買いたい新書
『知は力なり』との教えに従って(誰に教わったんや?)、さまざまな知識の習得に努めております。なんと申しましても、他人様に対して知ったかぶりをすることほど楽しいことはございません。
知識を得るための入門書としては、新書本が最適です。最新の研究成果などが簡明かつ平易に概説されており、当該分野の研究者の名前や参考文献なども一目瞭然、一網打尽、一知半解、一罰百戒となります。
しかし、「これは面白そうだ」と買ってはみたものの、「をを、ハズレだ!」と臍を噛むこともしばしばです。で、ただ臍を噛むだけなのも癪なので、読了した新書について、ここでご紹介させていただくことにしました(なお、『買いたい度』は私の独断によるお薦め度です。★★★★★をフルマークとします)。
■最近読んだもの
●『ヒトは環境を壊す動物である』(ちくま新書)
●『まれに見るバカ』(洋泉社新書)
●『ロボットの心』(講談社現代新書)
●『新エゴイズムの若者たち』(PHP新書)
●『先端医療のルール』(講談社現代新書)
●『トヨタとホンダ』(光文社新書)
書名 ヒトは環境を壊す動物である ちくま新書452 著者名 小田亮(名古屋工業大学大学院助教授) ジャンル 生物学・社会学(進化心理学) 価格 680円 内容 環境問題が盛んに取り沙汰される世の中だが、そもそも「環境」とは何か。人間は、環境をどのように作り、認知し、関わり合ってきたのか。それを紐解かずに環境問題の要諦は論じられない。
霊長類の心と行動の進化を専門分野とする著者が、ヒトの生物としての成り立ちや進化の過程を通じて、環境問題に新しい視点を導き出す。扇情的な表題とは裏腹に、各種の研究成果を丁寧に織り合わせてまとめ上げた良識あふれる一冊。感想 さて、と(笑)。
タイトルだけ見て、「ああ、環境問題の本か」と早合点してはいけない。「いわゆる環境問題」への言及は、本書の中ではほとんどなされていない。非常に簡単に言い切ってしまえば、これは「なぜ環境問題が問題になるのか」という原因を究明するための研究だ。
本書の冒頭に書かれているとおり、環境問題は「わかっちゃいるけどやめられない」から問題になるのである。誰しも、環境保全を是とする気持ちに偽りがないにも関わらず、なぜ行動が伴わないのか。それは、「自分だけが保全しても意味がない」「他人が足並みを揃えてくれなかったら自分だけが損する」という社会的ジレンマによる。
私もそこまでは理解していたが、ではそもそもそのジレンマがなぜ生ずるかについては何の知見もなかった。「わかっちゃいるけどやめられない」のは、つまるところ人間が性善説的には生きられないことの証左なのかな、という程度の認識しかなかった。
本書ではそれを、進化論を軸とした行動学や認知心理学などの研究成果を用いて解き明かす。詳しくは実際に読んでいただきたいが、要するにわれわれは生物として心身ともに狩猟採集時代のまま留まっており環境問題が問題になるような世界にまだ適応できていないのである、ということが、明快な論旨で順序よく述べられている。
内容は平易過ぎてやや食い足りなさが残るし、最後に駆け足で取ってつけたような展望的結論が述べられているのが気になるが、「買い」の一冊だと思う。買いたい度 ★★★★ 読了日 2004-01-09
書名 まれに見るバカ 洋泉社新書052 著者名 勢古浩爾(エッセイスト) ジャンル 社会学・倫理学 価格 720円 内容 世の中にはバカなヤツが多い。
バカにもいろいろなバカがある。本書は、「バカが嫌いだ」と公言して憚らない著者が、とにかくありとあらゆるバカについて取り上げ、斬りに斬りまくるという、ただそれだけの本。感想 ああ、また買ってしまいました勢古浩爾の本。外れが多いと知り抜きつつ、店頭でペラペラめくると何だか面白そうで、ついつい買ってしまうのである。で、買って読めば、「買うほどじゃなかったな」と自戒の言葉を垂れつつ、それなのになぜか一定の満足感を得てしまうのである。
おそらく私は、心のどこかで、人生や世間に対するこの著者のスタンスに好感を持っているのだろう。
今回は、のっけからぶっ飛ばしてくれている。とにかくバカをめった斬りにするというのである。確かに、前半は胸のすくような記述が連発だ。
これは久しぶりに★4つか、と期待したのだが、そこはさすがに勢古浩爾、後半に至ってパワーダウンしたりピントがボケてきたり枝葉末節にとらわれ過ぎたりして、出始めの勢いが殺がれてしまっている。しかしまあ、★3つは充分に付けられるだろう。
ということで、ご用とお急ぎのない方は、読まれても損はないかも知れません。ただし少々割高なので、書物の内容と価格と引き比べたコストパフォーマンスを重視なさる方にはお勧めできません(笑)。買いたい度 ★★★ 読了日 2002-01-30
書名 ロボットの心 講談社現代新書1582 著者名 柴田正良(金沢大学文学部助教授) ジャンル 哲学 価格 680円 内容 ロボットは心を持てるか――この至極具体的なテーマに基づいて展開される興味深い考察の数々。
科学と論理学を武器として、心とは何か、思考とは何か、知性とは何か、自我とは何か、善悪とは何か、感情とは何か、等々、種々の形而上学的課題に挑む。感想 本書を「哲学」に分類したのは、著者が研究者であり専攻が現代哲学だから、というだけのことである。私は正直言って、本書をどういうカテゴリに当てはめて良いのか、明確な考えを持つことができずにいる。
とにかく、「刺激的な思考実験」の本、とだけ申し上げておこう。
心とはどうやって成立しているのか、ということに関心を持たない人はいないだろう。それは物理的に構成できる、つまり人工のロボットにも人為的に付与できるものなのか。それとも、物理的身体的なものから離れたところで、あるいはそれらとは独立したところで成り立っているものなのか。鉄腕アトムやドラえもんのような「心」を持つロボットは、製造することが可能なのだろうか。可能だとすれば、それはどのように構成されるのだろうか。
このような問題は、すぐに提示できる。本書が優れているのは、その提題に対する検討と回答が、実に緻密で、多方面からの考察に基づき、しかも著述が平易で面白いからである。もちろん、ズバリの結論が出せるようなテーマではないけれど、エラソーに述べまくった挙句に結論はナンモナシ、という竜頭蛇尾の新書が多い中で、本書はずいぶん健闘しているほうだろう。ぜひご一読されたい。
とまあこれだけ褒めておいてフルマークではないのか、と思われるかも知れないが、その理由は、各章の記述が短くて平易すぎるからである。もっと専門的に突っ込んで書いてほしかったと思う。買いたい度 ★★★★ 読了日 2002-01-24
書名 新エゴイズムの若者たち PHP新書183 著者名 千石保(財団法人日本青少年研究所所長) ジャンル 心理学・社会学 価格 680円 内容 自己決定主義、すなわち「自分のことは自分で決める」というのが当世の若者たちのトレンドであるようだが、反面、それは社会規範の軽視にもつながる。また、自己決定には責任が伴うのが本来だが、彼等の自己決定主義はそこまで踏み込んだものとなっているのか。
青少年研究の第一人者である著者が、戦後若者文化の変遷や諸外国との比較を通して、現代日本の若者たちの価値観について仔細に論考する。感想 なんかねぇ……第一人者がこれなら、青少年の倫理がどしどし劣悪化して犯罪なども多発するのがわかりますな。
序文は面白い。序章は、「おいおいなんで急にそんな話になるねん」とツッコミを入れたくはなるが、まあ興趣はそそる。第1章からが本論のはずなのだが、単なる宮台真司批判に終始したかと思えば、ああでもないこうでもないと発言趣旨を二転三転させ、うやむやのうちに終わる。第2章。国際比較なのだが、著者本人が緻密なデータ分析を謳っているわりには、いったい何が言いたいのかサッパリわからない定性的な言及が延々と続く。とにかく、読み手として何を享受すればよいのか、ポイントが絞れないのである。
第3章は、日本の若者文化論の変遷と言いつつ、実は自分の過去の著作を時系列的に羅列して概説しているだけである。徐々に読む気が殺がれてゆく。で、第4章第5章、なんかもうどーでもいいって感じぃ↑(語尾上げ)
というわけで、毒にも薬にもならない一冊でした。表題の「新エゴイズム」をキーワードにして斬新な内容が展開されているのでは、と期待した私がバカだったのね。もう他人なんて信じないわ。←何モン買いたい度 ★★ 読了日 2002-01-20
書名 先端医療のルール 講談社現代新書1581 著者名 島次郎(三菱化学生命科学研究所主任研究員) ジャンル 医学・医療倫理学 価格 660円 内容 臓器移植や遺伝子治療が次第に現実のものとなるにつれ、新たな医療倫理の問題が噴出しつつある。社会的コンセンサスを固めて取り組むべきこれらの問題に関し、わが国の制度や意識はあまりにも貧弱なままだ。
主要な問題をピックアップし、倫理的な考察と諸外国での検討状況の報告を通じて、問題の全体像を明らかにするとともに、我々が取るべき態度と方策を説く。感想 良書だが、やや退屈。というのが、本書の率直な感想だ。
内容については上記の通りなのだが、中身がとにかく硬い。社会制度の問題を微に入り細を穿って書いているのだが、具体的な制度は議論の結果として招来されるものであって、議論に先立つ哲学や理念が肝要なのではないだろうか。そういった部分の記述にもっと紙幅を割いてほしかった。
本書で取り上げられている問題は、「臓器移植」「生殖医療」「遺伝子医療」「異種再生・移植医療(ヒト以外の動物の組織などを使う)」の四つ。第1項の「人体は人か物か」は、哲学や理念に相当する部分の記述が多くて面白かったが、後半の項目に進むに従って論評が平板になる。また、「諸問題を包含する全体の見取り図から考える」というのが著者の主張であるらしいのだが、肝心の見取り図そのものの具体性にやや欠けているような印象を抱いた。
しかし、良書は良書だ。緻密な調査と論述は好感が持てる。社会制度の問題に絞った書物を読みたい人には絶好の一冊となろう。買いたい度 ★★★ 読了日 2002-01-10
書名 トヨタとホンダ 光文社新書016 著者名 塚本潔(フリージャーナリスト) ジャンル 経済学・経営学 価格 700円 内容 不況が続く日本経済にあって高収益を上げ続ける二社・トヨタとホンダの、インサイドルポと徹底比較。
最新車種の開発をめぐる鞘当てに始まり、経営のスタンスや開発コンセプトの相違、世界戦略、そして現在の両社をかくあらしめている伝統、将来展望までを的確に論ずる。感想 自動車メーカーといえば、いわゆる「重厚長大産業」の筆頭格であり、産業のソフト化・情報化が進む現代では日本経済の牽引車としては機能し得ない、みたいな論調がないでもなかったが、長引く不況の中で力強く利益を上げ、世界的な評価も高い日本企業はといえば、結局は自動車だったというのは、蓋し当然というべきか皮肉というべきか。
いずれにせよこの両社、実にで柔軟な経営を続けていることが本書を読めばよくわかる。その中にあっても、彼我の特長を見失うことなく、互いに尊敬し、かつライバル意識を燃やしつつ、切磋琢磨しているのである。
殊に、近年のホンダの躍進は目覚しい。日本の自動車といえばトヨタと日産が両雄だったが、今や完全にナンバー2はホンダとなったようだ。日産もゴーン体制で経営を好転させてはいるが、所詮は合理化によるものであり、メーカー本来の力を発揮してのものではあるまい。日産の凋落はこれからも続くのではないだろうか。
で、コンパクトにまとまっていながら読み応えもあり、充分に面白かった本書がなぜ★三つかというと、これはひとえに私が個人的にクルマ道楽がまったくないためである。要するに関心が薄いのだ。だったらこんな本読むなよと言われそうだが、そこはまあ、ご愛嬌ということで。買いたい度 ★★★ 読了日 2001-12-26