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このコンサートを成功させるためになんといっても一番重要なのは練習だ。ベルリン・フィルのコンマスと首席ソロチェロ奏者と共演するためにはどんな練習をしたらいいか??そんなことわかるわけがない。ただただ、指揮者の山下氏、それからT氏が紹介してくれた各トレーナー氏の指導を素直に聞いて個人個人が練習に励むしかない。
アマチュアオーケストラの中には自宅ではほとんど練習しなくて、合奏のときだけ楽譜を見るというところもあると聞いている。アマチュアで楽しむことを目的とするのならそれでもいい。しかし、この場合はそんなのんきなことをいってはいられない。
とにかくできることはすべてやろう。
ではなにをやるか?今までの練習を考えてみた。ひとつ気付いたことはけっこう毎会の練習で同じこと注意されているということ。つまり、練習で指揮者、トレーナーの言ったことを覚えていないのだ。1回の練習が3〜4時間あるわけでその間のことを全部覚えておくのは不可能なことだ。だから、これまでは「1回の練習でひとつでも身についたらいい」こう考えていたが、甘かった。
ここで、話題はそれるがこのことについて考えてみたい。
アマチュアオーケストラ界には大きくふたつの考えかたがある。ひとつは、アマチュアなんだから楽しむことが第一であまり厳しいこといわないほうが長続きする、というもの。もうひとつは、アマチュアでもオーケストラでお金をとってコンサートするのなら責任が取れる内容のものをするべきで、したがって音楽的に出来る限りのものを追及するべきだ、というもの。
そして、たいていのオーケストラはそのふたつの考えをある程度あわせもっているものだろう。
私はもちろん後者の考えだが、このふたつのスタンスには、どちらが正しいということはない、とおもっていた。アマチュアだし、趣味の集まりだからメンバーの考え方さえ一致していれば他人がとやかくいうことはなく、本人が満足してさえいればそれなりに意義はある。こう考えていた。
このコンサートをするまでは。
今は、微妙に違う。アマチュアだからといって甘えた考えでやってはいけないのではないか。お客さんに失礼というより、音楽に対して失礼だと思う。音楽にたいして誠実に取り組んだら得られるものは莫大でアマチュアでも出来る限りがんばったほうがいい。少なくとも私はただ楽しむためのアマオケでひく暇はない。
話を戻す。練習の内容を忘れるのが当たり前だったのをどうしたらいいかと考えて単純な方法だが毎回録音することにした。録音してきく。1週間後に練習のテープを聞くと、練習のときは感動したことも忘れることがけっこう多い。4時間の練習のテープを聞くには4時間かかる。この方法はとてもいいが、とても時間がかかる。もしこれが今回のような状況でなかったらすぐにめげていて長続きしなかっただろう。でも、この時はやれることはすべてやるときめていたので最後までやることができた。
車を運転するときは、ほとんどこのテープを聞いた。義務感から始めたが、これ、とってもおもしろかった。
それから、弦楽器はひとつのパートを数人で一緒に演奏する。だから自分がどの程度できているのかはなかなかわからない。ごまかそうと思えばいくらでもごまかせる。楽器を弾くことよりごまかすのが実にうまい人もいる。
室内楽ではそういうごまかしがきかない。そうだ、室内楽で練習すればいいんだ。
ということで新しい練習方法が始まった。名付けて「カンマープローベ」
ドイツ語で室内楽は、「カンマームジーク」練習は「プローベ」。その2語を組み合わせて「カンマープローベ」という言葉を作った。カンマープローベのやり方は、弦楽器各パートひとりかふたりずつ集合。そして、トレーナーが音の長さ、正確なリズム、それから楽譜に書いてあることを丁寧に練習していく。
こうやると合奏では自分でも気づいていないことがたくさんわかる。ひとりだけ違うリズムで弾いてることがこのカンマープローベではよくわかったりする。とても画期的な練習だと思う。
唯一の欠点はトレーナーが大変なこと。トレーナーは同じことを何回も何回もしなくてはいけない。大体同じ練習を5回すると全員をカヴァーできる。その時は私とコンマスの清永君がトレーナーをやったが、当時私は熊本市から一時間以上離れたところにすんでいたので、往復するだけでも大変だった。でも、効果はてきめんだったと思うし、自分自身の勉強にもなった。
また、この時から通信の発行を始めた。題はモーツァルトの名前からもらって「AMADEUS」。
この「AMADEUS」を書きまくった。練習計画から、山下さんや、各トレーナーから教えられたこと、コンサート情報など盛りだくさんの内容でこれも自分で言うのも何だがかなり役に立ったと思う。
「AMADEUS」にベルリンについて書いたことがある。これは、ファゴットの蓮沼君の一言がきっかけだった。「えっ、ベルリン・フィルって西ドイツのオーケストラなんですか?」
オケのメンバーに聞いてみると、けっこうみんな知らない。ベルリン・フィルが西ドイツのオケであることを知らない人が半分くらいいたのだ。それどころか“ベルリンの壁”という言葉は知っているので、ベルリンは西ドイツと東ドイツの境界にあると思っている人もとてもたくさんいた。私は旅をしていたし、ウィーンに留学している日本人の友人から共産圏についての話を聞いていたのである程度の事情は知っていたが、もし私にそういう経験が無かったら同じように無知だったかもしれない。
それで、ベルリンの壁がどうして作られたのかということ、西と東の暮らしぶりの違いなどを書いた。多くの人にこれも感謝された。
「カンマープローベ」にしても「AMADEUS」にしても練習を録音して何回も聴くことも、すべてとにかく何でもいいからできる限りのことをやってやろうというところから出てきた行動だ。人間、いざとなったら普段では考えられない力を発揮するものだ。
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