間もなく自動車はダラダラ坂を登ってゆく。右の方石垣を高く畳み
廻らして城趾でもあるかと思はれるのが是なん田中友三郎氏の居宅で
又笠間陶器株式会社の工場である。
蚊六は坂の途中で自動車を返して坂を登って行く。田中さんの宅は
坂の半途から居宅へ向ふ別の坂をのぼるのだ。此処は石井の高地が南
へ突き出した其頂上で城とゆかずとも物見台位はあったらうと思はる
る、所謂戦術的に価値のある高地だ。
登り切って左手が事務所と居宅になっているので刺を通すると奥の
方のテーブルに控えている角帯前垂掛けの人が当の田中さんであり、
笠間陶器株式会社の取締役社長であるのだ。
蚊六は例の如く蚊六一流の裸出しで来意を述べるが田名さんは少し
警戒的だ。・中略・・で蚊六も詮索は後廻しとして先ず工場の拝見を
願ひ出る。かうなると蚊六の態度がくだけているので田中さんも少し
は安心がいったらしく自ら工場へ案内される。
工場は可なり広い。素焼窯一基と本焼窯二基がある。本焼の窯は十
許の房に分れているが濃尾あたりの個人経営の窯ほどもない。蚊六が
焼物に全く素人だといふので田中さんは痒いところへ手の届くやうに
説明される。機械轆轤の説明などは確に二年前の蚊六が三嘆したもの
に違ない。が蚊六も今は梨の皮位は焼物の知識に色つけられているの
でサッサと見て行く。此処も不景気のたたりで十四五人の人が従業し
ているばかり。一時小物も焼いたさうであるが今は又元へ返って瓶や
擂鉢のやうの大物のみを焼いていると田中さんは説明される。成程工
場の彼方此方に夫らしい型や跳ね出し物などが残っている。
田中さんや益子の大塚さんなどの話によると笠間は到る処陶土があ
る。つまり自家の土台の下を掘って焼いていると云って可い。併し其
中でも無論品質に良否ありで、目下可い土の産するところは小学校の
敷地付近だといふことである。
「素焼の中はいいのですが本焼にかけるとどうも黒くなってしまへま
すよ。」
と傍の瓶の破片を示される。成程断面は漆のやうに黒い。
「方々の土を混ぜて使ふのが一番成績が可いやうですナ。」
蚊六は何の意味やら判らない。判らぬままで原料の置場へくると成
程と田中さんの意味のあるところがわかる。水簸した原土が縞になっ
ている。
「これは原土の相違でこう縞になっているのですが、これをよく混ぜ
ると大変よくなりますよ。」
田中さんの意は広く各所より原土を採って混交するといふ意味だ。
が蚊六は夫が判明しただけ又判らないものになる。若し各所の原土に
長短良否があるものならば何故に其長と良とのみを採らないのであら
う。若し只無意味に混合して少し良くなった位に済ましているのなら
ば暗中模索だ。原土の良否位は一週間の手数で大体の見当がつく問題
ではあるまいか。堂々たる笠間陶器株式会社の問題ではなささうのも
のだと蚊六には思はるる。
併しそれは蚊六のやうな梅干瓶と美術陶器を一緒にしているものの
云ふことであるかも知れぬ。到る処で造り出さるる水瓶や梅干瓶が薄
利薄利と押されて行く今の時代では土の選定も何もあったものではな
いかも知れぬ。・・・・・・中略・・・・・・・・
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