をすみやかに進めるべきである。迅速な命令という本来の判定機能の裏付けがあってこそ、適切な和解が実現することに留意すべきである。
(4)  和解の内容についても、いたずらに妥協や互譲を強調するのではなく、労働委員会が関与する限り、的確な事情把握のもと、不当労働行為の排除と団結権保障にもとづく正常な労使関係の形成という基本的視点が必要であり、単に一件落着すれば良し、とするような安易な姿勢は厳に排除されるべきである。

4 審査体制について

(1)  公益委員の人数は、事件数の多寡など地域事情を考慮し、労働委員会が弾力的に決定できるようにすべきである。
(2)  事件数の多い地方労働委員会及び中央労働委員会においては、最高裁判所の小法廷方式のように、審査および命令について権限をもつ小委員会方式(小法廷方式)を導入することも検討されてよい。
   小委員会方式を採る場合、小委員会の決定により、事件の内容によっては、公益委員会議に回付できるようにする。
(3)  審査指揮を適切に行うためには、審査委員自身の研鑽が必要なことはいうまでもない。公益委員の研修を新任時はもとより定期的に実施し、審査事件の実務処理能力を高めていく努力が必要である。また、公益委員の人選にあたっては、労働委員会制度に理解と情熱をもつ有識者、労働法学者など労使関係法について専門的知見を有する者の選任を重視すべきである。また、公益委員が行政官僚の天下り的なポストとなるようなことは厳に排除されるべきである。
(4)  いうまでもなく、三者構成のもとで、労使の参与委員の役割はきわめて重要である。
 それ故に、参与委員の選任にあたっても、その任務と役割を遂行できるよう、公平な人選が求められる。
(5)  非常勤公益委員のもとで、事務局職員の役割は重要であり、事務所職員に対し、審査委員の指示にもとづいて、一定の権限を行使できるようにすべきである。また、事務局職員については「審査専門職」として位置づけ、それに相応しい処遇を行う必要がある。事務局職員の専門的な能力を函養し、蓄積するためには、定期的な研修と長期間の在任が不可欠であり、このことを可能とする人事制度の確立が望まれる。

5 中央労働委員会と地方労働委員会の関係について

(1)  地労委の組織運営や審査体制など、すべての地労委が同一である必要はない。前述したとおり、公益委員、労使参与委員の人数など組織運営に関しては、取扱事件数の多寡など地域事情に応じて各地労委が決めることができるようにする。
   審査体制についても、前述した小委員会方式を採用するかどうかは、地労委が決めることができるようにする。
(2)  中労委の再審査制度(二審制)については、これを廃止すべきである。中労委の再審査は、統計によると再審申立から約4年、結審してから命令まで約3年を要するなど審査遅延の大きな原因となっており、地労委において救済命令を得た労働側にとって容認し難い実情となっている。
 また、再審査命令の内容についても、初審救済命令を労働側に不利益に変更する傾向がみられるのは問題である。
 再審査の必要性として指摘されてきたのは、中労委による判断の統一性を確保するという点であるが、そもそも同一事件が複数の中労委に係争するという例は少なく、中労委による統一的判断を必要とする必要性は少ない。
 また、再審査による判断の統一というのは、再審査を前提とする考えともいえ、本来初審命令での確定こそが望ましいことからすれば妥当ではない。
 再審査制度を廃止した場合、地労委命令に不服のある当事者は、命令取消の行政訴訟を提起することとなるが(この場合の管轄については後述)、どうしても判断の統一性を求めるものであれば、それは司法審査に委ねればよい。
 なお、日本労働弁護団は、再審査存置という立場をとってきたが、再審査の実情と問題点から、再審査を廃止すべきとの結論をとることとしたことを付言する。
(3) 中労委は、現行制度上全国的重要事件について、管轄を有しているが(労働組合法施行令27条5項)、これは全く活用されていない。
再審査制の廃止後中労委は、この初審の役割を担えるよう審査体制を整えるべきである。
(4) 現状のままでは、中労委の再審査の実情は、救済引きのばしのための手続となっていると評さざるを得ず、仮に現行の再審査制度を存続させる場合においては、以下の点の改善が必要不可欠である。
 第1に、再審査に要する時間を大幅に短縮することである。とくに、第1回調査期日の指定および結審後命令までの時間はあまりにも長すぎる現状は深刻な問題となっている。この原因は、迅速性に対する中労委の姿勢とともに、命令作成能力など審査体制にも大きな問題があることによる。
 第2に、あまりにも形骸化している中労委による履行勧告制度を実効的なものにする必要がある。履行勧告に従わない使用者に対する何らかの制裁的措置の導入を検討すべきである。
 第3に、当事者の要望にもとづいて、地方の負担軽減のため、各県で集中的調査、審問を行うようにすべきである。
(5) 中労委が管轄している国営企業等の不当労働行為事案について、一般企業の不当労働行為審査に較べて、審査の遅延が際だっている。
 国営企業等の不当労働行為審査については、別の審査制度があるかの如き現状は、すみやかに是正されるべきであり、地方調整委員制度などを含め、再検討が必要である。

6 司法審査との関係

(1) 審級省略
 いわゆる五審制の問題は、不当労働行為事件解決の長期化を招く大きな原因となっており、その改善が必要なことはいうまでもない。中労委の再審査制度を前提とする場合には、中労委命令に対する第一審を東京高等裁判所とすべきである。
 2度の判断を経た中労委命令に対する審級省略のみならず、地労委命令に対する第一審裁判権も、高等裁判所とすべきであり、この点について中労委命令と地労委命令とで差異を設ける理由はない。
 審級省略を導入するには、労働委員会の証拠調べの現状や事実認定に問題があり、これを改善することが前提であるとの議論があるが、地労委、中労委を含めて、労働委員会の審理は、裁判所の審理と較べて決して遜色ないものである。
 もとより、労働委員会の審理をより充実化することはのぞましいことであり、そのためにも、これまで指摘したような審査指揮権のあり方、証拠方法の問題等を改善することが求められる。そして、労働委員会の審理の充実化は、審級省略とともに、次に述べる実質的証拠法則導入の妥当性をいっそう根拠づけることとなる。

(2) 実質的証拠法則
   労働委員会の認定した事実は、これを立証する実質的な証拠があるときには、裁判所を拘束するものとする、とのいわゆる実質的証拠法則を労働委員会の事実認定に採用すべきである。これは、中労委の再審査命令についてのみならず、地労委命令についても適用すべきであり、地労委命令と中労委命令に差異を設ける必要はない。
   労働委員会は不当労働行為救済の専門的行政委員会であり、労働委員会の認定およびその判断は、明らかに不合理でない限り、それを尊重することがこの制度趣旨に沿うものである。また、事実認定の基本原則である自由心証主義の要請からも、事実に接近した時期における証言等を直接に評価し、心証形成した審判者の判断を尊重すべきことは当然であり、準司法的手続によって行われている労働委員会の審理の実情に照らし、労委命令の事実認定に拘束力を認めることになんらの不合理もない。取消訴訟の判決のなかには、労働委員会の事実認定をあたかも白紙の立場から見直すかのような例も見られるが、このような司法審査は、労働委員会制度を実質上空洞化させ、ひいては労委制度の意義を失わしめることになる。

(3)新証拠の提出制限
  
実質的証拠法則が採用されるならば、司法審査における「事実認定」の違法性の有無の判断は、命令の認定に「実質的根拠があるか否か」「合理的な根拠があるか否か」に限定されることとなり、労働委員会の事実認定が裁判所で覆される可能性はきわめて少ないものとなる。
   しかし、労働委員会で提出可能な証拠を、あらたに行政訴訟において提出することによって、命令の事実認定を誤りとする立証が行われる可能性があることを考えると、このような立証は、労働委員会における審理の充実の要請(これは実質的証拠法則を支える前提である)に反するものであり、提出を制限できるようにすべきである。

7 命令の実効性確保について

(1)緊急命令
   緊急命令は、救済命令に対して使用者が取消訴訟を提起した場合において、取消訴訟の判決が確定するまでの間(これには、現行三審制のもとで相当の長期間を要する)の暫定的な命令履行確保のための制度であるが、近年の緊急命令の決定状況は、取消訴訟の本案判決と同時になされるものが圧倒的に多く、緊急命令制度の趣旨が損なわれる事態となっていると言わざるを得ない。裁判所のこのような対応は、緊急命令を決定するに際し、命令の違法性と緊急の必要性の2要件を判断するとの立場によるものであると考えられるが、この点は現行法の解釈としても争いのあるところであり、緊急命令制度の趣旨を実効化するためには、後者の必要性のみを要件とすべきである。

(2)審査の実効確保の措置
審査の実効確保の措置(労委規則37条の2)は、その適切な運用を図ることによって、審査の長期化のもとでの不当労働行為事件の解決や紛争拡大の防止にも資するものである。
   実効確保措置に対する対応について、現在地労委によってかなりの差異がみられ、これに消極的な姿勢を示す地労委もあるのは残念である。実務上必ずしも正式の勧告ではなく、公労使3者の協議にもとづく要望の形でなされることも多いが、このような方式も含めて、この制度の運用について地労委の積極的な対応が求められる。

以  上