◆ヒマラヤ杉に降る雪◆
(SNOW FALL ON THE CEDARS 1999年 アメリカ)


― THE ORIGINAL BOOK ――――――――――――――――――――――――

作者: デヴィッド・グターソン『殺人容疑』
訳者: 高儀進
出版: 996年 講談社文庫 ISBN4-06-263343-4

 ― STAFF & CAST ―――――――――――――――――――――――――――

監督: スコット・ヒックス
脚色: ロン・バス、スコット・ヒックス
出演: イーサン・ホーク、工藤夕貴、ジェームズ・クロムウェル他

― SUMMARY ―――――――――――――――――――――――――――――

ある小さな島で、漁網にからまった死体が発見された。
日系のアメリカ人カズオが、容疑者として逮捕される。
裁判を取材に行ったイシュマエルは、初恋の人ハツエと再会する。
記者と、被告人の妻として。
人種偏見に満ちた白人たちによる裁判が始まる。

― COMMENT ―――――――――――――――――――――――――――――

心に残ったのは、しんしんと降る雪景色。
その静けさ。
静かに、静かに、人の心の中の闇の部分まで覆い隠すかのように。

イシュマエルは、隻腕です。
そのことについて、ものすごく、複雑な思いを抱いています。
そのことは、ハツエの夫カズオ・ミヤモトの裁判を見る彼の心に、少なからぬ
影響を与えます。
この2人が別れなければならなかった原因にも、それが関わっているから。

でも、彼は、立派なジャーナリストです。
その父親が、そうであったのと同じ様に。
本当に、イシュマエルの父親は、とても素敵な人間です。
そして、記者として、人間としてのありようを、イシュマエルに、
実践して見せたのです。

真珠湾攻撃の後、日系アメリカ人の肩を持つのは、周囲のそうでないアメリカ人の
顰蹙を買うことでした。でも、彼は、アーサー・チェンバースは、その圧力に
負けなかったのです。その血は、イシュマエルの中にも、脈々と息づいています。

映画からは、移民としてアメリカに渡った日本人たちの、日本人としての思いが、
あまり伝わってきませんでした。これがないと、ハツエの母親フジコが、
ハツエとイシュマエルとの仲をあくまでも反対するその心情や、
ハツエがイシュマエルにあの手紙を書いた真意が、ちょっとわかりにくい気がします。

仲介人の口先だけを信じて、アメリカの小さな島に渡ってきたフジコ。
聞かされてきた話と、現実との違いに落胆しながらも、そこに根付き、
それでもなお、娘に日本人の心を失ってほしくないという思い。

ハツエは、アメリカで生れたアメリカ人だけれど、やはり、心は日本人なのです。
そうである自分を、捨てることなんて、できないのです。

この、ハツエとイシュマエルの昔の恋を横糸に、現在の、ハツエの夫カズオの
裁判を縦糸に、物語は進んで行きます。

あくまでも、毅然とした態度を崩さず、むしろ無表情にさえ見えるカズオ。
おそらく、彼は、それが、陪審員たちの持っている偏見をいや増すだけである
ことを理解していたはず。それでも、なお、自らの姿勢を崩すことなく、
まっすぐに前を見て立つその姿には、惚れ惚れしました。

そして、その彼を支える弁護士のガドマンソン。
高齢で、一方の目が不自由であっても、カズオの主張の真実を見ぬいている
かのように、熱心に、カズオの弁護に当ります。
その手腕は、お見事としか言いようがありません。
でも、それでさえも、陪審員のカズオへの偏見には、どれほどの影響を
及ぼしていたのか・・・。
なにしろ、検事や判事の中にも、カズオへの偏見があるのは明かであって、
とても、公正な裁判とは言えないのですから。

人間の心には、おそらく、誰にでも、闇が潜んでいるのでしょう。
闇は、何かその人にをそそのかそうと、チャンスを待ち構えているのです。
誰が見てもいい人であればあるだけ、その、他人からは見えない闇は深いのかも
しれません。
だけど、闇があるなら、必ず、人は、光も持っているはずなのです。
自分の中の闇を見据えさえすれば、それに負けない力を持った光を。


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