告知とは

 

 わたしが入院をした小学校6年生というのは子どもというほど訳がわからないのでもないし、かと言って大人というほどに病気や死を見つめることのできる年齢ではありませんでした。何が一番嫌って、それはやはり注射やマルク(骨髄穿刺)、ルンバール(腰椎穿刺)でした。それでいて自分の病気が何なのかも気になっているけど、眠れないほど悩むというのでもない。といった微妙なところ。それでも多分おとなが考えるほどには子どもでなかったことも確かかもしれません。当然ながら自分の病名は気になりますが、誰も教えてくれない。先生に面と向かって聞くことはできないし、親に聞いてもはぐらかされてしまう。当然のこと、情報を求めていたわけですが、まず最初に入ってくる情報はなが〜く入院している子から。彼らは本当によく知っています、病気の名前も薬の名前も。そして、病名は隠しているものの医者も看護婦も子どもを子ども扱いしているんですね。病名そのものは口にしないにしても、抗がん剤の名前なんかは子どもの前でぜんぜん考慮なく話してしまいます。入院して少しすると自分が注射している薬の名前くらいは憶えていまいます。なにせ間違いがないように点滴や注射器にはくすりの名前が書いてありますから。そうするとその長く入院しているボス的な存在の子は、それがどんな病気に使う薬か心配してくれるわけです。白血病なんかはすぐに診断がついてしまうことになります。わたしの場合、悪性リンパ腫というのはさすがにマイナーでしたから、その診断までは到りませんでした。しばらくあと、わたしが入院中に同じ病気らしい子が入院してきましたが、そこは大人であった(?)わたしは黙っていたのは言うまでもありません。

 結局のところ、ある程度の年齢(思春期頃には)になれば何の説明もなしに病名を隠していていいはずがありません。では、いつ話しをすれば良いのかというとその答えを導き出すのはなかなか難しいものがあります。多くの場合には治療中に薄々でも感づいてくるのが普通ですから、ある程度病気が安定してからでいいのかとも思いますし、治療の前になぜつらい治療が必要なのかをしっかり理解するために診断後すぐがいいのかもしれません。あるいは病気が治癒したのちにゆっくり話すという考えもあるでしょう。いずれにしても隠したままでというのは問題です。少なくとも親元を離れる前にはしっかりとした告知がなされなければと思います。その理由として、当然ながら進学、就職やさらに言えば結婚や出産といった問題が絡んできますし、いわゆる晩期障害の可能性も含めて正しい知識を持つことが不可欠です。小児がんが治る病気になった今、成人に達する出身者はどんどん増えているはずですが、実際にどういう状況なのか気になります。その世代の子たちは治療中に告知を受けている子はごくわずかでしょうから。

 さて、それでは告知はどうすればいいのか? 入院中やその後の外来治療中であれば信頼できる主治医のもとで恐らく比較的スムーズに告知はなされるものと思います。わたし自身の経験や乏しいながら実際の小児科医としての経験から言うと、子どもの心というのはそう弱いものではありません。多くの場合にはうすうすながらも感じているでしょうし、マイナスの面ばかりになることは少ないのではないでしょうか。しかし、問題はすでに治療を終えてしばらく経っている時です。ウイルムス腫瘍や神経芽細胞腫のように乳幼児期に多い病気では手術をして順調であれば、おそらく思春期頃にはすでに病院とは縁のない生活になっているでしょう。子どもが巣立っていくのにあたって、告知をと考えても主治医がどこにいるのかすらわからない、どこに相談を持ちかけて良いのかわからないといった状況も考えられます。両親のみによる告知というのはやはりかなりの無理があるように思います。よほど勉強している例外的な方を除いて、本人に正確な知識を与え、さらに今後でてくるであろう不安、悩みに対応していくのは難しいでしょう。こういったケースのために何かの窓口的な場所があればいいなあと思います。

 わたし自身は告知の是非と言うことに関しては基本的に賛成で、むしろするべきと考えています。しかし、そこは日本人的な考え方で、ケースバイケースとも思います。何事もだれにでも同じように適合するわけではありません。小児ガンであってもその治る可能性は千差万別でしょうし、その子の性格や家族の状況にも違いがありますから、一人一人にとって話しをするべき時期はいつがいいのか、あるいは話さないでおくべきなのか、その場その場で決めていくことができればいいのではと思っています。