◆いちげんさん◆
(1999年 日本)

監督: 森本功
脚本: 森本功
出演: 鈴木保奈美、エドワード・アタートン、中田喜子他


まず、思ったのは、鈴木保奈美は、いつの間に、こんなに達者な女優さんに
なったのだろうということ。
目を開けているのに見えないという演技は、とても難しいのではないでしょうか。
目の焦点をどこにも合わせず、会話の内容や、周りの人の仕草にも瞳を動かさない。
相手役の「僕」の視線が、実に表情豊かなので、よけいにそれを際立たせていました。

対面朗読。
目の見えない相手のために、声に出して朗読すること。
これって、なんだか、読む人と聞く人の間に、精神的にものすごく密接な関係が
生れるものなのでしょうね。

聞くほうにとって、朗読する人間の息遣い、間の取り方、全てが、その作品と一体と
なっているのですから。
そういう特殊な環境の中では、それが、恋に育って行くのも、不思議ではないですね。

京都の街のゆったりとした流れの中で、向き合った2人の人間。
一方の声に、もう一方が、相手の声にだけ耳をすましている。

それから、京子が、「僕」の顔に手を伸ばして、そっと、でも、確かめるように
触れている場面。2人が、抱き合っているシーンよりも、どきどきしました。
それから、2人で筆で文字をしたためるところ。

そんなふうなシーンがあるから、全体の雰囲気はまるで違うのに、『春琴抄』を
思い出してしまいました。

実際には、この作品には、もっと、楽しいシーンがいっぱいなのです。

食欲旺盛で、本をかじりまくるウサギや、京子と「僕」が、カラオケに行くシーン。
それから、ヒッチハイクでの「僕」の旅の様子。

2人の関係が、どんなに素敵でも、京都という街は、新しく来た人間を、
容易には地元の人間として認めないのですね。
ヒッチハイク旅行で、改めて京都のそういう体質を感じた「僕」は、卒論の
口頭試問でのなんやかんやも手伝って、ある決心をするのです。

自分の、そして、京子の未来にも大きな影響を及ぼす決心を。

本当に、京都の街によく似合う恋の物語でした。


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