『ロラおばちゃんがやってきた』では、冬の寒さと、主人公のミゲルの気持ちがシンクロしていて、ロラおばちゃんとともに、春へむかっていくのだが、あのあたりの気候は、元住民としてあまりになつかしいので、補足。
本書のあとがきでは、マイナス20度という冬の寒さにだけふれたが、じつは、あの周辺は、夏と秋は最高である。夏はさわやかな避暑地で、近くのシャンプレイン湖(*)ではヨット遊びとかができたり(ちなみに、シャンプレイン湖には、ネッシーならぬ、幻獣チャッピーで有名。以前、日本のテレビでもとりあげられていた)、ニューヨーク州側には全米最古のゴルフクラブもあって、マンハッタンの暑い夏を逃れて遊びにくる客がたくさんいる(だから、本文でも、「内地のやつら」「観光客が侵略」などといっているのだ。)秋は、ほかのニューイングランドにも共通しているが、紅葉がめちゃくちゃ美しい。山道をドライブしながら眺めた景色はほんとうにきれいだった。日本の紅葉の名所にだって、ぜんぜん負けていない。
(*)わたしがいたのは、このシャンプレイン湖をはさんでヴァーモント州と隣接するニューヨーク州の町。
ただ、サンクスギビング(感謝祭、11月23日ごろ)の前後に雪が降りはじめると、4月すぎまでずーーーっとつもったまま。とにかく、とにかく、冬が長いのである。一瞬にして、鼻の中が凍ったり(これは実際に体験してみないとなかなか想像しにくい感覚。ちなみに、マイナス15度の場所に住んでいた方は経験したことないとか)、髪の毛がつらら化したり(そのくせ、当時は朝シャンしたあと、半乾きのまま平気で外に出ていた)、はじめて足がしもやけになったりと、寒かった思い出にはことかかない。手袋着用はもちろんのこと、脳天からもあっという間に体温がうばわれていくので、帽子なしでの外出は自殺行為に等しい。外で立ち話なんて1分たりとも我慢できないし、とにかくみんな、目的地を目指して黙々と歩く(キャンパス内の寮生活の話。授業間の移動は徒歩がふつう←わざわざ車を出し入れするほうが時間も手間もかかるので)。でも、それだって、せいぜい10分が限界。だだっぴろいキャンパスを横断するときは、すこしでも暖をとるために途中にある校舎を通り抜けていった(でないと、耐えられない)。
ちなみにカナダも山も近いので、スキーヤーにはたまらない場所である。大学内でも、キャンパススキーツアーがよくあった。わたしは一度もやらなかったけれど。(万が一、骨でも折ったら、つるつるに凍りついたキャンパス内を移動できなくなってしまうから。)
あの頃は、春が近くなって、マイナス2、3度くらいまで気温があがると(だいぶ雪もとけてきた頃)、「今日は暖かいですねー」といいながら、30分くらい外で立ち話できたのだから、人間の適応力というものは恐ろしい。冬休みに、日本に一時帰国しているとき、あまりに暖かいのでコートなしで出かけようとしたら、「あんたは頭がおかしいのか!」と母におこられた。
わたしがはじめてかの地に降り立ったのは夏の終わりだったからまだよいけれど(それでも、ミゲルと同じく、白人だらけの世界にいきなりひとりだけ有色人種というのはきつかった)、あの、いちばん寒い1月に引っ越したら、新しい場所、環境に対するプレッシャーが何倍にもふくれあがるのはよくわかる。
しかし、4月終わりまで春が来ないのに、来たとたんに夏! という感じ。昨日までぶ厚いコートを着ていたのに、翌日はハイレグビキニの女の子がキャンパスの芝生でごろごろという、信じられない光景を目にして仰天したのは今でもよく覚えている。(冬が長いせいか、太陽がさんさんと輝くと吸収せずにはいられないらしい。)