◆モンタナの風に抱かれて◆
(THE HORSE WHISPERER 1998米)

原作:『ホース・ウィスパラー』ニコラス・エヴァンズ
監督:ロバート・レッドフォード
脚本:エリック・ロス、リチャード・ラグラヴェニーズ
出演:ロバート・レッドフォード、クリスティン・スコット・トーマス
スカーレット・ヨハンソン

ある雪の朝、グレースは、乗馬中の事故で、親友を失い、自身もまた、片足を
失ってしまった。グレースの母アニーは、娘と、愛馬ピルグリムを救うために、
モンタナの牧場へ、トム・ブッカーを訪ねて行く。


映画と、原作となった小説を両方知っている場合でも、
いろんなパターンがあります。
最初に小説を読んで、それが面白かったから映画を観に行った場合、
映画を先に観て、そこから興味を持って小説を読む場合。
たまには、原作となる小説を読んでいたのに、それとは知らずに
映画を観に行く場合や、その逆の場合もあります。
今回の場合は、まず映画ありきでした。映画を観たその足で本屋に行き、
文庫で上下巻に別れた小説を買いました。
そして、気づくと一気に、読み終えていたのです。

小説は、平易な文章で、かなり淡々と綴られています。少女の事故以外には、
とりたてて大きなできごとなどないというかのように。モンタナの大自然の素
晴らしさも、言葉では語られていません。ただ、読者は、そこに生きる人々の
心のありようや、癒されて行く少女や馬の姿によって、その力を実感します。
想像力こそが、モンタナの大自然の力を感じる術なのですから。

一方、映像では、その力は、まさに五感に訴えてくるのです。
目や耳からだけでなく。
草原をわたる光の暖かさや、風のにおいまでが伝わってきます。
とくに、光の使い方が素晴らしいのです。
監督であり、主演しているロバート・レッドフォードは、この作品で、
ほとんどのとき、カウボーイハットをかぶっています。
そして、だからこそ、その帽子をとったときに、光が彼の髪にすける美しさが、
観る者の心に刻まれるのです。光にすけるのは、なにも、彼の髪だけではありません。
馬のたてがみも、グレースの髪も、光をうけて、ひときわ美しく輝きます。
ましてや、それが風になびく様は!

また、光をうまく使うということは、影を使いこなすということでもあるのですね。
何度か使われるシルエットが、とっても効果的でした。
とくに、馬が走る姿のシルエット。とても美しかったです。

それから、トムが馬と話すそのやり方。
言葉でなく、瞳で語りかけるのです。そして、馬もまた、その瞳に応えていく。
トムとピルグリムが初めて出会ったとき、誰をも寄せ付けなかったピルグリムに、
ぐんぐん寄って行くその瞳。
そして、とうとう、ピルグリムの方からトムに近寄って行く。
ゆっくりと、でも、確実に。
やがて、彼の鼻先がトムに寄せられたとき、心が震えました。
広い広い草原の中、誰に強制されたわけでもない。完全な自由意志で、
馬が人に歩み寄っていくのですから。

そして、その自然の中で、グレースの心も、癒されていく。トムは、
そんな彼女に、片足を失っても、人生を失ったわけではないことを、
言葉ではなく、いろんなことにチャレンジさせることでおしえていきます。
そして、1つハードルをクリアするごとに明るくなっていく少女の瞳。

また、触れ合いたいのだけれど、自分の姿に興奮するピルグリムに、
拒絶されることを恐れてか、近寄れないでいたグレースが、徐々に距離を縮めて行く
様子には、息をつめて見入ってしまいます。

大いなる大地と、馬にささやく男「ホース・ウィスパラー」によって、絶望的
と思われた関係が修復され、それぞれの心が癒されて行く。
そして、スクリーンのこちら側にいる者もまた、癒されていく、そんな感じ。
そういうものを伝えるには、言葉はあまりにも頼りなく、もどかしいものですね。


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