◆落下する夕方◆
(1998 日本)
リカは、ある日突然、4年一緒に暮らした恋人健吾に別れを告げられた。華子
という女性に一目惚れしたというのだ。1人で引っ越して行った健吾の後に、
なぜかその華子が押しかけてきて、リカと一緒に暮らし始めた。その華子に逢
いたくてやってくる健吾とリカ、華子の微妙な生活が始まった。
まず、目に焼き付くのは、青。水の青、空の青。アイスキャンディの青。
そして何より心の中にある青・・・。その全ての基調とも言うべき青が、
あるとことから、タイトルの夕方をイメージさせるオレンジに変ります。
夕陽。夕陽に染まる海。紅葉。それから・・・。
それらが、とても視覚的で美しいのです。
健吾に別れを告げられる前のリカと健吾の様子が、観てるほうは、その後、
健吾がリカに何を言うかを知っているだけに、せつないものがありました。
それに、どうやら、原作にはない事件が、2人に影を落としているようなのも、
すごく気になりました。
そして、レストランで別れを告げられ、「彼の苦しそうな顔を見たくない」
からと、その言葉をさえぎるリカの心に、胸が痛みます。好きな人と別れるよりも、
別れを告げる彼の苦しそうな顔を見る方が辛いなんて。もう、そういうときは、
泣いたりわめいたりしていいのに、ってリカの友人の涼子ではないですが、彼女の
肩をどやしてあげたかった。
この涼子の存在が、ものすごくリカを支えているのが、嬉しかったです。
2人の食事シーン。ショッピング・シーン。その中で、少しだけ出てきた少女、
というか童女の日本人形の、今にも表情が動き出しそうな様子が、すごく印象に
残ります。それとか、2人で、大きな壷のようなものを、運んで歩いているシーン。
すごく、2人の関係を表わしているみたいで、素敵でした。
そして、原作には出てこないのですが、リカが何度も遭遇する素敵な老夫婦が
います。この夫婦、お互いをとても大切に思っていることが、それぞれの短い
登場シーンの中で、しみじみ伝わってくるのです。寄り添って歩いている2人。
自分も、誰かと、ああいうふうに年齢を重ねていきたいと感じました。
それから、リカの母親がいます。娘は何も言わないし、母親は何も聞きません。
でも、だからこそ、娘を思う母親の気持ちが伝わってきて、優しさのあふれる
シーンでした。
それから、リカが美容室にいるシーン。ああいう雰囲気って、同じ女性として、
言葉じゃなく、実感として伝わってくるものがありました。行き付けの美容室で、
髪を洗ってもらうときの、穏やかで、相手にすべて任せてしまう感じ。
そして、華子。彼女の行動の理由は、ほとんど作中で語られることはありません。
どうして彼女は、リカの部屋に押しかけたのか。どうして彼女は・・・?
リカと華子って、本当に正反対なのですね。着るものもそう。
リカが、ほとんどのとき、スリムタイプのジーンズなのに対して、
華子は、テロテロな材質の、ちょっと長めのフレアスカート。それも柄物。
なんだか、とっても「らしい」感じ。
それから、自分の心変わりから、リカを傷つけてしまった健吾。
できることなら、それを思い出させるリカには、会いたくないはず。
でも、彼にとっては信じがたいことに、「今、1番会いたい華子」が、あろうことか
リカと一緒に暮らし始めてしまった。
なんという状況!
健吾は、決して身勝手な男ではありません。
リカのことも、できるならば傷つけたくはなかった。
今となっては、会わないほうがお互いのためにいいはず。
でも、好きになった華子、そのためにリカと別れた華子と会うには、
リカの部屋にいくしかない。
そういう状況ですから、リカの部屋で、健吾はなんだか、居心地が悪そうです。
そして、元の恋人の部屋で、今、好きな人と会っているという状況に、1番
戸惑っているのも健吾のように見えました。
そんな健吾に、渡部篤郎って、まさにはまり役。
というか、渡部篤郎って、こういう役も、危険を秘めた男の役もばっちり
こなしてしまう素晴らしい役者さんなのですよね。
だから、好きなんです。
あ、それから、登場してくる時間は短いですが、大杉蓮さんも、
いつものように、というか、あいかわらずというか、出てくるだけで
感じさせてくれる方ですね。
原作と映画で、大きく違っていることの1つに、華子の弟のことがあります。
原作では、華子は、その弟を、とても誇りに思っていて、リカに引き合わせます。
深読みし過ぎかもしれませんが、どこか、この姉弟の関係に、血のつながりを越えた
あやういものを感じてしまいました。
映画では、そういう点でのあやうさは、まったく消されてしまい、華子の弟への
気持ちは、まったく質を異にするものになっていました。
私としては、小説での雰囲気の方が、なんとなく好きなんですが。
あまりに大きな傷を2人きりで共有すると、それが、2人にとって、お互いを
結びつけるものにもなり、逆に引き離す要因ともなるのですね。
映画で、リカと健吾の間にも、そういうものが横たわっていました。
ある1人の男性の記憶・・・。
でも、2人は、この事実を、華子をバネにして、しっかり見つめることで、
新たな道を見つけたのではないかと思います。
リカ、華子、健吾の3人の、どこかモラトリアムみたいな関係は、
やっぱりどこかで、どんな形にしても終焉を迎えずにはいないわけで・・・。
でも、そういう微妙なバランスの中にいると、その先に一歩を踏み出すには、
勇気と痛みが必要なんですね。
でも、リカは、その痛みを、自分の中に取り込んで、乗り越えていく力を手に
していたように見えました。
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