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取材記事:噛み合わせ


1998年8月13日

今回は、板倉 康夫氏に「噛み合わせ」というテーマでインタビューしました。
板倉さん、ご協力ありがとうございました。

板倉康夫氏のプロフィール



  • 歯科医師
  • コンディショニング・アドバイザー
  • 昭和31年 生まれ
  • 昭和58年 東京都渋谷区で開業
  • 平成3年 操体法を三浦寛先生に師事
  • 指導した選手
    • 伊藤善剛(陸上100m日本代表)
    • 田村直也(スピードスケートショートトラック長野五輪日本代表)
    • 山本崇(アメリカンフットボール元日本代表 現リクルートシーガルズ)
    • 伊藤裕樹(社会人野球 現日産自動車 遊撃手 )
    • 中原正義(ラグビー元全日本学生代表 副将 現東芝府中)
    • 勝野大(ラグビー元全日本学生代表 現トヨタ)



噛み合わせのチェック方法を教えて下さい。


  • 口を開け閉めするときに痛みがある。または音がする。
  • 1のときに鏡に映してみると顎の先が真っ直ぐ上下に動かない。
  • 軽く口を開けて、下顎を左右にゆっくり動かしたとき痛みがある。または音がする。
  • 3のとき、上手く動かせない。左右の動かしやすさが違う。
  • 3のときに鏡に映してみると左右の可動範囲が違う。
  • 噛みしめて鏡で見ると上の歯に隠れて下の歯が見えない。

くいしばるとどうしてよくないのでしょうか?


人間は普段、何もしていないときには噛んでいません。それは、どのような姿勢でも顎の位置を変化させバランスを取りやすくするためです。したがって、噛んでいないことが身体のバランスを取るために必要な条件なのです。


また、噛み合わせが正常な人はいません。くいしばることにより、噛み合わせの不安定なバランスが顎の筋肉を介して全身のバランスに影響をおよぼします。


顎関節だけでなく、全身をバランスを整えるために操体法もされているそうですが、操体法とはどのような療法でしょうか?また、操体法というのは独学でマスターでるでしょうか?


P.N.F.に似ているので、勉強熱心な方にはP.N.F.と間違えられるのですが、昭和初期に仙台の橋本先生によって考案された純日本製の手技です。


元々は不定愁訴の治療法なのですが、身体の感じる気持ちよさと、筋肉の性質である最大緊張後の最大リラックスなどを応用し、全身のバランスを取る治療法なので、スポーツ選手に活用してます。


理論さえ学べば、後は応用ですから独学も可能でしょう。しかし、残念ながら操体法の理論を マスターするために書かれた本がありません。また理論を学ぶには感覚に頼る部分が多くあるので、実習が不可欠であると思います。したがって、理論はしっか りと師事をした上で学ぶべきでしょう。


私は、以前、ある東京の歯医者で、「カイロプラクティックだけでは全身の歪みを治すことはできない。歯科で噛み合わせの矯正もやらないと不十分。」…みたいな事を言われた事があります。板倉さんが、操体法をされるのも、やはりこれと同じ考えからでしょうか?


人間の身体の中で硬組織同士が接触するのは歯だけです。また、歯は固定点と考えられるくらい移動量が少ないため、キーポイントになることは事実でしょう。その意味ではその先生と同じ考え方と言えるかも知れません。


しかし、噛み合わせの治療目的は不定愁訴の除去です。本来、西洋医学が日本に導入される以 前は、民間療法で治してきているのですから、メンタル・コンディショニングやボディー・コンディショニングができれば、身体の歪みを気にすることも、噛み 合わせを気にすることもないはずなんです。


現代人は成長期から運動能力に欠け、精神的にも弱くなっているので、コンディショニングを助ける意味で、噛み合わせの治療をしています。したがって、噛み合わせの治療をしながら運動の方法や悩みの相談まで、いろいろとしています。


噛み合わせが悪くなる原因を教えて下さい。


多くはストレスでしょう。


胎児期の母胎のストレスに始まり現在まで、人間の身体と心が受け入れることのできない、す べてのことがストレスになります。ストレスを感じると人間は自然にくいしばったり、寝ているときに歯ぎしりをします。これが噛み合わせの成長を妨げたり、 噛み合わせを変化させたりします。


その他には虫歯を放置したり、歯を抜いた後放置したり、歯医者の不適切な治療なども原因として挙げられます。


私が通っていた広島の歯科医では、スポーツの時に装着する柔らかいマウスピースと、寝る時に装着する硬いマウスピースを作っていただきました。板倉さんが作るマウスピースにも両方あるのでしょうか?もし両方あるなら、両者の違いを教えてください。

もしスポーツの時だけ装着するマウスピースだけなら、スポーツの時だけ装着して噛み合わせがよくなるのだろうか?…という疑問があるのですがどうでしょうか?


私もプラスチック製と、軟質のエチレン・ビニール・アセテート(E.V.A.)製のものを作ります。しかし、プラスチック製のものは噛み合わせの治療患者のみに使用しています。プラスチック製は、かなりの頻度で調整が必要です。


ところが選手は合宿、遠征など、常にコンタクトしていることができません。したがって、E.V.A.を使い、練習やトレーニング、入浴時などに使用してもらいます。


噛み合わせを良くしようとするのではありません。私の作るマウスピースは身体のバランスの良い状態を記憶しておく記録装置なのです。


操体法を用いることで身体のバランスを向上させることができます。そのまま、すぐにトレーニングをすることができればよいのですが不可能です。また、それができたとしてもトレーニング中に知らず知らずに噛みしめてしまい、身体のバランスが不安定になります。


身体のバランスを向上させたとき顎の周囲の筋肉のバランスも向上し、顎の位置が変化します。その位置をマウスピースで記録しておけば、トレーニングの時に使用することにより身体のバランスを整えやすくなるわけです。


最近、スポーツ店でも、1,500円~2,000円くらいでマウスピースか売ってますけど、あれはコンタクトスポーツで顎(歯)の保護するために使うものなのでしょうか?筋トレをする時にも有効な道具なのでしょうか?


5~6年ほど前でしょうか。渋谷のデパートでマウスピースのリサーチをしたときに谷野さんというボディービルダーの方とお話ししたことがありました。その方は大会前だけお使いになるそうです。


保護をするというよりも、噛み合わせの悪影響を排除する目的で筋トレに使うことは可能でしょう。ただしお湯で軟化したときに下の歯の歯形をマウスピースの表面に付けずに使って下さい。


噛み合わせを自分で矯正する方法などあるのでしょうか?健康雑誌を読んでいたら、「割り箸を左右の奥歯で5分間噛むと良い」…と書いてあったのですが…。


噛み合わせの矯正は、歯の高さや、噛む位置を変化させるので、それを理解している歯医者でなければできません。また歯医者の中でも噛み合わせの矯正をやれるのは、まだ少ないと思います。


割り箸を奥歯で5分間も噛めば、筋肉もそれなりに疲労し、リラックスします。その影響は頚 椎を介して全身のリラックスにつながるでしょう。いわゆるテンプレート治療の基礎はこの方法に近いようです。ただしこの方法は、一時的に身体をリラックス させる効果はありますが、噛み合わせが変化するのではありません。


顎関節矯正用のマウスピースでは“テンプレート”というのが有名ですね。噛み合わせ矯正するやり方には、いくつか流派(?)があるそうですが、どのような流派(?)があるのでしょうか?また、板倉さんのやり方は、他の流派(?)とどう違うのかも教えて下さい。


多くは個人の研究なので、正確にいくつあるのかわかりません。また、治療法の名称も付いていませんので推奨者の名前を冠すると、いわゆる「テンプレート」と似たような物で「パワープレート」、その他「 BBS法」「西村法」「尾澤法」「市波法」など、テンプレートがセンセーショナルに登場したこともあって、現在は沢山の方法があるようです。


私との違いと言うよりは、私の理論は、噛み合わせとはまるで無関係であった操体法から、噛み合わせと取り組んだことにあるでしょう。


多くの方法は噛み合わせを中心に理論が構成されますが、私は重心の安定を第一に考えます。顎も全身バランスをつかさどる要素の一つです。したがって、重心を安定させてから、それに合わせて噛み合わせを再形成する方が自然であると考えています。


板倉さんが作るマウスピースはどんな特徴がありますか?


マウスピースにはBody Restoring Mouthpiece (B.R.M.)と名前を付けましたが、その名前の通り、身体のバランスを整え筋肉をリラックスさせる要素を含んでいます。


運動能力を効果的に向上させるためには重心バランスの安定が不可欠です。しかし今まで直接 重心を安定させる方法がなく、トレーニングを通して重心を安定させていました。トレーニングによる重心の安定は、器用な選手であれば重心が安定していなく てもこなすことができます。身体の内部から直接安定させれば、トレーニングの効果を増大させ、確実に運動能力を高めることも可能になるのです。


B.R.M.を装着してトレーニングを続けることで、「顎の位置をもう少し動かしたい」とか、「高さを高くしたい」などの感覚がでてきます。それは筋肉のバランスが安定してきたということですから、B.R.M.をそれに合わせて作り替えます。


ほんの数年前、テンプレートが正式発売されましたが、たしか数十万円もして、一般人にはとても手が出せない値段だったと思います。板倉さんのところのでは、どのくらいの価格なんでしょうか?


B.R.M.は2万5千円を頂いています。ただし正しく使っていただくために、コンディショニングの話や実践もします。コンディショニングを継続的に担当する場合は、別途相談です。


噛み合わせを良くするには、歯並びが良い事が大前提なんですよね。また、歯並びが良ければ噛み合わせも良い、…というのは違うそうですね。

ところで、10年前ですが、私はどうしても噛み合わせを矯正してくれる歯 科を見つけられなかったので、かわりに矯正歯科で歯並びを良くしようとしたことがありました。しかし、治療費が数十万円以上もしましたし、元々、私はそん なに歯並びが悪いほうではなかったので止めました。

そこで、ちょっと思うのですが、歯並びが非常に悪い人は、マウスピースによる矯正する以前に、矯正歯科で歯並びの矯正をする必要があるような気がしますが、そこのところどうなんでしょうか?


選手から「矯正をしたいけど」という質問を受けますが、私は「選手生活をやめてからにしなさい」と指導しています。

それは現在の矯正歯科の技術では、歯並びを綺麗にすることはできますが、噛み合わせのバランスは壊れてしまうからです。噛み合わせが壊れるということは、身体のバランスも崩れるということなので、今より運動能力が低下する可能性があるのです。


板倉さんは一流のアスリートをたくさん治療されてるそうですね。ところで、治療を受けたアスリート達は、治療後と治療前でどんなふうに効果がありましたか?できれば、2~3例くらいのエピソードを教えて下さい。

たくさんあるので、どれにしようか迷ってしまいます。故障からジョギングのできなかった長距離選手の治療とか・・・

最初にB.R.M. を使ってくれた選手は陸上100mの伊藤善剛選手です。93年だったと思います。



陸上100mの伊藤善剛選手と


全日本の合宿で使ってもらったのですが、今まで疲労を足首からふくらはぎにかけて感じていたのが、臀部で感じるようになったと報告を受けました。これは今まで末端を酷使していたのが、重心付近で自然に運動できるようになったことを示しています。


彼には今でもB.R.M.を愛用してもらっています。海外遠征の時は、絵はがきで体調を知 らせてくれますし、国内にいるときは電話で連絡もくれます。私も水戸まで出向き、身体のコンディションのチェックを現在でもしており、彼の遭遇した不幸な 事件から立ち直るための「歯車の一つ」になれたことを光栄に思っています。


日体大水泳部で、96年の国体で茨城県代表として出場した選手は「B.R.M.って面白いです」と報告をくれました。


「B.R.M.を装着すると身体が浮きやすくなるんですよ!!外すと、また沈んじゃうんで す」また別の選手は「真っ直ぐに泳げるようになりました!!」 実は身体が浮きやすくなることは、私も想像しなかったのです。身体から無理な力が抜け、バ ランスが取れたことを示しているのでしょう。


田村直也選手(スピードスケートショートトラック)はB.R.M.を作っていませんが、97年に同行した選手に紹介され、大会で会うたびに、コンディションのチェックをしたりコンディショニングの指導をさせてもらいました。



スピードスケートショートトラックの田村直也選手と


彼が長野五輪1000mの準決勝でトップを走りながら後続の転倒した選手にユニフォームを掴まれて転倒してしまったことは、覚えている方もいらっしゃるでしょう。結果はB決勝で優勝したので5位でした。


転倒翌日に心配して連絡を取ると「最初はむち打ちみたいでしたが、教えてもらった運動でかなり楽になったので大丈夫です」という答えでした。ところが「氷の上で滑っているときは気にならないのですが、ジョギングをすると首のあたりに痛みがあります」というのです。


その後のリレーの出場が決まっていて、試合前に会えるというので、会場のホワイトリングへ行きました。彼は一見元気そうでしたが、首が痛くて、まったく後屈ができない状態でした。


1階にはりっぱなコンディショニングルームがあるのですが、私はI.D.カードがないので 入れません。しかたなく観客の通路でサイン責め(私ではありません)に会いながら立位のまま除痛をすることにしました。実際、寝かせた方が治療はしやすい のですが、寝かせると観客が集まって、大騒ぎになりかねません。結局、腰から首すじにかけての筋肉が緊張してガチガチになおり、まもなく緊張を取り去り、 後屈もできるようになりました。


ただでさえ転倒事故の多いショートトラックです。その状態で転倒すると選手生命に関わる事故になり兼ねないのです。もちろん、そのまま出場しようとした彼を責める気はありません。それより、そのことが危険であるという教育がされていないことに問題があると思われます。


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