ポケモン考十一 「モンスター比較:ポケモン対ドラクエ」 (1999年2月4日執筆) 今日、『ポケットモンスター(以下ポケモン)』はすごい人気である。ポケモンはまず96年にゲームボーイ用のゲームソフトとして販売され、初めは比較的大きな子ども(小学校高学年以上)の間で人気があったが、97年にテレビアニメが始まると、幼稚園児などの低年齢層にまでファン層はひろがった。
ポケモンはゲームソフトとしてだけではなく、キャラクタービジネスとしても大変な成功をおさめた。『ドラゴンクエスト(以下ドラクエ)』『ファイナルファンタジー』といった、ゲームソフトとしては絶大な人気を誇り、現在も続編が出るたびに大きな話題を呼んでいるが、ポケモンのようなキャラクター展開には失敗している。特に、ドラクエに関しては、『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』の作者である鳥山明がモンスターデザインをしているのにも関わらず、そこに登場するモンスターのキャラクターとして認知度は低い。
ここでは、ポケモン、ドラクエに登場するモンスターたちを比較し、どうしてポケモンにそこまで魅力があり、ここまでの人気を得ることができたのかを考える。このポケモンとドラクエに登場するモンスターの違いは、前者は現代日本に生まれた妖怪であり、後者はゲームソフト上のキャラクターに留まっているからだというのが私の個人的見解であるが、そのことも合わせて見ていきたい。
まず、ポケモンとドラクエに登場するモンスターの基本的な比較は以下の表の通りである。
ポケモン ドラクエ 数 151(現行ソフトの数) 215 分類 15(ノーマル、ほのお、みず、でんき、くさ、エスパー、かくとう、どく、じめん、ひこう、ドラゴン、むし、いわ、ゴースト、こおり) 10(スライム、ドラゴン、けもの、とり、しょくぶつ、むし、あくま、ゾンビ、ぶっしつ、????) 捕獲方法 モンスターボールなどの、ポケモン捕獲専用のボール 戦闘後モンスターが仲間になりがたる、はいごうで作る
上の表からも明らかであるが、ポケモンはモンスターの属性、ドラクエは系統で分類される。むし、ドラゴンはどちらの分類にも入っている。またポケモンの場合は、属性を2つ持つ場合も多く、例えば、「バタフリー」というちょうちょポケモンの属性は、むしとひこうである。ここで気付いたことは、ポケモンは自然(かみなりポケモンのサンダース)、動植物(ねずみポケモンのピカチュウ、ざっそうポケモンのクサイハナ)、物質(ふうせんポケモンのプリン)など、従来の妖怪と同様に、人間を取り囲む「八百万」の事物をもとに作り上げられたということである。
動物&物質ポケモンから成るノーマルタイプを含んだ11タイプ(ノーマル、ほのお、みず、でんき、くさ、どく、じめん、ひこう、むし、いわ、こおり)は、自然、動植物がモチーフになっていることが明白である。
また、残りの4タイプも、従来の妖怪像とかけ離れてはいない。エスパータイプは超常現象や超能力といった、常識を超えた力をもとにしたポケモンであり、昔ながらの妖怪でいうと、さとり、天狗などに近い存在である。ゴーストはガスまたは影、つまり、「ほのお」や「でんき」タイプと同様に、自然現象のポケモンである。かくとうタイプには、キックポケモンのサワムラーなど、特定の人物を連想させるようなポケモンもいるが、キックという行為を具象化したということで、妖怪とみなすことができる。(山彦をかえす妖怪、呼子などが近い存在だろう。)
それに対して、ドラクエには、あくま系(e.g. グレムリン)、ゾンビ系(e.g. しりょうのきし)など、キリスト教の神と対極の存在や、幽霊(亡霊)に属するもの、あるいは、スライム系、????系(これまでのドラクエに登場した魔王たち。e.g. ゾーマ)といった作り手が自己の想像力のみをもとに新たに創造したモンスターが存在する。妖怪の定義にもよるのだろうが、悪魔はキリスト教における墮天使のなれのはての姿、幽霊は人間の魂が変化したものであり、妖怪と異なる。このような系統をドラクエのモンスターに加えたことは、妖怪という観点から見るとマイナスの要素である。さらに、スライム系も、ドラクエのキャラクターとしては定着したが、妖怪として考えると難しい存在である。
さらに、双方のモンスターを捕獲する方法も興味深い。
ポケモンはあくまで自然界に存在する生き物であり、捕獲する際には専用のボールを使う。ポケモンによって、多数いるものと、捕獲チャンスが1回しかないもの(1匹しかいない)ものまで様々である。ゲームソフトの色(赤、緑、青、黄)によって、モンスターの出現状況は異なるが、あくまでも自分で捕まえるか、あるいは他人とトレードしなければならない。
ドラクエの場合は全く異なっている。基本は、モンスターと戦闘して倒した後に、時としてモンスターが自発的に仲間になりたがる。「えさ」を与えてなつかせて、仲間になる確率を上げる操作もできるのだが、基本的にはモンスターの意志である。そして、????系など、絶対に仲間にならないモンスター、野生では出現しないモンスターもいる。そのようなモンスターは、「はいごう」という手段で、モンスターとモンスターを交配させて作らなければならない。さらに、最も弱い数種類を除いては、全てのモンスターは配合によってつくることができる。
ポケモンとドラクエの大きな差は人間(プレーヤー)によって作られるか否かという点である。ゲームとしては、「はいごう」によって、複雑さが増し、より強いモンスターがつくれて魅力的にになったのかもしれない。しかし、「はいごう」は動植物の品種改良と同じで、人工的要素が強すぎる。妖怪は人間の想像力が創り上げたのだが、人間が作った存在ではない。「はいごう」によってドラクエのモンスターたちは妖怪から更に離れてしまった。
ポケモンとドラクエのモンスターを、キャラクターとして考えるとどうだろうか。現状としては、ゲームとしての成功はドラクエの方が大きいかもしれないが、キャラクタービジネスとしてはポケモンが圧倒的に上である。
まず、ポケモンの強さは、幅が広いことである。各年齢層、性別に合ったポケモンが存在する。例えば、小さい女の子だっら、ピッピ、プリンなどの容姿が可愛いらしいポケモン、小学生くらいの男の子だったら、ミュウツーなどの強いポケモン、年齢層が高くなると、コダック、カビゴンといったユーモラスなポケモンが人気があったりする。
ドラクエの場合は、どうだろうか。数ではポケモンに勝っているが、キャラクターとしてのインパクトははるかに弱い。理由はいくつか考えられるが、最大の原因は、キャラクターのデザインが複雑すぎることである。ゲームの中では精密なグラフィックが魅力なのかもしれないが、キャラクターとしては、複雑さはマイナスである。逆に、ドラクエの中で看板モンスターともいえるスライムは、単純そのものであるが、その単純さが皮肉にもネックとなっている。ドラえもん、キティ、スヌーピー、ミッキーマウス、ミッフィーのように、キャラクターとして成功しているのは、イヌ、ネコ、ネズミといった身近な小動物を単純にキャラクター化したものが多い。単純なら何でも良いという訳ではないのだ。
さて、ポケモンの看板キャラクターといえば、ピカチュウである。認知度はスライムとは比較にならない。現存のキャラクターの中でも、ピカチュウはトップクラスの人気を誇っている。ピカチュウがポケモン人気を支えていると言っても過言ではない。ピカチュウの場合は、受けるキャラクターの条件を見事に満たしている。ピカチュウは「ねずみ」ポケモンであり、外観は単純かつ愛らしい。
ピカチュウとスライムを比較してみれば、キャラクターとしての魅力の差は歴然としている。ピカチュウは見かけが可愛いだけでなく、「ねずみ」であることから、自然と愛着も湧く。スライムは、ゲームの中では親しみやすいキャラクターではあるが、ゲームから出て独立すると、身元のわからない、不明瞭な存在になってしまう。
また、妖怪であるか否かという点も、キャラクターとしての成功とは無関係ではないだろう。ポケモンは、日本の妖怪が出現した方法と同様に、人間を取り囲む事物に命を与えることにより生まれた。しかし、その与え方は従来の妖怪とは異なっている。これまでの妖怪は、人間の自然、動物、物などに対する恐怖、畏敬の念などから生まれた。ポケモンの場合は、同じ想像力でも、「こういう生き物がいたらいいな」という期待、希望などがもとになっている。従来の妖怪を生んだ想像力が負(必ずしも否定的な意味ではない)だとすると、ポケモンを生んだ想像力は正なのだ。正であれ、負であれ、人間の想像力によって生み出された妖怪は人を引きつける力を持っているのではないだろうか。そして、ポケモンは日本人が従来の方法に従って生み出された妖怪だからこそ、大人、子どもを問わず、受け手は彼らをゲーム(あるいはアニメ)という第二の世界における、真実として、さらにはキャラクターとして受け入れることができのだ。
参考文献
『ポケットモンスター 最終攻略読本』ジャパンミックス株式会社
『ウルトラスーパーDX「ポケッとモンスター」最強トレーナーズ手帳』高橋書店
ポケモンビジネス研究会、『ポケモンの秘密』小学館文庫
『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド 公式ガイドブック下巻 究極モンスター育成編』エニックス