◆ハンニバル◆
(HANNIBAL 2001年 アメリカ)
― THE ORIGINAL BOOK
――――――――――――――――――――――――
『ハンニバル』(HANNIBAL)
作者:トマス・ハリス
訳者:高見浩
出版:新潮文庫 上巻ISBN4-10-216703-X、下巻ISBN4-10-216704-8
― STAFF & CAST
―――――――――――――――――――――――――――
監督リドリー・スコット
脚本:スティーブン・ザイリアン
出演:アンソニー・ホプキンス、ジュリアン・ムーア、レイ・リオッタ他
― COMMENT
―――――――――――――――――――――――――――――
あいかわらず、レクター博士の優美なこと。
彼は、「人食いレクター」。
恐るべき連続殺人鬼。
「羊たちの沈黙」では、警官殺しまでやってのけ、逃亡のために、
被害者の顔の皮を剥ぐことさえなんとも思わない男。
なのに、なぜ、あれほどまでに優雅で魅力的に思えるのでしょう。
もちろん、それには、アンソニー・ホプキンスの力が大きく働いています。
原作『ハンニバル』を読む時も、自然と、ホプキンスを思い浮かべながら
読んでいましたから。
特に素晴らしいのが、フィレンツェの美術館勤務のために行った講義!
映画では、わりとあっさり流された感がありますが、原作での、とうとうと
流れるような演説。あふれんばかりの知性と知識を聴衆の前で披露する
快感に酔うレクター博士。
いえ、この時点では、原作では、そのフェイ博士がレクター博士であると
つまびらかにはしていませんが、その醸し出す雰囲気は、明らかに同一のものでした。
フェイ博士が、その職を求めた直前に消えた前任者。
その運命は、言うまでもなく・・・。きっと・・・。
だって、レクター博士が求める職が、偶然に空きがあったなんて、そんな偶然、
誰が信じるでしょう。
その手段は恐ろしいですが、そういう仕事に就こうとするなんて、
いかにもレクター博士らしいですね。
美しい街で、いにしえからの芸術の中で暮らすなんて。
本当に優れた芸術は時空を超えて、人々に語り掛けるエネルギーを持っています。
その中で、その香りを存分に楽しむレクター博士。
人をためらいなく殺めることと、芸術を楽しむことは、彼の中で、なんの矛盾もなく
共存しています。それがレクター博士。
それでこそ、レクター博士。
そんなフェイ博士が、レクターではないかと疑って接近してくるのが、パッツィ刑事。
原作では、彼が、かつて素晴らしい業績をあげた刑事であったこと、
現在は、それが見る影もなくなっていることが語られています。
だからこそ、それだからこそ、彼は、レクター博士を、警察官として捕らえるのでなく、
個人的に彼を探している人間に売ることにしたのでしょう。
それは、大金を手にするチャンスであると同時に、自分を虚仮にした組織への
復讐でもあるのだから。
その辺が語られないので、映画では、単に彼は、金のためにレクターを
売ったようにしか見えないのが残念。
その代わり?若くて美しい妻に夢中で、ぜいたくをさせてやりたがったいる
というキャラクターになっていたようです。
そんなパッツィに、レクター博士が気付かないわけがあるでしょうか。
博士が、彼に語って聞かせた彼の祖先の「パッツィ」の最期。
その不気味な意図に、なぜ、パッツィは気付かないのでしょう。
「あんたの奥さんを食べてみたいと真剣に思っているのだ」と
聞かされるまで。
映画のオリジナルですが、この後の、クラリスとの会話は、まさにレクター博士。
「クラリス?」
あんな声で呼ばれたら、ぞくぞくしちゃいますね。
その後の、かずかに手を振るシーンも、なんとも優雅に人を殺す博士そのもの。
人1人、凄惨な殺し方をしたというのに、なんて、まぁ。
それにしても、博士の妹ミーシャの存在が、映画からはきれいさっぱり
消えてしまっていたのは残念。
この幼い日の思い出こそ、その異常なほど鋭い嗅覚とあいまって、
博士を、博士たらしめているのでしょうに。
もちろん、博士が現れた理由を省略し、「現在」の博士に焦点をしぼったことも
成功ではあったと思いますが。
一方、FBI捜査官となったクラリス。
冒頭の、凶悪犯逮捕劇は、なんとも派手で映画的。
こういうシーン、監督も、他の人も、楽しんで撮ったのだろうなぁ、なんて
思ってしまいました。
でも、それが、クラリスのキャリアへのけちのつき始め。
宿敵ポール・クレンドラーの罠にはまって、理解者ジャック・クロフォードの
庇護も虚しく、マスコミからもバッシングの嵐。
その失点を挽回するためにと再びレクター博士に担当に。
それにしても、原作での彼女のルームメイト、アーディリアがいないのは
とても残念。
彼女たちの間の友情は、本当に素敵なのに。
ジョディ・フォスターからクラリス役を引き継いだジュリアン・ムーア。
とても魅力的にクラリスを演じてくれていました。
前半の、査問委員会でのきりっとした姿。
本当に素敵。
それでこそ、レクター博士の眼鏡に適ったクラリス。
レクター博士を執拗に追うのは、彼の被害者で唯一の生存者である
メイスン・ヴァージャー。
目的は、もちろん、復讐。
それも、思いきり残忍なやり方での。
メイスンの顔を見れば、彼には、それだけのことをする権利があるようにも
思えますが、相手がレクター博士では分が悪すぎ。
サディストで、幼い子供を痛めつけることを喜びとするような男に、
どうしても感情移入なんてできなくて。
それどころか、気持的には、レクター博士を応援してしまいます。
映画には、なぜか出てこない、妹のマーゴへの態度も、その悪感情に
拍車をかけます。
それにしても、このマーゴ、誰が演じるかを楽しみにしていたのに、
省略されてしまって、本当に残念。
でも、メイスンの部屋の不気味さは、まさしくという感じ。
部屋にいる大きなウナギも、そのままでしたし。
でも、映画では、それらは、いるだけで、活かされていないのは、もったいないかも。
もったいないといえば、せっかく、メイスン役に、怪演でならす大物俳優を
持ってきたのに、レクター博士との直接対決がほとんどないんですよね。
この2人の間に飛び散る火花を、見たかったのに。
フィレンツェを離れ、アメリカに舞い戻ったレクター博士から
クラリスへのコンタクト。
彼は、書く手紙までが優美。
遊園地でのかすかな接触のシーンの雰囲気。
ほんの一瞬。
クラリスの元に残るのは、ほとんど気配だけ。
クライマックスに用意されているのは、かなり荘絶かつ凄惨。
あまりのことに、目を覆ってしまいました。
それに、その後の、レクター博士とクラリスのシーンも・・・。
ああ・・・。
まさか、そんな。
なんて、なんて・・・。
でも、ラストは、もっと衝撃的だったかも。
だって、博士ってば、にっこり笑っているんですから。
DoubleTopへ
Topへ