魔術師たちの闘争
Struggle of the Magicians
VOYEN KOREIS
によるラジオドラマのシナリオより登場人物(登場順)
グルジェフ
Gurdjieffキャシー
Kathyウスペンスキー
Ouspenskyコリン
Collin客の女性
Lady customerザハロフ
Zakharoffストーンバル医師
Dr Stoernvalド・ザルツマン
De Salzmann晩餐の進行係
Master of the Ceremoniesトゥーマー
Toomer
Part 1
(ドアをノックする音。部屋の中から声がする。)
グルジェフ:はい、はい、ただ今!(ドアが開く)おお、君か、キャシー、入りたまえ!
パリへようこそ。いい旅だったかね?
キャシー:どうもありがとう。海峡を渡るのは大変だったけれど、いつものことですものね。
グルジェフ:キッチンに行こう。お茶を入れてあげる。
(アパートの中を移動する音)
キャシー:このキッチンは私の一番好きな場所だわ。いつもここでとても興味深い議論が行われるのですもの!
グルジェフ:さあ、座って。ロンドンの最新情報を聞かせてもらおうか。
キャシー:さて、何からお話ししましょう? 戦争は終わったものの、普通の日々に戻るのはまだまだ先のようだわ。もちろん、大きなニュースはウスペンスキーがアメリカから戻ってきたことね。
グルジェフ:ピョートル・デミアノヴィッチが戻ってきたのだね! 彼はどうだった、彼と話はしたのかい?
キャシー:彼には会ったけれど、話はしなかったわ。コレット・ガーデンで彼の会のミーティングがあったので、そこに行ったの。
グルジェフ:またシステムの講義をしたわけだ。私のシステムの…
キャシー:ええ、でも本当を言うとそれは講義なんてものじゃなかったわ。
グルジェフ:では、何だったのかね?
キャシー:実際、一種の災難とでも呼ぶべきものだったわね。彼ったら、質問はないかと尋ねたくせに、全部はぐらかしたんだもの。
グルジェフ:本当に? 聴衆はさぞがっかりしたにちがいない。何人くらいいたのかね?
キャシー:会場には少なくとも
300人はいたけれど、その大半は戦前からの生徒だったと思うわ。ワークへの情熱を抱いて旧知のウスペンスキーに会いに来たのね…グルジェフ:…そして彼は彼らをがっかりさせたわけだ。それは残念なことだが、彼はどうかしたのかね?
キャシー:彼は年老いたようで、疲れていらいらしているように見えたわ。ロドニー・コリンと一緒に遅れて到着したの…
グルジェフ:ロドニー・コリンとは誰だい? 私は彼について聞いたことがない。
キャシー:ウスペンスキーのいちばん新しい弟子よ。アメリカで出会って以来、コリンはウスペンスキーの側を離れないの。でも私、彼に同情するわ!
グルジェフ:なぜ? 霊的教師の側で暮らすことは祝福ではないのかね?
キャシー:冗談はおやめになって、ゲオルギー・イヴァノヴィッチ。あなた自身、多くの弟子をお持ちだったのに、彼らを杖で打ちのめしたのではないこと?
グルジェフ:そんなに頻繁にはやらなかったさ。しかも公衆の面前ではね。ウスペンスキーはその可哀想な男を
300人の前で攻撃したのかね?キャシー:それほどひどくはなかったわ。
グルジェフ:君はどっちの味方なんだい?
キャシー:コリンはウスペンスキーが壇上に上がるのを助けようとしたのだけれど、彼がそれを拒んだので、杖を持って後に従ったの。ウスペンスキーは手助けなしに歩くことを決めていたみたいで、その光景は感動的ですらあった…
グルジェフ:じゃあ彼は一番お気に入りの弟子を杖で打つことで講演を始めたわけだ、会場全体の目の前で。私好みのやり方だね。彼の講演のテーマは何だったのかね? 人間関係かい?
キャシー:講演はぜんぜんやらなかったわ。ウスペンスキーはすぐに聴衆に何か質問はないかと尋ねたの。
グルジェフ:それから多くの…
キャシー:とてもたくさんの質問が出たわ。
グルジェフ:どんな質問?
キャシー:ありふれた類のものよ。ほとんどはワークについてのもの。
グルジェフ:そう、ワークか。そして秘教スクールについても?
キャシー:どうして分かったの?
グルジェフ:神秘的な智恵を求める者はいつも秘教スクールについて知りたがるものだ。
キャシー:まさに、最初の質問は秘教スクールの仕事についてだったわ。
グルジェフ:で、ウスペンスキーは?
キャシー:とてもぶしつけに、彼の会は秘教スクールではないと言ったわ。
グルジェフ:なんと、それはピョートル・デミアノヴィッチらしくないね!
彼は他に何か?
キャシー:ある女性が立ちあがって、秘教スクールはふつうは入手不可能なテーマについて選ばれた人々だけに教えるなんてことを長々と話し出したの。
グルジェフ:それは彼の耳には心地よい調べだったはずだ。
キャシー:全然。彼ったら、私たちは何もしていないのに、定義をこしらえるのに時間をつぶすのは無駄だって言ったのよ。
グルジェフ:ああ、それは私が彼に
30年前に話したことだ。そのときには確かに時間の無駄だった。他に何を?キャシー:本当の成果は自分自身の思想からのみ生まれる。私たちが何も持っていなければ、どんな仮想秘教スクールも私たちに気づくことはないだろう、とも言ったわ。
グルジェフ:万歳!
キャシー:それから、心理学者が手を上げて、ウスペンスキーが戦前教えていたように、機械的な人間のパーソナリティーについて知りたがったの。
グルジェフ:それも私の理論だ…
キャシー:ウスペンスキーは彼に、自分のことを自動人形と思っているかと尋ねたわ。その男性は、ときどきそう考えたくなることがあると言った…ウスペンスキーが、それを確信しているかと尋ねると、男性は、確信はしていない、だから質問しているんですって答えた。そうしたら、ウスペンスキーは、もし私が君を機械だと言えば、君は私を信じるのか、と言ったわ。
グルジェフ:その男は黙り込んでしまったかね?
キャシー:そのとおり。…誰かが隠された調和の法則を知りたいと言うと、ウスペンスキーは、「私自身、人生のすべてをその質問のために費やしてきた」だって。
グルジェフ:そうだ、私もまた…
キャシー:次の質問は、「調和(ハーモニー)」という言葉は彼にとって何を意味するか、だったわ。彼の答えは、「それは音楽用語だ。他の何でもない」。
グルジェフ:ははは。
キャシー:それからよ、本物の爆弾が落ちたのは。彼の戦前からの生徒の一人が立ちあがったの。彼は、ウスペンスキーが教えたシステムについて話して、直接こう尋ねたの:あなたはシステムを捨てたのですか?
グルジェフ:それでピョートル・デミアノヴィッチは?
キャシー:「私には君の言っていることが分からない。システムというものはない」ですって!
グルジェフ:彼は本当に、システムというものはないと言ったのかね? 何年も何年もそれを公に解説しておきながら?
キャシー:たしかにそう言ったわ。
グルジェフ:それは多くの者にとってひどいショックだったにちがいない。彼らはどう受け止めたのかな?
キャシー:ひどいものだったわね。前からの信奉者たちはショックを受けていたし、他の人たちはただ混乱していたわ。
グルジェフ:(独り言のように)ピョートル・デミアノヴィッチもついにやったな。
キャシー:何をやったの?
グルジェフ:いや、何でもない。
キャシー:お願い、教えて。
グルジェフ:ああ、わかった。ウスペンスキーはすべての善い教師が人生で一度はすべきことをしたのだ。つまり弟子を追い払った、いずれにせよ、その大半を追い払ったのだ。私は彼には決してできないと思っていた。彼はあまりに弱く、その勇気がないと思っていた。しかし私は間違っていたようだ。
キャシー:あなたも自分の生徒に同じことをしたわね? でもなぜそうしなければならなかったの?
グルジェフ:それはとても複雑なことだ。
キャシー:お願い、本当に知りたいのよ。
グルジェフ:分かった、君は私の気分を和らげてくれたので、教えてあげよう。君は私の弟子ではないから、追い払う必要もない。しかし、教えてあげる最大の理由は、君が女だからだ。
キャシー:女であることと何の関係があるの?
グルジェフ:女はこういうことをよりよく理解できる。
キャシー:どうして?
グルジェフ:なぜなら女の方が苦しみに傾いているからだ。
キャシー:苦しみ?
グルジェフ:そうだ、人生で本当に重要なことは意識的な苦痛を通してのみ得られる。すべてが十分で、スムーズに進んでいるとき、進歩は阻まれ、人は学ぶのを止める。
善い教師は誰でもこのことを知っているので、彼は物事を、生徒にとって、そして自分自身にとって、より困難にしようとする。しかし、これは容易いことではない…
キャシー:あなたはどんなふうにそれをなさったの?
グルジェフ:トリックを演じ、人を近づけないようにし、友人に乱暴にあたり、友人を追い払うようなことを徐々にやっていかねばならない。友人たちは私がそうしなければならない理由を知らないので、本当に心が痛む。
キャシー:それがあなたがウスペンスキーにしたこと?
グルジェフ:ピョートル・デミアノヴィッチは違う。彼は私の友人だったし、今でもそうだ。彼は私の弟子だったことはなく、むしろパートナーに近い…
キャシー:でもあなた方二人は分裂したでしょう?
グルジェフ:私たちが別れたのは、彼の道が異なっていたからだ。私たちはしばらくの間一緒に働いたが、二人とも最初の頃から、別れなければならないことを知っていた。セントペテルスブルグ・グループのミーティングの頃から知っていたのだ。
キャシー:あなた方は二人とも西洋に来ることを計画していたの?
グルジェフ:ピョートル・デミアノヴィッチが英国に行き、私がこのパリに落ち着くことになったのは、起こるべくして起こったことだ。
キャシー:ロシア革命のせいね。
グルジェフ:それは私たち二人にとってよいことだった。彼はロンドンで知的な信奉者を見つけ、私のモルモットたちはここにやって来た。
キャシー:あなたは信奉者たちのことをモルモットと呼ぶの? あまり気持ちのいい名前ではないわね!
グルジェフ:そうかもしれないが、それが真実なのだ。
キャシー:あなたは人々を使って実験がしたいの?
グルジェフ:私はとても若い頃、たぶん
20歳くらいのとき、どこかに行くのなら、人々を使って実験しようと決意したのだ。問題は、その当時私は主にアジア人に混じって暮らしていたということだ。彼らは実験にはまったく向いていない。キャシー:どうして?
グルジェフ:アジア人は静かすぎて、決してあちこちを走りまわったりはしない。私は急がなくてはならなかった。私には時間がなかったのだ! 後になってロシアの大都市に来たときには、少しやりやすくなった。しかし、今ほどいい場所はない…その上英国人とアメリカ人もやって来る。
キャシー:なぜ私たちアングロサクソン人がそんなによいモルモットなの?
グルジェフ:たぶんピューリタニズムの名残だろう。君たちはそのおかげで、よいものには必ず苦しみと困難がつきものだということを理解している。君たちには、君たちの置かれた状況、他の人類が直面している状況について真実を告げることができる。
キャシー:真実はただひとつしかないの?
グルジェフ:真実はひとつだが、それに導くには多くの道がある。
Part 2
ウスペンスキー:私は少なくとも聴衆の半分を困惑させたに違いない。ロドニー、君はどう思う?
コリン:全員と言った方がより正確でしょう。戦前からの人々はたぶん腹を立てたでしょうし、他の人々は来たのは時間の無駄だったと感じたに違いありません。なぜあんなことをなさったのですか?
ウスペンスキー:自分でも分からない。たぶん私は講義にうんざりしたのだろう。それは私たちをどこへも導かなかったのだから。ただの一人すら、私から何を求めているのかを言うことができなかったのだ! ところで、壇上に上ったとき、君には腹を立ててすまないことをした。君の善意を…
コリン:もういいのです。
ウスペンスキー:まだ自分の力で歩けることを自分に示したかったのだ。
コリン:私もそのことに気づくべきでした。
ウスペンスキー:とにかく、私は壇上に上がったとき、自分が何をしているのか不思議に思い始めたのだ。この人々はなぜやって来て、私は彼らに教える何を知っているというのだ?
コリン:私たちはみな、ただ一つのことが知りたいのです。なぜ私たちは存在するのか、私たちは誰で、どこに行くのか…
ウスペンスキー:私は絶望的な気分になったのだ。かつて、もっと若かった頃、私はついに道を発見したと確信したことがあった。
コリン:あの出会いが…
ウスペンスキー:遠慮しなくてもいい。私はたしかに、私の前でグルジェフの名前を口に出すのを禁じたことがある。しかし大半の生徒を追い払ってしまった今となっては、たいした問題ではない。ほら、私は今、自分でグルジェフと言っただろう! ゲオルギー・イヴァノヴィッチ! 彼はかつて私にとって多くのことを意味していた。今もそうだ。
コリン:彼に会ったときが、あなたの人生のターニング・ポイントだったのですか?
ウスペンスキー:そうだ、しかし私には最終的な啓発の光がやって来たと思った瞬間が何度もあった。
コリン:その最初のときについて教えてください。
ウスペンスキー:(笑い)それはとても早い時期、13歳頃に起こった。人生には決して忘れることのできない瞬間というものがある。これはその一つで、私たちはこれらの瞬間を何度も何度も、おそらくはいくつもの人生を通して生き直すのだと感じる。
コリン:ニーチェの「永劫回帰」ですか?
ウスペンスキー:たぶん。それはいまでも活き活きしている! 私はモスクワの古い学校にいた。学校机に向かい、周りのものはみな馴染みあるものばかり。壁にかかった黄色いボード、大きなかさのついた吊り下げランプ、インクで汚れたシャツを着た少年たち。建物の中のあらゆるものにはインクの染みがついていた。「大股」というあだ名のついた教師がインクで汚れた机の後ろに座り、そこから課題を与え、本を読みながら、ときどき私たちのほうを睨んでいた。もちろん、真面目に課題を行っているのは少数の点取り虫だけで、他の者たちは机の下でデュマの小説なんかを読んでいた。
コリン:あなたがデュマを読んでいるところは想像できませんね!
ウスペンスキー:その日はデュマは読んでいなかった。私は学校の本を読んでいたんだ、物理の教科書をね。上級生の誰かから借りて、それをむさぼるように読んでいた。奇妙なのは、そこからまったく未知のものを学んでいるとは感じなかったことだ。すでに知っている世界を再発見しているようだった。それは再び混沌から生じて調和ある全体へと再形成されたかのようだった。私が読んでいたのは梃子についての章で、突然、それまでバラバラにしか知覚していなかったすべてものが適切な場所に落ち着いたかのように感じた。突如として私は、石を下に置いた杖、シャベル、ぶらんこ、鉛筆削りがすべてただ一つのもの、つまり梃子であることが分かったのだ! なんという考え! これは驚くほど神秘的なもの、恐るべきものではないだろうか?
コリン:それは純粋な形而上学です。
ウスペンスキー:「大股」には形而上学が理解できなかったので、私からその本を取り上げた。彼は、私が梃子についてあらゆることを完全に理解したことが分からなかったのだ。この特別な場面はつい昨日起こったように思われるし、それだけではなく、それ以前にも何度も起こったような感じがする。私は今でもそれが再び起こるのではないかと考えている。ハーグ平和会議についても同じことがあった。
コリン:ハーグ会議がどうしたのですか?
ウスペンスキー:会議そのものは私の知ったことではなかったが、当時私はジャーナリストをしていたので、それについての記事を書かなければならなかった。
コリン:いつの話ですか?
ウスペンスキー:1907年頃だったと思う。私は30歳に近く、何かをしなければならないと感じていた。ただそれが何かが分かりさえすれば。一方、私には書かなければならない記事があった。ロシア語、フランス語、英語で書かれた外国の新聞の膨大なフレーズの山からなんとかして記事をでっち上げる必要があったのだ。
コリン:その気持ちは分かります。私は遠い昔に政治記事を読むのを止めてしまいました。
ウスペンスキー:でも私は読まなければならなかった。それが私の仕事だったのだ。あるものは批判的で、あるものは皮肉、あるものは声高で騒々しい…。しかし一つ共通するものがある。どれも完全に機械的で、以前に何千回も使われてきたものばかりだということだ。
コリン:そしてこれからも再び使われることでしょう!
ウスペンスキー:私はこれらの役立たずの新聞を脇に押しのけて、神秘的な本を手に取った。『オカルト・ワールド』だ。少し前から私の引出しはその手の本で一杯になっていた。私は本に没頭し、記事は悪魔にでも食わせてやることにした。
コリン:記事は書けなかったのですか?
ウスペンスキー:その次の日にでも書いたのだろう。食い扶持は稼がねばならないからね。何も書かなければおまんまにありつけなくなる。しかし私が当時ハーグ会議について本当に思っていたことを書き、それが印刷されてしまったら、私は編集長と一緒にシベリア行きになったことだろう。大事なのは、私に真理の味を与えてくれる何かを読むために、私が自分自身に与えた自由な栄光に満ちた時間だった。
コリン:真理の味! 私たちは真実を見つけたときにはなんとかしてそれを嗅ぎつけるものではないでしょうか?
ウスペンスキー:そうだ。私は当時古い神話や御伽噺の隠された意味を発見することを決意した。私は周囲のものすべてに神秘的生命を感じ始め、奇蹟を求め始めていた。
コリン:どこに奇蹟を求めたのですか?
ウスペンスキー:まず、いくつかの古い寺院を訪ねた。ロシアにはその手のものがたくさんある。そこには、そこで起こった奇蹟についての話がふんだんにある。
コリン:何か奇蹟は発見できましたか?
ウスペンスキー:もしそうだったら、もっと長い間そこに留まったろう。しかし私はそこを去るのに未練は感じなかった。私はインド、セイロン、エジプトなどに渡った。本に書いてあるような秘教スクールを探していたのだ。しかし何も見つからなかった。皮肉なことに、それは私の足元、ロシアで私を待ちうけていたのだ。
Part 3
キャシー:あなたはいつ真理を求め始めたの?
グルジェフ:少年の頃だ。コーカサス地方には、イェズィと呼ばれるとても古く不思議な教団があった。彼らは悪魔崇拝者だと噂されていた。面白いのは、地面に輪を書いてイェズィ教徒をその中に入れると、自分の力では出て来れないのだ。誰もがそれを知っていたが、なぜそうなるのか説明できなかった。町の少年たちは若いイェズィ教徒を捕まえては、地面に輪を書いて、彼をその中に入れ、何時間も泣き叫びながら中でもがくのを見て喜んでいた。
キャシー:ぞっとする話ね!
グルジェフ:まったくだ。私は初めてそれを見たとき、輪の一部を消して、その哀れな男を逃がしてやった。そのおかげで友達から何発かげんこつを食らったがね。しかし、私は不思議に思い、その原因を知りたがった。
キャシー:そのときからあなたは人間モルモットで実験を始めたのね!
グルジェフ:そんなに厳しく裁かないでほしい、私は他の少年たちと同じような悪ガキでしかなかったんだから。
キャシー:あなたはまたイェズィの少年を捕まえて輪の中に入れたわね?
グルジェフ:そうだ。どこまで行けるのか、限界を見極めたかったのだ。力いっぱい引っ張ってみたが、びくともしなかった。数人掛りで引きずり出したものの、輪の外に出たとたんに、彼は意識を失い、仮死状態になって目を覚まさせることができなかった。そのうち誰かがイェズィの司祭を呼んできて、私たちを追い払った。彼は少年の頭の上に手をかざして祈りを唱え、少年を家に連れて帰った。
キャシー:そんなことはパリやロンドンでは起こらないわ。東洋のお話ね。
グルジェフ:まったくそうではないのだよ、可愛い人。世界中で起こっていることだ。人々はさまざまな理由で仮死状態に陥る。それを肉体的病気として治療するのは西洋人だけだ。
キャシー:そしてそれは本当の魔術でもある、と言いたいわけ?
グルジェフ:君がそう呼びたければね。いずれにせよ、私は当時でさえ、イェズィたちが囚われている輪は、彼の頭の中に深く埋め込まれているのだということに気づいていた。深く考えていくと、私たちはみな魔法にかかっているのであり、その輪が見えないだけだという気がした。私は、大人になったらこれについてよく調べてみようと決意した。
キャシー:そして本当にそうしたわけね。どこを旅したの?
グルジェフ:どこへでも行った。中央アジア、チベット、インド、メソポタミア、エジプト、最後に落ち着いたのがロシアだ。
キャシー:そこでウスペンスキーに会ったのね。
グルジェフ:モスクワのカフェで彼に初めて会った。彼は変わった奴で、明らかにたくさんの本を読んでいた。自分で本も書いていたが、他の多くの人々と同じように、混乱していた。何かを求めていたが、間違った場所に求めていたのだ。
Part 4
ウスペンスキー:どう思います? インドに戻る価値がありますか? 私はそこで何かを見逃したように感じているのです。
グルジェフ:休暇を取りたいのなら、行くのもいいだろう。しかし君が求めているものはここでも見つけることができる。
ウスペンスキー:でもインドには神秘の伝統があり、真の伝統に基づいたスクールの方がいいに違いありません!
グルジェフ:スクールを見つけたとしても、失望するだけだろう。君は哲学的なスクールを求めているのではない。
ウスペンスキー:インドには哲学のスクールしかないというのですか?
グルジェフ:遠い昔に分割されたのだ。インドには哲学、エジプトには理論、ペルシアとトルキスタンには実践というように。
ウスペンスキー:あなたはそのすべての場所にいたことがあるのですか?
グルジェフ:そうだ。
ウスペンスキー:どこにいちばん長く留まったのですか?
グルジェフ:どこにも長くは滞在しなかった。
ウスペンスキー:どの訓練に集中したのですか?
グルジェフ:すべてを学んだ。
ウスペンスキー:どうやって生活を?
グルジェフ:私は一人ではなかった。私は専門家たちの中の一人だったのだ。各々が一つのテーマを持ち、私たちが会ったときに、見つけたものを合わせて、意味のあるものに仕上げたのだ。
ウスペンスキー:それこそ私が秘教スクールと呼ぶものです!
グルジェフ:君がそう言うならね。
ウスペンスキー:あなたの仲間は今どこに?
グルジェフ:ある者は死に、ある者は今でも働いており、他の者は隠遁した。
ウスペンスキー:では私はスクールを探しにインドに行く必要はないわけですね?
グルジェフ:君が前にインドにいる間、新聞に君の旅行についての記事が載ったのを知っているかな。私はそれを見て、生徒の何人かに君の本をすべて読むよう命じ、君が何者で、何を考えているかを調べた。それに基づいて、君がインドで何を見つけることができるかは簡単に割り出すことができた。私たちは、君がそこに着く前から、君がほとんど何も発見できないことを知っていたのだ。
Part 5
コリン:そんなことを言うとは、彼はかなり無礼で、残酷な男ですね。
ウスペンスキー:それが彼のやり方なのだ。彼から何かを学びたいと思えば、ときには苦い思いをしなければならない。彼が人々に言うことはほとんどが真実だ。それを受け止める心さえあれば。
コリン:あなたもたくさん苦い思いをしたのですか?
ウスペンスキー:特に最初はそうだ。もっとも難しかったのは、彼を信用すべきか、まったく関わりにならないかどうかを決心することだった。しかし私は一生を決めるチャンスを感じ、それを無駄にしたくなかった。それでも、疑いの虫はいつもそこにあった…
コリン:彼の真剣さを疑ったのですか?
ウスペンスキー:モスクワの店で初めて彼に会ったとき、彼はひどくまずい仮装をした探偵のような印象を与えた。彼は完全に場違いで、山高帽をかぶり、黒いコートを着てシルクのシャツを着ていた。彼には思想家で教師という評判があったが、私は彼に対してどう振舞っていいか分からなかった。すべてが正常であるかのようなふりをすべきか、それとも…
コリン:彼は突飛な服装をしていましたか?
ウスペンスキー:突飛なのは彼の服装だけではなく、彼の人の扱い方だった。後に私は、これは彼が人々をより分けるための方法であることに気づいた。彼はいつも人々を追い出すために最善を尽くしていた。特に最初の頃はそうだった。
コリン:なぜそんなことをしたのでしょう?
ウスペンスキー:人々が彼の教えに容易く近づくことを欲しなかったのだ。だから彼は自分を粗野で野暮ったく見せ、人々の反応を待った。
コリン:そのテストに受かれば、彼はもっとオープンになりましたか?
ウスペンスキー:そうは言えない。もっと難しい人間になった。彼は演技をし、ほらを吹いただけではない。ミーティングや講義にはいちばんあり得ない場所や時を選んだ。彼は、人々は容易に手に入れたものには価値を置かないとよく言っていた。彼はいつもミーティングに遅刻した。だがいちばん気に障ったのは、絶え間なくほらを吹くことだ。
コリン:あなたの話を聞いていると、彼はずいぶん悪い人間のようですね。
ウスペンスキー:申し訳ない、だがそのとき私は彼をそう見ていたのだ。彼はいつも彼の壮麗なプランを吹聴していた。もっとも、そのいくつかは実際に実現しようと努力していたのだが…しかしそれはずっと後になってからのことで、決してロシアのことではなかった。たとえば彼のあのバレエがそうだ…
コリン:『魔術師の闘争』ですね。
ウスペンスキー:最初に彼の話を聞いたとき、それはリハーサルの最終段階にあるという印象を受けた。彼は最高のダンサーや振付師の名前をあげつらっていたが、私が少し突っ込んで聞くと、彼らに何の話もしていないことが分かった。
コリン:私の知る限りでは、彼はパリで自分の生徒に踊らせ、そのバレエのアメリカ公演を成功させました。
ウスペンスキー:しかし、私がその話を聞いたのはロシアで、10年以上も前のことだ。このことや、他にもそういうことがあったために、私は彼のグループに加わることを躊躇したのだ。
Part 6
ウスペンスキー:私がグループに加わる前に、解決しなければならない問題が一つあります。あなたが生徒に沈黙を守らせる決まりがあるのかどうか知りませんが、私はそのような約束をするわけにいきません。
グルジェフ:なぜそう言うのだね?
ウスペンスキー:以前私は二度ほど関心のある団体のメンバーになったことがありました。しかし、決して秘密を漏らさないことを誓わなければならず、そのためにどちらの場合も申し出を断らざるをえませんでした。結局のところ、私は作家であり、何を書き、何を書かないかについての決定の自由を保ちたいのです。
グルジェフ:真実の知識を伝えるには、一定の条件が生徒に課されなければならないということは明らかではないかね?
ウスペンスキー:そのような条件があることは認めますが、あくまでも一時的にです。あなたの教えの体系全体を理解もできないうちから何でも書き始めようとするのは愚かなことでしょう。しかしあなたが基本的に何も隠すつもりがなく、あなたの教えが歪められるのを防ぐことだけを求めるのなら、一時的に沈黙の誓いを立てる用意はあります。
グルジェフ:君はとてもうまい言い方をした。この規則に従うことに同意するのなら、それについてこれ以上話をする必要はないだろう。
ウスペンスキー:他の条件はあるのですか? あなたのグループのメンバーはあなたや他のメンバーに拘束されるのですか? グループを去る自由はあるのですか。そして、脱落者をあなたはどう扱うのですか。
グルジェフ:そんな条件は何もない。少し道を歩めば、そんなものはありえないことが分かるだろう。われわれの出発点は、人は自分自身を知らないということ、そうなり得るもの、そうあるべきものではないということだ。そうである以上、彼はいかなる約束も義務も負うことはできない。今日はある人間、明日は別の人間であるような彼が、どうして約束を果たすことを期待できるだろうか? 彼が異なった道を行くことを決めたなら、どうやって彼を止めることができるだろうか?
ウスペンスキー:では、何の義務もないということですか。
グルジェフ:そうは言っていない。義務はあるかもしれないが、テストとしてだけだ。大半の人々はテストに受かることができず、去ることになる。しかし彼らは本当に重要な秘密はまだ何も学んでいないので、それはたいした問題ではない。
ウスペンスキー:いつになれば完全な信頼を与えられるのですか。
グルジェフ:それはほとんどないことだ。物事はこんな具合に進む。その人の人格のある部分が秘密を守っており、約束を果たすことができると心底思いこんでいる。しかし明日になれば、彼の中の別の人間がそれを引き継いで、妻やパブで出会った友人にそれを話し始める。あるいはずる賢い人間に秘密を漏らしてしまう。いや、ピョートル・デミアノヴィッチ、秘密を守りたいと思うなら、まず自分自身を知らなければならず、<存在し>なければならない。ほとんどの人々はそこからはるかに隔たったところにある。
Part 7
コリン:それであなたはグルジェフのグループに加わったわけですね…
ウスペンスキー:あくまでも一時的にだ。いずれにせよ私はモスクワに長く滞在できず、仕事でセント・ペテルスブルグに行かなければならなかった。私は数ヶ月間グルジェフに会わなかったが、突然彼がセント・ペテルスブルグにやって来たのだ。私は関心のある人々からなるグループを組織し、ゲオルギー・イヴァノヴィッチは定期的にモスクワからやって来て、講義をするようになった。
コリン:それには多くの費用がかかったに違いありません。かなりの距離ですから。
ウスペンスキー:確かに安くはなかったが、彼には商才があったので、すぐにそれを有益な商売の機会に変えた。彼はいつもいくつかの資金集めの計画を持っていて、中には少しいかがわしいものもあった。
コリン:例えば?
ウスペンスキー:彼はギリシア人の血を引いていて、根っからの商売人だったことを忘れてはいけない。これは本当の話かどうか分からないが、彼は一度、トビリシからカルスまで鉄道を敷く委員会の仲介者として働いたときの話をしたことがある。彼は地元の有力者たちのところへ行って、少し賄賂をもらえれば彼の町に鉄道を敷くのを請け負うと話をもちかけた。彼は多額の金を集め、もちろん簡単に約束を守った。なぜなら彼はどこに鉄道が敷かれるかの計画を知っていたからだ。
コリン:(笑い)私もそういった話を聞いたことがありますが、アメリカ人がこしらえた話だと思っていました。セントペテルスブルグのときはどんなトリックを使ったのですか?
ウスペンスキー:トリックではなく、古い絨毯の取引をしていた。
コリン:最近、パリでもその商売をしているという噂を聞いたことがあります。
ウスペンスキー:そうだとすれば、何か金銭的な問題を抱えているに違いない。彼は急に金が必要になるといつも絨毯を売っていたからね。セントペテルスブルグを初めて訪ねたとき、彼は市場の様子を窺って、モスクワよりも高値で売られていることを知った。そこで次の旅行では絨毯を運んできて、商売用の部屋を借りた。
コリン:彼はさぞ優秀なセールスマンに違いありません。
ウスペンスキー:それだけではない。彼が客をあしらう様子はいつも面白い見物だった!
Part 8
客の女性:この絨毯はおいくら?
グルジェフ:700ルビーでございます。
女性:高すぎるわ!
グルジェフ:それは本物のペルシャ絨毯で。これまであなたがお買いになった絨毯と一緒にあなたがその絨毯の上にお座りになれば、家まで飛んで帰れるのでございます。
女性:(くすくす笑いながら)冗談ばっかり!
グルジェフ:空飛ぶ絨毯をご存知ない? ピョートル・デミアノヴィッチ、窓を開けなさい。この絨毯がどうやって飛ぶかこの御婦人にご覧に入れてさしあげよう。マダム、あなたはただこの上に座って、どこに行きたいかさえおっしゃっていただければよいのでございます。
女性:この絨毯の上に座れというの?
グルジェフ:さようでございます。
女性:絶対に座らないわよ。
グルジェフ:なんならわたくしめも一緒に飛んでさしあげても…
女性:いやよ。本当に飛んだらどうするの? こんな高いところで!
グルジェフ:たったの二階ですよ。
女性:分かったわよ、この絨毯は飛ぶのね! それは素敵だけれど、700ルビーは高すぎるわ。
グルジェフ:では650ルビー。
女性:200ルビーまでよ。
グルジェフ:600ルビーでは?
女性:250。これ以上は絶対に出せないわ!
グルジェフ:500ルビー、これで最後です!
女性:他の三枚の大きな絨毯と、四枚の小さな絨毯と、二枚の長絨毯を合わせて、あなたはさっきおいくらと言いましたっけ?
グルジェフ:全部で1400ルビーと申し上げました。
女性:その全部と、ペルシャ絨毯では?
グルジェフ:2000ルビーです。
女性:どうして? 今、空飛ぶ絨毯は500ルビーとおっしゃったでしょう? 1400ルビーと500ルビーでは1900ルビーのはずよ。
グルジェフ:もちろん送料を含んでおりますので…
女性:(笑い)100ルビーも? 2、3ルビーあれば馬車を呼べるのよ。それにペルシャ絨毯があれば私も他の絨毯も飛んで帰れるんでしょう?
グルジェフ:分かりました。その場合ですと、飛び方の指導に100ルビーいただくことになります!
女性:真面目に話しましょう。1200ルビーが上限よ。
グルジェフ:1300。
女性:真面目にと言ったのよ。この部屋には何枚絨毯があるの?
グルジェフ:ざっと30枚ほどで。
女性:私が全部買ったとしたら、おいくらになって?
グルジェフ:1500です。
女性:(深くため息をつく)
ウスペンスキー:(小声で囁くように)ゲオルギー・イヴァノヴィッチ、気が狂ったのかね?
グルジェフ:(囁き声で)シーッ。ため息の後で彼女が何を言うか待っていなさい。
女性:全部の絨毯をいただくわ。1000ルビーでね。
グルジェフ:(小声で)聞いたかね?(大声で)1500ルビーでは?
女性:1200ルビー。
グルジェフ:一晩考えさせていただけませんか?
女性:いつまで?
グルジェフ:明日の午後では?
女性:結構よ。明日の午後にまた来るわ。よく考えておいてね。では。
グルジェフ:確かに。では、お待ちしております。
(ドアが閉まる)
(二人の男は数秒間待って、笑い始める)
ウスペンスキー:そういうことでしたか、ゲオルギー・イヴァノヴィッチ。明日の朝の汽車で出発するんでしょう?
グルジェフ:彼女が来る頃には、私はモスクワに向かっているだろう。本当に来ればの話だが…
ウスペンスキー:しかしあなたも大胆ですね! 彼女が最後の申し出に乗ったら困ったことになったでしょうに。あんな値段で全部の絨毯を売るつもりだったのですか? 全然もうけにならないでしょう!
グルジェフ:たぶん大損することになったろうね。だが私には彼女がまた値切り始めることが分かっていた。だからそんなに危険を冒したわけじゃない。
ウスペンスキー:心理学の応用ですね!
グルジェフ:心理学? 全然違う。名前のとおり、心理学は人間の心理に関するものだ。だが現状の人間は機械でしかない。あのような女性を扱うときには人間機械学(力学)の知識が必要なのだ。
ウスペンスキー:機械であることを止めることはできるのですか?
グルジェフ:それこそが正しい質問だ! そういう質問をし続けるなら、もっと有益な議論ができただろう。そうだ、機械であることを止めることはできる。だが、まず機械についてよく知らなければならない。本当の機械は自分自身を知ることができない。知ったときには、もう機械ではない。そのとき、自分自身とその行為に責任を持つようになる。
ウスペンスキー:あなたの意見では、人間は自分の行為に責任を持っていないと?
グルジェフ:人間は責任を持つ。機械は持たない。
ウスペンスキー:あなたの方法を学ぶための準備には何が一番ですか? 例えば、神秘的な文献を読むのは有益ですか?
グルジェフ:読むことで多くを学ぶことができる。私も多くの本を読んだ。しかし読むだけでは十分ではないときがやってくる。
ウスペンスキー:私はその段階に達したのかもしれません。
グルジェフ:自分自身を批判的に見つめ、読み方を知っていればもっと多くのことを学べることが分かったからだろう。君が今までに読んだ本をすべて本当に理解していれば、君はすでに君の求めているものをすべて見出していただろう。君があの本に書いたことをすべて理解していれば…『タシウム・オルガノン』だったかな?
ウスペンスキー:『ターシャム・オルガヌム』です。
グルジェフ:…もしそうなら、私は君のところへ行って、ひざまづいて君の弟子にしてほしいと懇願するだろう。しかし今のままでは、君は「理解する」という言葉の意味さえ理解していない。読んだり書いたりするのが役に立つのは、君が何を読み、何を書いているかを知っているときだけだ!
ウスペンスキー:それでは、一番よい準備とは何でしょうか?
グルジェフ:もっともよく準備ができているのは、すでに何かをする方法を知っている者だ。しかし、本当に上手にできるのでなければだめだ。上手にコーヒーを入れたり、もっといいのは、立派な靴を作ることのできる人を連れてきなさい。私はそんな人と話がしたい。問題は、誰もが何一つ上手にすることができず、どうにかこうにかやっているにすぎないということだ。
Part 9
コリン:あなたは、彼がそんな言い方をするのに腹をお立てにならなかったのですか? あなたの本のタイトルすらまともに言えないなんて! あなたにアメリカでの名声をもたらした、あんなに素晴らしい本をですよ!
ウスペンスキー:ああ、あれは有益な本だった。あの本の印税のおかげで私は革命の後に英国に落ち着くことができたのだから。しかし、当時私はあの本がアメリカで出版されたのを知らなかったのだが。…グルジェフとやっていくには、多少の手痛い仕打ちを覚悟しないといけないし、忍耐強くないといけない。面の皮を厚くしないとだめだ。私はグルジェフと一緒にいて、彼から何かを学びたかった。それは容易なことではなかった。彼は挑発的な言葉や込み入ったやり方で皆を狂ったように興奮させたものだ。
コリン:なぜそんなことをしたのでしょう?
ウスペンスキー:われわれの自己満足を打ち破るためだ。あるいは物事はすべて本当はいかに単純かを示すためだ。忍耐強さを学ばせるためでもあった。彼は正しかった。私は忍耐がなく、何かをしたいと思っていたが、何をしたらいいかが分からなかった。
Part 10
グルジェフ:何をしたらいいかだって? いつも同じ馬鹿な質問だ。何もするな! 何もできはしない。それをまず理解しなさい!
ウスペンスキー:しかし私は何かを…
グルジェフ:聞きなさい。人間は何千もの間違った考えやイメージを持っている。とりわけ自分の人格(パーソナリティ)と好みについて。新しい考えを身につける前に、これらの考えは破棄されなければならない。さもなければ、間違った土台の上に立つことになり、悲惨な結果を招くだろう。
ウスペンスキー:そうした間違った考えを捨てるためには何をしなければならないのですか?
グルジェフ:する、する、するか! 最大の誤りは、何かができると思うことだ。誰もがこれから何をしようかと考え、何をすべきかを尋ねる。実際には誰も何もしていないし、何もすることはできないのだ。この類の質問はこれっきり頭から追い出してしまいなさい!
ウスペンスキー:それはとても絶望的なように思われます…
グルジェフ:絶望的なのだ。人間が機械である間は、物事はただ起こるだけだ。あらゆるものは彼の中で、周りで、ただ起こる。彼がしていると思っているすべてのことは、ただ起こる。彼が自分の中から何かを生み出したと考えたとしても、彼には見えていないだけでそれは単に起こっているだけだ。
ウスペンスキー:しかしそれはどうやって起こるのですか?
グルジェフ:大気の上空で気温が変化すれば、雨が降る。気温が下がれば、雪が降る。物事はそんなふうに起こるのだ。
ウスペンスキー:私たちは自分の行為に対して何の影響も与えることができないのですか? 創造的な仕事や芸術についてはどうですか?
グルジェフ:人間の創造性に幻想を抱いてはいけない。機械的な人間が生まれ、生活し、生殖し、本を書きさえもする。しかしそうしたいからではなく、それが起こるからだ。すべては起こる。愛も欲望も怒りも憎しみも。
ウスペンスキー:私はそれを信じたくありません!
グルジェフ:分かるかな? 真実を告げられたとき、彼はそれを信じようとはしない。それは誰にとっても最も苛立たしいことだ。なぜならそれは真実であり、誰も真実を知りたくはないからだ!
ウスペンスキー:分かりました、その点ははっきりしました。ではその次には? 物事を変えることはできるのですか? それについて何かをすることは可能なのですか?
グルジェフ:人々が理解していないのは、いったん何事かがあるやり方でなされたとしたら、それは他のやり方でやることはできないし、やり直すこともできないということだ。例えば、誰もが今進行中の戦争について話をしている。誰もが理論を持ち、自分だけが問題がいかに解決されるべきかを知っていると考え、政治家や一般大衆は間違っていると思っている…
ウスペンスキー:実際には他のことは何もなされ得ず、物事はただ起こっただけだというのにですか?
グルジェフ:そうだ。すべてのことは一つの、唯一可能なやり方でのみ起こるのだ。ほんのささいな事件がなくなっても、すべては違ったふうになるだろう。たぶん戦争は起こらなかったかもしれない…誰が知ろう? しかしすべては他のすべてのものに依存しており、すべてが因果の網の中にあり、何ものもその外側にはなく、すべてはただ一つのやり方で起こるのだ。
ウスペンスキー:だからあなたは、誰も絶対に何もできないと言うのですか? しかし、そこから抜け出す道もあるはずです。あなたはそれを知っている。
グルジェフ:何かをなすためには、<在る>ことを知っている誰かが必要だ。
ウスペンスキー:在る?
グルジェフ:待ちなさい。私たちのグループでは、この言葉は違った意味を持っている。それは「存在する」ことの反対で、<在る>ことだ。そして、<在る>ためには、<真実>を話すことを学ばねばならない。
ウスペンスキー:しかし…
グルジェフ:分かるよ、それはいかにも簡単に思える。君は真実を話すためにはそう決意しさえばすればいいと思っているようだ。人々は意図的に嘘をつくことはめったにない。彼らは自分が真実を話していると確信しきっている。しかし、彼らは嘘をつきたいかどうかにかかわりなく、いつでも嘘をつく、他人に対して、自分自身に対して。人生でもっとも難しいのは真実であることだ。それは長い期間をかけて学ばなければならない。絶えず真実を話せるようになるためには多くの自己観察が必要だ。そうしたいと願うだけでは十分ではない。私たちは真実を知り、それを嘘と区別できなければならない。そうして初めて真実であることができるのだ!
Part 11
コリン:真実は願うだけではなく、学ばなければなりません。大半の人々はこの偉大な真理を受け入れるのに抵抗があることは認めます。グルジェフはどこで知識を得たのでしょう? 彼は多くの旅をしたに違いありません。
ウスペンスキー:彼の初期の人生については、曖昧なことしか分からない。私は、少なくとも彼が行ったと主張したほとんどの場所に行ったのは確かだと思う。彼の父親から受け継いだ知識もあった。
コリン:父親! 彼の父を知っているのですか?
ウスペンスキー:会ったことはないが、彼がコーカサス地方で伝統的に「アスコック」と呼ばれている人だったことは知っている。彼は古代から続く吟遊詩人の系統の最後に属する一人だった。
コリン:彼はチベットの僧院にいたという噂もありますが?
ウスペンスキー:私の知る限り、それは本当だろう。彼はそうした話はしたがらなかった。嘘をつきたくなかったのだろう。彼の人物の周りにまとわりついている神話のいくつかは彼の目的にかなっていた。だから彼はそれを否定も肯定もしなかった。彼はなんらかの手段で、私たちが近づくことのできない古の知識の貯蔵庫から引出すことができたのだと私は確信している。
コリン:元々私は隠された知識という考えをとても排他的なものに感じていました。ある人々がそれを所有し、他の人々が近づくことは拒否されているというのは不公平に思われます。
ウスペンスキー:分かるよ。私も同じように感じていた。しかしゲオルギー・イヴァノヴィッチは、なぜそこに不正義がないのかをうまく説明してくれた。
Part 12
グルジェフ:第一に、誰も知識を隠してはいない。第二に、あらゆる知識は一般的に分配するのにふさわしくないので、あるものは隠されなければならない。さらに、それは君が考えているよりも近づきやすいのだが、本当にそれを求め、吸収できる人でなければならないということだ。
ウスペンスキー:一般的な考えでは、知識への道はすべての人に開かれているべきで、すべての人々は教育される権利を持っているのではありませんか?
グルジェフ:一般教育に関する限り、私もそれにまったく同意する。しかし、真の知識はすべての人の所有物になることはできず、多くの人の所有物にすらなれないことを理解しなければならない。これは根本的な法則だ。物質の法則は、この世のあらゆるものに関するもので、それには知識も含まれる。
ウスペンスキー:しかし知識は物質とは関係ありませんよ!
グルジェフ:物質の世界ではあらゆるものには限りがある。砂漠の中には、数え切れないが、それでも一定の数の砂がある。湖には測定可能な一定量の水がある。知識もそれと同じだ。その量も限られている。
ウスペンスキー:あなたのおっしゃっていることは、例えば一世紀の間に人類が受けることのできる知識の総量は限られているということですか?
グルジェフ:まさにそうだ。われわれは食物を取るのと同じように知識を受け取るのだ。もっと正確に言えば、われわれはそれを珍しい薬のように受け取る。そのような治療の効果はわれわれの取る薬の服容量にかかっている。量が十分に多ければ、ある人や小さなグループを利することができる。あまりにも多くの人々がそれを求めると、それぞれの摂取量は少なくなり、その効果は無に近くなる。それは彼らの生活に何の影響も与えない。その知識は単に消散し、浪費される。
ウスペンスキー:ごく少数の人々が一定量の知識を受け取ることに何か利点があるのですか?
グルジェフ:もちろんだ。君が6オンスの黄金を持っていて、何かをメッキしたいのだとしよう。まず君はどれだけの黄金があれば全体をメッキできるかを計算しなければならない。さもなければ表面はつぎはぎになって、見栄えが悪くなり、事実上その黄金を失うことになるだろう。知識を配分するときにも、すべての人に与えることはできない。それは何も与えないのと同じだからだ。
ウスペンスキー:では、誰に与えるのですか?
グルジェフ:それを求める者にだけだ。人類の大部分は知識を欲してはいないし、いずれにせよそんなものを誰も求めてはいない。そのために、その価値を知る者たちにとっては、発見し、所有することのできる多くの知識がある。
ウスペンスキー:しかし、彼らがその正当な所有者なのでしょうか? 彼らはその知識を、おそらくは何気なくその側を通りすぎる人々に与え返すべきなのではないですか?
グルジェフ:なぜそれが起こらないと考えるのだね? 誰も何も隠してはいない。その反対に、この知識を手に入れた者たちは、それを伝えるためにできる限りのことをする。だがそれは容易なことではない。知識を伝えることも受け取ることも、それを与える側と受け取る側の両方に多くの努力が必要になる。
ウスペンスキー:分かります、知識を無理強いすることはできません。それは強制労働を命じるようなものです。それを求め、受け取る用意のある人々だけに与えることができるのです。しかし「用意がある」とはどういうことでしょう?
グルジェフ:古の智恵のスクールは常に一つの根本原則を強調してきた。それは「汝自身を知れ!」だ。
Part 13
コリン:それはソクラテスの言葉です。
ウスペンスキー:そうだ。グルジェフは、最初の一歩は自己を意識することだと教えた。例えば、私は「私自身が」今話しているのだということ、ネフスキー通りを歩いているのは「私自身」だということ、そして自己を意識しようとしているのは「私自身」であるという事実を意識するようにしなければならなかった。そうするうちに、私は、自分の人生の最初の記憶は、実際にはそうと意識せずに自己意識を持つよう試みていたときのことであるということに気づいて驚いた。その記憶があれほど活き活きしているのはそのためなのだ。
コリン:私たちの記憶力はあまりにも貧弱です! 私たちはほとんどすべてのことをすぐに忘れてしまいます。私たちがこれほど多くのことを、再び忘れるためだけに体験しているというのは、私たちのまったくの愚劣さの一部です。私はこの事実にぞっとします。ときどき強烈な体験をして、このことを決して忘れまいと思っても、1年か2年後にはほんの微かな記憶しか残っていないか、まったく何も覚えていないのです。
ウスペンスキー:私はグルジェフの次の言葉が正しいことが分かった。われわれは自分の役割にあまりにも没頭しており、家族に対して、上司に対して、部下に対して、友人に対して、あらゆる場面で役割を演じ、その中に埋没している。われわれがその状態に落ち込むのは、それがわれわれにとって快適であり、安心感を与えてくれるからだ。自己意識への努力を実践することは、われわれをこの決まりきった惰性から抜け出させてくれる。
コリン:あなたはどのくらいの期間それを行ったのですか?
ウスペンスキー:セントペテルスブルグ・グループでは約2年間だ。後に私が一緒に活動したどのグループも、この最初のグループの半分も強烈ではなかった。その雰囲気には特別なものがあり、われわれはいまだにそれに駆り立てられている。
コリン:ボルシェビキ革命が近づいていたのではないですか?
ウスペンスキー:当時、われわれは政治状況にはほとんど関心がなかった。私などは、なんらかの突破口を待っていて、何か奇蹟が起こって私をインドや他の場所に脱出させてくれないかと思っていた。しかしついに「何か」が起こったのは、セントペテルスブルグの近くにある小屋の中でだった。
コリン:奇蹟のことですか?
ウスペンスキー:私にとってそれは奇蹟だった。
コリン:それについて話していただけますか?
ウスペンスキー:表現できないものについて話すのはとても難しい。私は魅惑的な体験をした著者の本を何冊か読んだが、彼らはそれを表現するのに失敗していた。それを読んだ当時には、信頼が置けないと思っていたが、同じような体験をした今となっては、それを言葉で表現するのは不可能であることが分かった。
コリン:では、何が起こったかを言うことはできないのですね。
ウスペンスキー:できるだけやってみよう。われわれがその小屋に行く前に、私は断食、瞑想、グルジェフに教わった呼吸法などで十分に準備していた。私は自分の肉体にかなりのショックを与えていたに違いなく、さらに大きなショックがやって来ることになった。ゲオルギー・イヴァノヴィッチは最高の状態、いやむしろ最悪の状態にあった。彼はわれわれ全員に挑発的で、冷笑的に振舞った。その矢面に立ったのは私だった。私は、秘密のつもりで、ストーンバル博士についての私の意見をグルジェフに話したのだが、彼はそれを皆の前でばらしたのだ。
コリン:それは愉快なことではありませんね。なぜそんなことをしたのでしょう?
ウスペンスキー:私を困惑させ、恥をかかせるために違いない。私はいつも他人を非難したり噂話をしたりしていたので、彼は私に赤っ恥をかかせたのだろう。私は逃げ出して、穴があったら入りたいような気分だった。しかし彼は何事もなかったかのように振るまい、私と、哀れな博士と、ザハロフに、隣の部屋に行っていくつかのエクササイズを実演して見せるように入った。それが起こったのはそのときだ…
コリン:スリリングな小説のようですね! どうか先を続けてください。
ウスペンスキー:われわれ四人はトルコ風に飾りつけた部屋の床に座っていた。ゲオルギー・イヴァノヴィッチが話をしていた。彼はわれわれには真実を知覚する能力がないということについて話をしていたが、それは私の心をかき乱すものだった! 彼がわれわれ全員に声を出して話している言葉の背後に、私だけに向けられた思考が存在しているように思われた。私はその思考の一つをつかまえ、声に出して彼に返事をした。彼は頷いて、話を止めた。彼はしばらく黙ったまま座っていた。すると私の内側で彼の声が聞こえた。それはあたかも、心臓に近い胸の中で響いているかのようだった。
Part 14
グルジェフ:(エコーのかかった静かな声で)なぜ行かないのだね?
(少しの沈黙)
ウスペンスキー:そうしたいのですが、何かが私を引き止めるのです。
グルジェフ:(声に出して)なぜ彼はあんなことを言うのか? 私は彼に質問をしたかね?
ザハロフ:何の質問ですか、私には何も聞こえませんでしたが。
グルジェフ:(静かな声で)聞こえるか?
ウスペンスキー:完全に聞こえます。
ストーンバル:君には何が聞こえたんだ、ピョートル・デミアノヴィッチ?
ウスペンスキー:気にしないでくれ。
グルジェフ:(静かな声で)留まりたいのなら、君はこのグループの中での位置を考え直さければならない!
ウスペンスキー:私はもうそれについて考えました。私は留まりたいのです。
グルジェフ:(静かな声で)急ぐ必要はない。一月くらいかけてゆっくりと考えなさい。
ウスペンスキー:一月も必要ありません。
ザハロフ:何が起こっているんだ? 君たち二人は何をしているんだ?
グルジェフ:(声を出して)ピョートル・デミアノヴィッチと私は会話しているのだ。邪魔しないでくれ。(静かな声で)グループと一緒にやっていきたいのなら、君は私の権威を受け入れなければならない。
ウスペンスキー:あなたは以前、そのような義務はないとおっしゃいました。
グルジェフ:(静かな声で)もうその段階は過ぎた。それは一時的な条件だと私は言ったはずだ。君が留まりたいのなら、君の側から関係が崩されることはないという保証が必要なのだ。
ウスペンスキー:分かりました、約束します。
グルジェフ:(静かな声で)君と私の間には、いつも超えがたい違いがあるだろう。われわれは二人とも特別な生地からできているのだ。いまや、君はついに目覚めたので、私は君からの保証を必要とするのだ。これは、このグループが共にやっていくためには決定的なことだ。君が自分自身のグループを持ちたければ、それを持つことになるだろう。
ウスペンスキー:それはいつのことでしょうか?
グルジェフ:(静かな声で)われわれの間に必然的に起こる人格の衝突が最終的にわれわれを引き離すときだ。その間、われわれはどちらもできるだけそれを遅らせ、忍耐強くして、野心を抑えなければならない。君は自分が大発見の瀬戸際にいるように感じている。
ウスペンスキー:まったくそうです。
グルジェフ:(静かな声で)それは君自身の発見、君自身のシステムだろう。君は自分自身で、自分の時間にそれを発展させなければならない。
ウスペンスキー:分かりました。
Part 15
ウスペンスキー:私は理解した。私にある考えが浮かんだのはそのときだった。それについては彼に話すことができないことを知っていた。なぜなら彼はまったく理解しなかっただろうから。
コリン:それは何だったのですか?
ウスペンスキー:君に話すことはできないが、たぶん推測できるのではないかね。
コリン:どうやって?
ウスペンスキー:その後のグルジェフと私の関係、私の人生と死から。
コリン:どうか死についてはおっしゃらないで下さい!
ウスペンスキー:なぜ? それはタブーではない。死はわれわれの盟友であり、実際のところわれわれの持つ唯一の盟友だ。君は私よりもずっと若く、若い人々は死についてあまり考えない。たまに考えたとしても、敵のように思う。死に直面するようになると、人々はあたかも勝ち誇る敵に服従するようにそれに服従する。そうではなく、それを偉大な盟友をつくる機会だと認識すべきだ。
コリン:われわれは皆死ななければならないことを受け入れるべきなのではないでしょうか?
ウスペンスキー:人間機械はそのようにして死に屈服するのだ。君は死をどのように定義するかね?
コリン:それはとても難しい質問です。ある人はそれはすべての終わりだと言うし、何か別のものの始まりだと言う人もいます。
ウスペンスキー:しかし、無へであれ、別の生存へであれ、死がこの生存からの脱出であることを否定できる人はいない。
コリン:それには同意します。
ウスペンスキー:死が終わりであるという可能性は除外しよう。われわれはどちらも人間の人格が死を超えて存続することを信じている。もし実際にそうなのだとしたら、それは何らかの形で大自然の繰り返すサイクルに組み込まれているに違いない。
コリン:あなたは転生、つまり連続する人生という考えのことをおっしゃっているのですね。
ウスペンスキー:転生という考え方は、インドや他の地域に広まっており、私もしばらく心を奪われていたことがある。だが私にとってはそのアイデアはあまりにも単純で、牧歌的すぎる。全体として、私にはニーチェの「永劫回帰」の概念の方がはるかに魅力的だった。だがニーチェの「超人」は快適な人生を何度も生き直すことに幸福を感じている。私にはそれが不満だった。
コリン:その気持ちは分かります。それもまた人間機械なのです。
ウスペンスキー:私がこの機械的な生存から抜け出すのにもっとも近づいたのはあの小屋でだった。私の肉体は断食とエクササイズによって準備されていた。グルジェフは必要とされていた心理的ショックを与えた。私は、彼の人生の主な目的はこのことだったのだと思う。
コリン:人々にショックを与えることですか? あなたのその心理状態はいつまで続いたのですか?
ウスペンスキー:テレパシーで彼のメッセージを聞く能力かね? 数日間だ。私は彼が去った後にもゲオルギー・イヴァノヴィッチとのテレパシー的な接触を維持していた。私は彼の言葉を聞くことができ、同時に心の中に彼の心像を描いていた。
コリン:そして、別れた後、どうやっていわゆる正常な状態に戻ったのですか?
ウスペンスキー:それは徐々に起こった。テレパシー的な状態は数時間しか続かなかったが、その残響は次の三週間くらい続いた。例えば、私はセントペテルスブルグの通りを歩いていたとき、周囲のすべての人が眠っているのが見えた。私だけが完全に目覚めた唯一の人間であるように感じた。この心理状態は数時間続いた。
コリン:それ以前には、テレパシーを体験したことはあったのですか?
ウスペンスキー:全然! しかも、これらすべてのことは比較的小さなショックによって起こったのだ。
コリン:あなたがこれから何を話そうとされるか分かります。そのアイデアは死に関係しているに違いありません! 死は私たちが受ける最大のショックですから。
ウスペンスキー:そうだ、だがすべてはこの啓示からわれわれが利益を得ることのできる能力にかかっている。もし、ほとんどの平均的な人間と同じように、われわれが自動的に死ぬだけなら、何が期待できるだろう? 善意ある医者達が処方する痛み止めの薬で鈍らされた死の衝撃から、何が得られるというのだ? しかし、完全な意識を保って死を経験することができれば、まさにその決定的な瞬間に、われわれは永劫回帰の輪から何とかして抜け出すことができるかもしれない。
コリン:あなたが…あなたが望んでいるのは…
ウスペンスキー:そうだ。君にも見当がついたようだね。
Part 16
グルジェフ:(講義しながら)この前の講義の中で、私は不死に導く三つの道が知られていると言った。それをファキール(苦行者)の道、修道僧の道、ヨギの道と呼ぶことができる。
ファキールは彼の肉体を鍛え、意志の力を発達させようとする。それを達成するために、彼は信じがたいほど困難な訓練を行う。彼は何時間も、何日も、何ヶ月も、ときには何年も、晴れても雨が降っても雪が降っても、一つの姿勢を動かずに保ち続ける。しかし彼が巨大な意志力を得ることに成功したとしても、まだ問題がある。彼の感情的、知的な側面は置き去りにされ、未発達のままだ。
修道僧の道は情動、宗教的感情、犠牲の分野を通して導く。修道僧の注目は感情体に集中しており、他の二つ、肉体と知性には傷害を与える。
ヨギは彼の知性と知識を改善する。彼はファキールの意志の力と修道僧の規律を欠いているが、自分に何が欠けており、何をしなければならないかを知らせる知識を持っているために、その両者に先んじている。
もしも、基本的にはこの三つの道の組み合わせである第四の道の可能性がなければ、人類の進歩の展望はなきに等しかっただろう。その利点は、多大な放棄も肉体的な苦行も隠遁生活も要求しないということだ。
この道は、通常の生活条件や友人関係を保ったままで進むことができる。とりわけ、第四の道は理解力を要求する。彼は自分が何をしているか、なぜそれをしなければならないかを知らずに何も行ってはならない。個人的に確証できるもの以外は何も信じてはならないのだ。
第四の道は、ファキール、修道僧、ヨギは決して見つけることのできない秘密を発見した、ずるい人間の道だ。彼がどこでどうやってその秘密を学んだかは誰も知らない。おそらく古い本で見つけたのかもしれないし、受け継いだのかもしれないし、誰かから買ったのかもしれないし、盗んだのかもしれない。どうやって秘密を入手したのかは重要ではない。重要なのは、彼は彼の肉体、感情、知性を支配することができ、他の人々が同じ状態に達するのを助けることができるということだ。彼は人生への完全な支配力を持ち、あらゆる偶然的なものを人生から排除している。
Part 17
(横滑りした車の激しい衝突音。)
コリン:グルジェフはいつあの事故を起こしたのですか?
ウスペンスキー:1924年の夏だ。
コリン:それはどんなふうに起こったのですか?
ウスペンスキー:誰も知らない。彼は一人でパリからフォンテーヌブローの屋敷に車を走らせ、おそらくスピードの出しすぎで木にぶつかったのだろう。彼は無意識で車の近くに横たわっているのを発見された。その事故は私を恐ろしい気分にさせた。
コリン:彼はひどい重傷を負ったのですか?
ウスペンスキー:死の一歩手前まで行ったようだ。彼はひどい脳震盪を起こして、数日間意識が回復しなかった。だが本当に恐ろしかったのはそのことよりも、そのようなひどい事故は彼が長年教えてきたあらゆることにまったく矛盾していたということだ。それが私をもっとも恐れさせたのだ!
コリン:人はいつ偶然の出来事から免れることができるのでしょう?
ウスペンスキー:理論的には、人が個人の意志を発達させたときだ。それは一夜にして起こることではない。さまざまな段階がある。基本的には、事故は、われわれがそれが起こる余地を残したときに起こる。もしわれわれが意志の力と決断力ある行動によって内面の空間を満たせば、事故は起こり得ない。単純なことだ。
コリン:あなたは事故から生じた疑念のためにグルジェフとの関係を絶ったのですか?
ウスペンスキー:疑いは以前から持っていた。それは疑念の正しさをいくらかは証明したが、それが本当に事故だったのかどうか確信できなかった。事故に見せかけるように手配したのかもしれない。
コリン:昏睡状態やその他のことを演じたというわけですか? なぜそんなことをしたのでしょう?
ウスペンスキー:分からない。彼は、彼が大げさに「人間の調和的発展のための研究所」と呼んだものに厭きていたのかもしれない。当時、彼は「時の人」で、屋敷はいつもあらゆる種類のスノッブたちで溢れていた。実際、彼は回復するとすぐに研究所を閉鎖し、本当の弟子の多くが立ち往生した。その中の多くが英国に渡って私のところに来た。
コリン:しかし、何年もかけて苦労して研究所を設立しておきながら、軌道に乗り始めたときに閉鎖してしまったというのはどういうわけでしょう?
ウスペンスキー:ゲオルギー・イヴァノヴィッチなら、どんなことでもやるさ。とにかく、彼は作家になることを決意し、『ベルゼバブの話』を書き始めた。彼はそのときアルメニア語しか書けなかったので、翻訳者と校正者の一団を雇った。彼はじっとしていることができないので、彼らは彼がファイアット製の車に乗ってフランスの田舎道を運転するのに付き合わなければならなかった。
コリン:事故があったのに彼は運転を止めなかったのですか?
ウスペンスキー:止めるどころか、彼はいつも運転したいと言い張った。
コリン:彼の運転歴を考えると、それははらはらする経験だったに違いありません。
ウスペンスキー:彼の運転は私が知っている中で最悪だった。彼の運転の仕方はコサックの馬の乗り方を思わせる。だが、耐えなければならないのはそれだけではない。私が知っている限り、彼は常に騒動を引き起こそうとしていたように思える。
Part 18
(車の走る音)
ストーンバル:ゲオルギー・イヴァノヴィッチ、スピードの出しすぎです! ほら、また急カーブが!
グルジェフ:ブレーキがあるじゃないか! (急ブレーキをかけて車輪が止まる音。)ほら、止まっただろう。
ド・ザルツマン:そんなことをしたらタイヤが磨り減ってしまいますよ。後ろのタイヤはもうほとんどつるつるで、いつパンクしてもおかしくないです。
ストーンバル:予備はもうありませんよ!
グルジェフ:それがどうした? 人間が乗る隙間さえないのに、余分なタイヤなんか積んでいられるかね! ゴムの固まりより人間の方を優先しなければ!
ド・ザルツマン:ガソリンスタンドを通り過ぎたばかりです。燃料を補給した方がいいと思います。
グルジェフ:なぜ燃料が必要なんだ? 車はまだ進んでいる。
ド・ザルツマン:そう長くはもちませんよ。
グルジェフ:あの燃料メーターが見えないのか? まだ十分ある。
ド・ザルツマン:あのメーターは壊れているんです。坂を降りているときにはメーターが上がるんですよ。
グルジェフ:そんなことはない。あの丘を上るときにどうなるか見てみなさい。(乱暴にギアを入れかえる音)
ストーンバル:急速にメーターが下がっています!
グルジェフ:分かった、ガソリンはほとんどないようだ。次のスタンドで補充しよう。
ド・ザルツマン:あと何マイルか行かないとないと思います。
(車が何度か揺れ、ストップする)
ストーンバル:ほら言わんこっちゃない、ガソリン切れです!
グルジェフ:誰かが缶を持って引き返さないといけない。
ド・ザルツマン:それ以外の問題もあります。左の後輪が駄目になりました。
グルジェフ:なら、タイヤ交換のためにどっちみち止まらないといけないわけだ。ガソリン切れと同時に起こるとはちょうどいいタイミングじゃないか。もう私は用無しだ。あの木の下に座って本を書くことにしよう。その間に車を直しておいてくれ!
Part 19
(人々で混み合った食堂。グラスに何杯かワインを注ぐ音がした後、全員が沈黙する。)
グルジェフ:著作の第一シリーズが完成したので、私はまるまる1ヶ月の休息を取ることにする。休息を活動的なものにし、疲れた肉体を良好に保つために、私は専門家には「オールド・カルバドス」として知られる超越的・天国的な甘露の残る15本の瓶をゆ・っ・く・り・と優雅に味わいたいと思う。私はおそらくこのカルバドスを発見するのにふさわしい者と考えられたのであろう。27本のそれを、ニンジンを保存するための穴倉を掘っているときに見つけたのだ。この神聖なる甘露はおそらく、かつてこの場所に住んでおり、魂の救済への欲求がこの世の誘惑よりも強かった修道僧たちによって埋められたに違いない。直観的な洞察力と敬虔な生活のおかげで彼らの内部には特定のデータが形成されていたのだと私には思える。それによって彼らはこの神聖なる甘美な物質がいつの日かこうした物事の真の意義を理解する者の手に渡ることを予見していたのであろう。
私は今やこの荘厳なる液体にわが身を捧げることとするが、実はそのことによってのみ、私の近くに生存している、私によく似た愚か者たちの存在を不当に苦しむことなしに、寛容さを保ち続けることができるのだ。しかしながら、いかに精錬されたものとはいえ、15本ばかりの甘露によっては十分な自己充足に達することはほとんど望むべくもないので、私はそれに加えて、「オールド・アルマニャック」と名づけられた、先のものに優るとも劣らぬ神酒を試さなければならない。すでに私はそれを200本収集してある。だが、この宇宙的な物質は、私のみならず、近年私の有益な助力者――とりわけこれらの聖なる儀式の中において――となっている者たちをも満たすべきだろうと考える。
この言葉をもって、私は諸君に、われらが尊敬すべき晩餐の進行係の叫ぶ乾杯の声に唱和していただくよう求めたいと思う。
晩餐の進行係:紳士方、どうか杯を交わしたまえ! 教養ある皆様方には言うまでもないことと思われますが、元々ギリシア語では、「阿呆idiot」という言葉は「内輪の人a private person」を意味しています。有名なヘルメスの格言はこう宣言しています;上にある如く、下もまたかくの如し! ギリシア人たちは厳密なハイアラキー(階層構造)の支配する神々の神殿を持ち、それは地上の環境にも反映されました。私たちの誰もがある定められた阿呆のレベルにあり、各人が、良心的で集中的な努力によって、より高い位に上る機会を得、おそらくは阿呆のオリンポス山にすら上昇することができるのです!
私が呼びかける最初の乾杯は、まだまだ先の長い旅路を前にした、最も数の多い、「普遍的な阿呆(ユニバーサル・イディオット)」に捧げられます!
全員:(グラスを傾けながら)普遍的な阿呆たちに乾杯!
晩餐の進行係:普遍的な阿呆は祝福されているのに気づかないままです。しかし、彼らが内面からの遠い呼びかけを聞き、それが彼らを次第に「意識的な阿呆たち」の仲間に加えるようになってきます。さあ、彼らに乾杯しましょう!
全員:意識的な阿呆たちに乾杯!
グルジェフ:(グラスを鳴らしながら)皆の者、注目! 今夜、われわれの仲間に、はるか大西洋の向こうからわざわざ参加してくれた特別な来賓がいる。最近目覚めた阿呆、トゥーマー氏だ。私は心から彼を歓迎し、「阿呆の候補者」という名誉称号を彼に授けたいと思う!
ストーンバル:賛成!
進行役:異議のある方はいますか? 異議なし。よって私はトゥーマー氏を「阿呆の候補者」と宣言いたします。出席者の皆さん、トゥーマー氏に乾杯いたしましょう!
全員:「阿呆の候補者」トゥーマー氏、どうかお言葉を!
進行役:新たに指名された候補者に返答をお願いします。
トゥーマー:私に授けられた思わぬ名誉に感謝の意を表したいと思います。このことに深く心を動かされ、「阿呆の候補者」として私に与えられた信頼に背かぬよう全力を尽くす所存でおります。そして、より高い頂へと登り、世界の阿呆の列に加えられるよう努力したいと思います!
全員:(拍手)
進行係:今夜は特別な夜なので、私たちは最高度の阿呆の階級まで上り詰めるよう努める必要があります。普段は、乾杯の陶酔的な効果のために、それに到達することはめったにないのですが…。よって私は残りの乾杯を続けざまに急いで済ませることにします。「住みこみの超阿呆」、オレージ氏に乾杯!
全員:住みこみの超阿呆、オレージ氏に乾杯!
進行係:「栄誉ある茶目っ気たっぷりの阿呆」、ストーンバル博士に!
全員:茶目っ気たっぷりの阿呆、ストーンバル博士に乾杯!
進行係:「救いようのない阿呆」、ド・ハルトマン氏に!
全員:救いようのない阿呆、ド・ハルトマン氏に乾杯!
進行係:「慈悲深い阿呆」、ド・ザルツマン氏に!
全員:慈悲深い阿呆、ド・ザルツマン氏に乾杯!
進行係:紳士諸君! ここで、私たちの伝統に従って重要な乾杯をしなければなりません。ここにいないあらゆる阿呆、あらゆる序列と階位の阿呆、気高い阿呆、老衰した阿呆、過去と未来の、蠢く阿呆、引退した阿呆、愛嬌のある阿呆、調和的な阿呆、耳障りな阿呆、丸い阿呆、四角い阿呆、楕円形の阿呆! 彼ら全員に自分自身の阿呆さ加減で馬鹿騒ぎさせることにいたしましょう!
全員:ここにいない阿呆たちへ乾杯!
進行係:紳士諸君、杯を交わしたまえ!
われわれの愛すべき師、「ユニークな阿呆」、ゲオルギー・イヴァノヴィッチ・グルジェフに乾杯!
Part 20
ウスペンスキー:ロドニー、私たち人間の必要とするものはとても少ない。そして、私たちが関わりになる物事が少なければ少ないほど、持ち運ぶものは少なくなり、より身軽に動けるようになり、頭もよりよく働くようになる。
コリン:あなたは貧窮した経験がおありですか?
ウスペンスキー:あるとも! 特に内戦のときがそうだった。あれはただの飢饉ではなかった。あるとき、ロシアから難民となって逃げている最中に、私がまだ生き延びているのは、靴とズボンとコートがまだ破れていないからだと思った。特に靴は他の何よりも大切だった。それがこの世からなくなったら、私もすぐにその後を追うのだと常に思っていたものだ。
コリン:それはグルジェフの過剰さへのアンチテーゼですか?
ウスペンスキー:部分的にはそうだ。もっとも、彼の計画を支えていたお金の大部分は、私が彼のもとに送った人々から来ていたのだが。
彼の贅沢さが、私たちがロシアで経験した貧しさの埋め合わせだとは思わない。しかし道のどこかで彼の計画は彼の手に負えなくなり、私は彼から生徒を引き上げなければならなかった。あるいは、彼の方で私のもとに生徒を送ってよこした。彼はほとんどすべての弟子を追い払ったのだ。
コリン:なぜそうしたのでしょう?
ウスペンスキー:彼らのためにも、彼のためにもそれが必要だったのだ。
コリン:だからあなたも自分の生徒に同じことをしたのですか?
ウスペンスキー:そうだ。
コリン:しかしどうして?
ウスペンスキー:私自身がこの永劫回帰の悪循環から逃れなければならないからだ。
コリン:それがあなたの生徒と何の関係があるのですか? 私もまたそういう仕打ちに備えなければならないのでしょうか?
ウスペンスキー:ロドニー、君は私の家族以上の存在だ。だから私は他の誰にも話さないことを君に話すのだ。不幸なことに、私は作家や教師としていくらかの評判を築いてしまっており、このことが私の立場をいっそう難しくしている。
コリン:あなたは権威ある人物とみなされています。それは何も間違ったことではありません。
ウスペンスキー:私たちは絶えず回帰する人生によって築き上げられた要塞に住んでいる。世界そのものがより巨大な建築物だ。その中で、ある人々は重要な礎石であり、他の人々は取るに足りない小石にすぎない。小石がなくなっても、誰もそれに気付くことはない。しかし重要な煉瓦は、建物全体が崩壊しないために保護されなければならない。
コリン:あなたはもう大きな煉瓦ではいたくないと…
ウスペンスキー:私が欲することを為すためには、私は今の場所から去らねばならない。時間もまた重要だ。私には時間はあまり残されていない。
コリン:もうおっしゃらないで下さい!
ウスペンスキー:いや、私は死について話しているのではない。もちろんそれがやって来たときには準備しなければならないだろうが。これは大きな秘密であり、なんらかの方法でそれを察した者は、壁に時計を掛けて、その針の音を聞くことができるのだ。どれほどの時間が残されているかを知ることはできないが、自分自身を解放することのできる時間には限界があり、さもなければ回転する車輪の中で退化するに任せなければならないと感知することはできるのだ。
コリン:私にはその秘密を知ることができないようですね。
ウスペンスキー:私の口から伝えることはできない。まず、私の仮説は間違っているかもしれない。次に、他の道が存在し、君は別の秘密を見つけることになっているかもしれない。第三に、私には君のために時計をセットする権利はない。私たちは共にそのネジを巻いてきたのだが、それをスタートさせることができるのは君だけだ。
コリン:少なくとも、私にも推測させて下さい。あなたは何かを変えたいと思い、次の周期で自分に新たな機会を保証するようなやり方で変えたいと思う。決定的な瞬間は、死のときにやって来る。それがやって来たとき、あなたは完全に意識的でありたいと思う。なぜなら、物事に影響を与えることができるのはそのときだけだから。
(長い沈黙)
私には確かに分かりました。あなたが死ぬとき、私はあなたと共にいなければなりません。
ウスペンスキー:君は正しい。
Part 21
キャシー:あなたはなぜウスペンスキーと分かれたの? ケンカしたの? 色んな人が色んなことを言っているけれど。
グルジェフ:何を言っているのかね?
キャシー:ウスペンスキーがあなたを生徒の前で批判したと言う人もいるし、二人は何年も隠れて会い続けているという噂もあるし、すべては芝居だったという人もいるわ。
グルジェフ:君はどれが本当だと思う?
キャシー:分からない。
グルジェフ:人生は芝居だ。ギリシアの劇のように、誰もが登場人物の仮面を被っている。
キャシー:人は仮面を捨てることはないの? お芝居には終わりはないの?
グルジェフ:何らかのショックを受けたときに、一瞬の間だけ仮面を落とすことはある。人々に何かを教えたいなら、ショック療法が必要だ。それでも、たいてい彼らは素早く回復し、すぐに別の仮面を被る。
キャシー:二度と仮面をつけなくなるようなショックというものはあるのかしら?
グルジェフ:一つだけある。君がピョートル・デミアノヴィッチの最近の行動について話してくれたことからすると、彼はそれについて何かをつかんだのではないかという気がする。
Part 22
コリン:私の友人であり師でもあったピョートル・デミアノヴィッチ・ウスペンスキーは1947年10月2日の夜明けに息を引き取りました。ゲオルギー・イヴァノヴィッチ・グルジェフは彼より2年間長生きしました。
私は最後の瞬間までウスペンスキーと共にいたので、彼が実際に望んだとおり完全に意識しながら死んだことを確証できます。彼は死に先だってものすごい闘争を行いました。
死が近づくにつれて、目覚めを保つための彼の努力は激しいものになりました。ひどい病気で、絶えず痛みに苦しんでいたにもかかわらず、彼は決して治療を受けようとせず、どんな薬も飲もうとしませんでした。誰も彼をベッドに寝かせたままでいることはできませんでした。毎朝彼は誰の助けも借りずに服を着ると言い張り、夜遅くまで起きていました。数名の友人と二匹の猫に伴われて、彼は南イングランドへ長いドライブに出かけ、以前滞在したことのある場所を訪ねたいと主張しました。私は、彼が必死で記憶を刻みつけようとしているという印象を受け、なぜ彼がそうするのかを不思議に思いました。私は彼にどんな手助けもしないよう自分を強いる必要がありました。私には彼がそれを拒むことが分かっていましたが、見るからに苦しんでいる彼を助けないでいるのはとても辛いことでした。これはすべてやるだけの価値のあることだったのでしょうか。それは何らかの形で彼の前進に役だったのでしょうか?
私には分かりません。ピョートル・デミアノヴィッチだけがご存知です。
死の直前、死に行く身体で一晩中目を覚まし、背筋を真っ直ぐに伸ばして、部屋を歩き回ろうとさえしながら、彼は私に言いました。
ウスペンスキー:分かるかい、ロドニー。何かをやりたいと思うなら本物の努力が必要だ。死のうとするときでさえ…。しかしゲオルギー・イヴァノヴィッチはいつも、人間にとって、あらゆるものはただ起こるにすぎないと言い張った…
THE END
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