私の好きな曲

モーツァルト/ヴァイオリンと
ヴィオラのための協奏交響曲

 この曲、モーツァルトの数ある協奏曲の中でも特に内容豊かな名曲だと思う。3つの楽章がそれぞれ強烈な個性を持っていて、不思議な調和を見せている。モーツァルト自身はヴィオラを好んで演奏したときくが、モーツァルトがヴァイオリンとヴィオラを全く対等に扱って、見事というのも愚かなくらいの完璧な二重協奏曲を残してくれた。
 普通ヴィオラは縁の下の力持ちといわれることが多く、オーケストラでも室内楽でもほんとに目立たない存在だ。ところがここでは、そのヴィオラが他のどんな楽器にも負けないくらいの魅力、存在感を発揮している。私はこの曲以上のヴィオラの名曲を知らない。
 第一楽章はいかめしい感じのオケのトゥッティで始まる。冒頭から独奏楽器がでてくるまでがこの曲の中で一番魅力の少ないところかもしれない。この曲を初めて聴く人は、この序奏でめげないことがポイントかな。
 やがて二つのソロ楽器の登場となるが、この登場の仕方が実ににくい!!いつ始まったかわからないようにそっとオケの響きの中に進入してくる。協奏曲だとたいていの場合、ソロの登場は目立つように作曲されているものだ。しかし協奏交響曲という名前からわかるように、モーツァルトは意図的に、こんなところでも協奏曲とはっきり区別しているのかもしれない。
 ソロが登場したら後は二つの楽器があるときは対話したり、またある時はぴったりデュエットしたりと次から次に魅力的な音楽を紡ぎだし、聴き手を飽きさせることがない。

 第二楽章は、モーツァルトとしては珍しいくらい、あからさまに深い悲しみをたたえたような短調の傑作。美しい旋律をいつも奏でるヴァイオリンはもちろんのこと、普段は目立たない存在のヴィオラがまたヴァイオリンでは表すことのできない深く渋い音色でヴァイオリンと同じ旋律を奏でていくが、ここはほんとにいいヴィオラ奏者の手にかかるとヴァイオリン以上にこの音楽にぴったりの表情を表すことがある。

 第三楽章。前の第二楽章とこの第三楽章の性格の違いは尋常ではない。前にあそこまで深く悲しんでいたかと思うと、ここでは実にあっけらかんとして天衣無縫の澄み切った音楽に一変する。
 明るく美しい音楽だが・・・美しすぎる。第二楽章がある種の人間的な感情を表しているとすれば、この第三楽章は、天上の様子を垣間見せてくれるかのような、それこそモーツァルトにしかかけないような音楽といえる。

 この曲は何回聴いても、ある時は第二楽章、またある時は第一楽章のソロの登場の部分、またある時は永遠に流れていくかのような第三楽章・・・それぞれの魅力に魅せられてしまうことだろう。


シューベルト/歌曲集「美しい水車屋の娘」

 この連作歌曲集に出会ったのは高校生の頃。ザルツブルク音楽祭でペーター・シュライヤーがギターの伴奏でこの曲を歌うということで話題になった。その演奏がNHK-FMで放送されることを知り、この曲を知らなかったので、予習しようと1500円のレコード買ってきた。とフィッシャー・ディースカウとジェラルド・ムーアによるモノラルの演奏だった。
 そのレコードを通して聴いた私は、それまで感じたのこのないような感動を覚えた。
この曲は、さすらいの旅の途中の若者が水車屋の娘に一目ぼれして、一旦は仲良くなれそうになるが、突然現れた狩人にその恋人を取られてしまう。そして失意の若者は川に身を投げて死んでしまう、というどうということもないストーリーだが、それにシューベルトがつけた音楽のすばらしさは以来約20年私の中で一番大切な音楽の一つであり続けている。

 特に後半の音楽は、シューベルトの音楽の特徴の美しい旋律、というだけにとどまらない凄さを秘めている。それも未完成交響曲の一部や「死と乙女」の特に第一楽章などのように、外に向かってエネルギーを発散させるのとは違い、ひたすら内へ内へと深く直接的ではないが内容的には勝るとも劣らないものがある。
この曲をまだよく知らないという方は、ぜひともこの夏の間にゆっくりと音楽に向き合える1時間をとって、歌詞対訳を見ながらじっくり聴いてほしい。私の気持ちがわかっていただけると思う。

 NHK-FMでこのふたりのシューベルトの有名な歌曲をたくさん歌ったライブを聴いたことがある(20年近くも前のこと)。それがあまりにも素晴らしくて、以来このコンビのシューベルトのライブのCDがでないかなと注意しているが、今のところ私の目には入ってきていない。

 ところがしばらく前になんと「美しい水車屋の娘」をフィッシャー・ディースカウとエッシェンバッハが演奏した映像をNHK-BSでやったのだ!
 楽しみに楽しみに待っていたが、なんたることか野暮用でテレビをつけるが遅れ、最初のところを見逃してしまった。でも途中からおしまいまでは堪能することができた。どなたかこの時の放送をビデオにでも録画されていませんか?もしいらしたら一度ぜひ見せてください。


ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲

 この曲は、大好きなベートーヴェンの中でもトップクラスにお気に入りの曲で、たった今クラシカジャパンでカラヤン、ベルリン・フィル、ムターのライブを聴いたところ。3つの楽章それぞれが大傑作で全て好きなのだけど、特にいつ聴いてもしびれるのは3楽章の短調の部分。ソロヴァイオリンの後で同じ節をファゴットが引き継ぐところはここが演奏できるだけでもファゴットふきになりたいと思ったことがあるほど魅力的な部分だ。

 この演奏、多分中学生のころNHK-FMから録音して何回も何回も聴いた演奏に違いない。約20年ぶりに鮮明な映像付きで再会できるとは!!
 この演奏は私が初めてこの曲の魅力に気付かせてくれたもので、当時ムターがカラヤンに発見されてレコーディングを始めて数年後ベートーヴェンに挑戦したもので当時話題になったものだ。
 この曲をはじめて聴いたのは、ハイフェッツのヴァイオリン、トスカニーニ、NBC交響楽団によるものだった。なにしろこの演奏テンポがものすごく速く(40分もかからなかった)音質も悪くて、どこがいいのか全くわからなかった。
 ところがムターのものはヴァイオリンも純粋で美しく、ベルリン・フィルのオケの部分も重厚で深い音楽を奏でていた(さっきのファゴットなど下手な歌手よりはるかに歌に満ちていた)。

 この曲の始めて買ったレコードは、シェリング、ハイティンク、コンセルトヘボウによるもので、これまたとても美しく、この曲に完全にはまることになった。
 そのシェリングがN響にきてこの協奏曲をやったことがあり、その時のテレビ放送を見ていたらシェリングのインタビューがあって、その中でシェリングは2楽章後半のフレーズを一番好きだと言っていた。そのシェリングの意見をきいてからその個所を聴くと確かにシンプルなメロディーながら宗教的ともいえる深い祈りにも似た音楽で、そこをじっくり聴いているとベートーヴェンのすごさに圧倒される。


 ヨハン・シュトラウス/オペレッタ「こうもり」

 きのうクラシカジャパンでカルロス・クライバーの「こうもり」をやっていた。久しぶりに見たが、これは間違いなく大傑作!!
 音楽の楽しさ、ここに極まれり。特に第2幕の楽しさといったら、ありふれた表現だがまるでおもちゃ箱をひっくり返したようなというのがぴったり。中でもチャールダッシュ、シャンパンの歌、バレエの伴奏として演奏されるポルカ「雷鳴と稲妻」など
 クライバーのいきいきとした指揮ぶりが所々でかいま見られるのもこのビデオのとても大きい楽しみのひとつだ。ファルケから始まり重唱、合唱が加わる第2幕のクライマックスの部分では、クライバーの陶酔ぶりが彼のビデオの中ではバイエルン国立オペラとやった「バラの騎士」と並んで最高だろう。このクライバーを見て指揮姿そのものに感動しない人はいないに違いない。カメラがクライバーから舞台に移った瞬間、「なんで舞台を撮すんだ!」と文句を言いたくなる。
 
 「こうもり」序曲も非常に有名な曲だ。以前NHK-FM、日曜日のオペラ・アワーのテーマ音楽になっていてこの曲がはじまるとワクワクさせられたものだった。オペラ全体を7分に凝縮したような豊富な内容で、聴く人を飽きさせない。
 この序曲、クライバーのお得意のひとつでいろんな機会に演奏しているが、シュトゥットガルト放送交響楽団とのリハーサル風景のビデオが残っている。これがまた最高におもしろい。LDで発売されていたが私はNHK−BSで見た。
 クライバーの「こうもり」序曲はCDのもの、ビデオのもの、ウィーン・フィルとのニューイヤーコンサート、それからミュンヘンのオケと来日した時にやったアンコールといくつも聴いたが全部同じクライバーの特徴が刻まれている。そしてその芽がシュトゥットガルト放送交響楽団とのリハーサルにほとんど全部含まれていることがわかる。
 クライバーは同じレパートリーを何回も何回も繰り返してやる極端にレパートリーの少ない指揮者だが、本当に自分のものになったものだけを演奏しているのだということがこういうことからも理解できる。

 この「こうもり」非常に幸運なことに、1984年に初めてヨーロッパ旅行をしたときに2回もミュンヘンで見ることが出来た。1回は立ち見席だったが、1時間ほど並んであっけなく手に入った。当時でもクライバーの人気はすごかったと思うが、けっこう簡単にチケットが買えた。今ほど指揮する回数も少なくなかったのが良かったのだろう。
 この経験は今となってはとても貴重なもので運も良かったと思う。21歳の時の初めての海外ひとり旅でヨーロッパの芸術のレベルを思い知らされて、こんな町に住めたらどんなに幸せだろうかと思ったものだ。
 3幕は音楽よりせりふの方が多いかもしれないが、そこは実演ならではで刑務所の看守のセリフで劇場中、クライバーも大笑いしているのを見て、言葉は全くわからなかったがその雰囲気の中に入れて楽しかった。


ヨーヨーマのバッハ/無伴奏チェロ組曲

 ヨーヨーマの新しいバッハのチェロ組曲聴きましたか?これこそ僕にとって待ちに待ったバッハです。ここだけの話、カザルス伝説的な名演は僕にとってどうも苦手な存在でした。聴いていて汗かきそうなしんどい演奏に聞こえていました。他にもたくさんたくさんこの名曲の演奏は様々なチェリストのモノを聴きました。どれもこれもいまひとつピンとこなくて、僕はこの曲は生涯楽しめないのかな、とさえおもっていました。

 このヨーヨーマは間違いなく僕にとって、そして多くの人にとっても最高のバッハではないでしょうか。ひとことでいって「自由」です。バッハというとまだどこかにいかめしいイメージが残っている人もいるかもしれませんが、これは全く新しいバッハです。繰り返しをしたときに1回目と2回目で表情が違うことも多く、またそれがどっちも魅力的だったり、ほとんどの演奏家が考えもしないような表現があったり、もちろん世界最高のテクニックをもつ彼だけに技術の冴えを聴くだけでも凄い快感です。何というチェロか知りませんが、チェロの最高美の音色もたっぷり味わえます。
 もう何回もきいてますが、聴くたびに「これはたまらん!!」とさけびそうです。僕にとって今年最高のCDは間違いなくこれです。

 バッハ好きも嫌いも、ヨーヨーマ好きも嫌いもみんなに聴いてほしいバッハです。
 ヨーヨーマは最近特に僕のお気に入りなんです。少し前にでたシューベルトのます、アルペジョーネ・ソナタもあまりの美しさに、僕ほどはたくさん音楽を聴いているとはいえない奥さんが初めて聴いたとき「えーっ、これきれいねー!」と叫んでました。

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