03年8月16日のテーマ 棚上げになった拉致問題

8月16日の日本経済新聞によれば,北朝鮮問題を巡ってワシントンで開かれた日米間の非公式局長級会議で,日本人拉致事件を6カ国協議から切り離す方向が固まった,とある。
事前に中国からホスト国の立場として,拉致問題を取り上げることは出来ない,とくぎを刺されていたことも有り,当然の帰結である。
だが一寸待って欲しい。
日本は拉致問題の解決が全ての大前提で,それなくしては一切の交渉はしないのではなかったのか。
6カ国協議ということになれば当然北朝鮮と交渉することになる。
拉致問題でなんの進展が無くても,安全保障,食料をはじめとする各種支援の問題の交渉をするということだ。
今日まで困っているのは北朝鮮,向こうのほうから折れてくるからと、拉致問題解決第1の強硬論を唱えてきた安倍官房副長官や拉致議連の平沢代議士達はこの事態にどう反応するのだろうか。
彼らの尻馬に乗って煽りたてていたマスコミはどう反応するのだろうか。
何しろ彼らの言う解決とは帰国した5人の家族を日本に呼ぶだけでなく,死亡したとされる人々の更なる証拠の開示やこのほかに100人以上いるとされる拉致疑惑の人々に関する真相解明に及ぶのだ。
ところが政府筋(まさか安倍ではあるまいが)は主張を大きく後退させ、北朝鮮が拉致被害者家族の帰国に同意すれば国交正常化交渉の再開を打診する,などと従来の主張を大幅に後退させた。
こんな状態で北朝鮮との交渉が始まるのだから安倍などは当たり前なら職を辞してもこの事態に抗議してしかるべきだが,おそらくそんなことはするまい。
小さな声でぶつぶつ言うのが関の山だろう。
だが彼らやマスコミの責任は重い。
小泉訪朝から約一年、この間北朝鮮の核開発は大きく進み,これを放棄させる為に、アメリカのネオコンの立場もあるので予断を許さないが、金正日体制の保障までせざるを得なくなったのだ。
五人を当初の約束どうり北朝鮮に戻してから(当初はこの人達も戻るといっていたが説得された)交渉を続けようなどという現実的な主張をする人達には、マスコミに煽られた連中から非国民,国賊(戦時中良く聞いた言葉だ)という罵声が集中し、意見を発表する場からも干されてしまった。
このマスコミに煽られた世論の前には現実派の外務省も自らの保身も有って為すすべが無く、今日に至ったのである。
小泉訪朝時には、核開発の放棄もうたわれていたのだし、現実的な対応をしていれば状況は今日のように悪化することは無かっただろう。
帰国した5人の人達も、多分今ごろは家族とともに日本で暮らすことが出来ていただろう。
24年間親兄弟から引き離され、今また子供達から引き離されているこの人々に普通の日々が来るのはいつのことだろうか。
このパスカルの論評では、当初から拉致された人々やその家族はどんなことを主張しても良い、それだけの酷い目にあっているのだ、だがマスコミは英雄視してこの事件を煽りたててはならない,と主張してきた。
だが視聴率第1のTVを筆頭にマスコミは毎日のようにこの問題を扇情的に取り上げ、強硬論者の安倍を次期総理候補と持ち上げることまでした。
だが彼の主張はマイナスしかもたらさなかったのだ。
太平洋戦争の時もそうだったが、強硬論は常に耳に快く,世論を惹きつけるが,プラスの結果にに結びつかない,むしろ危険なことの多いことを知るべきである。
6カ国協議が決まる前は,4カ国協議案というのがあった。
それは拉致問題にこだわる日本を外して,アメリカ,韓国,中国,北朝鮮の4カ国協議をしようというものだった。
このことは日本では報道されなかったが(何故?)、韓国のニュースをNHK衛星放送で見たときにこれが取り上げられていた。
韓国政府はこの案(中国案?)に賛意を表明していたから,日本政府はかなり慌てたはずだ。
幾ら北朝鮮を批判し、金正日が悪者だと言いたててみたところで、そんなことは始めから判っている。
そういう相手にどう対処すれば成果が挙げられるか、それが大切なのだ。
なにはともあれ、北朝鮮からミサイルが飛んでくる危険性は当面回避できたことに祝意を表したいが,まだ油断は出来ない。
アメリカには力の強いネオコンがいるし、北朝鮮は核の保有が有効だと知ってしまったのだ。
6カ国協議は一筋縄ではいかないだろう。

以   上

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