199年のThe Sinfoniettaの演奏会ではメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」「ヴァイオリン協奏曲」、ベートーヴェンの交響曲7番をやりました。指揮は山下一史、ヴァイオリンソロは篠崎史紀。
 その時のプログラムに収録した山下氏とThe Sinfoniettaのメンバーによる座談会の記録です。

「山下一史が語る」?今夜の演奏会

 今夜の演奏会について、山下氏とザ・シンフォニエツタのメンバー数人で語りあいました。以下はその時の抜粋です。メンバーについては、楽器の名前で表記しています。

◆フィンガルの洞窟
チェロ氏:今日の練習での「フィンガルの洞窟」は今まで僕たちが練習してきたものとイメージが少し違いました。山下さんのほうが、荒々しいというか、きびしいというか‥‥‥。

山下氏:あの曲は海を音楽にしたものでしょう。海っていうのは穏やかなときだけではないよね。実はこの曲は、僕が指揮を勉強しはじめて、初めて振らせてもらったオーケストラ曲助で、スコアのすみからすみまで勉強して、とても思い出に残っているよ。はじめのビオラとチェロのメロディーは単純にただの情景で、さらりと始めたい。今日の練習の途中で「少し、アジタート(せきこんで)」と言ったり、「もっと荒々しく」と言ったりしたけど人間は海を見たとき何を感じるだろう。「何が起るんだろう」と不安に思うんじゃない?この曲の海はスコットランド近くの海で、汲も高いだろうし、急にうわ−つと牙をむくこともある、そういう海じやない?今日みんなが弾いたのは丁寧すぎる気がしたよ。第2テーマに伸びやかなメロディーが出るけれど、その時だって第2バイオリンとかが16分音符でずっと細かい動きをやっていて緊張感がなくならないじゃない。

フルート女史:私はクラリネットがゆっくりと第2テーマを吹くところが好きなんです。2本のクラリネットがピターツと合っているのを聴くとゾクゾクします。

◆ヴァイオリン協奏曲
山下氏:今回、マロ君(篠崎史紀氏)という素敵なソリストを迎えるよね。彼は普通のクラシックの音楽家の枠にはまらない個性をもっているし、今まで僕たちが共演してきた、いわば大家の人たちと違って同年代のソリストなわけで、そういう意味で期待できるね。
このコンチェルトのことだけど、あまりにも有名すぎてみんな良く知っている曲だけど、怖さを知らないってとこがあるね。例えば3楽章は、なかなかソロとオーケストラが合わなくて大変なんだよ。有名な1楽章だけど、「フィンガルの洞窟」と似ててひと時も停滞しない感じがほしいね。メンデルスゾーンってあまり探刻になりすぎない音楽家だったと思うんだ。だからシリアスになりすぎないようにしようよ。このコンチェルトは有名なだけあってそういうメンデルスゾーンの一番良いところが出ている気がするね。
2楽章もうたいすぎないじゃない。ただ音符を音にしちゃうだけでもキレイってとこがあるね。ほかの作曲家は音に意味を持たせないと、ただ音が並んでいるだけ、みたいになっちゃうけどね。
3楽章なんて遊びみたいなものだしね。

オーボエ氏:遊びみたいに吹けりゃいいんですけど。

山下氏:それを遊びみたいに吹こうよ!!「こんなの簡単よー」つて風にね。オーボエ氏:こういうときの指揮者ってうらやましいですね。気持ちよさそうに棒振ってて?山下氏:いや、気持ち良さそうにしていて、ひたいから冷汗がタラーッてもんだよ。(笑)

◆交響曲第7番
山下氏:ベートーヴェンって音楽家にとって一番大切な作曲家だね。ぼくがこのシンフォニェツタで初めてやったのが第2番だったけど、ぼくの気持ちの中にはこの7番は4年間の集大成というものがあるね。
今日の練習でみんなに申し訳ないと思っているのは、テンポのこととかリズムのこととかばっかり言ってしまったことね。でもこの7番は、リズムがうまくできているかということがとっても重要なんだよ。リズムといってもmが時間どおりにできるだけでなくて、そこに躍動感が出てこなくちゃ。3拍子ってのは日本人には不得手みたいだね。3拍子の踊りが日本にはないからかな。

フルート女史:あのリズムが頭を離れなくって、つい口ずさんでしまうんですよ。

山下氏:そうだよ。楽器ってのは体で覚えなきや。1楽章は、ひとつのリズムだけであれだけのものになっているんだね。だから、ベートーヴェンがいかに偉大な作曲家なのか、ということが言えるね。同じモチーフをくり返すことによってでてくる、緊張感、躍動感!!
2楽章だけど、ラベルの「ボレロ」の魅力はメロディーの繰り返しだよね。この2楽章はシンプルなテーマの繰返し。このリズムの歩みがずっと続くでしょう。クレッシエンド(だんだん強く)してf(フォルテ)になってもこの歩みは続いている。このf(フォルテ)は、興奮のf(フォルテ)というよりも、繰り返しによって自然に達した結末だと思う。ff(フォルテッシモ)になって3連符など出てきても、ぼくはこのテーマだけを小さい手の動きだけで指揮したい。小さく振ると音楽の中身が濃くなってくるんだよね。大きく振ると音量は増えるけど、中が希薄になってしまうんだよね。棒を大きくしないで中から燃えてくる、そういう演奏したいんだけど、指揮のテクニックとしては一番むずかいんだよね。この繰り返しからは何か宿命的なものを感じるね。

チェロ氏:山下さんは3楽章はきのうの練習でp(ピアノ)、f(フォルテ)、cresc、(クレッシエンド)などの目まぐるしい変化のおもしろさを出そうっておっしやつてましたが・・・

山下氏:全くそのとおりですよ。

フルート女史:私はマロ君が練習に釆たときに「ニワトリ小屋の戸が開いて、出てきたニワトリがコッコッ・・・と走り回っているような感じで?」と言ったのを思い出すんですよ。

山下氏:3楽章は2楽章と大変違って、哲学的な要素よりもジグソーパズル的要素が強くて楽しめるよね。そのために、f、Pをちゃんとやることが大事なんだと思う。それをやらないと、色がなくなっちゃう。

チェロ氏:トリオは僕が中学生のころってあんまり好きじゃなかったんですけど、「田園」に似た寡囲気があって、牧歌的な魅力がありますよね。

山下氏:うん、それでそれがcresc.して、壮大なまさに王様の音楽にまで発展するね。

チェロ氏:4楽章ですけど、あれは本当に燃えますね。熱狂、狂乱、内側からあつくなってくるようで?。

山下氏:まず4楽章はカチッと弾くことが大事。そして、それができてから、ぐいぐいと前にもっていくことができたらあの曲は最高だと思うけどな。今彼がいいこと言ったけど、内側から熟くなってこなくちゃいけないんだから、ゆっくりのテンポでいいからガチッとした建造物を造っておいて、それができてから、台に乗せて引っ張ればいいんだよね。
とにかく4楽章の魅力は、番い准進力だと思うわけ。壮大な建造物が、一瞬の停滞も許さずにつき進む、一番ベートーヴェンらしい、いい楽章だね。4楽章もモチーフが少ないけど、それをこれでもかこれでもかって繰り返すことによって、あれだけの大シンフォニーを創ってしまうベートーヴェンは偉大だねぇ。

チェロ氏:コーダにはいって、どんどん熱くなってきて、ついにフォルテが三つ(fff)も書いてあるところがでてきますね。

オーボエ氏:あそこは、でもずっと吹いていて、バテてしまっていることが多いんですよ。

山下氏:でも本番では、あのフォルテ三つはきっとそう演奏できると思うよ。1楽章からずっとやっていくと、自分で弾いているというより、自分以外のものに弾かされているようになってしまうと思うんだ。それは別に指揮者に、という意味ではなくて、ベートーヴェンの第7交響曲に弾かされてしまう。こういうことが絶対あると思うよ。
 今まで話してきて、僕たちがこれだけベートーヴェンの魅力について語れるって言うのは、本当に好きになってきた、と言うことだろうね。やっばり演奏する上で一番大事なのは、ただ“演奏する曲が好きだ!”ということ。「僕はここが好きだ!」つてことをお客さんに聴いてもらうわけでしょう。ただ楽譜を音にするだけだったら機械でもできる。「ほら、ここいいでしょう?ほらほら、こっちも?」つて言えるから、生身の人間のオーケストラは素晴らしいし、それが音楽の本質だから、プロもアマチュアも問わないわけでしょう。アマチュアも、そこで幸せになれると思うな。

−ある日、練習のあとで−