◆ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ◆
 (HILARY AND JACKIE 1998年 イギリス)

― THE ORIGINAL BOOK ――――――――――――――――――――――――

 『風のジャクリーヌ』(A GENIUS IN THE FAMILY)
 作者:ヒラリー・デュ・プレ/ピアス・デュ・プレ
 訳者:高月園子
 出版:1999年 ショパン社ISBN4-88364-132-5

― STAFF & CAST ―――――――――――――――――――――――――――

監督:アナンド・タッカー
脚本:フランク・コトレル・ボイス
出演:エミリー・ワトソン、レイチェル・グリフィス、デビッド・モリシー
    ジェイムズ・フレイン他

― SUMMARY ―――――――――――――――――――――――――――――

天才的なチェリストのジャクリーヌ・デュ・プレと、姉のヒラリーデュ・プレ。
2人は、まるで、一卵性双生児のように、互いに依存しあっていた。
まるで、ヒラリーに張り合うかのように、自分も結婚を決めたジャッキーだったが、
結婚して家庭を守ることを選んだ姉と、演奏旅行の続くジャッキーとは、
少しずつ距離が開いて行った。
やがて、疲れきってヒラリーの家庭に現れたジャッキーは、姉の夫キーファと
寝ることを主張する。

― COMMENT ―――――――――――――――――――――――――――――

原作と映画には、大小問わず、様々な、変更が加えられています。
なので、原作が「真実の」物語であるならば、映画は、「ほんとうの」ではな
いのでは、なんて思ったりするぐらいです(笑)

たとえば、ヒラリーが、BBCに招待されて演奏に行ったときのことです。
このとき、わがままを言ってついて行ったヒラリーが、与えられた楽器をダメ
にしてしまうくだりは、原作にもあるのですが、その、ジャッキーの心理は、
まるで違っていました。幼いながらに、必死でチェロに取り組むきっかけとし
て扱っている映画でのエピソードの方が、なんとなくいい感じに思えました。
最初は、ヒラリーの楽器の才能の方が認められていたという、映画での設定も、
この方が充分に活かされていますし。

それから、ジャッキーの結婚の時期も、違っています。
映画では、ヒラリーと前後するように結婚するジャッキーですが、実際には、
彼女の結婚は、もっと、後のことだったようです。
それまでの間、ジャッキーは、ずいぶんと、発展的な交際をしていたのです。
そのため、男性と付合っても、結婚する羽目に陥らないよう、予防策を張って
います。もっとも、この件についての会話は、映画ではヒラリーと交わされる
のが、原作では、弟のピアスと交わされたわけですが。

それから、これまた、がらっと原作と趣の違うのが、ジャッキーとダニーとの
出会い。
腺熱と、パーティと、チェロ。
なんだか、3題噺みたいですが、これが2人の出会い。
ここまでは、共通しているのですが、その後が、微妙に違っていて、映画なら
ではのロマンチックな出会いと、その後、ジャッキーが、チェロにささやいた
一言がとてもいい感じです。
いかにも音楽家らしいロマンス!

この件に限らず、原作では、ピアスや、母親との間で起こったことが、映画で
はヒラリーとの間のことに集約される傾向があるようです。
おそらく、ヒラリーとジャッキーの関係に焦点を合わせるために、他の家族の
位置を後ろに下げたのでしょうね。
特に、母親は、ものすごくジャッキーべったりなのに、映画では、その点には、
ほとんど、触れられていないのですから。
それを思わせるのは、ジャッキーが、チェロのレッスンに通うシーンぐらい。
実際には、母親は、すべてのエネルギーをジャッキーのために使い、他の2人
の子供や、夫の世話は、自分の母親に任せっぱなしにしていたようです。私は、
娘が、子供達のうち1人だけを特別扱いすることを認めていた、というか、積
極的にそれを応援していた母親の姿にも、なんだかなー、という気持ちです。
これについての夫、つまり、ジャッキーたちの父親の心理状態については、映
画ではまったく触れられていませんが、実際には、複雑なものでした。
当然ですね。

原作になくて、映画に付け加えられているのが、ヒラリーとキーファが恋愛し
ているときの2人の窓辺での会話。2人の心が、どれほど通い合っているかが
感じられて、好きなシーンです。星空の下、とてもロマンチックなムードでし
た。そして、キーファにプロポーズされたヒラリーが、興奮してジャッキーに
それを報告したときの会話。
「ふつうの人間でいることは、それほど簡単なことじゃない」
これほど、ジャッキーにとって真実をついた言葉はないかもしれません。
そして、ふつうのジャッキーが、人間であることを望んでいたのだとしたら、
そのチェロの才能は、本当に皮肉なものだということになりますね。

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